02話 「北の怪獣?」だべ

北国から刃物の行商から帰ってきたオバちゃんの話では、

「北の公国に怪物が出ただ〜がね」との噂だ。


「怪獣ってどんなヤツだべ?」

「白くて丸くて、ふわふわの毛にピンクの顔たべ」

ハムスターかな?

「牙が生えてて鶏みたいに歩くだ」

何じゃそれは?巨大ニワトリだろうか?全く想像がつかない。


というワケで俺はボルゲルをお供に人間の国に向かう事になっただべ

いや、なんでや?


長老のジジイの話では怪物騒ぎが起きるのは大魔王が現れる予兆だという。


「その昔、悪魔が世界を襲った時、三人のドワーフの勇者たちが悪魔城へ攻め入り悪魔どもを討ち滅ぼしたのぢゃ!」


「ドワーフが?ウソくせ〜」


「本当じゃ。悪魔城の城門を破壊するため大魔王の杖を改造して3つの工具が造られた。

 一つは斧。

 二つ目はハンマー。

 三つ目が鳶口。

これで城門を破壊し突入したのじゃ。

戦いの後、三つの道具は長い眠りについた。


もし再び悪魔と戦うならば、我々ドワーフはハンマーを探し、魔王の杖を三つそろえないといけないのじゃ」


やれやれ迷惑な話だ。


とりあえず北に行けば、何か魔王の手がかりが有るかもしれん。

幸い北の諸侯国は比較的ドワーフと交流が多い。

人間の商人や職人たちはドワーフ鉱山に工具や刃物などを買付けに来て、軍にも武具を卸す。

冬場になればドワーフ村のオッさんやオバちゃんたちが木樵(きこり)になって伐木(ばつぼく)や炭焼きの出稼(でかせぎ)に来たりする。

俺も何度か伐倒(ばっとう)の出稼ぎに行って酒代を稼いだものだ。

あ、俺は美少女だけどな!


さてドワーフ鉱山から北へ出稼ぎルートを二日ほど歩き「おさびし峠」を越えて針葉樹の森に入る。

明るい太陽と涼しい風。いい天気だ。


「ひぃベロンさん。少し休みましょう」

ボルゲルが情けない声を出す。

またか。


「長旅には医者が必要だべ」と爺さんが言うので連れて来たが。いや要らねぇだろ。

俺が傷口を焼き始めたら気を失ってたぞコイツ。


あの後、ワッフは義足になったが元気で酒場で働いている。

たまに見かけるが俺からは目線を逸らして隠れてしまう。

会うのも辛いのだろうな。

「俺は勇者の仕事には向いてねぇな…」

少し冷えてきたので俺は親父からもらった火酒をググッと呑んだ。


針葉樹の森を抜けると人間の村が見えてくる。畑仕事をしている老人が居た。第一村人を発見!


