第18話 格ゲーマーは後ろを狙われる?

「きゃ~! トーヤ様素敵~!」


 シャルロットがトーヤに黄色い声援を送っていた。キャミーはというと他の盗賊を相手しているところだ。


「うふふ。貴方やっぱり私のタイプかも~!」

「むっ?」


 その時だった。太い腕がトーヤに伸びそのまま組み付いた。首に腕が周り腕に力がこもっていく。


「ふふふ。安心してね殺したりしないから。落とした後は私が天国に連れて行ってあ・げ・る」

「ごめんだな」

「え?」


 男が目を丸くさせた。何故ならトーヤがあっさりと腕から抜け出したからだ。


「ど、どうして?」

「投げ抜けぐらい格ゲーの基本だ」


 そう投げ抜けである。勿論スキルとして存在しこれもトーヤは取っておいた。投げ抜けは特定のタイミングでコマンド入力することで投げ技から抜け出せる技術だ。絞め技も投げ技として扱われる為、今の技も抜けられたのである。


 そして勿論現実となった世界ではコマンドではなく動作で発動する。相手の技から抜けるイメージっで動けばいいのである。


「せっかくだからコボられておけ! はぁあぁああ!」


 ラッシュスリーで先ず攻撃。しかし、

「あぁん! これはこれでいいわ! 目覚めちゃいそう!」

「くっ! 破天!」

「キャァアァアァアアア!」


 何故か気持ち良さげな男にちょっと引いてしまったトーヤは基本コンボだけで終わらせてしまった。それでも余裕で倒せたわけだが。


「フンッ。ちっとはやるのがいたってわけか」


 戦いの様子を静観していた盗賊の頭。だがトーヤの戦いぶりを認めたのか巨大な戦斧を肩に担ぎ、盗賊の頭がゆっくりと腰を上げた。


「どうやらメインデッシュを楽しめそうだな」


 盗賊の頭が動き出したのを認めトーヤが拳を鳴らした。まさにこれから始まる強敵との戦いに胸が踊る思いだったのである。


「素手の癖にここまでやるとは大したもんだ。だが覚えておけ。所詮素手じゃ武器持ちには勝てん。素手で覚えられるスキルなんざたかが知れているのだからな」


 巨大な戦斧を肩で担ぎながら頭が言い放った。スキルはこの世界において確かに重要だ。だがそれがすべてではないとトーヤにはそう感じられた。


「武器持ち? そんなものコボればどうにでも出来る」

「言うじゃねえか。ならば見せて貰おうか!」


 頭の腰が唸るように回転し、かと思えば持っていた戦斧をトーヤに向けて投げつけた。


「喰らいやがれ! ブーメランアクス!」

「は?」


 しかしトーヤは眼を丸くさせ迫る戦斧を見ていた。


「トーヤ様危ない!」


 シャルロットが叫んだ。幾らトーヤと言えどあの巨大な斧をまともにうけてはひとたまりもないと、そう思ったのだろう。


「――よっと」


 しかし――トーヤは頭が投げた斧を垂直ジャンプで躱してみせた。表情も余裕であり全く危険を感じていない。


「ハッ。やるな。だがそれで終わりだと思ったら甘いぞ!」


 頭が叫ぶと同時に戦斧が急旋回し戻ってきた。


「トーヤ後ろだ!」

「まぁそうだろうな」


 今度はキャミーが叫ぶがそれも予測していたかのようにトーヤが再び飛んで躱した。


「ほう、やるな。だがいつまで持つかな?」


 見事にブーメランアクスを避けて見せたトーヤ。しかし頭にはまだ余裕があった。


「ブーメランアクス!」


 今度は更に力強い腰の回転で斧を投げた。一見するとさっきと変わらないようだが飛んでいくスピードが更に増していた――のだが。


「ちょんわ!」

「ブベッ!」

 

 なんとトーヤは危なげなくそれを前ジャンプで避け、更に飛び蹴りを頭の顔面に突き刺した。


「ギャフンッ!」


 頭が大きく吹き飛んだ。これによって距離が離れ、同時に戦斧も戻ってきたがトーヤはこれもあっさり避けた。


 倒れたままの頭はこれを受け取ることも出来ず戻ってきた斧が地面に突き刺さった。


「く、くそが!」


 顔面を蹴られた頭は鼻血をボタボタと垂れ流しながら立ち上がりトーヤを睨んだ。一方でトーヤは冷めた目を頭に向けている。


「偶然が重なったぐらいで調子に乗るなよ雑魚が! ブーメランアクス!」


 そして頭が再びブーメランアクスを繰り出すが――


「はぁ!」


 再びトーヤが前ジャンプし頭の顔面に蹴りがめり込んだ。


「ぐぉおぉぉぉぉ!」

 

 頭がごろごろと地面を転げ回り戻ってきた戦斧は虚しく地面に突き刺さる。それを再び冷めた目で見るトーヤ。


「こ、こんどこそ! ブーメランアクス! ブベッ! つ、つぎこそブーメラン、ぎゃひん! ブーメ――グボッ!」


 こうして続く頭のブーメランアクスをトーヤはひたすら飛び蹴りで返し続けた。見ているシャルロットは流石トーヤ様とキラキラした目で見ていたが、一方でキャミーの瞳からは頭への哀れみさえも感じ取れた。


「くっ、今度こそ」

「いい加減にしろ! 貴様は難易度ベリーイージー以下のCPUか~~~~~~~~~~~~~~!」


 立ち上がり再び振りかぶる頭目掛けてトーヤが怒鳴った。ガルルと唸り声まで上げる始末である。


「……は? し、べり、い、いじ? し~ぴぃ? なんじゃそりゃ?」


 トーヤの発言に頭はわけがわからないとった様子だ。


「……貴方に聞くのも尺ですが、今のべりーとかしーぴーゆーというのはなんですか?」

「いや、それは私にも正直」

「貴方に聞いた私が愚かでしたの。使えないですわ」

「グッ!」


 辛辣なシャルロットの言葉に喉を詰まらすキャミー。そして「そんな事言われても仕方ないではないか」と一人ぶつぶつと呟くのだった――


「いいか? 貴様のブーメランアクスは小中大と変わらず発生が24フレーム。全体硬直が80フレームだ。そんな隙だらけの技を気軽に振る馬鹿がいるか! 格ゲー初心者でもこんな真似しないぞ! ベリーイージーのCPUだってもう少しマシな動きをする! だから貴様は難易度ベリーイージー以下だというのだ!」


 トーヤが語る内容を何故か頭は正座して聞かされていた。勿論それを強要したのはトーヤである。


 ちなみにここで言われている難易度はトーヤがプレイしていたKBFに基づいて語られている。


 KBFでは最低難易度がベリーイージでありそこからイージー→ノーマル→ハード→スーパーハード→ウルトラハード→ナイトメア→最高難易度のインフェルノと八段階あったのである。


 勿論トーヤはインフェルノすらもノーコンテニューで余裕で攻略できる程だが――そんなトーヤからすれば安直な必殺技を繰り返す頭との戦いなど片手までこなせるほど余裕だったわけである。


「全く出来の悪いAIでももう少しまともな技振りするぞ」

「ぐっ!」


 正直トーヤの語る内容などまったく理解できていない頭だが、馬鹿にされているのはわかるようである――

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