1 正体

龍御寺高校。

ただただ普通の高校で、偏差値は53辺り。

俺は、そんな龍御寺高校に今年入学した秋元なぎさ。

入学時行われたの復習テストで全教科百点の、総合点数500点を獲得。体力テストでも文句なしのA評価。

その後のテストも総合点数500点を維持し、常に学年トップにいる。(因みに顔は普通)

ただ、そんな俺にも一つ、欠点がある。

それは、コミュニケーション能力が大きく欠落していることである。

その為か、悲しいかな今は友達が1人もいない。

数人いる…と思っていたがそれは俺が勘違いをしていただけであった。

別に1人が好きなのではない。だが人に話しかけるのが苦手なのだ。

小中学校では友達はいたが…えいそんなことはまあいい。

さて、自分語りはこの辺にして。(結局独り言だが)

少し歩くと寮に着いた。手を洗い、ソファに座る。

ボーっとしながら、俺はさっき桐山に話された件を思い浮かべる。

…そして、少し前のことを思い出す。

_________________________



ここから話は秋元が入学した直後まで遡る。


入学式からちょうど一週間が経った日の昼休み。

周りは寮生活に対しまだ戸惑いを残していたり、すでに友達を作っていたりと色々な者がいた。

俺はクラスでの居場所を作ることに失敗した。なので今日も教室にて1人でぼーっとしている。

ただただ窓の外の空を見上げるのも悪くない。


そんな、意識が完全に上の空である俺の耳に、やたら俺の近くで話している男女2人の声が聞こえた。

カップル…ではないだろうが、男の方はだいぶチャラそうな見た目をしている。

初めはただの世間話で俺は興味も示さなかった。学年で誰が誰を好きとか。誰が誰を嫌いとか。

少し話に耳を傾けてみた。人の会話とは不思議なものだ。段々話の話題が変わっていく。

最終的に俺はこんな言葉を耳にした。


「来年からこの学校では特別制度が導入される」


特別制度、か。

気になった俺は携帯で「龍御寺高校 特別制度」と検索エンジンで検索をする。

すると「龍御寺高校裏サイト」というページがヒットした。

ほう。裏サイトか。

興味を示した俺は静かに裏サイトにタップした。


サイトの画面は、いわゆるネット掲示板に酷似しているものであった。

そして「話題」というタブがあったので開いてみると、「龍御寺高校、乗っ取られるwwwww」という記事があった。

乗っ取られる?どういうことだ?

まあネットの、そして匿名掲示板の情報だ。真実ではない可能性も大いにあり得る。

どうせデマだろう。そう思い俺は好奇心でそのページにアクセスをした。

記事を見てみると「証拠」と書かれて貼り付けられた一枚の写真があった。

それは龍御寺高校のホームページの写真だった。


『4月9日の入学式の日、全校生徒の個人情報、および能力などの情報が何者かによって盗まれました。

深くお詫び申し上げます。

現時点、生徒の皆さんの個人情報が悪用された形跡は見つかっておりませんのでご安心ください。』


そしてその写真と共に「情報漏洩したんか…怖…」というスレ主(?)の感想が表示されていた。


因みに記事に対するコメントは一切なかった。


情報漏洩、か。

もしこれが事実なら、なぜ俺たちにはこのことが知らされていないのか?

まずこんな事態が起きたならば学校側は保護者説明会や全校集会を開くのが常識であろう。

事実を隠蔽するためか?

龍御寺高校には特別な取り組みがあまりない。なのでホームページは見る人が極端に少ない。

だからこの情報も公に出ることはなかった…ということか?

でも面白半分で見るいわゆる「陽キャ」の集団に見られたら噂がたちまち広がってまうなどのリスクが存在する。実際、裏サイト内では議論らしきものが行われている。

そもそも事実を隠蔽したいならばホームページにポツリと載せ、不特定多数の人に見られるようにはしないだろう。

なんだか違和感を感じるな。


そう思った直後、俺の携帯が振動した。


「君は気づいていますか?」


そう一通のメール。


そして後に続く文章。


「これは私が始めたゲーム。君を試させてもらいますよ。決戦は…まだ早いですから、あなたが2年生になったら、ということにしましょう。また、メールをさせていただきます。」


