18話「吸血鬼サミン」だべ

さて、久しぶりのドワーフ連峰だべ。


美少女の俺は白虎ボルゲルの背中に乗り空を飛ぶ。

エルフのシャルと、イーグ師匠は神馬人のシーシとラーラに乗る。

そしてお人形ちゃんのツクモは俺の頭上に乗る。

7人か。いつの間にか人数が増えたな。


旅の始まりの頃はだいぶ難所を歩き回ったが空から帰ればあっという間だ。


「懐かしいだなぁボルゲル」

「私は別に」

白虎のボルゲルが投げやりに答える。

相変わらずつまんねぇヤツだな。


白虎のボルゲルが問いかけてきた。

「さて勇者ベロン。なぜドワーフ村に魔王の杖が安置されていたのか、考えたことがありますか?」


「そらお前ぇドワーフの勇者がだな」


「あれは爺さんの作り話です」


「なぬっ?」


「ドワーフ山脈は悪魔城に近過ぎるからですよ。まぁ…行けば分かります」

ボルゲルは引っ掛かる言い方をして話を切った。


少し冷えてきた。懐かしのドワーフ下ろしの寒風だ。

広大なドワーフ山脈が目前にそびえ立つ。

空から見る「我が家」は思ったより小さくも見えるものだな。


我々7人はドワーフ鉱山入り口に着いた。


ドワーフ鉱山の出入り口には関所がある。

鉱物や金属工芸品を出荷するターミナルってところか。

その周囲には人間たちの門前町があり、そちらは北方諸侯国によって運営されている。


「おや?兵隊が集まって居るだべ?」

あれは諸侯国連合軍では見かけなかった旗印だな。

というか小さいころ親父とよく飲みに行った門前町の賑やかな屋台村や、お姉さん達がいるお店が閉まっている。


…まさかドワーフ鉱山で何かが起きたのか!

関所に行くと兵士たちに止められる。

「ドワーフは出入り禁止だ!」

なぬっ!

ふっ…まぁいいさ、木っ端役人どもめ、これを見て驚け!

「ええい!この勇者の旗印『ド印』が目に入らぬか!」


「知らん」


あれ?

森の魔女の自筆作品なのに御利益が無いな。


人間体のボルゲルが淡々と語る

「北方諸侯たちは例の魔導士騒ぎの混乱で、エルフの森侵攻には来なかたので、この旗の事は知りませんよ」と補足する。

先に言えよ。


しかたない。ふつうのドワーフ美少女のフリをして兵隊さんに聞こう。

「なあオッちゃん、中で何があったんだべ?」


「ドワーフどもが悪魔になっちまったんだ」


な!な!な!なんだとう?!


ボルゲルを振り向くと、素知らぬフリをしている。

「お前ェ知ってただな」


「もちろん。私もイーグもファウストも、そのお人形のツクモも、こうなる事は知ってましたよ。1000年前と同じですので」


「1000年前から?」

イーグの方を見たらコクリと頷く。


「1000年前に悪魔王を倒した勇者とは私たちのチームの事です」イーグが静かに語った。


「何ぬっ?!」

そうか、ちょっと変だと思っていたが、やはり過去に本物の勇者グループが居たのか。

しかもこいつらか…そりゃ強いはずだ。


ボルゲルが歩き回りながら言う

「封印された真の悪魔王。つまり原初の巨人に創造された巨人の影。それが悪魔王ゴウルです。

私はもともとゴウルの部下でしたので」


「なんでお前ぇは魔族から勇者の仲間になっただ?」


「悪魔城がブラック企業だったからですよ。だから腹いせにゴウルの目の前で魔王の杖を盗み出してやりました」

さも当然だと言わんばかりにボルゲルはつぶやいた。


あ〜〜やりそうだなコイツ。妙に説得力あるは。


「というか、このお人形のツクモンも勇者チームだったのか?」

俺の頭の上に居座っているお人形ちゃんはヒョイと片手を上げた。


「そうですよ。彼女は今でこそ小さな人形ですが、元は魔王が造った魔法人形です。

勇者の強力な相棒でした」


「勇者?今でもその勇者は居るだか?!」


ボルゲルは眉間にシワを寄せて答えた

「そこに居ますよ」


え?どこ?


