15話「エルフの森戦争」だべ

15話「エルフの森戦争」だべ


その頃、ビーバー村付近の森が水没し始めていた。

湖の周囲の木は切り倒され、巨大なビーバーダムがさらに嵩上げされ、水位は通常よりさらに2mほど上がっただろうか。

ビーバーのドーム型の巣もだいぶ水没し、わずかに頭が見える。

湖はさらに巨大になり、静かな水面の上に森の木々の梢(こずえ)ばかりが浮かんでいた。


だがビーバーたちは作業を止めなかった。

まるで取り憑かれたかの様にダムをかさ上げしている。

それを神馬人のシーシに乗ったシャルが上空より見ていた。


森の中。

ボルゲルが『ぼくらのカンペキ医学』を開いて魔法陣を張っている。

「簡単な回復魔法ですが、痛みが完全に消えるワケではありません。激しく動かない様に」

魔法陣が燃え尽きると傷口は塞がっていた。


「ああ、済まねぇだべ」

俺はよろけながら神馬人のラーラに乗って再び空へ飛び上がった。


まだ痛みは有る。

だが、この戦いは俺の名前を勝手に使って始めやがった戦争だ。

なら俺には止める権利ぐらいあるよな。


エルフの森

エルフの神聖女王ラ・デの神殿は深い渓谷の中にある。

巨大な岩肌の崖に囲まれた谷間の森だ。

古代の巨木が高々とそびえ立ち、その樹上にハウスツリーが何層にも建てられ、上では鳥や獣が飼われ大規模な森林都市が形成されていた。


色とりどりの葉っぱや樹皮で編まれ、油や樹脂を染み込ませた壁は非常に軽くて丈夫なため、矢や剣も通らない。

戦に備えてさらに上層へと移設され、今ではまるで樹上の要塞を呈している。


断崖が揺れた。

爆音と共に、渓谷の崖の一角が破裂して岩肌が深くえぐれ落ちる。

拓(ひら)かれた森のその向こうから数体の巨大なゴーレムが姿を現した。

驚いた鳥の大群が周囲を飛び回っている。


その巨大ゴーレムの足元には二人の赤頭巾と例の若い神官。

その背後には「悪魔の紋章」をはためかせたブルーの甲冑の騎士隊が成り行きを観ていた。

法皇庁直属の魔法騎士団だ。


ゴーレムは崖の切れ目を伝わってエルフの森へと降りはじめるが、途中で崖から滑り落ち、岩の塊になってバラバラに砕け落ちて積もって行く。

そしてまた、次々とゴーレムが現れ。落ち崩れながら岩石は詰み上がる。

谷の一角を埋めていき、

やがて岩石の坂道ができた。


谷の入り口がゴーレムの残骸で埋まったころ、その斜面を十体ほどのゴーレムが一列になって崖を下りて来る。

さらに銀色の甲冑に身を固めた諸侯国軍がゾロゾロとそれに続いた。


谷間の森を薙ぎ倒しながらゴーレムの群れがエルフの森へ侵入して行く。

エルフたちは近くの樹上から投げ槍や火矢を打ち込んでいるが相手は10mを越える巨大な岩の塊だ。通用するはずも無い。


ひときわ巨大な樹の上。

櫓(やぐら)の上に白衣をまとい仮面をかぶった男女数人が並び、中央に諸星大二郎風の仮面をかぶり、薄手の黒衣をまとった小柄なシャーマンが現れた。

森の魔術師、女王ラ・デだ。


ゴーレムの群れは谷間の木々を引き裂く様に進んで来る。その足元は諸侯国軍の軍勢がエルフたちに矢を射掛(いかけ)、村に火を放ちながら走り回っていた。


「ひでえ…」

これが戦争か。


「やれやれ、まるで素人の戦争ですね」

ボルゲルが呆れた声で言う。


「素人?アイツらの事だか?」


「孫子曰く、火を発っしても、敵兵が静かなる時は、待ちて攻めること無く、その火力を極めよ」

ボルゲルは、またまた変なことわざを言っている。


「??意味がワカランだべ?」


「つまり森の大魔術師は罠を張って待ち構えているという事です」


「罠?」


「ほら、西の空をご覧なさい。もう始まっていますよ」


「何のこっちゃ?」と西の空を見てみれば薄黒い煙が低く立ち込めていた。

何だ?山火事にしては煙が違う気がする?

