第5話 格ゲーマーの人助け?
あぁ本当逃げ足の早い! とキャミーが愚痴のように零す。
「あんた、彼女の知り合いなのか?」
「え?」
闘野が語りかけるとキャミーがマジマジと彼を見てきた。一方で闘野も彼女を見ていた。
「むしろこっちのセリフだ。貴様こそフェリアの何なのだ?」
「何なのも何も、彼女が暴漢に襲われていたからこれ幸いとコボる、いや一応助けたつもりだ」
「……暴漢?」
「暴漢だ」
「へぇ……それってここに倒れている皆のこと?」
「そうだが?」
「そうなんだぁ~」
笑顔で対応したキャミーであったが、直後ガシャンっと闘野の腕に枷が嵌められた。
「……何だこれは?」
「手枷だ」
「どうして俺が枷を嵌められている?」
「ここで倒れているのは皆冒険者。勿論私もだ。そしてあのフェリアは最近町を騒がせている盗賊」
「は?」
「とにかくギルドに来てもらうぞ。事情はそこで聞くとしよう。暴れたりしないことだ。下手なことしても立場が悪くなるだけだぞ?」
そして闘野はそのまま冒険者ギルドに連行されることとなったわけだが――
「納得いかん! なんで俺が牢屋にいれられないといかんのだ!」
鉄格子に手を掛け闘野が叫んだ。冒険者ギルドに連れて行かれそのまま牢屋送りになったからである。
闘野としても言いたいことはあり、あの場はキャミーの指示に従い暴れることなくギルドについてきた。
しかし、それからでも自分の正当性を訴えたいところだったが問答無用で牢屋に入れられてしまい不機嫌なのである。
「何人もの冒険者を負傷させた危険人物に普通の対応なんて出来るわけないだろうが」
「だからあれはあのフェリアって女が困ってそうだったからこれ幸いとコンボのれ、いや、た、助けたんだよ!」
ついつい本音が紛れてしまう闘野だが、一応助けるつもりがあったのも事実ではあった。勿論その理由の大部分はこれで躊躇なく格ゲーの技を試せるという考えにあったのだが。
「とにかく、その辺りの話も含めて後で取り調べを行う。まぁ、あの子の仲間だとは思わないけどな」
「だったら出せよ」
「あんたが危険人物なのは変わりないでしょ。さっきだって、わ、私のこといやらしい目で見てたではないか!」
「は?」
闘野は小首をかしげた。確かに彼はキャミーのことをマジマジと見たりした。だがそれはこの子にはどんなコンボが決められるだろうか? という妄想を膨らませていただけであり、いやらしい意味ではないのである。
「くそ、話のわからんやつだ」
そう言いつつ、闘野はその場であぐらをかいた。すると腹の音がぐぅ~となる。
「おい」
「何だ?」
「カツ丼はでないのか?」
「何だそのカツ丼とは。意味が分からないぞ」
闘野の問いかけに眉を寄せるキャミーであった。この世界にカツ丼はないようである。
「取り調べと言えばカツ丼だろう。全く、仕方ないな。何か飯をくれ」
「貴様立場わかっているのか? 図々しいにも程があるんだが……」
キャミーが目を細める。しかし闘野は腹が減ってるのだ。格闘ゲーマーにとって食事は大事と闘野は考えている。これは闘野がリアルファイターに重ねているからでもあった。
実際闘野はゲーマーではあったが、格ゲーのキャラになりきるという意味で自己鍛錬も欠かすことなく続けていた。食事も重要視しトップアスリート顔負けな練習メニューをこなし食事もそれ相応の物を摂っていたのである。
「腹が減ったと言ってるだろう」
「一日ぐらい食べなくても死なんぞ」
二人の間でそんなやり取りが続いていたわけだが、その時階段を降りるコツコツとした足音が聞こえてきた。
「おう、そいつが例の奴か」
「マスター!」
キャミーが声を上げて階段を降りて地下牢にまでやってきた男性を見る。金髪で厳かな顔をした中年の男性だった。口の周りは髭で覆われている。
「あんた誰だ?」
「お前、口の聞き方に気をつけろ! 冒険者ギルドのギルドマスターであるカイル様だぞ!」
キャミーが闘野を咎めた。ただそれを言われても闘野にはあまり響かない。
「先に紹介されたがキャミーの言ったとおり、俺はここ王都のギルドマスターだ。ま、偉いかどうかはさておき、お前がうちの冒険者を全員のしたってのは本当か?」
「ふっ、俺はただ降りかかる火の粉を払っただけだ」
「何、格好つけてるのか」
キャミーが目を細める。
「ところであんた偉いんだろう? 腹が減ったんだが何か飯を用意してくれないか?」
「お、お前! 失礼にも程があるぞ!」
「ガッハッハ! お前中々面白い奴だな。いいだろう飯ぐらい奢ってやる。キャミー、出してやれ。枷も外していいぞ」
「は? いやいや、こいつは盗賊のフェリアを助けて冒険者に怪我を負わせたんですよ?」
「だが、こいつもフェリアが襲われていると思って善意でやったことだろう?」
「それは、でもこいつが勝手にやってることで実は仲間って可能性も」
「ははは、そんな筈がないことはお前が一番わかっているだろう?」