「オッちゃん、この辺に怪獣が出ると聞いただが?」


老人は俺の姿を見て驚いた様子だったが、顔を近づけて言った。

「お嬢ちゃんドワーフの木樵か?山に入るのはやめとけ。白い化け物が出るぞ」


この辺はドワーフが伐木の出稼ぎに来ているので、それと間違えたのだろう。

そりゃ斧に鳶口では、どう見ても木樵だよな。


「いや、俺は怪物退治に来た勇者だべ」


「え?」

第一村人のオッちゃんは目を丸くした。

そりゃ信じられんよな。


「怪物ってどんなヤツだべ?」


「白くてデカくてモフモフだと聞いたな」


雪男か白熊かな?ダブルトマホウクなら一撃で楽勝だろ。

なにせ一撃で岩盤(がんばん)を砕く魔王の杖だからな。


「お嬢ちゃんじゃあムリだよ。王国軍まで怪物にやられたと聞いたぞ」

そりゃ熊に軍隊はムリだろ。軍の武器はあくまで人間を制圧するための武器だからな。


「山に詳しい猟師を雇いたいだべ。誰か居ねぇだか?」

「この山向こうの峠の外れに元冒険者が住んでいる。今は猟師らしい」

そりゃ願ってもない人材だ。


「この山の向こうだべか?」

深い森と険しい断崖が見える。


「おい、今から行くと日が暮れるぞ」

老人が不安そうに言う。いい人だな。


「ん、大丈夫だべ」

俺は鳶口を崖の岩肌へ引っ掛けてボルゲルを引きずりながら垂直の崖を歩いて登った。

第一村人の爺さんは口を開けて呆然と見ていた。


さらに山奥に進む。だいぶ険しくなってきたな。

峠を越えると正面むこうの山の中腹に家が見える。


目的の家に到着した頃には、だいぶ陽が暮れてきた。

小さなログハウスというか山小屋だな。


こちらが近づく前にドアが開いた。

中からやけに目つきの鋭い初老のオッさんがジッと俺たちを見ている。


「怪物退治に来たドワーフの勇者ベロンだべ。山を案内してくれる猟師を雇いたいだ」


俺たちが近づいて行くと、オッさんはピシャリと扉を閉めて、中からつっかえ棒をしたようだ。


俺は鳶口で扉をトンと叩いて空間操作で棒を弾き飛ばした。

家の中でつっかえ棒が外れて飛び、床に落ちたカランカランという音がした。


勝手に扉を開けて中に入る。

「ムダだ、俺は魔法を使えるだべ」


オッさんは微動だにせず鋭い目つきでこちらを見ている。

「どこから来た?」


「ドワーフ鉱山だ。昼ごろ山向こうの村で元冒険者の猟師がここに居るという話を聞いて来ただ」


男はジロリと睨む。

「ムリだ。山向こうの村からだと、ここには歩いて一日はかかるはずだ」


「山を一直線に突っ切って来たんだべ」


元冒険者の男はまたジッと俺たちを上から下まで見回した。まるで観察するかの様な視線で見ている。


「なるほど、お前が言ってるのは本当だな」


「何で俺の言う事がホントだって分かったんだべ?」


「足元を見ればわかる。

ドワーフ鉱山を出たのは二日前、

途中でお寂し峠を抜けて夜を明かし、山向こうの村に着いたのが今日の昼だ。

服に山頂にしか生えない葉っぱの破片が付着しているから山上を越えて来ているのが判る」


スゲぇ、名探偵みたいだな。

「なんで時間まで判るんだべ?」


「朝には羊飼いが通るので、お前の靴に付いている山羊のフンで判る。お前が村に入ったのは昼ごろだ」

「え?」

俺は思わず足の裏を見た。


この元冒険者と名乗るオッさん、フォールという名前らしい。

今でも凄い実力者なのが分かる。ぜひ協力して欲しい。


「怪物の居場所を知っているだか?」


「明日案内してやる。食事は自分で用意しろ、水は裏の井戸を勝手に使え」


フォールはランタンを持って表に出た。

机の上を見れば何か書類がある。

「おいボルゲル、これは何だ?」


「地質調査ですね。本棚に有るのは植物分布図、地形分類のマップ。こちらは標高グラフですねぇ」


「え?猟師ってそんな事までやるだか?」


「こういうのはふつう軍の仕事ですね。冒険者ギルドにも軍に関わる専門職が有ると聞きます」


なるほど冒険者ギルドから派遣されたスパイか…しかも超一流の。

言われてみればそれっぽい。

国境線の様子を監視しているのだろう。

外でランタンを動かしているのも何かの合図かな。あの方角は北方諸侯国とは逆の方だが…

まぁいい。俺の仕事は怪獣退治だ。


早朝、俺たちは怪獣退治のために山に分け入った。

フォールは毛皮の帽子に槍と弓を持ち、槍を使って斜面をスルスルと登っていく。速い。

「気をつけろ、熊の足跡だ」

「え?どこどこ?」

全然分からない。さすがプロ猟師で元冒険者は違う。


「なぁフォール。怪獣って熊だべか?」


「違う。もっと毛が長く、もっと巨大で、もっと速い」

え?ちょっと待て、熊より巨大って???


