13話「魔将ボルゲル」だべ

ビーバーの話では、

「この湖は川を増水させただけの人造のビーバー湖なので、もともと島など無いずら」らしい。


そういえば獣王国のヤールおじ様は湖が2つあると言っていたが、その一つはこのビーバー湖の事か?


ビーバーたちが山を指して言う。

「もう一つの湖ならあの山の上ずら」


遥か彼方に、てっぺんが平たい巨大な山が見える。

あの山の上のカルデラに巨大な火山湖があるらしい。


「なあに『社長』はオラたちが乗っけてってやるずら」

ヒグマ並みにデカいビーバーたちがボボん!と腹を…いや胸を張った。


ん〜コイツらは巨大タヌキにしか見えないがビーバーだ。


しかし、コイツらすっかり俺の家来というか社員になってしまったな。

有限会社ドワーフ土木の作業員か。

というかそこは社長じゃなくて姫様だろう。美少女だぞ。


さて社長の俺は長男ビーバーのドンの上にまたがり、弟のチャーとクウはそれぞれシャルやボルゲルを乗せた丸木舟探検隊を引っ張った。

まさかファンタジー世界に転生してビーバーで乗馬するとは思わなかったな。


いざ沖へ漕(こぎ)出してみると、おお早い早い!これは快適だ。

わずか一、二時間ほどで湖を走破し、さらに支流河川の上流へとグングン遡(さかのぼ)る。


その頃、湖の岸辺では黒エルフのイーグが俺たちの行方を監視していた。

「はい母上、我もそちらへ向かいます」

どうやら青髪の魔女と通信しているらしい。


黒エルフのイーグは金色の剣を抜いて空へ向けて突き上げると、たちまち突風が吹いて黒エルフの体がフワリと浮かんだ。

イーグは、そのままものすごいスピードで湖の彼方へと飛び去っていった。


さて俺たちはビーバー湖の上流からそのままビーバーに乗ったまま上陸する。

こりゃ楽チンだ。

ドワーフは手足は短くて頭がでかいので山道が苦手だが、今回の登山はビーバーのおかげで楽々である。


あ〜それともう1人。古本の山を抱えたアホがビーバーに乗っていたな。

というかボルゲルのヤツは古本の荷物までビーバーに担いでもらっている。しょうがねぇな。


ビーバーは陸上での動きは遅いが、この連中はヒグマ並みの大きさなので、俺が歩くよりはだいぶ早い。

ボルゲルの話では古代生物にカストロイデスというヒグマ並みの巨大ビーバーがいたそうな。

海狸と言うくらいだから、カストロイデスも狸(タヌキ)の仲間だったのだろうな。

(※ビーバーはネズミの仲間です)


森林地帯を抜け、高原っぽい所に出た。山の半分くらいまで来ただろうか。だんだん岩場が多くなり、登りもキツくなってきた。

目の前が絶壁になり高くそびえている。

あの上が神馬人の棲(す)む聖地らしい。


ここから先は自力で登るしか無いか。

今夜はこの岩場でビバークして翌朝に山頂アタックだ。


『ビーバーとビバークというのが、じつにオヤジギャグだのう』


青髪魔女がテレパシーツッコミを入れて来るが、サラッと無視する。

そんな事を気にしてはこの過酷な異世界ファンタジーの世界では生きていけないからな。


問題はボルゲルのアホをどうやって山上へ引き上げるか?だが、

ビーバー達が枝木を加工し、ゴブリンさんが蔓(つる)の繊維で組み立てて「背負子(しょいこ)」を作ってくれた。


「背負子(しょいこ)」とは荷台型のフレームに荷物をくくりつけて、それを背負って運搬するための道具だ。

二宮金次郎が薪を担いでるアレだな。

木材を二つ並べてリュック型に結び合わせて、人が座れるようにL型の台座も作った。


これを俺が背負い、その上にボルゲルのアホを担いで登る予定だ。

なあに、マイクラ棒の重力操作があれば簡単だ。


さて夜メシも食った事だし、明日に備えて寝よう。

シャルは近くに滝を見つけてシャワーを浴びている。

シャルさんは水浴びが好きだなぁ。

俺は見てるのが好きだけど。


「何を見ているのですか?」

いきなりボルゲルが声をかけて来た。

うわっ!このどアホう!

