狙われの身

第11話

少しして騒音が止む。盗み聞きがバレたか?


「舞、何しに来たの?此処に貴女の欲しいものはないわよ?」

「ふん……輝をそれしきの事で奪い取る事に呆れただけよ。それだからいつも逃すのだぞ?」


舞!?あいつも来てたというのか!?


「輝!今日は余がダンジョン攻略に誘いに来た!余はこの馬鹿どもとは違うぞ!」


何か俺を問題児扱いしてないか?俺だって外に出たいのに……。

渋々諦めて扉を開ける。


「はぁ……次から次へと面倒事を持ってこないでくれ」

「それは彼奴らに言うがいい。おかげでここまで来るのに道草をしてしまったわ」

「で?ダンジョンの階級は?」

「Dじゃ」


ほう?よく見つけたな。

それに舞はやけにやる気十分だ。


「だが…今、斧は修理中だ。行く前に武器を買いに行くが、構わないか?」

「異論はない。さっさとこのゲス共の溜まり場から去るぞ」

「だ、誰がゲスだ!このチビが!!」


黒服男が怒号を上げる。その隣には舞と同じ年齢だろうか?同じく小学生くらいの身の丈を持つ少女が腕を組んで俺を見つめていた。恐らく、此奴が奴らの親玉だろう。


今回だけは見逃してやる―――――


そのような感じで俺を睨みつけていた。


視線が痛い。



「なんじゃ?このちっさい店は?ロクな装備も売って無さそうだが……」

「おいおい、これだから上級国民様は困る。こういった場所に良い武器は売ってるもんだ。大人しく指くわえて待ってな」

「ぬぅ……次からは光らせておくぞ」


何にだよ。


俺が訪れたのは「鉄屑」という武器屋だ。

見た目は至って出来たてほやほやの店っぽく見えるが、れっきとした名店の一つだ。何せ刀鍛冶を行う鍛冶師はSS級の異能を所持した化け物だからな。


「失礼するぜ、おやっさん」


暖簾をくぐり、中に入るとそこには無数の武器が並べられていた。

刀、剣、槍、鈍器、銃器に弓類。

一度数えたらきりがない。あまり知られていない理由は鍛冶師に問題だが、俺にとっては都合がいい。


「ん?手斧がぶっ壊れたか?若造」


店の工房にいたのは大きな髭を持つ筋肉ムキムキ老人らしき人物が居た。

この人が、SS級の鍛冶師の異能を持つ化け物だ。名は「田中幸神」と言う。


「メインウェポンは修理に出しちまってな、修理が終わるまで別の武器で代用しようと考えてたんだ」

「フン。どうせ変形機構と言う異物に触れたんだろう?あんなもの、すぐダメになるに決まっておるだろう。黒乃巣の園クロノスガーデン製の武器は全てなまくらじゃよ」


相変わらず他社の武器に厳しい奴だ。だがこういった存在が世の中にいるから現代の武器はより強いものになる。


「それで?何を買うんじゃ?どれも高いぞ?」

「じゃあ、この金額で買えるものを」


財布から札束を4つ取り出す。

それを見て幸神は険しい顔になった。


「お主……そんだけぽっちの金で武器が買えるとでも?」

「これしかねぇんだ。済まね」

「仕方ないのぅ……こいつはどうじゃ?」


幸神が持ってきたのは綺麗な色の刃を持つ刀だった。


「お主、元は刀使いだったじゃろう?斧を使って戦っておったが、家族に絶縁された時に封印していたとは聞いておったぞ」

「流石、情報通で腕がお高い幸神様だな」

「様を付けるでないわ!この阿呆が!!」


軽く拳骨を喰らう。ある意味ではツンデレの爺さんだな。


「しかし、此奴はすげぇ……ぱっと見S級の探索者が持ってそうな刀だぞ?こんな業物が…?」

「何が業物じゃ!これこそ本当の鉄屑中の鉄屑だ!!お代はいらんからそれ持ってダンジョンに行ってこい!」


え、ただで貰っちゃったんですけど。

この人、実は超が付くほど聖人だったりするのか!?

こういったやつとはコネクションを深めないとな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る