フォールが立ち止まった。

「居たぞ!声を立てるな」

フォールは素早く槍を腰に差し、弓を構えた。

ん、どれどれ…

見るとメチャクチャ巨大なニワトリに似た生物が山上の平地に居た。

真っ白なモフモフの羽毛にピンクの顔。赤いトサカ、ニワトリの様な足で、凄くデカい。これひょっとして…


恐竜じゃねぇか!!


前世の記憶では恐竜にも羽毛が有るとは聞いた事があるが、あの白いモフモフの中身はどう見ても『ティラノザウルス』だよな!


「うわあカワイイですねぇ」

ボルゲルのバカがのん気に声を上げる。

あ、気づかれた。どアホうが!


モフモフ恐竜が「ギャンゴォ!」とウルトラ怪獣のような雄叫びを上げながら真っ直ぐこちらに走って来る。デカイよ!


フォールは恐竜めがけて走りながら弓を射る。

すれ違いざまに恐竜の脇腹へ槍を突き刺していた。

スゲぇ!恐竜に負けて無い!

さすが元冒険者。

ふつうの野獣なら今の一撃で仕留めていたはずだ。

でも相手は恐竜だからノーダメージだけどな。


とか思って見てたら恐竜はジロリとコチラに振り向き走り込んで来る。

「うわっ!なんでこっちに来るんだだべ!」


俺は全力で逃げ回るがドワーフ短足ではスピードが足りない。

そそ、そうだ!変身すれば!走りながらとっさに腰のベルトから鳶口を引き抜くが…


「あ!」


気がつけば足元に地面が無い…崖だった。

ものの見事に空中に浮かんで足がカラ回りして、ひょええええ〜と真っ逆さまに落ちる。


うぎゃっ!ヤバい!死ぬ!死ぬ!死ぬ!


『さっさと変身せんか!バカ者』

またいつもの「あの声」に罵倒(ばとう)される。


あ!そうか!

落ちながら鳶口(とびくち)を振り上げて変身する

「ぴぴるまぴぴるま超力招来!!」

鳶口(とびくち)の先から光の輪が発生し、俺の全身を引き伸ばす

手足はスラリと長く伸び、長く飛び跳ねた赤い髪、クビレたウエスト、ピチピチの小さな服からはみだしそうな大きな乳!

「とうっ!」と、着地する。


空間操作でナイスバディに巨大化してるせいか、着地の衝撃が緩和されている。

あの高度から落ちたのに平気だ。

まぁ胸はだいぶ揺れたけどな!

今回は揉んでるヒマは無かった。


「よっしゃ!」

俺は鳶口(とびくち)を岩壁に当てながら重力操作で垂直の崖を駆け登る。

「トウっ!」

あっという間に崖の上に飛び上がった。


フォールが俺の変身した姿を見て驚いていたが、まぁそりゃ驚くよな。


俺は気合を入れて斧を構えた。

「さあ来い!怪獣!」


白いモフモフ恐竜がこっちを見て「ギャンゴォ!」と吠えながら突進して来る。

「うわっホントに来やがった!」

恐竜はニワトリが地面を突つく様にヒョコヒョコ噛み付いて来る。俺は転がりながら逃げ回った。


(いや待て、恐竜だと考えるから怖いんだ。『焼き鳥』だと考えればデカくて旨そうじゃないかな!)

このデカさならドワーフ村で食っても一年は食える。

(よし!コイツを今夜の酒のツマミにしよう!)