滝の方から水の竜巻が飛んできた。


空が明るんできた。

さて夜が開けたら山頂アタックだ。

朝陽が昇る。風も雲も無い。絶好のアタック日和(ひより)だ。


俺はマイクラ棒の重力操作で垂直の岩壁をスルスル登る。

背負子にボルゲルを乗せてな!

ボルゲルのアホは高いだの怖いだのと騒ぐが強引に縛り付けた。

まぁドワーフだからボルゲルの五人や十人担(かつ)いでもどうって事は無い。


途中で斧で岩を削りながら命綱(いのちづな)代わりの蔓(つる)を縛り付けて、また登る。

全員で一斉に登ると、もし一人が落下した場合、巻き添えになり命綱(いのちづな)に引きずられて友引落下で全滅してしまうのだと新田次郎の小説で読んだ。


建設用語的に言うとフルハーネスの親綱二人掛け禁止みたいなアレだな。

まぁ建設現場は冒険の世界だからな!異世界転生しても楽勝だ。


さて、ここはじっくり一組づつ登るしか無い。

空は晴れて雲も無い。

青空の下にはエルフたちの森が広がり、はるか彼方に山嶺(さんれい)が見える。

「ドワーフ山はどっちかな」

親父や母ちゃん。鉱山(ヤマ)の呑んべえのオッさん達。よく遊んだ近所の悪ガキ。片足のワッフ。それにアホのボルゲルたちとの懐かしい穴ぐら生活を思い出した。


ふと下を見ると…あ、見るんじゃ無かった。

タマが縮んだ気がした。いや俺は美少女だけどな。


だいぶ時間はかかったが、山頂に到着した。

「これか!神馬人(しんばじん)の湖は」

山頂の緑の草原に囲まれたカルデラの中に意外とデカい湖があった。その中にまたテーブル型の小島が浮いてる。

イメージ的には榛名湖みたいなもんか。

榛名山の山頂のカルデラに榛名湖が有って、その湖の上にさらに榛名富士がポコンと立ってる感じだな。


すでにアタックのルートと足場が構築されているので、シャルは蔓(つる)と足場を使って自力でスルスル登ってくる。

次に古書の山を担いだゴブリンさんが直接ロッククライミングで登って来るのが見える。

スゲぇ!

二人ともスイスイ登ってくる。


「ヒィイ〜怖かったですぅ」到着したボルゲルが情け無い声を出す。

いやお前、俺の背中に乗ってただけやろ。


「シャルたちが来たら湖に行ってひとっ風呂浴びようぜ」

(もちろんシャルさんと一緒にな!)


「そうはさせぬ」

どこからか男の声が聞こえた。


え?誰?俺のやましい心を見透かしたのは。

周囲を見まわしたが誰も居ない。


「上ですよ」ボルゲルが上を見上げる。


「え?上?」

あわてて空中を見上げれば数十メートル上の空中に黒エルフが立っていた。

いや、ありえねーだろ!!…と毎回思うが。


黒エルフは黄金の剣を振りかざすとボルゲルめがけて急降下して来た。


「ボルゲル!逃げろ!…あれ?」


黒エルフが剣を突き立てたが、もうそこにボルゲルは居なかった。


「やれやれ、相変わらず不躾(ぶしつけ)な男ですねイーグ。次回ソラお姉様にお会いしたら言いつけてやりますよ」

背後からのボルゲルの声がした。


振り向くと真後ろにボルゲルが立っていた。

ボルゲルはこちらを見ずにいきなり俺を火口の方にポンと蹴飛ばした。

俺は火口の斜面を転がり落ちながら鳶口(とびくち)を地面に掛けて止めた。


「ボルゲル!なんでだ!」


ボルゲルはこちらを見てニヤリと笑みを浮かべ、再び黒エルフの方へ向き直った。


「さて邪魔者は片付けたので始めましょうか、イーグ」


「魔法書も無いお前に勝ち目は無いぞ」

黒エルフは油断無く剣を構えて答える。


「いえ、一冊ありますよ」

ボルゲルは懐から手帳サイズの本を取り出した。

黒エルフの表情が一瞬険しくなった。


「神獣開門!」

ボルゲルがパラパラと魔法陣の手帳をめくると爆炎に全身が包まれ、

煙の中から巨大な白い虎が現れた。


「さて1000年前の…いや、先日の続きと行きましょうか、真空のエレメンタラー・イーグ」

白虎は猛獣の目で黒エルフを睨(にら)んだ。


白くて巨大な虎

いきなりボルゲルがデッカい白虎に変身した。

何言ってるか分からねぇだろ?俺も分からねぇよ!


