針の音

遠藤みりん

第1話 針の音

 俺は頭を抱えている……悩みの種は聞こえてくる針の音だ。


“チクタクチクタクチクタク”


 何処から鳴っているのかが分からない。


“チクタクチクタクチクタク”


 何処かに時計がある筈だ。


“チクタクチクタクチクタク”


 部屋をくまなく探しても見つからない。


“チクタクチクタクチクタク”


 バスルームを探す。


“チクタクチクタクチクタク”


 見つからない。


“チクタクチクタクチクタク”


 キッチンを探す。


“チクタクチクタクチクタク”


 見つからない。


“チクタクチクタクチクタク”


 押し入れを探す。


“チクタクチクタクチクタク”


 見つからない。


 住みな慣れた部屋を迷路の様に歩き回る。


 お陰でここ何日かまともに眠る事も出来ない。


 不眠が原因で仕事も手につかない。


 俺は今、売れない作家をしている。


 もう若くは無い。ここ数年は結果を出せない焦りとの戦いだ。


 俺にはもう後が無いのだ。時計を探す暇等無い。


“チクタクチクタクチクタク”


 玄関を探す。


“チクタクチクタクチクタク”


 見つからない。


“チクタクチクタクチクタク”


 寝室を探す。


“チクタクチクタクチクタク”


 見つからない。


“チクタクチクタクチクタク”


 ベランダを探す。


“チクタクチクタクチクタク”


 見つからない。


 今すぐ不快な針の音を止めないと。


 狂いそうになりながら俺は頭を掻きむしる。


 ふと針の音が近づいている気がした。


 まるで耳元で聴こえている様だ。


“チクタクチクタクチクタク”


 ズボンのポケットには無い。


“チクタクチクタクチクタク”


 胸ポケットにも入ってない。


“チクタクチクタクチクタク”


「何処だ!?何処だ!?何処だ!?」


 俺は服を脱ぎ捨て、体じゅうを探す。


“チクタクチクタクチクタク”


「見つからない!見つからない!見つからない!」


“チクタクチクタクチクタク”


 俺は左胸に手を当てた時に気がついた。


「やっと見つけた」


 商売道具のペンを手に取り、左胸に突き刺した。


“チクタクチクタクチクタ、、、”


「やっと止まった」


 こうして俺はやっと眠りにつける。


 針の音は止まった。















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