第19話 格ゲーマーは指導したがる

「大体貴様は馬鹿の一つ覚えみたいに同じ技を使いすぎだ。少しは小技をふれ! 相手の動きも見ろ! 大体飛び道具を扱うなら対空ぐらい意識しろ! 何一つ出来てないではないか!」


 ピシャリとトーヤが言い放った。これまでは異世界でとりあえず相手をコボれたらそれで満足であったが、そろそろ歯ごたえのある相手ともやりたいと思っていたころなのだ。


 故に冒険者ギルドが危険視するほどの盗賊団の頭に期待していた部分もあった。だが蓋を開けてみたらベリーイージーのCPU以下でしかなかったのだから文句の一つも言いたくなるというものだろう。

 

「ぐっ。さっきから聞いてれば好き勝手言いやがって! だったら見せてやる俺のとっておきをな!」


 トーヤの話を唖然とした顔で聞いていた頭だが、突如激昂し構えを取り始めた。


「ほう、面白い見せてみろ!」

「いくぜ! アックスボマー!」


 頭が猛ダッシュでトーヤに迫った。そして接近すると同時に豪快に斧を振り上げる――が、トーヤは軸ずらしでそれを避けカウンターを放つ。


「この馬鹿!」

「ゲブォ!」


 横から蹴りが突き刺さり頭が悶絶した。頭がとっておきと言い放った技もトーヤにとっては児戯に等しいのである。


「さっきから言ってるだろう! 考えなしに技をふるなと! 確かのその技は発生7フレーム。さっきのブーメランアクスよりマシだが硬直が15フレーム! わかっていれば十分反撃できる代物だ!」

「う、うるせぇうるせぇうるせぇ~~~~~~~~!」

 

 説教を続けるトーヤに頭はうんざりした表情で声を張り上げた。


「だいたいてめぇは何者なんだよ! いや、その前に何なんだお前は一体!」

「フッ俺か? 俺はただの格ゲー好きのゲーマーさ。だが格ゲーに対しては妥協せん!」


 自らを指差しトーヤが言い放つ。なんならキメ顔まで見せる程だが、それを見て喜んでいるのはシャルロットぐらいである。


「キャァアアァア! トーヤ様素敵ぃ!」

「あれがか? わからん……」


 はしゃぐシャルロットとは対象的にキャミーは白けた顔を見せていた。これまでのトーヤの言動を知っているからこそと言えるだろう。


「全然わかんねぇんだよくそが! こうなったらもう容赦しねぇぞ! アックスダンク!」


 頭が大きく跳躍し放物線を描くようにしてトーヤの頭上に迫り斧刃を振り下ろした。


「甘いな」

 

 しかしトーヤはサクッと体をそらし頭の攻撃を避けた。


「俺は避けスキルも取得しているんだよ。そんなわかりやすい攻撃に当たってたまるか」

「く、くそが!」


 空振りこそしたが頭はそのまま腰を畝らせ戦斧を横に振った。


「安易に大技を振るな!」

「ゲフッ!」

 

 しかしそうは問屋が卸さない。トーヤの素早い膝が頭の攻撃に割り込んだ。トーヤには頭のフレームが視えていた。発生15フレームの大攻撃。それに対して今トーヤが放った膝は立ち状態からの中キックで出る技。


 その発生は6フレームであり余裕で割り込むことが出来たのだ。


「さぁおしおきタイムだ!」


 頭に対するカウンターがヒットしたのを確認し、トーヤは次の攻撃へと繋いでいく。基本的に相手の攻撃派生中にこちらの攻撃がヒットした場合カウンターとなる。


 カウンター状態になると仰け反りが大きくなりより次の攻撃が繋がりやすくなるばかりか、技によっては特殊な状態に移行することもある。


「おらぁ!」


 トーヤが次に選んだ技は大キックによる上段回し蹴りだった。発生は遅いがカウンターヒット時なら繋がる。しかもカウンター後の攻撃なら回し蹴りもカウンター扱いとなる。


 これにより頭がその場で大きく回転した。


「チャンス到来!」


 ダッシュで近づきトーヤがスキル浮撃によって頭を空中に打ち上げた。回転中の相手はより高く浮き上がる。


「おらラッシュスリー!」

「ゲボッ! ゴホッ! ベボッ!」


 うめき声を上げる盗賊の頭。しかしこれでは終わらない。より高く浮き上がった状態ならばもう一セットラッシュスリーを叩き込める。


「おらもう一セット決めて、からの破光空拳! そして破天降!」


 空中からのコンボが決まる。盗賊の頭は地面に叩きつけられそのままダウン。


「フッ――決まった。だがまだまだコンボはこれからだぜ! さぁ今ので少しは学習しただろう? さっき教えたことを踏まえて!」

「いや、もうとっくに気絶しているぞ。これは暫く起きないだろうな」

「は?」


 トーヤがまだまだやろうぜといった様子を見せるもキャミーが頭の様子を素直に伝えた。


「おいおい嘘だろう!」


 それを聞いたトーヤが駆け寄り頭の様子を確認した。


「完全に気絶していますわね」


 シャルロットが呟いた。頭は白目を剥き口からは泡を吹いていた。明らかに意識を失っており、これ以上の戦闘は不可能と思われるが。


「ふっぜけんな! お前はここのボスだろう! だったら気合を入れろ! 立て立つんだ頭!」

「やめろ馬鹿!」


 トーヤが頭の首根っこを掴み頬をパンパンッと叩いた。慌ててキャミーが止めに入る。


「ふざけるな! 勝負はまだまだこれからだろうが!」

「いや勝負はもう決まってるだろうどうみても!」


 キャミーに止められトーヤがガックリと項垂れた。まだまだこれからと思っていたトーヤだが頭はもう戦える状態ではなかった。


 しかし思うようにコボれなかったことで完全に不完全燃焼なトーヤなのである。


「トーヤ様そんなに落ち込まないでください。そうだ! トーヤ様の為にもし私に出来る事があれば何でも言ってください!」

「何? なんでもいいのか?」

「は、はい。トーや様の為なら」

「そうか。なら是非コボらせ」

「この馬鹿!」

「グボォ!」


 思わずシャルロットにコボらせてほしいと頼むトーヤだったがそこにシャルロットの蹴りが炸裂。トーヤは吹っ飛んだ。


 その直後シャルロットがキャミーを責めだし頭を抱える彼女なのであった――

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