「いや〜みなさんお早いお着きですね」

いきなり背後からファウストが現れた。


お前が勇者だったのかよ!


考えてみればそりゃそうだよな。ツクモン以外にあの魔王の杖が使えるなんて勇者以外に考えられないしな。

ボルゲルとイーグはびみょうな表情でそっぽ向いている。

世界を救ったはずの勇者チームが、なぜ解散したのか?なんとなく理解した。


日も暮れてだいぶ冷えてきた。


鳶口を引っ掛けて冷たい岩肌にへばり付き鉱山の様子を伺う。

「岩の声を聞く」これは俺たちドワーフの能力だ。

幸い採掘が中断されてるから中は静かだ。

「まだ中に何人か取り残されてるな…」

あと歩き方がおかしな連中が数人ほどいる。たぶん悪魔に取り憑かれた連中だ。悪魔は意外と少数のようだ。


よっ!っと岩壁から飛び降りる。

下ではみんなが火を焚いて待っていた。


「私の診療所や集会所、坑道の脇に次元断層を造っておきましたので数百人は外に脱出させられあました」

淡々とボルゲルが言う。


「じゃあ親父や母ちゃんは無事か」


「無事ですよ。私が真っ先に避難させましたので、今は北方諸侯国の避難所に居るでしょう」


「いや、なんでお前がそれ知ってるんだよ」


「私のスペアを三体ほど鉱山内に配置させていましたので」

ボルゲルは四次元ポケットから自分の抜け殻をニュッと引き出して見せる。

いや見せんでいい。


「そのさいに悪魔を500体ほど潰しましたが『あの二人』が来てしまったので私のスペアも破壊されました」


「あの二人?」


「吸血鬼サミンとターミ。悪魔王ゴウルの右腕と左腕ですね。バカですが二人そろうと厄介な相手です」


いや、お前の「あいつバカ」とか「大した事無い」は信用できん。

しかしいくら抜け殻とはいえボルゲルを三体も倒したのか。相当強いな。


「おじい…イーグ師匠、そいつらはそんなに手強いのだべか?」


イーグはうなずいて言う

「強力な魔法使いだ。二人揃うと私でも勝てない」

イーグより強いだと?


「ついでに不死身ですよ」焚き火にあたりながらファウストがのんきに言う。


不死身か…あのマグマの悪魔ジャセみたいな再生能力持ちかよ。

そんなもんどうやって倒すんだ??


「ちゅうかお前ぇも勇者だべ!倒すの手伝え!」


「私、今はただの人間ですので」

ファウストは最高の微笑みで返した。

ウソくせー。


「何か倒す方法は無いのだべか?」


ボルゲルがいつもの古文を引用する

「孫子曰く『我は集まりて敵は分かる』

まぁ、こちらの戦力を1匹ずつに集中して倒すことぐらいですかねぇ」

なるほど。まぁそれしか無いな。


「空間断層の出入り口はまだ使えるだべか?」


「もうとっくにバレて遮断されてますよ。それに…」


「?なんだ?」


「中に生き残っているのはエサです。あなたを誘い込むためのね。ベロン」


俺が狙いだと?……

ならば戦いを回避したところで遅かれ早かれ人質は死ぬ。


「そいつらの武器は何だ?」


「単純にスピードとパワーですよ。

それと音子光線(フォノンメーザー)ですね」

「光線?レーザーか?」

「強力な超音波攻撃魔法です。

高周波超音波で物質を切り裂き、低周波で内臓や脳神経にダメージ与えます。まぁその時にはすでに身体が二つに裂かれて血を抜き取られてますけどね」


いや、それヤバいだろ。


「スピードでは私も敵わない」

イーグが険しい顔で言った。


おじいちゃんより早いのか!


