第4話 「……危なかった」

「おじゃましまーす……」


「どうぞ……」



小春は私服に着替え終えて、俺の家にやってきた。



「あーやばい、めちゃくちゃ緊張する」


「緊張というか、めっちゃドキドキするんだが」


「そう、そっちの方が近い」



何度も言うが、幼馴染とはいえポッキーゲームをするんだからそりゃドキドキするに決まってる。



「でもむしろその方がいいよね」


「まあな。感情移入しやすいし」



小春の言う通り、その方が主人公と似たような状況で出来るので、むしろそっちの方がいい。



「じゃあ、とりあえず上がってくれ」


「うん」



そして、俺たちは俺の部屋に向かった。ポッキーを持って。



「……なんか、いつも入ってるはずなのに違う部屋みたい」


「……俺もまるで小春じゃない誰かを上げてるみたいだ」



本当に上げてるの幼馴染だよな? と思うほどには違和感が凄い。



「ねぇ」


「ん?」


「さっきお互いを好きだと思い込んでやるって言ったじゃん?」


「言ったな」


「……どうすればいいんだろ」


「……別にこのままでいいんじゃないか? 主人公と状況がそっくりだし」


「……そうだね」



いま割と今までの幼馴染の関係が壊れるんじゃないか怖いくらいなのに、これ以上なにかされたらやばい。流石に幼馴染としての関係が壊れるとは思えないけど。



「……もうちょっと後にしない?」


「そうだな……。心臓が持たない」



俺たちは少し休憩することにした。



「「はぁ…………」」



疲れた。まだ何もやってないのに。でもどうやって暇つぶししよう。



「とりあえず他のお菓子持ってくるか」


「うん。あ、私チョコがいい」


「はいよ。んじゃあ俺もチョコ食べるか」



そうして俺は下にチョコの大袋を取りに行った。




◇◇◇




「……危なかった」



私は今まで我慢してたものを全て吐き出すかのようにそう呟いた。

ドキドキの余り、本当にどうにかなってしまいそうだった。



「……まさか本当に異性として意識しそうになるとは思ってなかった」



きっと、それは颯太も同じだろう。私に負けないくらい耳を赤くしていたんだから。


でも、今から本当にするんだよね……。ポッキーゲーム。

今の時点でこんなことになってるのに、そんなことをしたら一体どうなってしまうんだろう。



「……一旦忘れよう」



これ以上考えると本当にどうにかなりそうだった。


(あ、颯太の枕……)


私は少しでも気を紛らわせようと、颯太のベッドに飛び込んで顔を枕にうずめた。


(あ、颯太の匂いがする……)


当たり前っちゃ当たり前だが、颯太の匂いが凄くした。


(颯太の匂い、落ち着くなぁ。しばらくこうしていようかな……)


私はしばらくこうしていることにした。





◇◇◇



「持ってきたぞー」



俺はドアを開けると同時にそう言った。


……そして、目の前には俺のベッドに寝転がって枕に顔をうずめている小春がいた。



「……」


「……」


「いや、あの、落ち着くから……」



俺がなにやってるんだと聞く前に、小春がそう言った。



「そんないい匂いするか?」


「うん」



即答だった。自分ではよく分からないけど、小春が落ち着くならいいか……。


そんな小春を見ていると、俺はふとベッドで2人寝転がりながらポッキーゲームをするシーンを想像してしまった。


(……何考えてんだ俺)


俺は急いでその想像をかき消し、チョコとコーヒーを置いた。



「お、コーヒーいいねぇ。やっぱりチョコにコーヒーは合うよね」


「ああ、チョコにはブラックもいいんだけどな」


「私もブラック飲めたらいいんだけどね。でもギリギリ飲めない」



なので、俺はブラック、小春は砂糖なしのコーヒー牛乳だ。だが周りはコーヒー牛乳でも砂糖入りじゃないと飲めない人が結構多かったりする。



「チョコうま〜」


「お前ほんとチョコ好きだよな」



小春は小さい頃からおやつはチョコだったことが多い。ミルク多めのやつからカカオ多めの苦いやつまで好きだ。



「そういう颯太も同じでしょ」


「まあな」



俺ももれなくチョコ好きだ。



「さてと」



少し落ち着いたところで、小春が食べる手を止め、コーヒーを飲んだ。



「……もうするのか?」


「……早い方がいいでしょ?」


「確かに先にやってしまった方がいいけど」


「でしょ?」



そして、ポッキーの箱を上げ、小袋を取り出した。

さっきまで落ち着いていたはずの心臓が急にテンポが速くなる。

小春の顔も一気に赤くなっていっていた。俺も絶対赤くなっているだろう。



「……どっちが先に咥える?」


「……ジャンケンで決めるか」


「うん。じゃあ負けた方が先ね」



そう、葵には動画と言うだけではなく、小春が咥える方と俺が咥える方の両方が欲しいと言ったのだ。まあ、作画参考のためだから、考えて見れば当たり前だが。



「おっけー。じゃあ」


「「最初はグー、じゃんけんぽん!」」



そうして勝ったのは……



「良かったぁ、勝った……」



小春の方だった。



「……でもこれ、食べ進めて行く方がキツくないか?」


「……ほんとだ」




俺はまだ運が良かったのかもしれない。






─────────────────────


次回は朝7時に投稿します。

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