向こうは…ビーバー湖の方だよな。

湖から何かが起ころうとしている…


エルフの大魔女ラ・デは空に向けて杖を振り上げ、何かの呪文を唱えると谷間の諸侯国軍を指して止まった。

「?」

何か攻撃が来ると思って諸侯国軍は一時ザワめいたが何も起こらない。


やがて兵士たちは落ち着いて来ると何ごとも無いと笑いながら、また足元の水をビチャビチャと跳ね上げて進軍を始めた。


あれがエルフ女王の「最後の慈悲」だったことに気づくものはいなかった。

大魔女ラ・デは、これから起きる運命の惨劇に対して怒りも悲しみも無く、深緑の樹上に、ただ静かにたたずんでいる。

風が少し吹き抜けて行った。


諸侯国軍の兵士たちが、森の中に散開し始める。

いつの間にか足元に水が溜まっていたが、気に留める兵士はいなかった。

だが、やがて足元の水の流れは早くなり始め、だんだん膝下まで水位が上がって来た。

誰か兵士が叫んだ。

「何だ?!この水は!」

落ち葉や枯れ枝も大量に混じって流れて来ている。

足元を取られて水中に倒れる者も出てきた。


「鉄砲水だ!逃げろ!」

森の奥で誰かが叫んだ。


森の奥から黒い水の壁が迫って来た。

巨木にぶつかりながら水面が生き物の様に蠢(うご)めく。

濁流はあっという間に銀色の諸侯国軍を飲み込んでしまった。


さすがのゴーレムも足が止まった。

そこに上流から濁流に乗って数匹の巨大な大蛇が現れ、ゴーレムに襲いかかる。

たちまちゴーレムを薙ぎ倒し、水中に没した。


あれは双頭の大蛇『卒然(そつぜん)』だ。

あれも魔女が操っていたのか。


森の魔女ははるか彼方の崖の上に居る教皇庁の若い神官たちの方を見ていた。


若い神官は爽やかに手を上げて魔女に挨拶をし、微笑みながら言った

「ふふ、お義母様、あれで引き分けにしたつもりなんでしょうかね」

彼の瞳が赤く光っている。


赤いフードの美女は無言だった。

何かに操られているかの様に、やはり赤い瞳で女王ラ・デを見返していた。 


そのころ西の湖では

決壊したビーバー湖の奥に数匹の大蛇『卒然』がウネっていた。


ビーバーの巣の上には、神馬人のシーシに乗ったシャルと、翼竜に乗った「ヤールおじ様」がいて

水上にはビーバーに乗ったゴブリンさんたちが控えていた。


「次の、合図が、来たら、また『卒然』に、ダムを、破壊、させる」


「そうだ、決壊させるのだぞ『卒然』よ!」


「それまでに、ダムの、修復を、急げ」


「そうだ急ぐのだ!ビーバーよ!」


びみょうにシャルが邪魔している気もするが、ヤールおじ様は気にして無いご様子だ。


「やれやれ、孫子曰く、水を以って攻をたすくる者は強なりですね。このままではエルフの負けです」

白虎のボルゲルがつぶやく様に言った。


「どういう意味だべ?」


「つまり水の力は巨大なので一発勝負には良いのですが、水というものは人の考え通りには動きませんし、細かな変化技もできません。

もし相手が別の方法で来たら、水攻めでは急な対応ができないという事です」


「別な方法?」


「ほら、あれですよ」


上流の崖の上にさらに巨大なゴーレムが現れた。

あまりに巨大過ぎて歩くのもやっとな感じに見える。

