第12話 早起きは三文の得…調子に乗りすぎました

珍しく早朝に目が覚めた。


いつも起こしに来るルツもまだ来ていない。


これは早く起きすぎたかな。


だが、今日はヘルを探しに行く旅。


興奮するのも仕方ないだろう?


そうして、寝間着をいつものローブに作り替える。


たまには早朝の澄んだ空気でも吸うか、と思い部屋を出て広間へと抜けた。


すると


 シュッシュッ


セラが広間の掃除をしていた。

 

 「セラ、おはよう」


セラはビクッとして


 「はっ――!お、おはようございます」


とお辞儀をした。


そんなに驚かなくても。


 「そんな、いいよいいよ。それより、いつもこんなに早いの?」


 「はい、このくらいの時間です」


 「もしかして、4人にそうするように言われてない?」


 「そんな!私が勝手にやっています!」


 「無理しなくていいからね?」


 「いえ!とても楽しいです」


サラの笑顔が、すがすがしい朝日と相まって、とてもまぶしい。


よし、掃除を手伝おう。


 「掃除手伝うよ、サラ」


 「そんな!もう終わりますので!!」


そういうと、もの凄い速さで箒を使い、一瞬にして掃除を終わらせていた。

なんという速さと手際の良さ。

魔法か?


 「なんか…ごめん、手伝えることはないかな」


 「いいのですか?」


 「もちろんだとも」


 「では…いつもはルツさんかウルさんに手伝ってもらうのですが―」


 「ほう?」


山の中を疾走する。


セラのお願いは単純であった。

食料の調達である。


そのくらいなら文字通りの朝飯前。


そして1匹大きいのを見つけた。


相手は歴戦のイノシシ。


普通の個体と違って若干魔力を帯びていた。


昔では考えられない。


もの凄い鼻息とスピードで突進してくる。


これだけの個体、どれほどおいしい肉を持っているのだ。


で、あるならば。

全力で相手をしよう。


昨日はせっかくの戦闘で何もできなかったし。


色々魔法も試したいしね。


今回はこれだ。


 水雷混合魔法 ライレイン


先ほどまで快晴だった空は一瞬にして曇り出した。


その雲は密度を上げ黒雲と化す。


雲から溢れる雨は、イノシシの頭上にたまり、降り注いだ。


イノシシは溺れて何もできない。


そこに追撃の、落雷。


魔力を帯びたイノシシは見事に丸焼きになっている。


完璧だ。


これも実戦で投入できそうだ。


壮絶?な戦いが決着を迎え、城へ戻った。


入り口付近でびしょ濡れのサラがいた。


 「キノコを採っていたら急に雨が」


 「うん、ごめん!」


 「なぜウィスト様が謝るんでしょうか?」


 「何でもない!ほらイノシシ!」


 「これは、みたことがないです!やる気がわいてきました!」


びしょびしょのままキッチンへ向かうサラ。


 「ちゃんと拭くんだぞー」


 「はい!」


風邪ひかないといいけど。


さて、まだ時間もあるし、何をしようかなと思い振り返ると、ルツが真後ろに立っていた。


  「お、おはよう、ルツ」


  「あ、おはようございます」


びっくりしたな。

何故だろう。

ルツがとても疲れた顔をしている。

こういう時は、しっかり聞いておこう。


ルツの手を引いて部屋に向かった。


  「ルツ?どうしたの」


  「だって…―」


「だって」ルツがあまり言わないセリフランキング上位に入りそうな言葉だ。


  「朝起こしに来たらいないんですもの!毎日楽しみにしてるのに!しかも昨晩はエリに先を越されるし!」


  「ええ、なんかごめん、気を付ける」


  「い、いえ…今のはただのわがままなので聞かなかったことに―」


ルツは顔を赤くして、銀色の髪の毛先をクルクルと指で回している。


  「それに、あれほどの大規模な魔法を使って大丈夫だったのですか?」


  「え?あ―――」


調子に乗って忘れていた。


近くにはセラの元々住んでいた集落がある。


あれほどの雷雨、被害が及んでいるかもしれない。

それに、ある程度の手練れが居た場合、場所を特定されかねない。


まだ残り3人が起きるまで時間はある。


 「ルツ、念のため集落の様子を見に行こう」


 「よろこんで!」


ルツは俺の失敗を喜んでないか?

そんなことも思ったが、第一が自分のミスなので、黙って集落の様子を見に行くことにした。

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