第10話 たまたま、吸血鬼に遭遇

謎の黒い影の襲撃。


影から延びる赤い針が襲ってくる。


しかし、俺の目前でトガとウルが、軽々と手刀で針を壊す。

俺がかっこよく防ぎたかった。


 「ウィスト様、吸血鬼です。捕らえますか?」


 「そうしよう」


トガは的確な提案をする。

そう、吸血鬼。

情報を聞き出せるかもしれない。


でもそれはおかしいのだ。

なぜなら、この真昼間に太陽の元へ出ているのだから。

並みの吸血鬼ではありえない。


もしかして、真祖か?

いや、そんなはずが。


謎が深まる。


よし、この吸血鬼から、色々と聞き出そう。


ひとまず、解析魔法「お?」を発動し、吸血鬼の力を明らかにする。


 「二人とも、ざっくりとだが、5千年ほどの血統だぞ」


 「私たちの敵ではないですが、そんなに貴重な存在が一人で?」


 「なんでもいいから、やっちゃっていい?」


 「だから、とらえるのよウル」


 「はーい」


ウルは一旦置いて、トガも疑問に思っている。


5千年も生きた吸血鬼。


100万年前であれば、国の中心部にいるような存在。


そう考えると、やはり真祖なのか。


だが、それがたった一人で最前線に?


彼らは戦闘になれば単独戦を選ぶ傾向にあるが、戦略は緻密に練っていた。

むざむざと主戦力を領境に置くだろうか。


謎だなー。

まぁ、このくらいなら城を破壊したときに使った「微小魔力放出「え?」」くらいで倒せそうだが。

一旦様子を見るよう。


初撃を二人が防いだところで、吸血鬼は距離を取った。

吸血鬼は黒髪の男。

針のような形状の血が、男の周りに浮いている。

 

 「何者だ貴様―――?」


吸血鬼はこちらに質問を投げかけてきた。


 「ただの一般人です」


 「今の一撃を簡単に躱しておいてか?」


 「あはは…―」


厳しい追及。


膠着状態。


生ぬるい風が気持ち悪い。


 「あのー話し合いませんか」

 

 「――死ね」


交渉は失敗に終わった。

 

無数の血の針が不規則な軌道を描き、全方位から畳みかける。


しかし、新参者の吸血鬼に、最古参の彼女たちは辛口対応だった。


 「ウィスト様を狙うなど、100万年早い!」


 「トガ、文字通りの100万年だね!」


そう言って、二人は手刀で軽々と血の針を破壊する。


 「な―――このブラッド・クオリティを、いとも簡単に!?」


やはり二人ともかなり強いな。

粉々になって空中に舞う、凝固した血。


あれ、なんだろう、どこかで嗅いだことのある匂いだ。

でも思い出せない。


トガは吸血鬼に問う。


 「あなたの目的を教えてもらってもいいですか?」

 

 「―――――」


吸血鬼はこちらを値踏みするように見渡すと


 「―――ここは引かせてもらおう…」


そう言って、吸血鬼は王都とは違う方角に向かって去っていった。


 「二人とも大丈夫?」

 

 「追わなくていいのですか?」

 

 「なんだろう…すこしだけ嫌な感じがする。それに罠かもしれないし、まだ状況が把握できていない今はやめておこう」


 「ですね」


トガは納得しているが、ウルは戦いたくて仕方なかったのだろう。

悲しげな顔をしている。


あのレベルの吸血鬼であれば、相当な数の仲間や眷属を連れている可能性がある。

抵抗すれば、かなりの吸血鬼が襲ってくるかもしれない。


それにしても…だ。

真祖級の吸血鬼がこんな最前線に一人でいるのはおかしい。


やはり、この王都周辺の探索は、情報が少くては危険が伴う。


当初の計画通り、辺境の場所から情報を集めていこう。


  「さ、一旦帰ろう」


  「「は!」」

  

 転移魔法テレポスイス


一瞬にして、拠点に帰った。


 ギィィ


城の戸が勝手に開き、いやルツとエリが二人で開けてくれた。


 「「「おかえりなさい」」」


3人が出迎える。


 「ただいま」


 「たっただいまー」「大丈夫だった?」


 「何の問題もありませんでした」


どうやら外出中に異変はなかったようだ。


楽しみだった食事は、考え事のせいであまり楽しめなかった。


しかし、5人に心配をかける訳にはいかないため、笑顔で振るまった。


主であるなら、それくらいのことはしないとね?


日は沈み、夜を迎える。


どちらから攻略するか。


色々と思考を巡らせる。


この日の夜は、寝付くまで時間がかかった。


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