「じゃあラーラなら?」


イーグは首を振る。

「大地や空なら神馬人は勝てるかもしれない。だが洞窟の中では難しい」

なるほど、公平かつ的確な判断だ、さすがおじいちゃん。


「弱点は無ぇべか?」


ファウストが焚き火にあたりながら答える

「色素が無いので強い光は苦手ですね。まぁ残念ながら灰にはなりませんけどね」

なるほど、表に出て来た一瞬だけが勝機か…


ヤバい相手だが、もう時間が無い。

「全員救い出す!ボルゲル。策は有るか?」


ボルゲルは空中に詳細な立体地図を描き出した。作戦会議だ。

魔法って便利だなぁ

「ドワーフが閉じ込められている坑道は、この様に地上より高い位置にあります。

坑道の入り口にいるのがサミン。

コイツはバカなので見張りぐらいしかできません。

ターミは少し頭が働くので我々が地下から来ると警戒しているはずです。

そこが狙い目ですね」


ボルゲルが坑道の周囲を指さす。

「サミンが一人の時を見計らって、マイクラ棒を使い、外側から坑道ごと岩盤をくり抜いて外に引き出します」


なるほど坑道を丸ごとヤマの外に引き出すのか…

「ん?ちょっとまて!そこに人が居る可能性が無いだべか?もしマイクラでくり抜くさいに、村の仲間に当たったり落盤したらどうなるべ?」

ボルゲルの手が止まった。


「大勢を救うためには多少の犠牲者は出ます。覚悟を決めて下さい。勇者ベロン」


「多少の犠牲だと!みんなお前ぇと一緒に暮らしてきただに、魔族から見ればドワーフなんて取るに足らない存在だべか?」


「これが…ベストの策だと思いますよ。ベロン」

ボルゲルはこちらを見ずに答えた。


そうだな。お前なりに一生懸命考えたんだろうな。言い過ぎた。


「やれやれ」ファウストが立ち上がった。

「自信がないなら私が変わりますよ、もともとその杖は私が使っていたものですので、あなたより上手に使ってみせます」

ファウストは穏やかに笑った。


そうだ、こいつは俺なんかよりずっと上手く魔法が使える。きっと、それがベターな選択なんだ。

鳶口をファーストに差し出す。


ポンポンとツクモが頭を叩いた。どうした?


ファウストが笑った。

「ツクモさんが手伝ってくれるそうですよ」


「どういうことだべ?」


ボルゲルが顔を起こした。

「そうか!ゴーレムにしてしまえば良いのです。

坑道までの岩盤を丸ごとゴーレムにしてしまうんですよ。

巨大なゴーレムのナマコを造り、それごと坑道を一気に引き抜くのです」


なるほど。坑道を巾着袋にして引き抜くのか。それなら中の人に心配は無い。

サンキューツクモン!


「決まりですね」

ボルゲルが策を説明する。

「吸血鬼は光に当たる一瞬だけ活動が鈍ります。

夜が開けしだい、私が地底から突入して吸血鬼の一人を引き付けます。

その隙にベロンは坑道を引き抜き、ツクモは出口を塞ぐのです。

その岩盤を破ってもう片方の吸血鬼が外に出てきた所をあなたとエルフ、神馬人、ツクモとファウスト総ががりで倒す。

その後みなさんで地下の援軍に来てください」ボルゲルは笑った。


「よし!それで行くべ!」


夜が明けた。白み始めた薄青い空にドワーフ連峰が真っ黒いシルエットとなって現れてくる。

山の夜明けは遅い。

山陰から冷たい風を吹きおろしてくる。


鉱山の岩壁の手前に、巨大なゴーレムが立っている。

ゴーレムの手のひらの上で俺は冷たい岩肌に耳をあて、岩の声を聞いていた。この奧が坑道だ。


居る!50人ほどか。動きが弱々しい。辛かったろう、今出してやる。

「よし!作戦開始だべ」

俺は下に合図拶をした。


ホルゲルが魔法陣を展開すると地面に大きな穴が開く。

白虎が穴に飛び込んで消えた。

やがて地底で激しくぶつかり合う音が聞こえた。始まった様だ。


「ツクモン頼んだぞ!」


俺は鳶口を岩壁に当てる。

ツクモンが鳶口の上に乗り岩肌に両手をかざすと、正面の岩壁全体に無数の細かい亀裂が走った。魔王の杖のパワーをツクモンが引き出しているのだ。

すごい。このツクモンは最強の魔法使いかもしれない。


やがて微細な亀裂が入った岩肌は、さざれ石の固まりに変わり、まるで巨大な生物のようにゆっくり動き出した。

(行ける!)

