3 服従

俺、秋元なぎさが和原シノンと協定関係を結んだ次の日。


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和原の話によると、1−2の男子の殆どは「ヴェルデルト・渚・エデュワード」と絶対服従の契約を交わしているらしい。

ヴェルデルトはソイツらに命じる。

ソイツらはヴェルデルトの手足となって動く。

噂によれば、その絶対服従の関係の裏には多額の報酬が用意されているとかされていないとか。


そして、今日俺がすべきこと。

ヴェルデルトとの接触。

1-2で起こる虐めとヴェルデルトによる絶対服従にはどんな関係があるのか。

それを今から探るのだ。


俺は昼休みにスマホで和原に軽くメッセージを送る。


「今から1−2へ行って大丈夫そうか?」


数秒待ったところで返信が来た。


「うん、ヴェルデルトくんもいるし。大丈夫だと思う」


そう返ってきたので俺は早速1−2へ向かう。


教室に着くと扉を3回、コンコンコンとノックして教室に入る。

担任…もいないのであまりかしこまる必要はないかな。


「失礼します。1−3の秋元です。ヴェルデルト君に用があります。」


…が、他人の教室を尋ねることに慣れていない俺はカタコトな敬語になってしまった。


ヴェルデルト…よく考えれば、ロシア人の命名は名前+父称+姓だった気がする。

よって名前(ヴェルデルト)・渚(父称)・エデュワード(姓)だからみんな名前で呼んでるということになる。

エデュワード…は少し呼びにくいだからだろうか。


まあいい。そんなことを考えていると一人の男子生徒がこちらへやってきた。


「おい、お前は…秋元、か。ヴェルデルトさんに何の用だ?」


「人が名乗った後は自分も名乗るのが礼儀じゃないのか?」


「ぅるせえなぁ…っ、俺は西村。もう一度聞くが何の用だ?」


「だから話がある、と言っているだけだろう。」


「テメェみたいなやつがいっちゃん怪しいんだよ、ヴェルデルトさんを陥れよう、なんて考えてねえよな?」


西村…か。なんかすごい脳筋である。これでは話がうまく通じそうにない。

どうするか、そう考えていると、


「西村。秋元は話がある、といっているだけだぞ。それに、もし秋元がヴェルデルトさんを殴りかかろうとしてもヴェルデルトさんが負けるわけないだろ?」


そう言ったのは眼鏡をかけた知的な生徒。

確か名前は山吹と言ったか。

将棋部に所属していて、中学生の頃から全国大会では毎年優勝している、という噂を聞いたことがある。

それでいて成績も優秀らしい。


そしてその直後、山吹の背後からヴェルデルト本人が登場した。

たばねられた少し長い金髪、くっきりとした顔立ち。

長い足にがっちりとした身体。そして溢れ出る威圧感。


「山吹の言うとおりだ。西村、あまり感情的になるな。」

「すみません…」


何だか、これを見ただけだとただの師弟関係と捉えることもできそうだな。

ちなみに先程山吹は「ヴェルデルトさんが負けるわけない」と言っていたが身体能力学力共に俺の方が上だ。(ドヤッ)


「…で、秋元なぎさ。俺に話があると?」


「ああ。少しな。」


するとヴェルデルトは西村と山吹のことを指差し、

「こいつら邪魔か?」

と俺に聞いた。俺はすかさず、

「なるべくヴェルデルト一人だけの方がいいな。」

とだけ答えておいた。


するとヴェルデルトは、


「わかった。じゃあ…あ、飯を取ってこい、西村。」


「はい、了解しました…」


…こき使われているな。


「お前は飯はいいのか?秋元」


どうやらその心配をしてくれているようだ。だが、


「ああ、俺はいつもどうせ購買なんかで適当にパン買って済ませる程度だからな。」


「だからそのほそっこい体か。」


結構酷いこというな…なんてね。


「細い…がいいことなのかわからないがな」


そんな適当な雑談を交わしていると、ヴェルデルトの弁当を持った西村がこちらへ来た。


「ハイッッッ!飯、持ってきましたァァァ!」


「サンキュ、じゃあ行くぞ、秋元。」


「…ああ、どこに行くか?なるべく人目につかない場所がいいんだが。」


「人目につかない場所か、校舎裏のベンチとかどうだ?」


「いいな。そこへ向かおう。」


俺たちは校舎裏のベンチへと向かうことにした。



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校舎裏のベンチ。

俺たちの教室からは決して近くない。

だからなのか、人が殆ど集まらないのである。

そこに俺とヴェルデルトは腰掛ける。


「…で、俺の何の用だ?」


ヴェルデルトは噂で想像していた俺様キャラとは少し違う、優しめの眼差しで俺を見てきた。


「ああ、話というのはな、1−2の現状を聞かせてほしいんだ。」


ヴェルデルトが支配しているという1−2の現状。

そして桐山が言うにはこれから起こる虐め。


俺の言葉を聞くとヴェルデルトは先程とは一転、真剣な眼差しに変わっていた。


無理もない。


「お前は、何が目的なんだ?いきなりウチのクラスの俺を訪ねて、『現状を知りたい』って。」


「それに昨日、うちのクラスの和原に接触をしていたよな。」


「何か企んでいるのか?秋元」


元々ヴェルデルトは俺のことを知らなかった。

西村も、山岸も、和原も。


そんな学校内で無名の生徒がいきなり「他クラスの現状を知りたい」なんて聞いてきたら不自然すぎる。怪しまれて当然だろう。


もしも怪しまないのだとしたら、よほどの善人か。


…が、すでにこう聞かれることなど想定済みだ。


俺は昨日から用意していた回答をヴェルデルトに告げるだけ。


「………」


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少し長い俺の話が終わった後。




「…ほう。なるほどな。お前はなかなかすごい生徒なのかもな」


ヴェルデルトは少し俺に関心を持ったようだ。

2人は、最終的に連絡先の交換までも行う。


話が終わる手前、俺はヴェルデルトに一つ質問をぶつけてみた。


「…ヴェルデルト、どうしてお前はクラスを支配しようと思ったんだ?」


気になっていたこと。

この男は財力がなくても十分ポテンシャルがある。

そして普通の温厚な優しい人間にも見える。

言い方を変えると「人をこき使おうとする人間ではない」ように見える。


「俺の、俺の親父に言われたんだ。『君には才能がある。何も恐れなくていい。人を支配しろ。君がリーダーとなるのだよ。』とな。」


「でもそれならただのバリバリ1軍陽キャでもよかったんじゃないか?」



「…少し、退屈していたのかもな。」



変わらない学校生活に、日常に。



「でも、お前のお陰でその『退屈』は消えるかもしれない。」





「期待しているぞ、秋元なぎさ。」

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