「む、むぅ……」
カイルが笑い上げ、キャミーの肩をポンっと叩く。
「何でもいいが、飯を食わせてくれるなら早くして欲しい所だ」
「お前なぁ!」
「はっは、わかったわかった。ほらキャミー」
「もう……」
こうして闘野は牢屋から出され手枷も外された。そのまま冒険者ギルドに隣接された酒場に案内され飯をご馳走になる。
「おお、これは中々旨いな」
「お前は少しは遠慮しろ!」
テーブルの上に並べられた食事に次々と手を付けていく闘野である。その食べっぷりはいっそ清々しいぐらいだ。
「はっはっは! いいじゃねぇか。その遠慮のなさますます気に入ったぜ。ましてやうちの連中をたった一人で倒したってんだからな。あれでもあの連中は全員シルバーランクの冒険者だったんだがな」
「本当に冒険者だったのか? てっきり世紀末辺りのヒャッハーな連中かと思ったんだが」
「何だそのヒャッハーてのは?」
「簡単に言えばゴロツキってことだ」
「お前、失礼が過ぎるぞ……」
「アッハッハ! なるほど。ゴロツキか。ちがいねぇ。大体冒険者なんてみようによってはただのゴロツキ集団だしな」
「ちょ、マスターがそんなことを言っては――」
キャミーが眉を顰める。しかしカイルは豪快に笑ってみせた。
「さて、飯を食いながらでいいから聞いてもらっていいか?」
「もぐ、何だ?」
テーブルに並ぶ食事をかっこみながら闘野が反応する。一応話を聞くつもりはあるようだ。
「お前、冒険者をやるつもりはないか?」
「うぁに?」
リスのように頬が膨れた闘野が聞き返す。
「マスター! 本気ですか! こんな素性もわからないような奴!」
「落ち着けってキャミー。大体冒険者ってのはまさにそういう連中でも所属できるのが強みだろう?」
「そ、それはそうですが……」
「ふむ、誰でもその冒険者には、ガツガツ、なれるものなのか、もぐ」
「お前は食べるか聞くかどっちかにしろ」
キャミーが呆れた目を向ける。しかし闘野は構うことなく食事を摂り続けた。
「俺がそのままでいいと言ったから問題ないさ。しかしよほど腹が減ってたんだな。でだ、冒険者についてはそのとおりだ。まぁ犯罪者になると流石に厳しいがそうでなければ過去なんて気にはしないし詮索もしない。それが冒険者だ」
「ふむ……だが、どうして俺を?」
「さっきも言っただろう? その腕っぷしだよ。冒険者で重要なのは何と言っても強さだ。うちのシルバーランク冒険者たちを一人で倒したお前なら素質十分だ」
「しかしマスター。いくらなんでもやられた奴らが納得しないだろう」
「おう! お前牢屋から出たのか!」
「強いなお前。驚いたぜ」
「やるなおい。はは、逆に清々しいぐらいだ」
「お?」
しかし、キャミーの心配とは裏腹に闘野にやられた冒険者たちは自ら彼の側に近づいてきて、闘野を褒め称えた。
「ハッハッハ、キャミーもまだまだだな。冒険者ってのは強いやつはすぐに認めるもんだ。馬鹿も多いがそういう意味ではわかりやすい連中でもあるんだよ」
「むぅ……」
キャミーはそれでも不満そうであったが、改めてカイルが闘野に問う。
「それでどうだ? やるか冒険者?」
「ふむ、それを断ったらどうなるんだ?」
「ここのメシ代を取るのと、牢屋に逆戻りだ」
「清々しいぐらいの交換条件だな」
パンに手を付けながら闘野が目を細める。
「ふむ、しかし、冒険者か。それは稼げるか?」
闘野が問う。冒険者というものを知らないわけではない。ゲームでも見かけた職業だ。ただ、現実の物としてやるのなら金になるかは重要なところだ。闘野はこの世界で暮らしていく必要がある。
「おう! さっきも言っただろう? 冒険者は腕っぷしが物を言う仕事だ。逆に言えば腕さえあればいくらでも稼げる」
「なるほど。ならもう一つ質問だ。冒険者になればコボる相手は見つかるか?」
「コボルトのことか? 確かにコボルト退治ならあるはあるけどな」
「おお、やはり冒険者には相手を退治するような仕事もあるんだな。それなら幾らでもコボれそうだ!」
「よくはわからんが、勿論モンスター退治も冒険者の大事な仕事の一つだからな」
微妙に話は噛み合っていないが偶然にも互いの求める物は一致していた。
「ふむ、なら冒険者をやってもいいぞ」
「何でお前はそんなに偉そうなんだ?」
聞いていたキャミーが眉根を寄せた。
「はっはっは、そうかそれなら良かった。実は早速一つ頼みたい仕事があってな。それで、えーとところで名前は何だったか?」
「闘野だ」
「なるほどトーヤか」
「いや、とうや、だが」
「ん? いやいや、だからトーヤだろう?」
「う~ん、まぁいっか。それで」
「おう、トーヤ宜しくな!」
結局闘野はそれでもいいかなと思うことにした。これがきっかけで今後トーヤとしてこの世界で生きていくことになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます