第2話 「ポッキーゲームをしてもらいたいんだよ」
「おはよー」
俺たちが教室に入ると、小春の親友である
「おはよー葵」
それに対して小春は何事も無かったかのように返事する。なんで驚かないんだよ。
「颯太もおはよー」
「……おはよ」
そして俺に挨拶をするとすぐ、なにやらごそごそと鞄に手を突っ込んで探し始め、シュッと1冊のノート……ではなくiP○dを取り出した。教室の入口近くで。いつものことだけど、相変わらず度胸すげぇな。
「ねぇねぇはるっち、新しい漫画書いてみたんだけど、見る?」
「見る見る!」
「颯太も見る?」
「せっかくだし見せてもらおうかな」
葵は昔から漫画を書くのが好きで、高校生になった今は文芸部に所属している。
文芸部ではiP○dなどの使用は許可されているらしく、ほとんどの部員がデジタル派なんだとか。
そうとはいえ、学校の教室のドア近くで堂々と出すなよ。俺もこいつの行動には慣れたけど。
「今回はね、純愛のあmmmmま〜いラブコメにしようと思ってるの」
なんか葵の言葉に大量にmが付いてるのが容易に想像出来たぞ。
「なんと言っても……モデルは2人だからね」
「へぇ〜、今回はモデルがいるんだ!」
…………
「「え??」」
「? どうしたの?」
いやどうしたのじゃないが。
「……2人って、どういうこと?」
「はるっちと颯太のことだけど?」
「「…………」」
「葵、言っとくけど私たち恋人じゃないからね?」
「分かってるよ? 何年も2人と友達やってるんだから」
「じゃあ尚更なんで俺たちがモデルなんだよ」
「だって男女の、しかもこんなに仲のいい幼馴染なんてラブコメのモデルにしかならないでしょ?」
「「……」」
いやまあ、言いたいことは分かるけども……
「それに、幼馴染ものってだいたい2人みたいな好きになんかなるわけねーだろっていう関係のはずが、あるきっかけで意識し始めるっていうのが定番だし。だから2人はまるでテ○リスのようにピッタリとハマってるわけだよ。ラブコメの主人公にね」
「無駄にかっこつけて倒置法使うな」
分かるんだけどねぇ……。自覚あるもん。宝くじの1等が当たるより低い確率でこんなにラブコメの定番みたいな生活してること。
「……まあ、別に創作の中の話だし全然いいけどね。颯太との関係が変わるわけでもないし」
「そうだな。別に俺たちに直接関係ないから漫画の中でなにしてもらっても構わないし。むしろラブコメ好きだから読んでみたい」
「私もラブコメ好きだからね。じゃあちょっと見せてもらってもいい?」
「はい、どうぞ」
そう言って、葵は小春にiP○dを渡してきた。その横から俺もiP○dを覗き込む。
既に漫画が開かれており、そこから小春がページをめくっていく。
なんというか、流石俺たちをモデルにしてるだけあって似てるな……
隣人同士である幼馴染の2人の両親は多忙でよく家を空けており、小さい頃からよくどっちかの家に行って一緒に遊んでいた。
高校生になり、周りからはその仲良さ故に夫婦と呼ばれるほどになっていたが本人にはそんな関係になることなど一切考えられなかった。しかしある日、罰ゲームありのゲームに負けた幼馴染の女の子が、幼馴染の男の子にキスすることになり……というところで終わっていた。
「「……」」
主人公が自分たちに似てるだけあってなんか気まずっ!
「……罰ゲームありのゲームって一体いつやることがあるんだよ」
「まあまあ、別に2人をくっつけるための材料なだけだし大丈夫」
「それにしてもポッキーゲームねぇ。これまたベタなやつが来たわね」
「ポッキーゲームはラブコメの中でも代表すべきイベント。やっぱりこれは外したくなくてね」
そこまで言うほど代表するものだろうか。
「んでここからが問題なんだけど、私そこまでラブコメを描いた経験がないからちょっとイメージしにくいんだよね」
「確かに、葵がラブコメ描いてるの久しぶりに見たわね」
「そこで、お2人さんにはポッキーゲームをしてもらいたいんだよ」
「「うんうん……」」
「「は???」」
葵がいきなり訳の分からないことを言い出した。
「葵、ごめんちょっともう1回言ってくれる?」
「だから、2人にはポッキーゲームをしてもらって、それを作画参考にさせてもらうの」
「悪い、葵の言ってることが全く理解できない」
「ネットとか見れば作画の参考になるものなんかいっぱいあるでしょうに」
「だって、はるっちと颯太をモデルにしてるんだもん」
「「……」」
いやおかしいだろ。いや友人をラブコメのモデルにしてる時点でおかしいけど、ポッキーゲームの作画参考が欲しいからってモデル本人にポッキーゲームしてくれは明らかにおかしいだろ。
「お願い、2人のやってるところを見ればめっちゃいい感じに描けそうだし、こんなこと頼めるの2人しかいないし……」
「……どう……する?」
「どうするって…………やるの?」
「…………」
流石に俺たちしかいないと言われると、ちょっと断りづらくなってしまう。
別に小春とポッキーゲームをするのは絶対嫌だ、というほどでは無いんだが……。
流石にそれは幼馴染としてのラインを超えてるし、別に恋愛的に好きでもない俺とポッキーゲームをするなんて……。
(それに小春とポッキーゲーム……それはつまり、小春と……キス……するってことだよな)
小春とキス……。小春の、ポッキーの向こうにある桃色の柔らかい唇が、俺に近づいて……
(って何考えてんだ俺……)
まあ、無理もないか……。
だって今、小春とキスするかしないかを決めてるようなもんだし……。
俺がどうしようか頭を悩ませていると、小春が耳まで顔を真っ赤にしながら口を開いた。人のこと言えないけど。
「……私は……いい……よ。……あくまで作画参考のためだし……」
「……いいのか?」
「……あくまで、『作画参考』に、だし……」
「……そうだな、あくまで『作画参考』にだもんな……」
俺と小春は耳まで真っ赤にしながら、そう答えた。
「……2人とも、恋愛感情はないんだよね?」
「「こんなこと言われて気まずくないわけがないだろ(じゃん)!!」」
「……ほんと息ぴったりだよね」
その後、その話を聞いていたクラスメイトが作画参考くれと大量に集まったが、
「だめ。作画参考のためだけに使うから。そういう目的で言ったんじゃないし、2人のプライバシーの侵害」
と言って断っていた。こういうところはしっかりしてるよなぁ、と改めて思った。
本当に作画参考のためだけに言ったのかは怪しいけど。
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