第2話 格ゲーマーへのお礼はコボるってことで

「はぁ、なんてことかしら。折角苦労して召喚したのによりにもよって召喚した勇者が外れだなんて! かつて召喚を開発した魔法使いは召喚なんてガチャみたいなものだって言葉を遺したようだけど、まさにこれはガチャで外れたようなものですわ!」

「こっちにもガチャってあったんだ」

「スキルもガチャで決まってるという話もあるぐらいなので」

 

 遠巻きに見ていた女神官らしき人が教えてくれた。


「よくわからないが、ハズレと思われたなら俺は戻されるのか?」

「何馬鹿言ってるのよ。召喚魔法は召喚しか出来ないから戻すなんて無理に決まってるでしょう」

「そうなのか……」

 

 どうやらもう帰ることは出来ないようだ。サラリととんでもないことを言われたが、闘野はそれよりステータスをカスタマイズ出来ることに興味がいっていた。


「姫様、そのことはあまり……」

「あ、あぁそうだったわね。ついうっかり」


 すると体格が良く重厚な鎧に身を包まれた騎士がアルマナに近づき耳打ちした。


「でも相手はハズレ勇者でしょ? 気をつかわなくてもいいじゃない」

「ですが、後でゴネられても面倒です。ここは適当な報酬でも支払って出ていって貰った方が」

「う~ん、ま、しょうがないわね」

 

 アルマナは闘野に向き直り、姿勢を正した後ニコリと微笑んだ。今更取り繕っても遅い気もしないでもないが。


「失礼しました。貴方はとんだハズレ勇者でしたが、こちらとしても召喚した責任が多少はあります」

「多少なのか?」


 そこまで気にしていたわけじゃないが、しかし冷静に考えれば結構なことをされている。拉致誘拐みたいなものだ。それを多少で済ますのもどうかとは思う。


「とにかく、何か欲しい物があったらどうぞおっしゃってください。それを受け取ったらとっとと城から出ていって好きに生きるといいでしょう」

「姫様もうすこしオブラートにつづんだ方が――」

 

 騎士がそう伝えるがアルマナはとても面倒そうな顔を見せた。


「なんでもいいのか?」

「私は嘘はつかないわ」


 ふふんっと胸を張るアルマナ。ポヨンっと大きなおっぱいが上下した。


「……ふむ、そういえば姫はいい体してるな」

「は?」


 闘野がそう口にすると、アルマナの顔色が変わり身動ぎする。


「ま、まさか貴方私が欲しいとかいうつもり! は、ハズレの割に顔は悪くないと思うけど流石にそれは……」

「そうであるぞ! 確かに姫様はエロい体つきをしているが何でもいいと言ったとはいえ、このおっぱいをどうにかしようなどと!」

「いや、ハウザーそんな目で私を見てたの?」


 アルマナがジト目を向けるとコホンっとハウザーが咳払いした。


「団長もやっぱり男だな」

「寧ろ団長はそんな雰囲気あるだろう」

「女好きっぽいもんな、やべっ――」


 ひそひそ話をする兵たちをギロリと睨むハウザー。兵たちがビシッと直立したのを確認し。


「とにかく姫様の体をどうこうしようなどとは許せんぞ」

「よくわからんが、俺はちょっとコボらしてくれないかなと思っただけだぞ」

「コボる?」


 闘野の言葉にアルマナが小首をかしげた。


「そのコボルとは一体?」

「コボルトの仲間か何か?」


 アルマナも騎士のハウザーも闘野の言っている意味が理解できないようだった。


「ま、まさかエッチな意味じゃないでしょうね?」

「うん? そんなことはないぞ。体は使うがな」


 体を使うという部分が気になるアルマナでもあるが、エッチなことではないと闘野は言っている。

 

「は、そういうことね」


 だが、ここでアルマナはヒンッとなにかに気がついたように呟く。


 姫は思った。きっとコボというのは包容のことではないかと。そう考えるとちょっとそれっぽい気がしてきた。


 勿論それはそれで本来簡単に許せることではないが、とは言えそれで今後面倒なことが一つ無くなると考えれば安いものだと、そうアルマナは考えた。


「なるほど、わかりました。いいでしょう。そのコボるというのをお受けします」

「何? いいのか!」

「はい、好きなだけどうぞ」


 そう言ってアルマナは両手を広げ闘野に近づいていく。


「姫様。本当に大丈夫ですかな?」

「ふふ、大丈夫よ。私には全てわかっていますから」

「なら、コボらせてもらうぞ」

「はい。どうぞお好きなように」


 すると闘野がアルマナに近づいてきた。それを受け入れる体制を見せるアルマナ。これは彼女にとっても悪いことではなかった。ここでしっかり闘野を受け止め包容して見せることでアルマナの寛容さを知らしめることが出来、自然と自分の株も上がると、そう考えたのだが。


