最後の戦場、最後の杯

 「よう。」

 「お、お前もこちらに配属か。」


2人は兵士強化機関出身の兵士であり、同期。

別々の戦場へ派遣されることが多かったが、今回の総力戦では同じ戦場らしい。

2人は再開を祝いつつ、今回に任務について話しつつ周りを見る。

周りの様子はというとじっと目を閉じている者、ぶつぶつと呟きながらテーブルに伏せる者、これが最後だと思い馬鹿騒ぎをする者など様々だ。


 「今回の戦闘勝てると思うか?」

 「正直厳しいな。

敵はほぼ、全戦力を送ってきているんだろう。」

 「諜報部の情報ではそうなっているな。」



今回の戦場は人類の人工知能研究施設がある惑星。

その惑星では戦況を打開できうるコスト度返しのAIが作られていると言われ、その存在を知るものは少なかったのだが、今回、敵に惑星の位置が特定された挙句、AIの存在さえ、バレてしまった。

危ないのであれば、破壊されると思っていたが、このAIはまだ不完全であり、優先すべきことがまだ書きかけ状態。

敵はその情報を察知するとAI奪取のために軍を上げてきたのだった。

この戦い、AIを手に入れた側に戦況が傾くと言ってもいいかもしれない。

戦況としてはこちらが1だとしてあちらが2。

倍の戦力があちらにあり、このままでは確実に負ける。


 「AIの調整もそろそろ終わるらしいから、それを回収する部隊に配属されそうだ。」

 「重要な任務だからな、頑張れよ、主席殿。」

 「お前もな次席殿。」


多分、これで最後になるかもしれない2人の会話。

その2人の視線の先には最後になるかもしれない酒盛りをする兵士達の姿。


 「そういえば、俺たちは酒というものを飲んだことがなかったな。」

 「酒は思考を鈍らせると禁止されていたからな。

まあ、消毒液だけは別だったが。」

 「あれは酒じゃないだろ。」

 「同じアルコールなんだがなあ。」

 「・・・もし、生きて帰って来れたら、俺達も飲んでみないか?」

 「それもいいかもな。」

 「乗り気じゃないか。

なら、俺達の誕生した年の酒でも用意しようか。」

 「何か特別な意味でもあるのか?」

 「縁起担ぎみたいなものだろう。

まあ、酒は年月が経てば立つほど、美味しいというからな。

楽しみにしておけよ。」

 「ああ、楽しみだ。」



・・・うん?ここは。

意識を取り戻したのは瓦礫の中。

瓦礫を押し除けると、そこは建物の中。

外での戦闘中に足元が崩れ、そこに落ちて、意識を失っていたらしい。

全身の状態を確認する。

外部アーマーは無事。

アーマーのエネルギー残量は半分ほど。

武器はアサルトライフル、ハンドガン、コンバットナイフ。

弾の残量は少ないため、考えて使わなくては。

まあ、戦闘と言っても撤退の補助。

撤退用の飛行艇は全て飛び立った後、脱出するすべはない。

死ぬまで戦えってとこか。

救いなのは友人が意識不明ながら、AIを回収、最後の飛行艇に搭乗して、脱出に成功したことくらい。

さて、落ちた先は兵士の詰めどころ。

使えるものがあるかもしれないために粗探し。

情報誌、漫画・・・趣味的なものが多い。

食料・・・なんの肉かわからないジャーキー・・・、そして、酒。

作られた年は俺たちの誕生年。

こんな偶然あるのかね?

火炎瓶くらいにはなると思うが、そんなの微々たるもの。

なら、飲んでしまおう。

が、開け方がわからない。

仕方なく、瓶上部のふた部分を切断、頭から浴びるように飲む。

喉に入り込む酒に喉がかっと熱くなり、頭も少しぼっとする。

危険な代物というからどんなものかと思ったが、悪くない。


 「あいつにも味わせてやりたかったな。」


余韻に浸っていると外からは爆発音。

ここに潜伏しているのに気づかれたようだ。


 「さて、最後にひと頑張りしますか。」


手持ちの心許ない武器を持ち、男は飛び出すタイミングを図る。

あの世というものがあれば、今度はそこで友人と酒盛りでもしようかと気分をあげ、外へと飛び出していった。

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