第7話 盲目の彼女は、生まれて初めて”夕焼け”を見る

せっかくの侵入者兼情報提供者を殺されてしまっては敵わないため、急いで駆けつけることにした。


 転移魔法テレポスイス


入口へ一瞬にして転移する。


「ふう」


どうやら間に合ったようだ。


目の前で10代前半程の茶髪の若い娘が、トガとルツに手を拘束されている。


目を凝らして解析魔法「お?」を発動する。

ああ、なんて恥ずかしい魔法。


だが、その若い娘から魔力は全く感じられないし、外付けの道具もない。

手には木製のかご。

その中にたくさんの木の実が入っている。

洗脳されている気配もない。


これは…冤罪ですね。


「トガ、ルツ、ダメだよ。その人は敵じゃないからすぐに離して」


「「す…すいません、直ちに!」」


一瞬にして二人は俺の後方に下がった。

よろしい。


「ごめんなさい、急に城に入られたから驚いてしまってね。彼女たちも仕事で仕方なかったんだ。この通りだ。許してほしい」


そう深々と頭を下げる。


後ろでトガとルツは泣きそうになりながら、「ウィスト様に頭を下げさせてしまった…」と猛烈に反省している。

そうそう。

直ぐに敵と決めつけるのはよくないからね。


すると、茶髪の女子は朦朧とした目でこちらを見て、答える。


「そんなことありません。私こそ勝手に戸を開けるなど大変無礼でした。私は近くの小さな集落に住んでいるのですが。貧しい集落で稼ぎは果物を狩るくらいなのです。」

 

周囲をよく見渡す。


確かに少し先に数軒の家々が見えた。

しまった、もっと早く気が付くべきだった。


久しぶりの外界や、彼女らとの再会で舞い上がっていたのが原因だろう。


茶髪の彼女は続ける。


「少し前なのですが、果物を取っている最中に、大きな衝撃音や地鳴りがしました。気になって音の方向へ歩いていたら、この建物に出会いまして」


「なるほど」


であれば、この件、俺の責任で間違いない。


「はい、ですが周囲が暗くなり始めていることに気が付きました。私は、両親は他界しており、生まれつき目が悪く、数メートル先しか見ることが叶いません。収入の少ない集落で唯一の足手まといで――。ですので少しだけ――」


と喋っている途中の彼女を遮る。

ああ、なるほど。

その表情から、かなり追い詰められて疲弊しているな、と思った。

だからその瞳が朦朧として見えたのか。


「大丈夫、安心して泊っていくといいよ。私はウィスト・メルキオール。ウェストでいいよ?あなたは?」


「ウィスト様、ありがとうございます。私はキガタ・セラと言います」


「セラって呼んでいいかい?」


「はい!」


「よし、じゃあ――」


夕焼けはもう数刻で地平線の向こうへ沈むだろうか。


じゃあ―と言って、彼女の両目に片手を当てる。


「あ…あのウィスト様?」


 治癒魔法ホーリーヒレィ


決まった。


やはり魔法はこうでなくては。


「あ…あ…―――――――――」


彼女の瞳から霧が晴れる。


「こ…こ…こんな―――――――」


「見えるかい?」


「は…はい――――」


「きれいな夕陽だね」


「――――――――――――」


彼女の口は動いているが、今は声が出ないようだ。


それはそうだろう?


生まれて初めて、この世界を見たのだから。


夕陽は少しづつ沈み、夜を迎えた。


しばらくして、皆で城の中に戻った。


豪華絢爛、きらびやかなお城。


セラはあちこちに目移りしている。


「さて、ご飯ご飯」


「あ…あの…」


セラは心配そうな顔を浮かべる。


「どうしたの?」


「私もいいんでしょうか?」


「もちろんだとも、このお城ぴったりの豪華な――あ――」


「?」


しまった。


狩ってきたイノシシはまだ捌いていない。

うん、というか捌けない。

料理なんてしてこなかったからね。


さっきは勢いで取り掛かろうとしたけど、やはりこの中で一番料理の上手いトガに任せよう。

トガの方を見ると、「もちろんやりますとも」みたいに腕まくりをしている。


頼もしいなぁ。


「ト―」


トガを呼ぼうとした瞬間、セラが話し始めた。

 

「も…もし私でよければ、料理します!」


「ほ…ほう?」


トガは俺と共に厨房に、残り3人はセラのことが気に食わないのか、ジト目で睨みながら、広間に向かった。


セラは厨房に立った。

そこからは見事なものだった。

イノシシはきれいに解体され、きれいに捌いている。


これはステーキになるのかな。


さらに、元々持っていた果物と一口大の肉でスープなんかも。


特に調味料もなかったのに、なぜか香辛料の香りすらしてくる。


なんで?


厨房を超えて、広間にまで匂いが漂ったのか、残り3人も厨房に駆けつける。


トガはと言うと、涙を流しながら服を噛んでいる。


まだ食べてもないけどね?


「できました!」


セラの声が厨房に轟く。

料理を運ぶ途中に、なぜそんなに上手いのかと尋ねると、集落の料理を担当していたからだそうだ。


なるほど。

 

「セラは、みんなから必要とされていたんだ」


「いいえ…辛うじて面倒を見てもらっていた…と思います。料理を作る以外には誰も喋ってもくれず――」


どうやら、数年前養ってくれた両親が事故で亡くなって以降、足手まといと認定され迫害に近いことをされていたようだ。


ゆるせないな。


そうこうして、広間に用意した大きな机にみんなで腰かけた。


客人をもてなすのに、いつもの小さな円卓では―と思って作っておいた。


「4人とも元気ないね」


「いつもの机がいいです」


「えーでも―」


「いつもの…とは?」


セラは首をかしげる。


小さな円卓の話をすると「そっちがいいです!」と見つめられたので、仕方なく机を小さくした。

 

机いっぱいに料理が並ぶ。


距離も近いため、お互い方が当たりそう。


「まぁ食べよっか。いただきます」


『いただきます』


俺含め、皆セラの料理に感動した。


あの食材でなぜこんな味が出せるんだ。


魔法ではないのかと思ってしまうほど。


トガは泣きながら食べてるし、残り三人は「まぁ―ゆるしましょう」と言って黙々と料理を食べている。


もっといい食材を持ってくれば、さらにすごいものができるのでは――。


いつの間にか4人とセラも打ち解けて、色々と話をしている。


料理はきれいになくなった。


「おいしかった。ありがとう、セラ」


「いえいえ!私こそ目を直してもらって、しかもこんなに楽しい思いができて、どうやってこの御恩をお返ししたらと、悩んでいます」


大したことはしてないけどね。


「もしなんだけど、セラが良ければうちで働かないかな?」

 

「え――」


普通そうだろう。


急な誘いだったし、仕方ないか。


「ぜひ、お願いします!!!」


城中にセラの明るい声が響く。


意外な返答に驚く。


「いいの?目は見えるんだし、集落の人ととも話せると思うけど」


「この御恩、一生かけて返していきます!」


「そんな気にしないで――」


そうして、新なメンバーが加わった。

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