ゴーレムは崖の上からゆっくり森の中に倒れながら崩れていく。

ゴーレムの落下で谷間の樹海に白い水しぶきが上がった。

さらに、もう1匹の巨大ゴーレムが現れ、その上に折り重なった。

崖の上を見ればまだ数体の超大型ゴーレムがゆっくり歩いているのが見える。


ジワジワと濁流の流れが変わり、見る間に水中の『卒然』が現れ始めた。

下流では卒然がゴーレムを水中に引きずり込もうとしている様だが、徐々に水位が下がりはじめている。

陸上のゴーレム相手では卒然も分が悪い。

次々に撤退して行った。


あいつらゴーレムを使って上流の水の流れを変えたのか?!


「王手ですね。あのままならエルフの詰みです」


ボルゲルのヤツはなんだかんだで両軍の二手三手先を読んでいる。コイツが「エルフが負ける」というなら事実なのだろう。

もう時間が無い。


「行くど!ボルゲル!ラーラ!ゴーレムを破壊するだべ」


「行きましょう勇者ベロン」


「おう!人間どもをブッ倒す!」

いや、ラーラは何かカン違いしてる気がするが…


俺たちは教皇軍本隊の居る崖に向かって飛んだ。

最前列に悪魔の旗印を掲げた青い騎士団が見える。

「あれだべ!」

その中央では例の赤ずきんちゃんがドワーフのハンマーで地面を叩いて巨大ゴーレムを絶賛量産中だった。


「マズい、もう10体以上完成してるだべ」

あの魔王のハンマーをなんとかしないと!


「おらあ!」

いきなり神馬人のラーラがゴーレムめがけて急降下し始めた。


「うぎゃ?!」

トンデモないスピードに俺はいきなり空中に振り落とされた。

「うわっ!ちょっと待てぇ〜!てててて!」

空中で手足をジタバタさせて落下していたところを白虎のボルゲルが咥(くわえ)上げてくれたので助かった。

危うく墜落するところだ。

やれやれトンデモねぇじゃじゃ馬だな。

知ってたけど。


ラーラは俺には全く構わずゴーレムに突撃して蹴り込んだ。

ラーラの蹴りでゴーレムの頭は粉砕され、巨体はバラバラに崩れ落ちて行く。

蹴った勢いでラーラはまた空中に跳ね上がり雲間まで駆け上がる。

そしてまた飛行機雲を引きながら急降下して蹴った。

飛行音が後から聞こえた。


音速を超えてんじゃねーか!

スゲぇ、これが神馬人の力か。


目の前でゴーレムが崩された赤頭巾ちゃんはハンマーをポイと投げ捨て、お人形を抱いて若い神官の後ろに引っ込んでしまった。

若い神官が微笑みながらハンマーを拾い上げた。


ふと気づくと隣の赤頭巾のソラお姉様が手をかざしてラーラを狙っているのが見えた。

あ!ヤバい!あれは幽体離脱光線だ!


「火炎車ぁ!」

とっさに赤熱化させたダブルトマホウクをブン投げる。

目の前を火炎車の炎で遮られ、赤頭巾のお姉様が機械的に動きを止めた。

なんか以前より無表情だな?


俺と白虎のボルゲルは十字軍本隊の目の前に着地した。

右足がズキンと痛む。


「ようこそ伝説の勇者ベロン。そして魔法図書館の受付け係のボルゲルさん」

若い神官が微笑みながら言った。


ボルゲルが呆れ声で言い返す。

「相変わらずナメた態度ですねぇ『悪魔王ゴウル』のインターフェイスくん」


『悪魔王…ゴウル』?

それがコイツの本当の名前なのか?


「ご安心ください、勇者ベロン。私はボルゲルと違ってただの人間ですよ。悪魔王ゴウルなどではありません」


俺の考えを察したらしく、若い神官は微笑んだ。

「悪魔王ゴウルは私のただの使い魔です」


「悪魔王がただの使い魔だと?」


「そう私はファウスト。悪魔王ゴウルの主人です」

若い神官の瞳が赤く光った。


「悪魔王の主人…だと」


ファウスト

伝説の人物だな。

フォースタス博士(ファウスト)は神に愛された身でありながら悪魔メフィストと魂の契約をし、枢機卿に化けて教皇庁に入り込み、教皇の食物を奪い、時空を越えギリシャ神話の世界に行き、最後は地獄に堕ちたと言われる。


(※聖下:教皇、宗教での最高指導者の敬称)

(※枢機卿:教皇の補佐役)


「魂を盗られて地獄に堕ちたんじゃねーのか?ファウスト博士」


「地獄ね。なかなか快適でしたよ。メフィストよりさらに上位の悪魔王とも契約できましたし、今では私、影の教皇ですので」


「契約?ファウストの魂はすでにメフィストにくれたハズだべ、何を報酬に契約したんだ?」


「この全世界ですよ。勇者ベロン」

ファウストは赤い瞳を光らせて微笑み、ハンマーを振り上げた。

黒い波動が世界を包み、崩れた大型ゴーレムが再生し始めていく。


ハンマーでゴーレムをコントロールしている??

まさかファウストも魔王の杖を操れるのか?!


大型ゴーレムは地響きと共に一斉に歩き始めた。

再生されたゴーレムは色も青黒く変わり動きが早い、

諸侯国軍の兵士を構わず踏み潰して歩き回る。森に囲まれているので足元の兵士たちは逃げられ無い。


「お前ぇ!味方を踏み潰す気だか!」


ファウストは赤い瞳でこちらを見た。

「気づいて無いんですか。三万の彼らの魂こそがメインの生贄(いけにえ)だ。ぐおふふふふ」

途中から急に声が重苦しく変わった。

まさか!悪魔王ゴウルの声か!


ダメだコイツ。悪魔王に乗っ取られていやがるのか!

とにかくゴーレムを止めないと、こっちまで全滅だ。


「火炎車ぁ!」

ダブルトマホウクをゴーレムめがけてブン投げたが、カチン!と弾かれた。

変だ?岩盤を粉々にできるダブルトマホウクが直撃したはずだがゴーレムには全く効かない。

ラーラもいきなり弾かれた。


ゴーレムがさっきより強くなっている!


「魔術を上書きして強化されてますね」

白虎のボルゲルが言う。


魔術の上書き?これが魔王の杖のハンマーの力か。いやそれとも単純にファウストや悪魔王の魔力が強大なのか?

ダブルトマホウクも神馬人の攻撃も効かない岩石の巨人なんて、どうやって倒すんだ?!


その時、不意に空が黒雲に覆われて白い竜巻が巻き上がり、冷気と共に雹(ひょう)が降り注ぎ稲妻が走った。


「何だ??」

空を見上げると空中に金色の剣を振り上げている人影が見える。

黒い革具足に長い黒髪と鋭い眼。

黒エルフのイーグだ。


「来たか、1000年ぶりだなエレメンタラー・イーグ」

ファウストは悪魔王の声で、赤い瞳を見上げながら笑った。


(1000年前?やはりコイツが昔『黄金の翼の戦士』と戦った悪魔王国城の主。悪魔王ゴウルか!)


黒エルフのイーグが剣を振り下ろすと黒い雲から白い竜巻が降りて来てゴーレムを包み込んだ。

竜巻に巻かれたゴーレムはたちまち凍って行く。

あれはドラゴンを倒した氷の竜巻か?!


白く凍ったゴーレムの全身に急にバカッ!と断層が入る。

さらにイーグが剣を振るうと黒雲の空から巨大な雹の砲弾がドドドドド!と降り注ぎ、砲弾の雨に砕かれゴーレムはバラバラに砕け落ちた。


スゲえ!天候まで操るのか!


