5 真実
ツー、ツー、ツー、
部屋に響く無機質な音。
そんな中、俺は目を覚ました。
「っとここは...病院か?」
真っ白な天井に鮮やかな青空が広がる外の景色。
そして装着されたパルスオキシメーターの音と近くにあるヘッドサイトモニタ。
間違いない。俺はあの時意識を失った。
そしてやっとの思いで119番。
で、救急隊が到着して俺を病院まで運んできた、と。
日付や時間帯を確認したかったので、スマホを取り出す。
11月21日。18時43分。
俺が倒れたのは...11月18日。時間は忘れた。
3日くらい…昏睡状態だったのだろうか。
そう考えていると、部屋のドアががらりと空いた。
看護師...の人物であろうか。
その人物はこちらに近づく。
「あれ、秋元君、起きてる?」
そして顔を覗き込んでそう言った。
「あ、はい...えっと、これはどういう状況で...?」
看護師の人物なら普通は応えてくれるだろう。そう。『普通』はな。
「オッけー。じゃあ後は先生に任せちゃおうか。」
意外とその看護師はノリがよさそうな風に言い、「先生ー」と廊下に向かって叫んでいる。
先生?まあきっと病院の院長とかであろう。
「じゃあ私はこれで...失礼しましたー。」
看護師は俺の部屋から退出した。そして、その「先生」が変わって入ってきた。
その「先生」は黒いファイルとタブレットを持っていた。クールで淡々としている、あの見慣れた顔だった。
1-3の担任、桐山秋野だ。
桐山は俺に近づき、近くにある椅子に座る。
「…秋元、大丈夫か。」
「桐山…先生?なぜここに…」
「秋元、お前なら分かるはずだろう。すでにこの病院は…」
「『南條の管理下にある』ですか」
「そういうことだ」
南條の指示により、俺の所属する1-3の担任である桐山が連れて来られたのだろう。
「さて、話を戻すぞ秋元。今回お前が倒れた理由だが…まずはその時の状況について聞かせてくれないか」
それは普通、医師がすることではないだろうか。
そう思ったが、従うことにした。
「俺は11月18日の…時刻は忘れました。急に体が…なんというのかな、クラッと来て、床に倒れました。視界もチカチカし始めて…やっとの思い出199番通報をして意識を失った感じですね」
俺は覚えている範囲であの頃の状況を説明した。
「なるほど。ではこの結果で間違いないな」
桐山はそう言うと手に持っていたファイルから一枚の書類を取り出した。そこにはこう書かれていた。
『秋元なぎさ 様
症状 昏睡・呼吸麻痺など
検査結果 フェノバルビタール 150μg/ml 」
「フェノバルビタール、錠剤に含まれている成分だな。これが150μg/ml…この病院の院長は初め、お前の症状を見て薬物中毒だと思ったそうだ。痙攣に意識不明もあったそうだしな…」
「俺は大麻も覚醒剤も服用してませんよ」
「知っている。そのあと院長は、注射痕がないことに気づき、症状を決定づけた。」
「オーバードーズ、とな。」
《オーバードーズ》
薬や麻薬を過剰摂取すること。過剰摂取によって病気になったり障害が残ったりすること。また、致死量までの大量摂取のこと。OD。(出典:goo辞書「オーバードーズ」の項目より)
URL…https://dictionary.goo.ne.jp/word/オーバードーズ/
薬の過剰摂取によって起こる症状。
俺は市販薬を過剰摂取した覚えはない。
「俺は過剰摂取なんてしてませんよ。部屋を調べてもらっても構いません。」
「…残念だがな秋元、おまえの部屋にはすでにベゲタミンの大型の瓶が見つかっている。」
そう言い、桐山は俺の部屋の机の上に置かれたベゲタミンの瓶の写真を見せた。
「…さ、て、と、お前も分かっているだろうから、そろそろ遊びはお終いにしようか」
「やはりそうですか」
「ああ。この事件は南條采乃が仕組んだものだ」
桐山は平然と、そう口にした。そしてタブレットを俺に見せ、
「これはお前の部屋の映像だ。」
と言う。
「龍御寺高校では実は生徒の部屋に防犯カメラが設置されている。」
「それって盗撮じゃないですか?」
そんなの初耳だ。プライバシーの侵害にもなりうるんじゃないか?
「…いや、問題ない。いつもは基本的にこのカメラの映像は見られない様になっている。」
「危険な人物を察知した時だけ、サイレンが鳴り、赤いランプが点灯する。その際だけ除くことができる。」
…なるほど。それによって外部からの侵入や悪質な営業マンなんかを察知して学校側も行動が起こせるわけか。
「先程も言った様に、これはお前の部屋の映像。お前が学校に行っている間のだな。時間帯は…11月18日の午前10時23分。」
そう桐山が言い、動画の再生を開始する。
ガチャ、と扉の鍵を開け、部屋に入り込んできたのは背の高い金髪の男。
…どこかで見たことのある男。
「そう、こいつはお前のクラスメイトであり私の生徒…」
「1-3、金井秀亜だ。」
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