第6話 冒険者になった格ゲーマー

「それでトーヤ。早速頼みたい仕事があるんだ」

「ほう、それはコボれるのか?」

「いや、コボルトはいないな」

「コボれないなら受けんぞ! 戦えないなら意味がない!」


 カイルの頼みをあっさり断るトーヤ。だがカイルは、うん? と首を傾げ。


「いや、戦いならあるぞ。間違いなくな」

「なんと! それならコボれそうだな!」

「コボルトはいないと思うが……まぁとにかく戦いはある」


 カイルが頷く。やはり微妙に二人の会話は噛み合っていないが両者にとってプラスに働く内容ではあったようだ。


「ギルドマスター! やはり私は反対です。見る限りこいつは放っておくと何をしでかすかわからない。野放しにするのは危険だ」

「あぁ、それだが確かに。一応は牢に入れられたのもあるしな。だからトーヤ、お前にはこのキャミーをつける」

「うん? つける?」

「はい?」


 トーヤとキャミーがほぼ同時に疑問の言葉を返す。その様子にはは、と笑顔を見せながらガイルが続けた。


「トーヤも冒険者についてまだわからないことも多いだろう? キャミーは腕も立つし経験も豊富だ。先輩冒険者として色々教えてくれるだろう。それにお願いしたい仕事は、流石に冒険者になったばかりのお前に単独で任せられるような仕事じゃない」


 ガイルの言葉は次の仕事に何かしらの危険がはらむことを示していた。聞いていたキャミーは目を丸くさせている。


「なるほどな。ま、俺は構わないが」

「ま、待ってくれ! その、私がこいつの面倒を見ないといけないのか?」


 トーヤは特に異論はないようだが、キャミーは違ったようだ。立ち上がり不満を訴えるがガイルは素知らぬ顔で答えた。


「そうだ。まぁ捕まえたのはお前だし、責任もって面倒見てやってくれ」

「な! そんな責任――」

「これはギルドマスターとしての命令だ」

「くっ!」


 キャミーが唇を噛む。着席し、頭を抱えた。


「なぁ、それ食べないなら貰っていいか?」

「貴様! 少しは立場をわきまえろ!」


 キャミイが食事に手をつけていないのを見てトーヤが問うが怒鳴り返されてしまった。


「ちょっと聞いてみただけだというのに、そこまで怒らなくてもいいだろう全く」


 そういいつつスープを飲み喉を鳴らした。そして改めてガイルを見て問いかける。


「それで、結局仕事って何なんだ?」

「あぁ、そうだったな。頼みたいのは盗賊退治だ。漆黒の暴君という盗賊団をキャミーと一緒に倒してきて欲しい」

「ほう、なかなかおもしろそうな依頼だな」

「ま、待ってくれギルドマスター! 漆黒の暴君って本気か!?」


 ニヤリと期待するトーヤだが、一方でキャミーの反応には緊迫感があった。


「漆黒の暴君と言えばかなり高ランクの依頼……それを私とこの男でやれというのか?」

「そうだ。トーヤはうちのシルバーランク冒険者を纏めて倒すほどの手練だ。それにキャミーは更に上のゴールドランクだろ?」

「え? 私はロイヤルシルバーだが……」

「あぁ、俺の基準ではゴールドランクだ。この件が上手く片付いたら上げてやるよ。悪くないだろう?」

「わ、私がゴールドランクに?」


 キャミーの顔つきが変わる。そしてう~ん、と唸った。


「ゴールドランクになると何か違うのか?」

「冒険者のランクはルーキーから始まりそこからブロンズ、シルバー、ゴールドと順に上がっていく。ランクが上がればそれだけ受けられる依頼の種類も増えていくし冒険者としての評価も上がるのさ。ちなみにブロンズやシルバーにも細かく言えばグレートとロイヤルがある。まぁ詳しくはこれでも見てくれ」