急にやる気が出た。


「さあ来やがれ!」

俺は斧を振り上げ上段に構える。


モフモフ恐竜が口を開けて来る。

「にゃろ!」

俺は上段に見せつつ、恐竜の巨大な足元に滑り込みながら、ニワトリのような足を払い切る。


焼き鳥は「ギャンゴォ!」とウルトラ怪獣のような叫び声を上げた。


恐竜のモフモフした両脇が左右にバッと広がり、巨大な翼が現れた。

「まさか翼竜?!」

翼をはためかせ突風を巻き上げながらモフモフ恐竜は空に飛び上がった。


あ…ホントに飛びやがった。デタラメにもほどがある。

焼き鳥は空中で反転し、巨大な口を開けながらこちらに襲って来た。

ウギャ!ちょっと待て、空からなんてズルいぞ焼き鳥!


また逃げようとしたその時、翼竜の顔に矢が突き刺さって翼竜がよろめいた。

振り返ると巨大な岩の狭間(はざま)からフォールが弓を連射している。すごく正確だ。

その背後でボルゲルがのん気に手を振っているのが見えた。どアホう!


翼竜はきびすを返して岩の狭間(はざま)に向かって襲いかかるが、フォールたちは巨岩の奥に逃げ込む。

翼竜は岩の狭間(はざま)に誘い込まれ身動きが取れない状況になった。


なるほど、あえて岩の隙間に誘い込んだのか!さすが冒険者。


『ふむ。あの人間め、なかなかやるのう、勝てるチャンスじゃぞ、勇者ベロンよ』

また頭の中の声がヒントだけを出して来る。


え?どうやって倒すの?


ふと巨岩の上を見上げるとかなり高くまでそびえ立っている。


あ!なるほど。

あの岩を崩せば、あのまま恐竜を潰せるんじゃねぇかな?

「よっしゃ!」


俺はモフモフ恐竜の脇をすり抜け、鳶口(とびくち)の重力操作を使ってダダダダッと巨岩の上に駆(かけ)登った。

20mほどの高さはあるか。

岩の上から見下ろせば、岩の狭間(はざま)に恐竜が頭を突っ込んでガリガリと暴れているのが見えた。


その奧にフォールとボルゲルが見える。

「お〜い!お前ぇら、奥に逃げ込めだべ!」

俺の声を聞いてフォールが作戦を察したらしい。ボルゲルのアホを引きずりながら岩の狭間の奥に逃げ込むのが見えた。

さすが元冒険者だ、判断力が早い。


ヨシ!それでいい。行くぞ!

「ダブルトマホウク!」斧が赤く光った。


巨岩のてっぺんから駆け降りながら斧で一線を引いて行く。

一直線に巨岩に深い彫り込みが入ると、いきなりバクン!と亀裂(きれつ)が走り、巨岩は自重で斜めにズレ込み始めた。


よし!追い口切りだ

追い口切りというのは木樵(きこり)が大木を伐り倒す時に反対側から切り込むアレだ。

岩の反対側に回り込み重力操作ジャンプで空中に「トウ!」と飛び上がり、

そのまま空中から斧を叩き込む。

「ダブルトマホウク!八相発破(はっそうハッパ)」

斧を赤熱化させて全力で岩の亀裂(きれつ)にブチ込んだ。


巨岩は真っ赤に溶けて亀裂が走り、弾ける様に崩れ落ち始めた。

巨大な岩盤が崖の狭間(はざま)に雪崩(なだれ)込んで行う。

膨大な粉塵が舞い上がり、その奥から「ギャンゴォ!」とウルトラ怪獣のような叫び声が聞こえ、やがてモフモフ恐竜は崩れ落ちる巨岩に潰され埋もれていった。


粉塵が消えると岩の下にわずかに恐竜の尻尾が見える。

モフモフ恐竜は完全に岩石の山に埋まってしまったようだ。


勝った!


あ…いやちょっとまて、俺は重大なミスに気づいた。

「しまった!焼き鳥一年分が…」


モフモフ恐竜は崖崩れに潰され埋まってしまった。

夕陽の中、俺は巨岩の上で悲しみに耐え、涙を浮かべた。


つづく!だべ

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