俺は鳶口の鎌を巨大ナマコの尻に引っ掛け、全力で引き出した。

「今だ!引っ張るだツクモン!」

ゴーレムは巨大ナマコをつかみ、ゆっくりと歩き出した。

巨大なナマコは岩壁からズルズルと引きずり出され、延々と地面に伸ばされていく。

やった!成功だ!

200mほど引き出すと、巨大ナマコの口がボトリと落ちた。坑道の入り口だ!


「塞げ!ツクモン!」

ゴーレムはナマコが抜けた大穴に近づくと腕を差し入れて穴を塞いだ。

奥で落盤の音が聞こえる。これで坑道は完全に塞がったはずだ。


ツクモンが巨大ナマコを叩くと左右に口が開かれ坑道の中身が現れる。中には5、60人ほどのドワーフたちが居た。

「お前ぇら無事か!」思わず叫んだ。

「あ!勇者ベロン!!」

皆一斉に俺に駆け寄って来る。

隣村のハレル、親父と俺の呑み仲間のジャガ、鉱山の賄い(まかない)のオバちゃん、鉄鋼所の所長のオッさん。みんな知ってる仲間たちだ。


「やっぱり帰ってきてくれただなベロン!」

ボタ山の積込みのチバラの爺さんが泣きながら言う。

生きてたか爺さん!またみんなでお姉さんの居る店に呑みに行こうな。


「ベロン!済まねぇ!俺たちのために」片足のドワーフが近づいて来た。ワッフだ。


「あ!無事だったか!ワッフ」


ワッフは崩れ落ちる様に泣きだした。

「分かってるだ。お前ぇはいつもオラたちのために戦い続けてきたんだ。済まねぇ」


他のみんなも泣き出した。

「鉱山の男が泣くんじゃねぇべ」と言いながら俺も泣いた。


「そろそろ来ますよ〜こちらへどうぞ」

ファウストが『ド』の旗を振っている。


ん?何が来るの?


イーグやシャルが身構え、神馬人たちは上空に翔け上がった。


突然地鳴りが響き渡り、大穴を塞いだ岩が砕けて何かが空中に飛び出した。

うゲっ!早い!目で負えない。


空中には巨大な赤いコウモリの翼、ピンクのサイドアップの髪に、赤いツノ、金色の瞳。

赤と黒のヒラヒラドレスを着た小柄な少女が憮然とした表情で空中に立っていた。

真っ白な肌の顔の側面には紋章の様な黒いタトゥーが描かれていた。

かなりの美少女だ。

これが吸血鬼サミンか。


「よくも俺様から逃げたなテメぇら」と吸血鬼サミンは口汚く罵ってくる。黒いタトゥーの下の大きく開かれた口からは牙が見える。


うわあ、俺様娘かよ。

これが悪魔王ゴウルの片腕と言われる吸血鬼か?

ジャセとは全然違うタイプだが、何かコイツはヤバい気がする。


吸血鬼サミンはイラつきながら悠然と空に浮かんでいる。

「オラあ!」と猛スピードでラーラがぶつかったが弾き返された。

何っ?神馬人の突撃を跳ね返すだと?


イーグが地上から竜巻を放ったが、もうそこにサミンは居ない。

凄い反応速度で回避してしまう。まるでテレポートだ。


「チッ」と舌打ちしてサミンは岩肌の影に移動する。

やはり太陽の光は苦手な様だが、全然弱体化してる様子は無い。


「手を緩めるな!弱体化してる今がチャンスだ!」イーグとシャルが垂直の岩壁を駆け上る。

え?あれで弱体化してたのかよ…


左からはイーグ、右から左利きのシャルが斬り付けるが、吸血鬼サミンは「フン」と鼻で笑って剣を弾き返す。全く通じねぇ。


サミンに弾かれてシャルが岩壁から落下する「危ねぇ!」

俺が飛び出そうとした瞬間、岩盤から水が巻き上がりシャルの身体を受け止めた。

シャルが右手を差し伸ばせば数条の水流が吸血鬼サミンに向かって飛ぶ、イーグが水流へ金の剣を振るうと水流は氷の刃となって飛ぶ。


シャルは水のエレメンタラーだ。

やたらシャワーシーンが多いのはただのサービスシーンでは無い。

いや、ただのサービスかもしれないが、シャルは水を自在に操れる。

イーグは大気を操作して熱や電気を自在に操れる。

二人の力を合わせれば氷の刃や電気の雷撃弾を作る事も可能だ。


サミンは氷の刃を回避して「チッ」と舌打ちして空に戻る。そこに左右から神馬人たちが体当たりを仕掛ける。

サーミは素早く避けたが、そこに巨大ゴーレムの右パンチが炸裂し、サーミを岩壁に押し潰した。

ナイスだツクモン。


「やったか!………ん??何だ?」

空気を震わせて、不快な音が聞こえる。

背中の斧が共鳴して唸り声を立て始めた。

平らな岩壁が細かくひび割れゴーレムの腕に亀裂が走る。

「何だ??」


キィイイイイイイ!という金属音と共にゴーレムの右腕が粉々に粉砕され、飛び散る破片の中からサミンが現れた。

イーグや神馬人たちは爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。


これが超音波か!

トンデモねぇ威力だ、これ喰らったらヤバいだろ!


粉塵の奥に金色の瞳が光る。

「テメぇ!許さねぇ!」

汚い言葉を吐きながら吸血鬼サミンは大きく口を開けるとメーザーの光の筋が発射され、巨大ゴーレムの上半身が吹き飛んだ。

ギャオスかよ!


崩れるゴーレムの破片の中から金色のロボット人形が飛び出し、剣の様な腕でサミンの胴体を刺し貫き、再び岩壁に貼り付ける。

さらに金色ロボの手足が数本に増え、立て続けにサミンの体を刺し貫いて岩壁に縫い付けた。

「こっの野郎!」

サミンは片手で金色の人形を殴り付けるがビクともしない。


「何だありゃ?」

「戦闘人形ですよ。中でツクモさんが操縦してます」

ファウストが解説する。

ツクモンのロボットか!


しかしあれだけ刺されても吸血鬼はまだ全然元気だぞ、どうすれば倒せるんだコイツ。


エルフを乗せたシーシとラーラが急降下して飛び込んで来る。

「首を落とせ!」イーグが叫ぶ。

シャルとイーグが飛び出して吸血鬼サミンに斬り付ける。

「チクショウ!」サミンはグルリと首を真後ろに回した。

ウゲっ!ホラーかよ!


サミンは岩壁に向かって超音波を発射する。背後の岩盤が粉々に砕ける。サミンは拘束から抜け出し、その拍子に蹴りを入れてツクモンロボをバラバラに破壊した。

金色の破片が飛散した。

なんてヤツだ!


金色のツクモンロボは空中で集結して折り鶴の様な形に変わりファウストの元へ飛んで来る。

折り鶴は金の盾に変形した。

ツクモはピョンと飛び降り、ファウストの肩に乗った。

ファウストは盾の上部を掴んで剣を引き抜くと黄金の剣が現れた。

抜刀した瞬間、空気が振動し、大地がゆらりと揺れ動いた。

トンデモねぇ魔力の波動が響き渡る。

あれが勇者の力か!


「変身です!勇者ベロン」

ファウストはいきなり勇者然となり指揮してくる。


「よっしゃ!変身!ぴぴるまぴぴるま超力招来!」


マイクラ棒から光の輪が発生し、俺の全身を引き伸ばす。

手足はスラリと長く伸び、長く飛び跳ねた赤い髪、クビレたウエスト、ピチピチの小さな服からはみだしそうな大きな乳!!

おおお!と周囲のドワーフたちはどよめいた。

ふっ。村のドワーフたちも俺のナイスバディに…


「揉むのは後にして構えた方がいいですよ」ファウストが呆れた目で見ている。


「あ?」と、構えた瞬間にサミンが目の前に迫っていた、吹き飛ばされた勢いで岩場を転げ回り、岩盤に当たって止まった。

ヒイイ、全身血まみれだ。よく生きてたな。さすがドワーフだぜ。


俺が転げ回っている間に、ファウストが横からサミンの片翼を斬り落としていた。

サミンは「ギャッ!」と言って飛び退き、こちらを睨み付けた。


俺の変身にサミンが攻撃して来るタイミングを狙っていたのか。

あの野郎〜俺を囮に使いやがったな。


「テメェら!殺す!殺す!」

可愛らしい顔と裏腹に、サミンは汚い言葉を撒き散らしながら方翼だけをバタつかせている。

あれ?何か変だな。

サミンの翼が再生しない?


