第16話 格ゲーマーは姫様にも遠慮がない
「なぁ、ところでこの姫様はどうするんだ?」
「……こうなったら仕方あるまい。一度ここを出て近くに安全な村や宿場があれば一旦待機していて貰おう」
「そんなの嫌ですの! 私、トーヤ様の側におりますわ!」
シャルロットがトーヤに寄り添い、キャミーの提案に否を唱えた。
「大体そんなに帰りたければ貴方一人で帰れば宜しいですの」
「いや、我々はここの盗賊退治に来たもので、ここで引き返すわけには……」
キャミーが困り顔だ。そしてトーヤはそんなやり取りなどどうでも良さそうにふぁ~と欠伸をかいていた。
「貴様、一体誰のせいでこうなってると思ってるんだ?」
「いや、俺のせいかよ?」
「トーヤ様のせいなんてとんでもない! トーヤ様は私を助けてくれた救世主ですわ。貴方の方こそさっきから失礼ですの。大体貴方、一体トーヤ様のなんですの!」
「いや、盗賊退治に来てる一時的な仲間だが……」
「ハッ、まさか貴方もトーヤ様を狙って!」
「それはない絶対にない! こんな奴絶対にありえません!」
キャミーが即刻否定した。
「お前、こんな奴呼ばわりとは酷いな。水浴びの時世話してやったのに」
「水浴びの時にお世話!?」
「貴様紛らわしい言い方するな!」
キャミーが顔を真っ赤にさせて怒鳴った。
「大体一緒に馬にも乗った仲じゃねぇか」
「一緒に馬になって乗ったり乗られたりして中に!?」
「聞き間違いが酷すぎる!」
更に続けるトーヤであり、話を聞いていたシャルロットはわなわなと震え明らかに敵視の目でキャミーを見ていた。キャミーとしては心外な勘違いなようだが。
「トーヤ様。なんともおいたわしい。きっと何か弱みを握られて日夜セクハラ紛いの事を」
「私が!?」
キャミーとしてはあまりに聞き捨てならない話だ。寧ろトーヤのおかげで気苦労が増えたと思っているのだから。
「わかってくれるか。全くこいつときたらロクにやらせてくれないのに理不尽なことばかり――」
「この馬鹿!」
「グボォ!」
顔を真ッ赤にさせたキャミーの飛び蹴りがトーヤの横ッ面にヒットした。
呻き声を上げトーヤが傾倒する。そんなトーヤを見下ろし歯牙を剥き出しにキャミーが怒鳴る。
「何が、や、やら、くっ、私はそんな軽い女ではないぞ!」
「イテテテテテ――何をそんなに怒ってやがる。頼んでもコボらせてくれなかったのは事実だろうが!」
「……コボ。は? き、貴様、紛らわしいわ!」
トーヤの言っていた意味を理解したキャミーだが、やはり怒りは収まっていない様子だ。
「トーヤ、い、今の、は、わ、私の聞き間違い?」
「聞き間違いです! やたらうるさいといったのですやたらうるさいと! でも、仕方ないのです! 姫様はご存知ないでしょうがこの男は!」
「もう良い。そうか聞き間違い、そうに決まってるわよねトーヤ♪」
結局トーヤに近づき弾んだ声でくっつくシャルロットだ。その様子にキャミーは眉間に皺を刻みつつため息をついた。
「もうなんでもいい。でもトーヤ貴方がしっかり守るのよ!」
「俺が? こういうのは何かお前の方が向いてそうだけどなぁ」
「嫌です! 私トーヤ様がいいです! そこの女は気に入りませんわ」
「はは、嫌われたもんだな」
誰のせいだ、と言いたいのをぐっと堪えていそうなキャミーであった。そして三人になったトーヤ達は来た道を戻り洞窟の奥へと進んでいく。
「あの女が姫だったとはラッキーでしたね頭」
「あぁ。これで身代金もがっぽり手に入るぜ」
通路は末広がりになっており、広くなった場所では多くの盗賊がたむろしていた。奥には丁度いい感じに腰を下ろせそうな岩があり、その場にいる盗賊の中でも一際大きな男がドカッと岩の上に座り手下と酒を呑んでいた。
「あれがきっとこの盗賊団のボスよ」
「ほう? あれがか。中々歯ごたえのありそうな奴ではないか」
大男の姿を認めトーヤが勝手に期待を膨らませた。確かに目や顔に傷があったり手の届く位置には一般人なら両手で持つのにも苦労しそうな戦斧が置かれている。
それを専用の武器としているなら、それだけでも十分脅威と言えるだろう――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます