第15話 格ゲーマーは姫様に好かれる?

 盗賊に助けられお礼を述べるシャルロット。それにトーヤはキョトンとしていた。トーヤとしては目の前にコボれる相手がいたからしただけだ。


 勿論事前にキャミーから姫を助けるのが先決と聞いていたが、トーヤにとってはこの場の相手をコボれるかどうかが一番大事だったのである。


「あの! 助けて頂いたお礼をしたいのですが!」


 するとシャルロットがトーヤに向けて真剣な顔でそんなことを言ってきた。

 ふむ、とトーヤが後頭部を擦る。一方でシャルロットはとても不安そうな顔をしていた。


「そう言われてもな。あんたを助けたのはたまたまだし」


 トーヤの口ぶりにシャルロットの眉がピクピク痙攣する。仮にも一国の姫相手にあんた扱いなのを気にしているのだろう。


「殿下。このトーヤという男は冒険者としてまだ日が浅く、少々失礼な点もあると思います。あまり話されないほうが……」

「何だお前は? 今私はこの御方と話しているのだ。口を挟むでない!」

 

 ピシャリとシャルロットに叱咤されてしまう。キャミーの顔が引きつった。


「貴方様はトーヤ様というお名前なのですね。はぁ素敵なお名前――」

「そうか?」


 うっとりとした顔を見せるシャルロットにトーヤは疑問顔だ。若干元の名前とは違っているがどちらにしてもそこまでの名前だとトーヤには思えない。


「それにしてもトーヤ様はあんなにお強いのに謙虚なのですね。ますます気に入りました。あぁトーヤ様これはきっと運命の出会い」

 

 両頬に手を添えてくねくねしだすシャルロット。キャミーはますます嫌な予感がして仕方なかった。


「トーヤ様は私の王子様です。命がけで助けてくれた御方ですもの。やはりお礼をしたいのです。私で出来ることなら何でもおっしゃってください」

「ほう。なんでもいいのか?」

「はい。勿論」


 何でも願いを聞くと言われトーヤの瞳がキラリと光った。


「ふむ。それなら是非ともコボらせてもらえないかな? 正直ずっとそればっかり考えていたし」

「え? コボ……それっていった――」

「この馬鹿!」

「グボォ!」


 ?顔を見せるシャルロットをよそにキャミーがトーヤに飛び蹴りをかました。


 虚を突かれたトーヤはモロに体重の乗ったキャミーの蹴りを受け吹っ飛んでしまう。鎧分の重さも加わった為派手に地面を転がった。


「くっ、キャミー何しやがる!」

「何しやがるじゃない! 全く何を考えて――」

「貴方一体なんてことをしてくれているのですか!」


 トーヤに厳しい目を向けるキャミー。しかしシャルロットが割って入り逆にキャミーに文句を言った。


「トーヤ様大丈夫ですか? 全く私のことを身を挺して助けてくれた御方になんてことを!」


 シャルロットはトーヤが傷ついたことが酷く気に入らないようだった。シャルロットの目が点になっている。


「いや、これはそこのトーヤが殿下にとんでもないことを要求しようとしたので同行者としてつい――」

「とんでもない? とんでもないというとあのコボるということですか? 一体そのコボるが何だというのですか!」

「え? えっと――」


 眉を怒らせキャミーにコボるの意味を問うシャルロット。それにキャミーが言葉をつまらせた。


 何せ内容が内容だ。ここでバカ正直にコボるというのは貴方をボコボコにするという意味ですよなんて答えたなら最悪死刑にされかねない。

 

 トーヤだけの問題であればどうぞどうぞとリボンでもつけて差し出したいぐらいのキャミーだが、一応はトーヤのお目付け役として同行している身だ。


 トーヤの不始末で監督不行き届きとされキャミーまで罰せられる可能性が無いとも言い切れない。


「トーヤ様。あの女の言っているコボるとは一体なんなのですか?」

「うん? そりゃ勿論ムゴッ!」


 まさに馬鹿正直に答えようとしたトーヤだったが疾風のごとく速さでキャミーがトーヤの背中を取り手で口をふさいだ。


「そ、それは殿下が知るにはあまりに刺激が強すぎます! ですからどうかその胸の内にしまってしまった方が宜しいかと!」


 慌ててそう説明するキャミー。シャルロットはジトッとした目をシャルロットに向けた。とても不満そうであり。


「全く。だから私に刺激が強いとは、刺激、しげ――」


 だがしかし、殿下は何度か同じ言葉を繰り返した末に頬がボッと燃えたように赤くなった。


「そ、そんな。でもトーヤ様となら、あぁでもまだお会いして間もないのにいけませんわぁ~~~~!」


 キャァ! と両手で目を覆い体を揺らすシャルロット。その様子に、絶対勘違いしているな、と目を細めるキャミーである。


「全くさっきからコボるぐらいで何だというのか」

「お前の感覚がおかしいことに気がつけ! 相手は一国の姫様だぞ! その相手に意味など知られてみろ! ましてそれをしようとしたなど、ギロチン送りになってもおかしくないのだからな!」


 シャルロットが勘違いの妄想を膨らませている間にトーヤによく言い聞かせるキャミーである。


 そして一応はトーヤも納得を示した。ただ姫という意味では異世界で最初にトーヤにこぼられた相手がまさにその姫だったわけだが――

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