ファウストがサミンへ剣を差し向けて答えた。

「神聖完全覆滅魔法ですよ。この剣に触れた傷は治りません。たとえ不死身の吸血鬼でもね」


サミンの表情が驚愕に変わった。

「ああっ!てめぇファウストだな!」


ファウストは爽やかに微笑んだ。

「あれ?せっかく隠してたのに気づいちゃいました?」


…この怪物相手にナニその余裕は。


突然の勇者の出現にサミンは硬直し、震え出した。

「チクショウ!」

サミンは走って逃げ出した。凄いスピードだ。


「ベロンさんチャンスですよ、追ってください」ファウストが笑顔で言う。

いや追えるスピードじゃねーだろ。


「重力操作を使えば加速できますよ」


え、重力?…あ!そうか!

俺は腰のマイクラ棒に左手を掛けた。


「加速装置!!」


いつもの様に適当にヲタ呪文を詠唱したら時間が静止した。

世界の動きが止まる。

いや違う。俺の体感速度が加速しているのか。


静止しているスピードの中で、動く者がいた。遠くに地上を走る吸血鬼サミンが見える。

「見えた!」

俺は走りながら斧を投げ付けた。


「ダブルトマホウク!ブーメラン」


「ギャッ!」とサミンの片腕が吹き飛んだ。

吸血鬼サミンがこちらを向き直る。

時間が再び動き出した。


腕がもう再生している。ダメだ切断だけじゃコイツには勝てない。


「冷線!」俺が構えた時にはすでにサミンは素早く回避して数十体に分身した。ゲゲっ!ズルいぞ!狙いが付けられない!

「ウザいんだよ!死ねば!」

数十人のサミンが一斉に光る口を開ける。


あ…やば


その時、十人ほどのイーグとシャルと神馬人の分身体が飛び込んで来た。

吸血鬼とエルフと男の馬娘の大軍が目の前で合戦をしている。すごい絵面だ。


固まっている俺の後ろからファウストが耳元でつぶやいた。

「ナニをしているんです。空間操作を使えばあなただって分身できますよ」

うわっ!びっくりした。


そうか、空間操作か!

分身の術。西遊記では“身外身の法”という。

マイクラ棒をバトンの様にクルクル回し。脇に挟み、口笛を吹きながらシュバババっと指で風を切る。

「レインボー影分身!シュッ!」


俺の身体が7体に増えた。

「よし!いくぞ!おそベロ、いちベロ、カラベロ、チョロベロ、トドベロ、十四ベロ!」

『応(おう)!』と6人の俺が斧を振り上げ応えて突撃する。


たちまち数十人の分身体が乱戦するメチャクチャな大戦場になった。


その最中にちゃっかりファウストが飛び入り、背後から次々と吸血鬼の分身体を一匹ずつ斬り倒して消滅させて行く。

今度はサミンが劣勢になった。

「チクショウ!」

サミンは巨大な赤いコウモリに変わり逃げ出した。


ファウストが叫ぶ

「逃がすな!」

わかっとるわい!


「真空斬り!八相発破」

竜巻と共に『七人の俺たち』が一斉にジャンプして巨大コウモリを前後左右上下から一斉に叩き斬る。

「ぎゃっ!」と叫び声を上げて吸血鬼はバラバラになり、落ちた。


やったか…あ?

だが地面ではバラバラの残骸が集まり、もうサミンの身体を形づくりはじめていた。

マズい!再生する気だ。


はるか彼方からファウストが走って来るのが見える。

アイツがここに来るまで何度でも俺がバラバラにし続けるしかない!

『俺たち』は斧を赤熱化させて振りかぶった。


その瞬間!

地面が爆発し『俺たち』は吹き飛ばされて元の一人の『俺』に戻ってしまった。


何だ?地面が爆発した?いったい何がどうした??


爆炎を吐く地面の大穴の中を地底から黒い翼を広げた美女が浮かんでいる。

黒いドレスに銀色に輝く髪、赤いツノ。金色の瞳。うっすら開けた口には牙が光っていた。


あれは吸血鬼…!

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