「夜光雲剣(やこううんけん)ですね。大気中で最も低温の中間圏界面(ちゅうかんけんかいめん)からマイナス100度の冷気を呼び込む大技です」

また白虎のボルゲルがトンデモ科学理論を解説している。


いや、まてよ。そういやトンネル工事のさいに何度か冷線砲で岩盤が砕けた事がある。


「おいボルゲル、ゴーレムは冷気で倒せるのだべか?」


「岩石内部の小さなクラックに存在する水分が冷やされると、バルク凝固点で氷に相転移するさいに、結氷でモル体積が膨張します。

すると内部から砕けるわけです」


なるほどワカランが分かった。とにかく凍らせて氷の膨張で砕けばいいんだよな!

「変身!」

俺は鳶口を振り上げた。


「ぴぴるまぴぴるま超力招来(ちょうりきしょうらい)!!」


マイクラ棒から光の輪が発生し、俺の全身を引き伸ばす。

スラリと長く伸びた手足、長く飛び跳ねた赤い髪、クビレたウエスト、ピチピチの小さな服からはみだしそうな大きな乳!!

「おおお!」

あ、イカン。また思わず揉んでしまった。


「お楽しみ中ですが勇者ベロン、踏み潰されますよ」


「あ?」

頭上に巨大なゴーレムの足が迫って来た

「ぎょええええ!!」

あわてて転げ回って脱出するが、痛めた足を余計に痛めてしまった。

「んぐぐぐ…


「ますますピンチですねぇ」

白虎のボルゲルが冷めた目で見ていた。


「クソっ拡散冷線砲!」

ヤケクソでゴーレムの全身に数条の光の筋を放射するとゴーレムの巨体は一瞬でカチコチになった。

「よっしゃあ!」これなら行けそうだ!


俺は左手の鳶口(とびくち)を振り上げた。

「ぴぴるまON!」

鳶口(とびくち)の先端が光ると周囲の空間が歪み、空間断層が発生する。加速空間だ!


「ダブルトマホウク!ブーメラン!」

ぴぴるま空間で加速された斧は超高速でゴーレムの腹を貫通して飛び抜ける。

次の瞬間、爆音と共にゴーレムは粉々に砕け落ちた。

スゲぇ威力…自分でビビったわ。


「また来ます」

ボルゲルが回避をうながす。


横からか!

体をヒネったら右足に激痛が走った。

「ぐあ!」

ゴーレムの巨大な足が頭上からズズ〜ンと俺を踏み潰した。

(あ……やば…)


だがその時、身体が跳ね上がり空中に飛び上がる。

「やれやれ見ちゃいられませんね」

いつの間にか黒雲をまとった白虎のボルゲルの背中に乗って空を飛んでいた。


「まとめて一気に行きます。拡散冷線砲を連射しなさい勇者ベロン!

ラーラは後から来てゴーレムを蹴り砕くのです」

「了解だ!」

ラーラが背後に着いた。


なんだ、スゲえ頼りになる相棒じゃねーか?ひょっとして。

「違います。気まぐれのサービスです」

いやまだ何も言ってねーぞ。


「やっちまえ!姐さん!」下から声援が聞こえる。傭兵砦の連中だ。


お、アイツらも居たのか。


諸侯国軍の兵士たちが傭兵たちを睨んでいるが、俺の仲間たちはもう止まらない、大騒ぎを始めてる。

ハゲ隊長のジャクスさんも止める素振りを見せない。少し微笑んでいる様にすら見えた。


「へへ、あいつらにイイ所見せてやらねぇとな!」


俺はゴーレムに次々と冷線砲を打ち込むと、

背後から神馬人のラーラがゴーレムを蹴り砕いて行く。

こりゃ面白い様に勝てるは。


「真下から来ます!」ボルゲルが叫ぶ。

ひときわ巨大なゴーレムの腕が下から伸びて来た。

「デカ過ぎっ!?」

あの洪水の水を堰き止めた大型ゴーレムよりデカい!


ボルゲルはスルリと大型ゴーレムの腕をスリ抜ける。

「冷線砲!!」と冷凍光線を浴びせても全く効果が見られない。

デカ過ぎる!