巨大な白虎は炎をまといながら黒エルフを爪で裂(さき)に行くが、黒エルフはダンスの様にクルリヒラリと白虎の爪を避けかわす。

まるで白猫が黒い蝶にジャレついてるかの様だ。


「牡丹の下の睡猫児ですか、あなた変わりませんねイーグ」


たまに変な古文を引用するのもボルゲルのままだ。


白虎は一声(ひとこえ)吼(ほえ)ると口から爆炎を吹き出した。

黒エルフは左手をかざすと周囲の空間が歪み、陽炎(カゲロウ)の様なバリアが火炎を受け止めた。


あ!あれは俺の空間湾曲バリアと同じ技か?


頭の中に青髪魔女の魔法解説が来た。

『違う、あれは空気の圧力差を利用した防壁(ぼうへき)だ』


「空気で?」


『そうじゃ、空気の操作だけでもこれだけの事ができる。上級者の魔法をよく見ておけ』


上級者の魔法…そうか、やはり職人技は見て盗むのが土建屋の基本だからな。


黒エルフの見えない盾はボルゲルの炎を防ぎ止めながら、炎をボール状に包み込んでしまった。

ボルゲルが炎を吐くほど炎の球は強く光を増していく。


あれは俺のディバイディングと似ているが、プラズマ火球の形成が驚くほど早い。

おそらく黒エルフはボルゲルの火炎に自分の魔力をドンドン加算して、さらに強力なプラズマ火球を造り上げているのだろう。

これが魔法の練度の差か。


ボルゲルはフッと息を継いだ。

「真空断熱プラズマ火球ですか。困りましたね。炎も効かない、稲妻も効かない。酸欠も効かない。爪も牙も効かない。さらにこちらの魔法力を倍にして返して来る。あなたは本当に厄介だ」


黒エルフは光の球を盾代わりにボルゲルに向かって走り込んで行く…消えた!

いや、たちまち四人、五人と黒エルフの分身が現れて行く。


「むう!」白虎は爆炎を巻き上げながら空中に飛び上がった。まるで炎の黒雲に乗った白虎って感じだ。


五人の黒エルフが剣を頭上に突き上げると風が集まり、竜巻となって黒エルフを持ち上げて空に舞い上がった。

たちまち空中戦になる。

白と黒が赤い炎と光が青空にきらめき合い、飛び散った。


うゲっ!こいつら空中戦もできるのかよ!


『お前にも同じ魔法が使えるのじゃぞ』

頭の中にまた魔女の声が聞こえてきた。


俺にも同じ魔法が使える…


いや…なんとなく方法は理解した。

俺が空間湾曲を使う様に、あの黒エルフは空気の密度を極限まで変えられるんだ。

だからプラズマ化した炎や稲妻も封じ込められるし、突風も自由に操れるし、真空吸引もできる。

さっき空中に浮かんでいたのも、瞬間移動したのも同じ原理だ。


それは俺のマイクラ棒でも同じ術ができるはずだ。

だが俺にはできない。

魔力は魔王の杖の方が、黒エルフより遥かに強大なハズなのに、技量、精度、スピードのレベルが俺とは桁(けた)が違うのだ。

おそらく魔女が言う、地道な基礎鍛錬の差だ。


「あの魔法が俺にも使えれば…」

敵である黒エルフに対して尊敬の様な感情が出て来た。

クソっ!ボルゲルのどアホう。さっさと負けちまえ!


