2 協定

話は現在に戻る。



さて。

俺は桐山から話されたことを思い浮かべて、過去の話を一旦頭の中で整理した。

桐山から話されたのは、「1-2で起きる虐め」を止めて欲しい、ということ。

なぜ「虐め」なんだ?

桐山のあの感じでは、南條が絡んでいるということは安易に想像できる。

でも、南條が虐めを起こして何の意味があるのか?

「選別」の前座か?

いや、そんなことをして何の意味があるのか。

そこはもう少し探りを入れる必要があるか。

俺は「条件」のために行動するだけだ。


________________________



翌日の放課後、俺は1-2に早速探りを入れてみることにした。

残念ながら知り合いがいないんだよな…どうするか。

向こうから声をかけてもらえるよう、わざとウロウロしているフリをするか。

と、俺は不自然に1-2の周りを嗅ぎ回るようにウロウロしていると、そんな俺を見過ごせなくなったのか、1人の女子生徒が声をかけてきた。

高身長でポニーテールの、美形の女子であった。

「あんた何やってんの?」

第一声がそれか、と少しズッコケそうになった。

俺は対話に慣れていないので返事に少し困った。まずい。返事を考えていなかった。

「俺は秋元。えーっと、1-2の誰かと友達になりたくてな。」

非常にタジタジした話し方と、怪しすぎる理由。自分でも不甲斐なく感じた。

そんな俺を簡単に通す訳もなく、女子生徒は冷たく、

「はぁ。なんか裏があるでしょ。友達作りたいんならちゃんとクラスの中入ってくるだろうし。」

まあ、俺の嘘が通じる訳もなく。

ただ、俺は彼女と一つ共通点を感じた。

「…突然だが、お前は友達いるのか?」

名前も知らない相手。一つ質問をぶつけてみた。

「え…いるわよ、それくらい…てかあんた人の教室に勝手に入り込んできて何聞いてんのよ」

俺は少し悪戯な笑みを浮かべてもう少し聞いてみた。

「じゃあその友達の名前を何人言えるか?」

「…ああ、それは…わかったわよ。アタシもアンタと同じ。ぼっちの陰キャよ。」

いつ俺がぼっちで陰キャなんて言ったのか。まあ事実だから何も言えんのだが。

「はは、それはよかった。じゃあお前に俺の目的を話しても良さそうかもな。」

「アンタの…目的?」

「ああ、でもお前の名前をまだ聞いていないな。」

「わかったわよ、私は和原。和原シノン。」

「和原、か。俺は秋元なぎさ。1-3だ。」

和原シノン。ようやく入学後で初の友人を作れたかもしれない。そう考えると心が少し躍る。

和原はぼっちだ。よってきっと俺の目的を話したとしてもきっと他言することはない。

そこで俺は1-2でこれから虐めが起きること、そして桐山にそれを止めてほしいと頼まれたことを和原に話した。

「はあ、んでその話が本当ならさ、なんであんたみたいなやつが桐山先生に虐めの仲裁を頼まれたワケ?」

確かに、俺は学級長でもクラスの中心的メンバーでもなんでもない。ただそこには俺が成績優秀&運動神経抜群という実力、そして学校の裏を知っているという事実が潜んでいる。

ただ今和原にその話をするつもりはない。流石に出会って数分のやつに全てを話すなんてことはしない。だから適当にはぐらかしておこう。

「それは…悪い。話せない。」

「ふうん。裏の事情ってわけか。まあいいや。」

「でも、先生に頼られるってことはアンタ結構すごい人なんじゃない?」

…鋭いな。

「いや、成績は普通だ。スポーツもな。」

「…まあいいや、でアタシに何を聞きにきたの?」

本題に入るとするか。

「1-2の現状を教えてくれないか。一体どこで虐めが起ころうとしているのかがよく掴めなくてな。クラスカースト的なものも教えてくれると助かる」

「クラスカースト、ね…」

和原は自分がクラスであまりいい位置にいないからか、嫌そうな顔をしながら考えた。

「ウチのクラスはヴェルデルト君がカーストとしてはトップにいるかな。ヴェルデルト・渚・エデュワードくんね。」

ヴェルデルト、か。クラス名簿を確認した時に見た覚えがある。

名前に含まれる「渚(なぎさ)」も気になる。

こう見ると父方は日本人、母型はロシア人か…?

「…ヴェルデルトくんは、クラスカーストの上位に立つ、というよりかはクラスを支配する『王者』と言った方が正しいかもね。」

「王者…?」

「クラスの男子たちを権力や財力によって従えてるのよ。彼が命令すればそいつらが動く。」

従えてる、か。それはどんなクラスなんだ一体。

でも誰からも不満等か出てこないということは多額の報酬が約束されているのかもな。

「虐めが起きる気配はあるのか?」

「今のところは…ない。だけど彼が命令すれば虐めの一つや二つは簡単に起こせる。いつ起きてもおかしくはないわね。」

成程。ではヴェルデルトに後日、探りを入れてみよう。

「感謝するぞ和原。一応、連絡先を交換しといてもいいか?」

「え…なんでアンタなんかと…」

「…これからも1-2の虐めの件について何か動きがあったら俺に定期的に連絡をしてほしい。協定を結ぶ、といった感じか。」

ただ和原は納得をしていない様子で、

「なんか報酬はあんの?アタシにメリットがないじゃん。」

こいつはメリットデメリットで動く人間か…ただ策はすでに考えてある。

その策とは…

「金だ。今回の件だけでも、そうだな…5000円でどうだ?」

「5000円か…うーん…もう一声」

「5500」

「後少し」

「6000」

「もう少し」

「…7000?」

「あとほんのちょっと」

「7500」

「それならいいか。」

…と、まさかの報酬つき(7500円)で和原と協定関係を結ぶこととなった。

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