第8話 セラの運命の日
私はキガタ・セラ。
人領の山間の集落に住む足手まとい。
数年前、お父さんお母さんが事故で死んでしまって、盲目の私は一人になった。
小さな集落で、子供なんて私ともう一人ぐらいだった。
でも実は家族がもう一人いる。
それは兄。
兄の名はソラ。
キガタ・ソラ。
私と同じ茶髪の元気で優しい兄だった。
といっても、小さい頃だったので記憶はとても朧気で、曖昧。
詳しくはわからないけど、剣を振るのが上手だったんだって。
眼がほとんど見えない上に、幼かった私には、その技がどの様なものなのか、わからないけれど。
それで、お父さんお母さんが亡くなる少し前に、推薦をもらって都の方に行ってしまった。
そして兄が旅立ってすぐ父さんと母さんは死んでしまった。
原因はよくわからなかった。
色々と聞かされた記憶はあるけど、どれも記憶には刻まれることは無かった。
でも、いなくなってしまった両親のためにも頑張らないと。
そう自分を鼓舞していた。
私は一人だったけど、ずっと好きだった料理のおかげで何とか、生きていくだけの居場所はあたえられた。
でも――――誰も話してくれない。
腫物を触らぬように避けていく。
料理を作るだけの機械と変わらない。
ほとんど目は見えないけど、冷たい視線を感じていた。
ある日、いつものように集落から少し離れた果実農園に不足していた色んな果実や食材を取りに行った。
その時。
ドォォォォン
と、もの凄い音が鳴り響いた。
――――――何だろう。
音の方向には確か、廃城があるんだっけ?
しばらくして、もの凄い音と地面の揺れがあった。
――気になった私は、少しづつ音の方へ歩き出す。
目は見えないから、転ばないように、音の聞こえたほうに真っすぐに。
日が沈みかけていることに気が付いた。
―――――あぁ、戻らないと。
でも………もう、どうでもいいかもしれない。
私は、必要とされていない。
料理を作らされるだけの、ただの道具。
家族のように、料理を食べても笑ってくれるわけでもなく、喜んでくれるわけでもなく、褒めてくれるわけでもない。
皆が腫物を避けるように―――誰も話しかけてもらえない。
ならいっそ――。
濃く霞んだ視界を抱えて進み続ける。
――――全てを諦めていたその時…硬い何かにぶつかった。
「もしかして――これが廃城なのかな?」
目はほとんど見えないが、近距離であれば、何となくぼやけてみることができる。
廃れ切って、崩れるだけの苔むした廃城がある―――と聞いた記憶が蘇る。
殆ど見えない視界では判断はつかないけれど――廃城とは思えない程、その城の外壁である石造りの壁に触れた手のひらは、滑らかでひんやりと冷たく――輝いているように感じる。
もしかしたら廃城ではなく、ただの民家なのかもしれない。
――自暴自棄になっていたところもあるだろう。
その壁を辿っていき、その先にあった木の戸を勝手に開けた。
ギィィィィ
スッ―――
ギュウゥゥ
すると、何もわからないまま、一瞬で両手を後ろに拘束された。
『ころす』
二人の女性の声。
その声からは明確な殺意が感じ取れた。
ああ、これで終わる。
いや…やっと終われる――。
怖かったけど、自然とその状況を受け入れた自分が少し情けなくなった。
そして――。
―――――――――。
だが、望んでいた結末は訪れなかった。
目の前には、誰かが居る。
濃い霧がかかった視界の先にぼんやりと浮かぶ影。
掛けられた優しい声につい、本音が漏れてしまう。
何を早口で話したかあまり覚えていない。
目の前の彼が何かを唱えた瞬間だった。
だが、気が付いた時には―――。
見えた。
観えた。
視えた。
霧が―――晴れた。
広がるのは、大きく立体的に展開される多彩なキャンバス。
生まれて一度も見たことのなかった霧のない景色。
それは、一生叶わないと思っていた願い。
それが、今、叶った。
目の前には―――――夕陽で照らされる黒いコートを着た男。
この時には、もう、一生かけて恩を返そう。
そう決めていた。
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