「ではいくぞ小パンチ!」

「グボォ!」


 しかしアルマナにとって思いがけないことが起きた。闘野は包容などではなくその顔面を殴りつけたのである。


 これには見ていたハウザーも兵士も目を丸くさせ固まってしまう。


「屈小キック!」

「ギャッ!」


 しかし構わず闘野はその流れで次の技につなげた。姫様が悲鳴を上げる。


「立ち中パンチ!」


 更に技が続いた。闘野がいちいち叫ぶが周りから見れば姫様の腹に拳がめり込んでいるようにしか見えない。ただ闇雲にボコってるようにも思えるが、これはKBFではラッシュと呼ばれるシステムであり小から中、中から大へとより大きな順に通常技が繋がっていくのである。


 なおこの際、ラッシュでなくても目押しが成功すればパンチとキックを交互に繋げることで小から小のようにも繋がる。


そしてこれは格ゲー風ステータスのスキルとしても認識されていた。闘野は真っ先にスキルとしてラッシュスリーを取っていた。これでラッシュは三つまで可能となったのだ。


「屈中キック!」


 アルマナの脛に蹴りがヒット。ラッシュは三発までなのだが一部の技が目押しでラッシュの前後に繋がる。


 こうして連続攻撃を受けたアルマナの身は少しづつ後ろに下がっていった。ノックバックが発生している証拠である。やはりな、と闘野はその目を光らせ。


「シュートコンボ!」


 闘野が離れた姫を追いかけるような飛び蹴りを放った。これはカスタマイズして得た闘野の必殺技である。これを屈中キックをキャンセルして発動した。

 

 そう、ここまで闘野の計算通りだった。ステータスもそうだったがこの世界のキャラの反応はKBFによく似ていた。


 KBFではキャラによって特性が異なり女性キャラは軽い分地上の攻撃でノックバックが大きいというのがあった。そのため地上の連続技には制限がある。但しその分仰け反りも大きいため目押しの追加攻撃などは当てやすいという点もある。

 とは言えこれ以上離れては通常攻撃は届かない為キャンセルして必殺技に持っていく。


 このキャンセルもスキルとしてあったものだ。闘野にとって必須であり当然取得済みだ。


 キャンセルして使用したのは小、中、大で攻撃回数の変わる飛び蹴りだ。それを大で出したことで蹴りは三回放たれ三発目の蹴りでアルマナが宙高く浮き上がった。


 それこそが闘野の狙いだった。女性キャラは体重が軽いため浮きが大きい。その分空中コンボがよく決まる。


「ハッ! ハッ! ハッ!」


 一緒にジャンプしアルマナに空中での小パンチ、、中パンチと繋げ大パンチを出したところで止める。最後のパンチはアッパー系の打ち上げ攻撃な為、軽い姫は少し浮上する。


 こうすることで一足先に闘野が地上に着地した。そして――


「破天!」


 落下してくるアルマナに向けて必殺技を放つ。これは上昇しながら拳を打ち上げる技だ。発動時に一瞬無敵時間があるのが特徴でもある。小中大で威力と飛ぶ高さが変わる。一般的には対空技として優秀とされる必殺技だ。

 

「グボォ!」

 

 姫の身がくの字に折れ曲がった。空中で二人が重なると↑のような形に見える。だがこのままではまだ終わらない。破天を受け落下し始めたアルマナだったが。


「破天降!」


 さらなる追撃! この技は本来空中で使う必殺技で使用すると腕を正面でクロスさせ上空から敵を強襲する。そしてこの技は破天からでも繋げることが出来る。


「アボガドゥ!」


 闘野の破天降を受け奇妙な声を上げて更に吹っ飛ぶアルマナ。その目は既に白目を剥いていた。


「破光拳!」


 だがしかし、まだトドメの一撃が残っていた。そうこのコンボの締めはこれでなければいけない。破光拳は気の塊を相手に向けて放つ飛び道具系の必殺技だ。しかし軽い女性キャラ限定ではあるが、破天降を空中で当てて吹っ飛んだ後にこの技もヒットするのである。


「ひ、姫様ぁあああ!」

 

 ハウザーが叫んだ。姫であるアルマナは闘野の放った破光拳を受けて更に大きく吹っ飛ぶが、なんとその衝撃で、ドレスが破けてしまったのだ!

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