第4話 格ゲーマーの異世界での過ごし方
「でも、異世界で何をすればいいんだ?」
城を出た闘野だったが早速訪れた問題はこれからどうすればいいかということだ。
あのまま城で迎え入れられたなら帝国やら何やらの問題解決に動かされたのだろうが、正直そんなしちめんどくさそうなものに敢えて手を出そうと思わない。
「う~ん、やはりあれかな? ここは俺より強いやつに挑みに行く! かな」
これは闘野がやっていたストリートファイターズ伝説で主人公が掲げていた言葉である。まさに格ゲー主人公として王道なセリフであろう。
そして彼の父親が旅立った時のセリフでもある。普通ならふざけるなと言いたくなるだろうが、闘野はかっこいいと思ってしまった程である。
「まぁどっちかというとコンボが決めやすそうな奴に会いに行くってとこかもしれないけど」
歩きながら前言を修正する闘野。そう日本にいたころは格ゲー三昧の格ゲーづくしだった闘野にとって大事なのはそこなのである。
まして今の闘野は格ゲーの技が再現可能なスキルも手にしている。
そう思った途端、彼の目つきが変わった。城を出て城下町までやってきたが、当然人の姿も多くなる。城に近い街だけあって活気も溢れていた。
故に思う、コボりがいがあるな、と。
「くそ、なんてこった。こんな、こんな盛大なプラクティスモードを見て何も出来ないとは」
プラクティスモードとは格ゲーにおける練習用のモードのことだ。相手の動きなどを設定して技や連続技いわゆるコンボの練習が出来る。
つまり今の闘野には周りの人々が技の練習台にしか見えてないということである。端的に言って危ない奴である。
しかしそれも致し方のないことと言えるか。多かれ少なかれ格ゲーにハマる人間にはよくある思考であると言えなくもない――ハズもない。やはり危ない男である。
「……うん? 何か適当にぶらついていたら随分と奥まったところに来てしまったようだな」
目につく人々相手にコボる妄想をし歩いていた闘野だが、確かに気づけば人気の少ない、いかにも事件の起こりそうな場所に出てしまった。
さて、どうしたものかと悩む闘野であったが。
「嫌だ、痛い! ちょっと放してにゃ!」
「うるさいこっちへ来い!」
ふと、若い女の声と続いて乱暴な男の声が闘野の耳に届いた。こんな人気のないところで聞こえる悲鳴。事件の匂いしか感じないが、それを聞いた闘野は、うむ、と頷き。
「もしかしたら堂々とコボれるチャンスかも知れない!」
そう口にしワクワクしながら悲鳴の聞こえた場所に向かった。
そこでは一人の少女が数人の屈強な男に取り囲まれていた。おあつらえ向きと言えるだろう。
「うん? 猫耳?」
闘野は少女の耳に注目した。そう少女の頭には猫耳が生えていたのである。
「そこの猫耳少女、もしかしてお困りかな?」
とりあえず闘野は問いかけるところから始めてみた。すると猫耳少女が気が付き助けを求めてくる。
「そうなんですにゃ! 今凄く困ってるんですにゃ! お願い助けてにゃ!」
「あん? なんだテメェは!」
「関係ないやつはすっこんでろ! 殺すぞ!」
猫耳少女が懇願するように闘野に助けを求める。一方どうみても世紀末あたりに転がってそうなヒャッハーにしか見えない集団は恫喝めいた言葉を返してきた。
「ふふ、なるほどよくわかった。ぐふふ、つまりお前らは好きにコボっていいってことだなぐふふ」
「な、なんだこいつ! よだれ垂らして近づいてくるぞ!」
「見るからに危ないやつだ!」
「失敬だなお前たちは」
ヒャッハーな連中が若干引き気味で口にした。そのセリフにお前らには言われたくないと思ったりする闘野だが。
「それでどいつからぶっとばされたいんだ?」
「ふざけやがって!」
「さてはお前も仲間だな!」
「全員でやっちまえ!」
そしてヒャッハーなゴロツキたちが一斉に闘野に襲いかかってきた。人数は全部で五人。
「なるほど。つまりこれもワールドモードということだな」
騎士を相手したときと同じことを考える闘野である。
もっともこれは現実でありゲームではないのだが。
屈強な男の一人が拳で殴りかかってきた。腰に剣を所持しているのに使わないとは舐められたものだなと思いつつ軸ずらしで避けつつ目についた相手に攻撃を仕掛ける。
「小パンチ、小キック!」
「グボォ!」
相手の顔面にパンチがヒットし続けて小足が脛に当たったことで男が呻き声を上げた。
だが当然ではこれでは終わらない。
「更に中パンチからの地獄天国!」
攻撃がヒットした直後相手に組み付き闘野が転がった。KBFではパンチ限定ではあるが通常攻撃から投げ技が繋がるのである。
「締めの破天だオラァ!」
「ダバァアアァアア!」
地面をゴロゴロと転がり最後に天井に投げてからの破天によってチンピラが悲鳴を上げる。
地獄天国は決めた後に必殺技が安定して繋がるのが強みだ。だが何より真価を発揮するのはワールドモードでの運用だ。
地獄天国は転がってる時に巻き込まれた相手もダメージを受ける。この際にカウンターであれば巻き込まれた相手も浮くのだ。しかも闘野が出したのは小地獄天国。移動距離が短い分立ち直りも早くすみ、上手く行けば破天を決めた後でもバウンドした敵を拾える。
「よっしゃ! 大量大量!」
一斉にかかってきた為、今の攻撃で全員が浮いた。しかもカウンター扱いなので落下した後もよく弾む。闘野にとっては願ったり叶ったりな状況であった。
「いくぞ! シュートコンボ!」
「グボッ!」
「更に破天! 破天降! 破光拳!」
「「「「「ダバラァアァアアアァア!」」」」」
こうして闘野は次々と技を繰り出していきコンボを繋げ、気がつくと五人全員が地面に倒れ痙攣していた。完全にKOされている。
「う~ん思ったよりコンボ数稼げなかったな」
倒れた五人の様子を見ながら不満そうに闘野が零した。全部で50コンボほどにはなったのだが闘野は満足出来なかったようである。
「あの、ありがとうにゃ」
助けてあげた猫耳少女が近づいてきてお礼を言ってくれた。闘野は改めて少女を見る。端的に言って可愛らしい美少女だ。癖のある赤毛でパッチリとした瞳もルビーのように紅い。
「お礼してくれるならコボってみてもいいかな?」
「え? よくわからないけど、遠慮して欲しいにゃ」
しかし闘野にとって大事なのは相手が美少女かどうかよりコボれるかどうかだった。即答で断られたが。
「残念だな。猫耳だとどれぐらいの技が連続で決まるか興味があったんだが」
「な、なんか危ないやつにゃ……」
「何か言ったか?」
「なんでもないにゃ!」
興味深そうに猫耳少女を見る闘野に怪訝そうな顔を見せる少女だ。闘野が問い返すと慌てて取り繕っている。
「見つけたわよフェリア!」
「うにゃ! キャミー!」
するとまたも若い女性の声が聞こえてきて闘野が振り返る。金髪で鎧姿の女性が険しい顔で駆け寄ってきた。
「そ、そろそろいくにゃ! 本当にありがとうにゃ!」
そしてフェリアと呼ばれた猫耳少女は軽快な動きで屋根の上に飛び乗り疾走して去っていった。
「随分と身軽な奴だな。俺が助けなくても何とかなったんじゃないか?」
そんな感想を覚える闘野。そしてキャミーと言われた女がすぐ隣までやってきて舌打ちした――
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