白虎のボルゲルを取り囲んでいた五人の黒エルフたちがクルリと旋回しながら左手のプラズマ火球を一斉に投げつけた。

火球が白虎に直撃し膨大(ぼうだい)な炎が空中に解放され、空一面が炎で燃えた。

すさまじい爆炎だ。


白虎は上空から黒煙を上げて落下し、目の前の草原に落ちる。

煙の中に白虎がうずくまっている。


うわっ!ホントに負けるヤツがあるか!どアホう。

思わず走り出したが、俺の目の前に金色の剣を持った黒エルフが立ちはだかった。


「終わりだ魔将ボルゲル」


白虎は首をもたげた

「いえ、彼女も道連れですよ」


何っ?

振り返るとシャルたちが崖を登ってこちらを見ていた。

え?まさか!


白虎は爪を振り上げ、振り下ろすとシャルに向かって稲妻を発射した

「待てぇ!ボルゲル!」


「ドン!」という雷鳴と共に、黒エルフが倒れた。

黒エルフはシャルの盾になってボルゲルの稲妻を背中で受け止めたのだ。

倒れかかり崩れ落ちる黒エルフをシャルは抱き止めた。

二人は見つめ合い、シャルは強く抱き締めた。


「私の勝ちですね。真空のエレメンタラー・イーグ」

白虎は静かにつぶやいて起き上がった。


「待てぃ!」


白虎は少し意外そうにこちらを振り向いた。


「シャルを狙ったのか!ボルゲル!」

俺はガチガチに頭に来ていた!


「もちろんですよ勇者ベロン。彼女はイーグの最も愛する存在ですので」


「テメぇこのヤロ!ブン殴らせろ!」

…と、飛びかかろうとしたが、その前に白虎はペチンと俺を斜面に転がした。

ゴロゴロと斜面を転がり落ちながら、また鳶口(とびくち)を斜面に引っ掛けて止める。


「無駄なことは止めなさいベロン。私は神聖魔王国 魔法司書室長ボルゲル。魔将四天王の一人ですよ。刃向かえば…死にます」

白虎は睨(にら)み付けて来た。


「上等だべ、ドワーフなめんじゃねぇぞコラ!」

俺は斧と鳶口(とびくち)を両手で構えた。


「やれやれ、ドワーフは頭が悪過ぎですね」


「波導ガン!」

いきなり必殺技だ。

光の竜巻が飛び走り轟音(ごうおん)と共に火口の尾根(おね)を吹き飛ばした。

完全にナメきっていたボルゲルは慌(あわ)てて飛び退いた。

「ダブルトマホウク!ブーメラン!」

「冷線砲!」

ボルゲルは右へ左へと跳び回り避(さけ)た


「このていどですか?」


「何だと?」


いきなりボルゲルはこちらに向かって真っ直ぐ突進してきた

「あ!ヤベ」

冷線砲を向けたが、前足でペチン!と叩き飛ばされ、またゴロゴロと斜面を転がり落ちた。


なんか完全に遊ばれている。

クソっ!俺と黒エルフではこんなに実力差が有るのかよ!


「おとなしく死んだフリをしてなさい。見逃してあげます」

ボルゲルは静かに言う。


「バッカ野郎!一発ブン殴るまでだべ!」

俺は立ち上がった。


「手加減はもうしませんよ」

ボルゲルから獣の声に変わった。

本気で来るのか?


上等だ!コノ野郎!

ケンカで引いたら男が廃(すた)るってもんだ。

「変身!」

鳶口(とびくち)を振り上げた。


「ぴぴるまぴぴるま超力招来(ちょうりきしょうらい)!!」

呪文を詠唱すると鳶口(とびくち)の先から光の輪が発生し、俺の全身を引き伸ばす。

手足はスラリと長く伸び、長く飛び跳ねた赤い髪、クビレたウエスト、ピチピチの小さな服からはみだしそうな大きな乳!

さて思わず揉(も)もう!…と思った瞬間、ボルゲルのアホが変身途中で攻撃して来やがった。

「うおっと!」

俺は変身の光に包まれたままジャンプすると、ものすごいスピードで空中に跳ね上がった。

胸を揉(も)もうとした途中で邪魔されたので、ブチギレた勢いで斧を投げ付けた。

「テメぇ!許さねぇ!」

ビュン!と凄まじいスピードで斧が飛び回る。

(あれ?)

