第6話 初めて見るビル群
山を駆けて街を目指す。
それも、もの凄い速度で。
当初身体強化の魔法を使っての移動を考えていたが、軽く足に力を込めて走り出したところで、その魔法が不要だと感じて使わなかった。
なぜか。
肉体がとんでもない力を宿していたからだ。
少しの蹴り出して地面が抉れ、周囲の空気が揺れた。
そして、そこから数100メートル走った…いや跳躍した。
最初は彼女たちも戸惑ったようだったが、負けじと着いてくる。
しかも目を輝かせながら。
100万年と言う月日は、魔法だけでなく、体すら強化してしまった。
そう――――吸血鬼の力によって。
吸血鬼には知られているだけで3つの身体的特性がある。
1つ目は、吸血。
人の血を吸うことで、己とエネルギーとしている。
誰もが知っているだろう。
2つ目は、月光。
闇夜に映えるその月明かりによって性能は大幅に上昇する。
そしてこれが重要3つ目。
年代の積み重ね。
吸血鬼は長く生きれば生きるほど、肉体と血が強化される。
血も吸っていないし真昼間であるため、今の力は3つ目の特性によって体は大幅に強化されたのだろう。
こちらも使い方を気を付けなければ。
早く気が付いてよかった。
街に出てからでは、大惨事なっていたかもしれない。
跳躍から着地すると、力を調整して駆け足程度に速度を落とす。
そしてしばらく走ると、見たことのない高く聳え立つ謎の塔群が現れた。
なんだこれは。
初めて見る光景に若干怖気づく。
100万年前であれば、貴族は石造りの城で市民は土レンガか木造の家が一般的。
魔法使いは階級によって異なるが、最上階級だった俺は前者に居を構えていた。
「あれはなにかな」
「あれは、人が”ビル”と呼ばれる高層建築物!」
ウルは笑顔で問いに答える。
他の3人も驚いている様子はない。
みんな生き続けていたのだから、当然か。
「ありがと、ウル」
ウルは顔を赤らめて照れている。
すると他の3人は羨ましそうにウルを睨む。
ウルはニヤッと3人を見つめ返して速度を上げた。
トガとルツは
「「こらーーー!」」
と同じくウルの後を追いかける。
何をやっているんだ、全く。
だが、昔もこんなことあったな、と思い出して懐かしい気持ちになった。
うん、見守ろう。
そんな彼女らを見ながら、道中、たまたま見かけたイノシシを狩った。
これを晩御飯しよう。
イノシシを引っ張りながら、駆ける。
そうこうしている間に、街のすぐ手前まで着いた。
街というか都市。
「ごめん、聞きたいんだけど、これはなんて場所なの?」
「もちろん、人領王都ノルナエッダでございます」
「そうか――」
え、王都ってことは人領の中枢じゃないか。
なぜしょっぱな、そんなところを案内したんだ。
まぁ、いいか。
今回は見るだけで何もする気はないし。
それにしても―――すごいな。
都を目の前に、さらに驚いた。
すごいのは、ビルと呼ばれる建物だけではない。
地面から空を飛ぶ謎の物体まで。
何もかもが目新しい。
昔であれば、地面など石畳であったし、空を飛ぶなんて大気魔法等をある程度身に着けたものしかできなかった。
そして人々から魔力を感じ取れる。
だが、その魔力は体内から生み出しているのではなく、外着けの装飾品や不思議な形をした鉄塊に籠っている。
物体に魔力を込めてあるのか。
それも、ざっと見えるほぼ全ての人々から感じ取れる。
昔にも魔力を込めた武器なんかはあったが、製造方法が神級以上の錬金魔法使いにしか作れなかったため、大変貴重だったはず。
それがこんなに。
色々と確かめなければ。
「なんかすごいね」
『ウィスト様には遠く及びません』
「あ…うん」
見事なシンクロボイス。
打合せでもしてる?