こりゃ冷線砲で凍る様な大きさではない。


「ならば叩たっ斬るだべ!」

ボルゲルの回避に合わせて、俺は斧を振りかぶりながら空中に飛び降りた。

「ぴぴるまON!」

鳶口(とびくち)の先端が光り出し、空間制御により薄青いオーロラのぴぴるま空間に包まれる。

「超重力!グラビトン!」

ダブルトマホウクの赤熱した刃先に重力子(グラビトン)を集中させる。

ぴぴるま空間の空間加速にさらに超重力を加える。


「超重力!八相発破(はっそうハッパ)!!」

超大型ゴーレムに重力子(グラビトン)全振りを叩きつけ、そのまま地面まで一気に斬り下ろす。

一撃で超大型ゴーレムは真っ二つに割れて動きを止めた。


「やったか?」


ゴーレムの小山の様な巨体は、手足が崩れはじめ、巨大な岩石がゆっくり倒れ始める。

下では周囲の兵士たちが逃げ回っている。

「あ!いけね!このままでは潰されるだべ!」


「無限連鎖炎撃陣!」

空中のボルゲルの正面に太陽の様に輝く巨大な魔法陣が現れ、

一例に並んだ巨大なプラズマ魔法陣が巨大ゴーレムめがけて何百層にも重なりながらドドドドドド!と連続発射される。

超大型ゴーレムはプラズマ魔法陣の連打に弾け飛ばされながら、空中でバラバラに粉砕され、細かく砕けた岩の塊が上空から降り注いだ。


「ウゲっ?!」

あの山みたいな巨大ゴーレムを一撃で消し飛ばしやがった!

なんちゅう恐ろしい魔法じゃ。


プラズマなんて俺は自力では斧の刃先に作るのが精一杯なのに、やっぱりボルゲルの野郎、今まで手加減してやがったな。

…いや、アイツの事だから『手を抜いていた』と考えるべきか。


諸侯国軍の連中は岩石の雨から右へ左へと逃げ回っていたが、俺たちが巨大ゴーレムを倒すとヘナヘナと座り込んだ。


「何者だ?あの女たちは?」


ジャクス隊長が胸を張ってつぶやいた。

「彼女こそ勇者ベロン。我々人類の守護者ですよ」


「勇者ベロン…生きていたのか…」

兵士たちにどよめきが走った。


黒エルフのイーグが天空の黒雲から稲妻を落としてゴーレムを粉砕している。あれで最後だ。

あっと言う間に決着が着いた。


俺たちは地上に降りて変身を解く。

元のドワーフ美少女ボディに戻ると疲労がドッと来た。

いやあ魔法少女も楽じゃ無い。


「助かったぜ、ボルゲル、ラーラ」


「後ろです!」

ボルゲルの声に何っ?と振り返ると赤頭巾のお姉さんが俺に幽体離脱光線を発射して来た。


「ニャロめ!」俺はダブルトマホウクを正眼にかざして霊波光線を斧で受け止めた。

…あれ?光線って受けられるモノなの?


なぜかボルゲルが疑問に答える。

「言ったでしょう、気合ですよ『気、剣、体の一致』です。

霊魂と肉体と利剣の働きが一致するなら、心が無明の賊に奪われる事は無いと言われます。

だから、古(いにしえ)の武人は魔を払えたのです」


マジかよ。部活で剣道やってて良かったぜ。


ラ・ソラのお姉さんは驚いた表情をしている。瞳が再び赤く光る。

やっぱスゲぇ美人だな。あっ、キッとした表情もステキですねぇ…

って!また光線をすごい勢いで連発して来た。

両手でビシバシ撃って来る。こりゃヤバい!避けきれない量だ。


「うぎゃあああ!そんなのアリかよ!

こりゃヤバいだぞボルゲル!ラーラ!」


と振り返ると、あいつらはさっさと避難していやがった。アイツら…

こうなれば空間湾曲バリアで!


魔女のアドバイスが頭の中に響いた。

『バリアは効かぬ。斧で反射して避けよ』


え?反射?

え〜と何か反射の呪文は???ピコ〜ンヒラメイた!