 ほう、とカイルが差し出したランク表を見るトーヤ。マジマジと真剣な顔でそれを確認していたわけであり、その表によると――


初級冒険者帯

ルーキー

ブロンズ

グレートブロンズ

ロイヤルブロンズ


中級冒険者帯

シルバー

グレートシルバー

ロイヤルシルバー

ゴールド

グレートゴールド

ロイヤルゴールド


上級冒険者帯

プラチナ

グレートプラチナ

ロイヤルプラチナ

ダイヤ

グレートダイヤ

ロイヤルダイヤ


特級冒険者帯

マスター

グランドマスター

アルティメットマスター

レジェンド

と、かなり細かく分かれているようだった。そしてこのランクはトーヤにとって実に興味深いものであり――


「これは面白い! KBFによく似ている!」

「KBFってなんだ?」


 カイルが首をかしげる。トーヤが言っているのはKBFのランクマッチシステムのことであり、オンラインでの対戦内容に応じてポイントが手に入りランクが上がっていく。


 このランクと冒険者ギルドのランクが酷似していたのだ。


「ならば是が非でもレジェンドを狙わなければな!」

「おお、その粋だぞ新入り。ただしシルバーランクに勝てる実力はあるが経験はないからな。ルーキーとまでは言わないが先ずはブロンズランクからスタートだ」

「いや、ブロンズランクからスタートのこいつをゴールドランク必須とされる盗賊退治に向かわせるのか?」

「仕方ないのさ。お前も知ってるだろう? 奴らは狡猾で、こっちが実力者を派遣してもすぐに雲隠れしてしまう。そして勝てそうな相手とみるや集団で襲いかかってきて返り討ちにする。この手でどれだけの奴がやられたか」

 

 どうやら高ランクの冒険者を動かしても盗賊は身を隠して出てこないようだ。


「しかしトーヤはランクはブロンズだが実力はシルバー以上、もしかしたらキャミーに近いゴールドランク程度の力はあるかもしれない。二人なら漆黒の暴君を追い詰められるだろう」

「ふむ、話はわかったがキャミーはランクがゴールド同然なのだろう? 警戒されないのか?」

「まぁなんだ。こういうことを言うのは何だがキャミーはいい女だからな。狙われこそすれ逃げられることはないだろう」

「私は囮か!」


 キャミーが抗議した。確かに話だけ聞くには囮っぽくはある。


「落ち着け。俺はキャミーなら例え襲われても返り討ちに出来ると思っているのさ。とは言え、念の為、帰還の玉は渡しておく」

「帰還の玉?」

「何だ知らないのか? 帰還の玉はマジックアイテムの一つだ。登録された場所に自動的に戻ることが出来る」

「なるほど、便利な道具もあるものだな」


 トーヤがうんうんとうなずいた。


「それで受けては貰えるか?」

「勿論戦えるなら大歓迎だ。それで報酬まで貰えるのだからな」

「決まりだな。ならすぐにカードは作らせよう」

「ギルドマスター。大事なことを忘れているわよ」

「大事なこと?」

「報酬だ。こんな危険な任務、それなりの金額じゃないとやってられないぞ」

「あぁ、そうだったな。報酬は金貨100枚だ。どうだ?」

「……悪くないな」

「ふむ、それだとどれぐらいなんだ?」


 キャミーは満足しているようだが、トーヤはピンとは来なかった。金貨だから安くはないだろうなとは思ったが、まだこの世界に馴染みがないのだ。


「いや、金貨1枚あれば10日ぐらいは遊んでいても余裕で暮らせるとされてるぐらいだぞ?」

「それ以前に、貨幣の価値を知らないのか?」

「すまんな。ちょっと遠いところから来たもんで」

「田舎からってことか。ならそのへんもキャミーが先輩としてしっかり教えておいてくれ」

「そ、そこからなのか……」

「助かる」


 そしてトーヤは部屋を出てキャミーに基本的な貨幣の価値を教えてもらうことになった。


「貨幣は銅貨、銀貨、金貨、格糖貨かくとうかの4種類ある」

「俄然、格糖貨に興味が湧いたぞ」


 やはり格ゲー好きだけにそこは気になってしまうようだ。


「銅貨、銀貨、金貨は10枚で繰り上がりだが、格糖貨は金貨100枚分。そう簡単に拝めるものではないな」

「随分と高いのだな」

「魔糖という特殊な糖を材料にしているからね」


 どうやらそれがかなり高級らしい。


「マスターから話は聞いてます。どうぞトーヤ様。これがギルドカードになります」

「悪いな」


 そしてトーヤが受付でギルドカードを受け取る。そこにはトーヤと刻まれていた。

 

「トーヤ様はブロンズランクとなりますが、この度はキャミー様がご同行であること。そしてマスターからの指定依頼ということで特別に盗賊団漆黒の暴君の討伐依頼を受けていただきます」


 受付嬢がそう説明する。これでトーヤが冒険者となることは決まり、初めての依頼にとりかかることとなった。





 一方、トーヤがギルドを出た後、カイルの部屋に受付嬢が一人やってきた。


「こちら、国からということで届いております」

「国から? 一体なんだ?」


 ガイルが渡された書類に目を通す。


「ふむ、なになに、この者、王城内にて乱闘騒ぎを起こし騎士や兵士に怪我を負わせ姫に――名前はトウヤ・フドウ……」


 カイルの額から汗が一粒零れ落ちる。似顔絵も添えてあったが、その顔には見覚えがあった。


「如何いたしましょうか?」

「――どうもしないさ。ここにはトウヤとあるが、彼はトーヤだしな。別人だろう」

「それで宜しいのですか?」

「あぁ、それでいい。後はうまく処理してくれ」

「承知いたしました」


 こうしてカイルは王国からの手配書を華麗にスルーしたのだった――

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