第17話 格ゲーマーにとっては依頼よりコボるのが大事

 盗賊の頭は手下と談笑を交わしていた。どうやら攫った姫で身代金を要求するつもりらしい。


 もっとも話を聞くに身代金が払われたとしても大人しく返すつもりはなく闇で奴隷として売りさばいて更に金をせしめる算段なようだ。


「なんて奴らなの。ゲスの極みね! 乙女の敵よ!」

「なぁそろそろコボっていいか?」

「トーヤ様。私怖いですわ。しっかり守って欲しいのです」


 一人憤るキャミーだったがトーヤには全く緊張感がなく、ただたださっさとコボりたいという考えだけが先行していた。姫様に至っては怖そうな素振りを見せつつトーヤにピッタリとくっついている。


 なお本当に怖がっているような雰囲気は感じない。キャミーは頭を抱えた。


「トーヤも殿下ももう少し緊張感をお持ちください。今目の前に盗賊がいるんですよ」

「だったらさっさと貴方が行って倒してきなさい。私はトーヤ様とここでイチャラブ、言え様子を見てます」

「いや、流石にあの人数を私一人では……」

 

 シャルロットに命じられキャミーが顔を引き攣らせた。盗賊は全部で二十人以上はいる。キャミーも腕には自信があるが狭い洞窟でこの人数というのは少々厳しいのだろう。


「馬鹿言うな。独り占めは許さんぞ。この俺にもコボらせろ」

「キャ~! 流石トーヤ様! 勇ましくて勇敢で勇気があります。私惚れ直してしまいましたわ」


 ポッと頬を染めるシャルロットを見て、もう勝手にしてくれと壁に手を付けるキャミー。そしてトーヤは一人腕を組み頭を撚る。


「勇ましいと勇敢と勇気ってあんま変わらなくないか?」

「馬鹿! 私もちょっと思ったがそこは空気読んで黙っておきなさい!」


 キャミーが激しく突っ込んだ。すると頭上からキィという鳴き声が聞こえ、かと思えば天井に張り付いていたコウモリが盗賊たちの方へ向かっていった。


「し、しまったまさかあれは!」

「キィキィキィキィ!」

「うん? 頭大変ですぜ! 何者かがそこに!」


 どうやらコウモリを監視役にさせていた盗賊がいたようだ。


「誰だ! 大人しく出てきやがれ!」


 頭の声が響き殿下の冷たい目線がキャミーに向けられる。


「やらかしましたわね」

「やらかしたな」

「うぅ、くっ、こうなったら仕方ない! 姫様はそのまま身を潜めていて下さい! 行くわよトーヤ!」

「お前今の失敗ごまかすつもりだろ?」

「う、うるさい!」

「やれやれ。ま、いっかこれで思う存分コボれる」


 そしてキャミーとトーヤが岩陰から飛び出し盗賊たちの前に姿を見せた。


「何だ? 何者かと思えばたかが二人かよ」

「ですが頭。女の方はいい女ですぜ」

「お、男もガッチリしててタイプかも」

「あ~あ。ゴローに気に入られるとはあいつもう無事じゃいられないぜ」

「主に尻がな」


 盗賊たちがぎゃはははと馬鹿笑いを見せる。そしてゴローの熱い視線がトーヤに向けられた。


「良かったわねトーヤ。とってもモテモテみたいよ」

「御免こうむるな。ま、コボりがいはありそうだが」


 ゴローを見ながらトーヤがいった。見たところゴローはフェリミアのような獣人のようだった。毛むくじゃらであり熊の耳を生やしている。


「ま、男はゴローに任せるとして」

「頭、俺達はあの女味見していいですかね?」

「ふん。お前たちは相変わらずだな。まぁいいさ。軽く伸してからお楽しみタイムと行こうぜ」

「「「「「「「「「「そうこなくちゃな!」」」」」」」」」」


 そして盗賊たちがウッキウッキな顔で飛び出してきた。弓持ちもいたが二人だけだと侮っているのか全体の三分の一程度の人数で迫ってくる。


「よっしゃ~! ここなら良い壁コンボが決められそうだぜ! このスキルの出番だ!」


 洞窟は当然だが屋外に比べたら狭くあっちこっちに障害物が見られる。端には頑丈な壁もあるがこういうステージもトーヤにとっては大歓迎だった。


 壁コンボとは主に3D格ゲーで多用されていた概念だが、2D格ゲーにおいても壁が用意される機会が多くなっておりKBFにおいても壁は存在した。

 

 更に言えばワールドモードではそれが顕著でもあったのだ。


「おら! ジャンプ大ぶっとばし!」


 向かってきた集団に向かって飛び込み、早速ぶっ飛ばし攻撃を決めた。トーヤはこの為にポイントでスキルも追加していた。ぶっ飛ばし攻撃は喰らった相手が文字通り飛ばされる攻撃だ。


 これを受けると相手との距離が大きく離れ通常はコンボが繋がらない。コンボ好きのトーヤにとってはあまり旨味がなさそうにも思えるが――壁が多いこの場所は別だった。


「グハッ!」


 盗賊の一人が壁に叩きつけられ呻き声を上げた。その時だった。トーヤが一直線に飛んできて腹に蹴りを叩き込んだのである。


「先ずはシュートコンボ!」

 

 トーヤの必殺技シュートコンボ大で三発の蹴りを叩きこむ。壁が背中に当たっているため技が全て命中した。


「壁コンならこの後、4フレ有利!」


 フレームというのは簡単に言えば時間である。フレームが有利であればそれだけ次の一手に繋げやすくなる。ヒット確定ならコンボ数にも大きく関わってくる要素だ。


「鋭刃脚! 鋭刃脚! 鋭刃脚! さぁ飛ぶぜ!」


 鋭刃脚は発生の速い蹴り技だ。本来は押すボタンで上段、中段、下段と発生が分かれる。その内の上段は発生後の隙も少ないがただ打っても屈めばスカってしまう。しかし当てさえすれば連続ヒットも狙えるわけで当然コンボにも繋げやすし。

 

 三発決めた後はそのまま飛び上がり空中でラッシュを決める。ラッシュスリーで叩き落とした後はしっかり破天降も忘れない。


 こうしてやってきた盗賊の一人はトーヤによってコボられた。ちなみに吹き飛ばしに巻き込まれた盗賊はコンボを決めるまでもなく全員気を失っている。


 つまり――別にわざわざコボらなくても一撃当てるだけで十分だったわけであり、やられた盗賊はとんだとばっちりなのである……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る