なんかトンデモないスピードだ。


ボルゲルも異変を察して飛び退いた。

斧は尾根(おね)を貫通し、また超高速で戻って来た。


「なんじゃこりゃ?」自分でびっくりした。

スピードもパワーも数倍に跳ね上がっている。


「ほう、空間制御で距離を変えたのですね。素晴らしい」

またボルゲルがインチキ解説を…いや、マジか?


頭の中で青髪魔女が魔法原理を解説する。

『変身中の「ぴぴるま空間」を外部に働かせたために、相対距離が変化したのじゃ』


何のこっちゃ?


『変身途中の光のリングに包まれた「ぴぴるま空間」では、

体内の空間が引き延ばされ、周囲の空間は圧縮されている最中なのじゃ。

その時空間を横切ったさいの移動速度は、三次元空間の物理法則を飛び越えてしまうのじゃ』


なるほどワカランが、という事は変身のさいに発生する超空間オーロラを上手く使えばスピードもパワーも無制限に早くなれるのか…

いけるやん!


「よっしゃ!ぴぴるまON!」

鳶口(とびくち)の先端が光り出し、周囲が薄青いオーロラのぴぴるま空間に包まれる。身体が異様に軽い、早い。

マイクラ棒の重力制御をONにしたまま動けば重力操作が自由自在だ。


よし、行ける!

「ダブルトマホウク!ブーメラン!」轟音と共に斧が弾き出され、超高速で飛び回る。

白虎は飛びのき避ける。だがこれはフェイントだ。


「拡散反射衛星冷線砲!」

ボルゲルの周囲に無数の重力レンズが現れる。

鳶口の先に冷気の塊(かたまり)を蓄(たくわ)えて、光の散弾を無数にバラ撒(ま)く。

さらに重力レンズで多方向に屈曲(くっきょく)させる。

ボルゲルは飛び退いて避けるが、一見バラバラに飛び回る冷線砲をダブルトマホウクで反射させた。

冷線砲は四方八方から黒雲を貫通して白虎の身体に当たった。


「ぴぴるま空間」は時間も空間も俺の身体と一体の時空間だ。今までより自由自在に空間制御魔法が使える。


「ムッ!」

白虎の全身が凍り始めた

「まさかダブルトマホウクの空間振動波が冷線の屈折率まで変化できるとは!」

ボルゲルは周囲の空間に魔法陣を立て続けに発生させ回復魔法、熱転換魔法、相転移魔法、防御魔法と連続して魔法結界を張り巡らせた。


今度はさすがにボルゲルも必死だ。

だがそんなモンで魔王の杖を防げると思うなよ!


「来い!ダブルトマホウク!」


回転して飛びながら帰って来るダブルトマホウクを鳶口(とびくち)の鎌の先で受け止めた。


そのまま大きく後ろへ振りかぶり腰を落とし、右足を退きながら、一刀両断(いっとうりょうだん)の脇構(わきがま)えに構える。

回転刈刃(かいてんかりば)が唸(うな)り風が後方からビュウと吹き上がる。

(風か…そうだ俺にもあの技が使えないか?)

黒エルフが風で真空斬りができるなら、空間操作でも「赤胴真空斬り」ができるはずだ。


「風よ!光よ!来い!」


さらに強く風を呼ぶ。

突風が集まりゴウゴウと唸(うな)りながら背後から吹き込んで来る。


「超重力!グラビトン!」


空間操作の乱気流の上に、さらに重力子を乗せて超重力の奔流(ほんりゅう)を作り出す。

静電気で稲妻のスパークが走り、俺の周りを竜巻がうねりはじめ、パンチラと共に身体がフワリと浮き上がった。

できた!俺にも風の操作ができた!


「行くぞ!」

俺は竜巻の中に飛び乗ってボルゲルに向かって高速で飛んだ。


超重力の竜巻に驚いたボルゲルはさらに前面に多重防壁の魔法結界を何層も張って迎え討とうとしている。


そんなもんで防いでもムダだぜ!