「影移し!」

斧を手鏡の様に正眼に構えて、適当にヲタ呪文を詠唱してみた。

ダブルトマホウクが光ると霊波光線を吸収し、そのまま倍返しで反射した。

「やった!反射した」と思ったが、光線はソラお姉さんに向かって浴びせ返ってしまう。


あ、しまった!この呪文は術をかけた本人に反射してしまうのか!


赤いフードのソラお姉さんに光線が直撃する瞬間、突然、霊波光線が遮られた。


とっさにファウストがお姉さんの盾になって光線を受け止めていたのだ。


クソっ悪魔のくせにオイシイ所を持ってくなんてズルいぞ色男め…

ファウストは真っ黒い炎に包まれながらニヤリと微笑を浮かべると崩れ落ちた。


…いや、だいじょぶかよ?ファウストの全身から真っ黒なオーラが出てるぞ?


ファウストから真っ黒で巨大な影が湧き上がり、翼の生えた黒い魔獣の姿に変わっていく。

空一面に巨大な影が映し出され、黒い影から赤い瞳が開き、こちらを見ている。


何だあれは!

あれは実体なのか?幻影なのか?それすらも分からない。

何だコイツは?

悪夢!まるで悪夢の様な巨大な影。


『あれが悪魔王ゴウルの本体じゃ!』

魔女ラ・デのテレパシーが頭の中に響いた。


あれが悪魔王ゴウル!


復活した悪魔王ゴウルは「ギャァアアアアアア!」と悲鳴の様なおぞましい咆吼を発する。


大悪魔の声を聞いてしまった兵士たちは頭を抱える者、祈る者、走り回る者、発狂している者も居た。


腹の奥底まで響く奇怪な笑い声を上げながら悪魔王ゴウルはラ・ソラとハンマーを掴み、黒く巨大な翼を広げて飛び去って行った。

最後にソラの悲鳴が小さく消えていった。


俺はなす術も無く呆然と立ち尽くしていた。

いまだ現実とは思えない。

そう、まるで悪夢の様な光景だった。


これはもしかして彼女の霊破光線で悪魔が実体化したのか?


「やれやれファウストは自分から霊破光線を浴びせたせいで悪魔王ゴウルをつないでいた鎖が切れて解放してしまった様ですね」

ボルゲルが呑気に言った。


「悪魔王ゴウルってどんなヤツなんだべ?」


「まぁ平たく言えば1000年前、我々の上司だった魔王モドキのクソ野郎です。

今までファウストの中に閉じ込めていたのですが、ソイツが再び野に放たれた。

そういう事です」


あれが1000年前の大戦争を引き起こした悪魔…


真っ黒な雲間から青空が見え、遙かドワーフ鉱山の連峰を照らしていた。


あの向こう。

俺たちのドワーフ鉱山の彼方に悪魔の王国がある。



つづく!だべ




あとがき

 【ボルゲルのファンタジー用語解説】

さて今回も異世界ファンタジーの基礎知識を勉強しましょう。


⚫︎ フォースタス博士(ファウスト)

15世紀ころの錬金術師と言われます。

神に愛された身でありながら悪魔メフィストと魂の契約をし、時空を越えギリシャ神話の世界に行ったり、最後は地獄に堕ちたとか、様々な伝説が残されました。


⚫︎ 夜光雲

夜に光る氷の雲ですね。

成層圏のさらに上の中間圏という大気の層があり、そこが大気中で最も低温の層で、そこに蒸気が入ると氷の粒子が輝いて見えます。

高空なので地上が日没してもまだ照らされて夜でも光るため夜光雲と呼ばれます。


⚫︎ 秘剣影うつし

変身忍者 嵐の必殺技ですね。

基本的に刀身に相手の姿を写して光を反射するなど鏡の様な使い方ができますが、敵の光線を反射し、不死身の悪魔を倒せる霊剣でもあります。

刀の名前は忍者刀「速風(はやかぜ)」ですが、駆逐艦しまかぜとは関係ないらしいです。


皆さんもぜひお試しください。ではまた。

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