共感してほしかったが、どうやら難しいようだ。
「じゃあ、行こうか」
「待ってください、ウィスト様」
「ん?いかないの?」
「これより先は、我々のような体内に魔力があるものが侵入すると、大きな警報がなるのです」
「そうなの?結界は張られてないけど」
「そうなのです、結界は無いのになぜか。何度も挑戦したので間違いありません」
「何度も挑戦したんだ」
「はい、強行突破もできなくはないですが、あまりに敵も多く」
「敵?」
「はい、あの人々すべてが魔法を行使します。100万年前であれば天使級ほどに」
「なんと――!」
100万年前、魔法使いには階級7つあった。
初級
中級
上級
超級
賢人級
天使級
神級
賢人級まで行けば、専用の研究室が与えられるほどには希少な存在だったが。
色々と気を付けなければと再確認する。
目を凝らして街を眺める。
ジーーーーー。
彼女たちの熱い視線を感じるが、気が付いていないふりをした。
「お?」
かなり細かい、普通の目視では見えない小さく無数の粒子が宙に浮いている。
解析を始めた。
この国はそこら中に魔力があるため、気が付きにくいが、粒子一つ一つが魔力を帯びている。
それに触れた瞬間、この魔法の操縦者に見つかる寸法か。
「わかったよ」
彼女たちに、都市に入ると同時に見つかってしまう原因を教えた。
「なるほど!解析魔法「お?」は、私たちではこの数千年見抜けなかった魔法を一瞬で」
…。
エリがそう呟いたせいで、ほかの3人が『なるほど』と頷く。
なんでこうなってしまうんだ。
もっとかっこいい名前がいいのに。
例えば、封印を解除したときの
封印解除魔法クインタス
みたいな名前がいいのに。
恐るべし、エリ。
それにしても、それなりに高度な魔法。
100万年前であれば探知魔法の神級は間違いない。
まぁ、今すぐにでも、真似事はできそうだが。
現状であれば、無数に突破策はあるのだが、情報が少ないこの状況で、無理に攻める必要は無いか。
「いいものを見たよ、一先ず拠点に帰ろうか。作戦会議といこう」
『はい!!!』
そう言うと、自身と彼女に向けて魔法をかける。
よし、今度こそ決めよう。
即席で自身はないが…これで行こう。
転移魔法テレポスイス
すると、一瞬にして拠点に転移した。
「転移魔法テレぽすいとす―す…すごい」
トガが驚きながら称賛してくれた。
他の三人も同様に驚いている。
その驚く顔うぃいね!
そして「え?」「お?」みたいな意味不明な魔法名称も避けれたし。
100万年前も瞬間移動は存在したが、個人でなせるのは神級であっても、目視の範囲。
それ以外の転移など、国家レベルで魔法使いを集めなければできなかったが、容易であった。
ただ、行ったことがあるところしかイメージできない上、現状3ポイントまでしか位置を登録できず、消費も激しい為、まだまだ改善の余地はありそうだ。
城内の窓から夕陽が差し込む。
もう今日も終わりだな。
再び円卓に座って、顔を見合わせる。
みんな、そんなにこっちを見つめなくても。
言葉を発するのを今か今かと待っている感じだ。
期待が重いな―と思いながら、次の作戦を提示した。
「次は吸血鬼の国を見に行こう。あちらの情報も必要だ」
『はい!!』
とは言え、夜になれば吸血鬼の力が高まってしまう。
出発は明日からかな。
シンクロ返事の後にウルが続けた。
「今すぐにでも出発できます」
身を乗り出すウルに優しくチョップをする。
「うへっ――だめですか?」
「夜だからね、あぶない」
「はっ―――!」
とウルは窓の外を見て驚いている。
時間を忘れるほど、楽しんでいたのだろう。
「よし、夜ご飯を食べて明日に備えよう」
『はい!!!』
そうして、都市へ向かう途中で狩ったイノシシを捌こうと、取り掛かったその時。
ギィィィィイーー
城の扉が開く音。
あぁ、しまった。
カギはしていなかったっけ。
あれ、でも完全に気配を消したはずだし、あの霧を突破した?
様子を見に行くか、と振り向くと、今の今まで側にいた彼女たちはもういなかった。
せっかくの侵入者兼情報提供者を殺されてしまっては敵わないため、急いで駆けつけることにした。
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