「王武刈刃(オーブかりば)真空斬り!!」

重力竜巻を回転刈り刃で切り裂くと、絶断面を稲妻が走り、竜巻が二つに分裂する。

二つの竜巻は、ぶつかり合いながら、さらに稲妻を張り巡らし、たちまちボルゲルを飲み込んだ。

二つの超重力乱気流と超電磁竜巻が上下左右にメチャクチャに入り乱れて吹き荒れる。

白虎は揉みくちゃになりながら地面に叩き付けられた。


白虎は倒れたまま動かなかった。

まぁアイツの事だ、死にはしないだろ。


魔法を解いて元のドワーフ美少女ボディに戻る。一気に疲労が出た。

そりゃ変身中にさらに変身空間を二重に作り、必殺技にさらに必殺技を組み合わせるなんて無茶な話だからな。

いや〜魔法少女って毎回こんな過酷なバトルを繰り広げていたのだろうか。


「シャルたちは無事だべか?」

鳶口(とびくち)を杖に突きながらヨタヨタとシャルたちの方に歩いて行く。

シャルは泣きそうな顔で黒エルフを抱き抱えていた。

ゴブリンさんが付き添っている。


黒エルフは背中が酷(ひど)く焼けて、まだ煙が薄く出ている。

かなり深い傷だな。

敵とはいえシャルをかばって最愛の人が死にかけている。


「クソっ!俺には何もできねぇ…」

視線を落とした。


「こんなもんたいした傷じゃないでしょうに」ボルゲルの声がした。


「え?」


いつの間にかボルゲルのヤツが横に居た。

無傷でピンピンしている。


「勇者なら回復魔法ぐらい知っておきなさい」


ボルゲルはいつもの「カンペキ医学」のページを一枚破り、黒エルフの患部に貼り付けた。

ページは魔法陣の形に光って燃えつきると、傷や服はすでに完治していた。


「半日も寝れば彼は元気になります。いつもの様に、そのまま寝かせてあげなさいシャル」


「うん、わかったぞ魔将ボルゲル」

シャルはそっと黒エルフを寝かせてマントで包んだ。


え?え?ボルゲルが悪魔軍の幹部で、最愛の人に重症を負わせたのに、シャルはそれで納得(なっとく)できちゃうワケ?


「コレはジャマなので四次元の断層ポケットに収納しておきましょうかね」

ボルゲルは古書が山積みになったリュックを片手でヒョイと持ち上げると、ポイと空中に消し去った。


四次元ポケット?


「ちなみに、この四次元のレイヤーには私のスペアボディも1500体ほど収納してありますので、どんなに重症を負っても私は死にませんよ」

空中からニュッとボルゲルの抜け殻(がら)を取り出して見せた。

1500体のボルゲルって、いったいどういう趣味やねん。


「私のスペースに収納された古今の魔法書籍は250万冊。全ての魔法理論と古今の兵法書は私の手の中です…『魔王の杖』…あなたの魔法以外はね」


俺は呆気(あっけ)に取られて聞いていた。

お前、敵なのか?味方なのか?


「じゃあ行きますか、神馬人の島へ」ボルゲルはクルリと後ろを向いて歩き出した。


「そうだ、行くぞ!子どもよ神馬人の島なのだ」シャルさんとゴブリンさんも付いて行った


三人は黒エルフを置いてさっさと湖へ歩いて行ってしまった。


「いやちょっと待ってシャルさん…」


いやいやいや、これでいいのか?


つづく!だべ





あとがき

 【ボルゲルのファンタジー用語解説】

さて今回も異世界ファンタジーの基礎知識を勉強しましょう。


⚫︎ カストロイデス(ジャイアント ビーバー )

約6,500万年前のビーバーと言われる生物ですね。

体長は約2mで、ヒグマ並みの最大の齧歯類と推測されます。


⚫︎まる木舟探検隊

山本正之の名曲ですね。


⚫︎ プラズマ火球

平成ガメラの主武器ですね。


⚫︎ 超電磁竜巻

コンバトラーVですね。


⚫︎ 四次元ポケット

未来の世界の猫形ロボットの所有する魔法器具ですね。

ちなみに私のポケットは図書館になっており、常時私のスペアが書類整理しています。


⚫︎ 牡丹の下の睡猫児

相手の攻撃に無心で対応するという影目録の初歩の極意ですね。

神聖魔女王ラ・デのおっしゃる「大魔法」の原理に通じる極意なのですが、ドワーフの知能にこれを理解させるのは難しいのです、やれやれ。


みなさんもぜひお試しください。

ではまた。

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