そしてメールの詳細から差出人を見ると、「南條 采乃」と書いてあった。

ナンジョウサイノ、か。

聞いたことない名前だな。

クラスメイトにはそのような名前の生徒はいなかった気がする。

学校内、そして教師陣には…あとで調べておくか。


それよりメールの内容である。

今俺が検索した特別制度の話、そして瞬時に届いたメール。

この2つを無関係、と言うことはできないだろう。

偶然にしてはタイミングが良すぎる。

つまり全ては南條という人物によって仕組まれた策略、と見て良いだろう。

俺の前で不自然に話していた男女2人…も関係している可能性が高い。

人は基本、興味のないことに対して調べたり行動を起こしたりはしない。

ただそれが自分の近くで話されていたら否が応でも気になってしまうのではないか。

そんな俺の好奇心を誘ってサイトに誘導させる。

俺がサイトに誘導されたところでメールを送信。

と言ったところか。


俺は真実を確かめるため、龍御寺高校のホームページへアクセスし、「最新の記事」のタブを開く。

最後に記事が更新されたのは、2月20日の「期末テストが行われました!」という記事。

俺たち一年生が入学する前の記事。

…つまりあの「証拠」の写真はフェイク、ということか。

そこまで考えたところで昼休みが終了した合図のチャイムが鳴った。


続きは寮へ帰ってから、パソコンで調べるか。


________________________




7時限目の「日本史」が終わり、下校時刻になると、俺は教室からいち早く出た。


職員室前の「教師紹介」という掲示板の写真、そしてもう一つ、各クラス前に貼られている名簿の写真を撮るためである。


クラス前名簿に今行くと人が多くて面倒臭い。から、先に職員室から行くか。


俺は職員室まで行くと携帯のカメラを起動し、シャッターを押す。撮り終えたことを確認すると、全校のクラスを巡るために上の階へ登る。


人が多かったので少し苦戦したが、全クラスの名簿を撮影することができた。



俺はやることを終えたので学校を出て近くのコンビニに寄り、グミ、缶コーヒーを購入して寮に戻る。


うちの高校はなぜか寮制である。だが1人制なのでのびのびと使うことができる。

俺は制服を洗濯機(元から設置されている)の中に入れ、手を洗ってパソコンを起動させる。


そして俺は先ほどアクセスした「裏サイト」のURLをパソコンで入力し、アクセスする。

解析ツールを使い、そのサイトを詳しく調べる。

…やはりだ。コレは偽サイト。こんなサイトは存在していない。

そしてページの作成日は4月16日という情報が出た。

つまり今日作成されたサイト。

さらに、誰かにアクセスされた時に管理者へ通知が行くようになっている。


なるほど。やはり読み通りというわけか。


そして俺はもう一度、検索エンジンで「龍御寺高校 特別制度」と検索する。

ただ、もういくら更新してもあの「裏サイト」は出てこない。


ここではどんな細工が行われていたのか。

俺は携帯の検索エンジンで同じように検索するが、やはりこちらでもヒットすることはない。

ただなんとなく推測することができる。


もし、龍御寺高校が乗っ取られた、という事実が本当ならば今日の件も学校側が大きく関係している可能性がある。


学校側から生徒の携帯に、高校にいる間導入されている「Ryuonji’s knowledge」というシステムがある。

このシステムは、生徒の個人情報を身の回りの危険から100%保護してくれるシステムであり、同時にGPS機能や、心拍数計測による健康調査や緊急時SOSも可能となっている。


そのシステムが南條によって乗っ取られたか。

そして俺のメールアドレスを特定し、メールを送信してきた、ということになる。


南條の目的はなんだ?そもそも誰だ?


今日撮ってきたクラス名簿、教師名簿を確認。


教員は清掃員や保健室、図書館…などたくさんいるため、60人という人数だった。

だが南條という苗字は1人も見当たらなかった。


そして全クラスの名簿。うちの学校は1学年4クラスあり、1クラスの人数は38〜42人ほどであった。

こちらも全校480人弱の生徒を確認したがやはり「南條」はいない。


こいつは誰なんだ。

俺は検索エンジンで「南條采乃」と検索をする。

まさかの、ヒットした。

「南條采乃」のTwitterである。自己紹介文には、

「とある実業家の裏垢です。笑 今年、私はある学校を変えてみせます。」

と書いてあった。

俺はただならぬ予感がした。

Twitterの垢を持っている俺は、そのままパソコンでTwitterにログインする。

もう2年近く起動していないこの垢。ただ、そこには一通のDMが。

差出人は「南條采乃」だ。

そしてメッセージにはこう書かれていた。

「この際ですから、あなたに私が望むビジョンをお教えしましょう。」

『価値のない人間は滅ぶべきです。役に立たない人間は必要ないのです。』

「私はこれから人間の『選別』を龍御寺高校で行いたいと思っています。」

選別…か、詳細はわからないが。

ただ一つ疑問がある。なぜうちの学校を標的にしたのか。

俺は質問してみることにした。

「なぜ、うちの学校で『選別』とやらを行うことになったのか?」

そして答えはすぐに返ってきた。

「君と対決がしたいのですよ、秋元なぎさくん。」



「待ってますよ」



そのメッセージを最後に、南條からの連絡は途絶えた。


何だったのだ、南條采乃。

俺はパソコンに写っているDMの画面を念のためスマホで撮影しておく。そしてその後、Twitterのページを再読み込みしてみた。新しいメッセージが来ていないか確認するために。


ただ南條のアカウントに表示された文字は、


「このアカウントは削除されました」


であった。


証拠を消したか…と察し、俺は先ほどの「偽」の裏サイトにアクセスしようとする。

だが画面に表示されたのは「申し訳ございません。お探しのページのURLに到達できません。」

裏サイトのスクリーンショットを撮るのを忘れてしまったが…まあいいだろう。


南條が言うことが本当ならば、1年後に決戦は始まる。


楽しませてもらおうじゃないか。その「選別」とやらを。

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