第11話 エリは夜になると積極的…

今日の一連の出来事を、部屋で一人思い返す。


急に襲ってきたあの吸血鬼。


言動にも不可解な点が多かったが、一番脳裏に焼き付いていたのは、あの匂い。


――どこで嗅いだ匂いだろう。


窓の外に浮かぶ月を見ながら、ぼーっと思い出していると


 コンコン


小さくドアをノックする音。

 

「入ってもいいですか?」


エリの声だ。


「いいよ」


 ガチャ


静かにゆっくりとドアが開く。


「…夜遅くにごめんなさい」 


エリは、黒色の少し透けた肌着姿でそう呟く。


「大丈夫だよ、どうしたの?」


「…ずっと悩んでた?」


「―――」


エリは天然っぽい、それゆえか凄く鋭く、際どいところにも気が付くのだ。


「――ばれちゃった?」


「うん…昔みたいに…教えて?」


そう言って、エリは布団に潜り込んできた。


懐かしい。


100万年前も同じようなことがあったな、と思い出す。


「エリは鋭いな」


「あ…ごめんなさい、キバ出てた?」


「違うよ」


エリと体密着し体温が伝わってくる。


少し安心して、緊張がほどける。


「実はさ、今日吸血鬼と戦ったんだけどね、匂いがしたんだ」


「匂い…?」


「その匂いが思い出せなくてね」


「どんな匂いだったの?」


「表現が難しいな…薔薇のような―」


「もしかして、ヘラ―—?」


はっ――――。

そうだ。

少し甘い薔薇の香り。

黒色のきれいな髪をした悪戯好きの吸血鬼。

6人のうちの1人である「ヘラ」の香りだ。


でもなぜだ。

なぜ、その香りがあの吸血鬼から?

あの吸血鬼は逃走の際、王都とは違う方向へ逃げていったため、違う派閥なのかそれとも名もないどこかに拠点でもあるんだろうか。


彼女の眷属なら構わないのだが、何者かに利用されている可能性も考えられる。


急いで、あの吸血鬼が去って行った方へ向かおうと起き上がる。

が、エリにグッと止められた。


――エリは数秒俺の唇を奪う。


「夜は、相変わらず積極的だなエリ」


「一番乗りだね―?」


エリがそう返答した途端。


 ダッタッタ


いくつもの足音が迫ってくる。


「う…なんで気が付かれたの」

 

エリは布団にもぐり震えている。


 ガッチャ!


トガ、ウル、ルツが息を切らしながら、こちらを睨んでいる。


「エーーーーーリィーーーーーー?!」


トガは顔を真っ赤にして、布団を捲った。


布団の中で丸まっていたエリは、ダンゴムシのようだった。


「一人で抜け駆けしないって約束だったでしょ?!」


「エリ、反則です、それが許されるなら毎朝布団を占拠するのは私です」


「なんでさ!僕が一番がよかったのに!」


「それにしても、なんで3人ともそんな薄着なんだい?」


エリを攻める3人に質問を投げかける。

 

「「「っ――――――」」」


「いいから離れなさーい!」


トガがいつまでもくっついているエリを引っ張り上げた。


女とは種族問わず怖いものだ。


「あのさ、3人とも」

 

蔑むような冷たい目で3人から睨まれた。

なんでそんな目で見るのさ。


「エリとは何もないよ」


「「「ほんとですかぁ?!」」」


「ほんとだよ、そうだ、エリのアドバイスのおかげで、ヘラの場所が分かったかもしれないんだ!」


「「「―――ええ?!」」」

 

夜の城内に3人の叫び声が響き渡った。


もし見つけることができれば、皆を置いて出て行ってから4千年ぶり、俺は100万年ぶりの再会になるのか。


それは驚くだろうな。


もしかしたら、だめかもしれないと心のどこかで思っていたが、そのモヤモヤもキレに晴れた。


明日の朝は早そうだ。


4人を返して眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る