第4話 ちょっとした昔話
世界に10人しかいない神級魔法使いと呼ばれたあの頃。
吸血鬼との戦争も真っ只中。
俺は戦争に興味がないため、強制的な指令以外は自らの研究を続けていた。
基本的に魔法使いは、一つの分野を一生かけて研究する。
ただ、専門だった創造魔法は神級に達し、続いて研究した気配魔法も神級に達し、属性魔法もいつくか極め、暇を持て余していた私に、王が対吸血鬼魔法の研究を行うように下命した。
対吸血鬼魔法。
それは国が躍起になって開発を進める分野。
多くの魔法使いが扱う分野。
ありきたりで、これ以上は見込めない、行き止まりの道。
そんな無駄な研究、やる気になるわけがなかった。
しかし、1魔法使いが王に反対はできないため、仕方なく取り組み始めた。
しかし、やる気がないため、研究班には属さず、実験材料集めに行くと嘘をついて、各地を探検していた。
ある時、吸血鬼領に近い山間部を一人探索していると、火の気が見えた。
山火事なら消しに行こう、と思い近寄ると、そこには6体の吸血鬼が居た。
それぞれ十字架に磔られ、太陽に焼かれ続けていた。
しかし彼女らは悲鳴を上げてない。
ただひたすら、焼き尽くされるのを待っているようで。
その状況を眺めることしかできなった。
しかし、よくよく見ると、皆泣いている。
涙はあふれた瞬間に蒸発するため、注視しないと見つけられなかった。
そして、「死にたくない」と口が動いていることに気が付いた。
そこからは衝動で動いていた。
近くの石に創造魔法をかけ、もの凄い速度で形を尖らせるように変形させ、十字架を砕き、足元の土に創造魔法をかけ、日を遮る屋根を作り出した。
すると、ふっと体を覆っていた火は消えた。
「大丈夫かい?」
「ありがとう―――」
6体のうち1体がそう喋ると、死んだように眠りについた。
彼女たちは、すやすやと寝ている。
吸血鬼の寝顔も人と変わらないな、と感じた。
こんな真昼間から十字架に磔にされるってことは、人に襲われていたんだろうか。
このまま人目につくところでは危険か、と思い一時的に身を隠すことができる洞窟を探すことにした。
周囲の木々を使って台車を創造し、全員を載せて動き回った。
肉体労働はあまり得意ではないが、たまにはいいだろう。
数十分後、洞窟を見つけた。
そこに彼女たちを入れる。
起き上がる前に逃げよう。
問題ごとを起こしたくないし。
最後に金髪の子を入れ終わったところで、それぞれが目を覚まし始めた。
「むにゃむにゃ」
どうやら寝起きなようだ。
当初の考えは失敗に終わってしまった。
「みんな大丈夫かい?」
『に…人?!』
彼女たちは驚きながら臨戦態勢を取る。
よく考えればそうか。
これは悪手だったかな?
「まってまって、戦う気はないよ??」
両手を上げる。
数秒の膠着状態の後、銀髪の女の子が喋り出す。
「みんな待って、冷静に。私たちは死ぬはずだったでしょ。もしかして助けてくれた人なのかも。でも人がそうする理由はわからないし」
「さっき、十字架に磔られ、日に焼かれていたところを見てしまってね。俺は吸血鬼と争う理由はわからない。恨みもない。不幸より幸せがいい」
銀髪の女の子の問いに、嘘偽りなく回答する。
『ありがとうございます』
すごい、きれいにそろったお礼を受けた。
なんて純粋なんだ。
「そんなお礼を言われることはしてないよ。したいようにしただけ」
6人はそろって首を横に振った。
ん―――かわいいな。
「君たちがなんで十字架に磔られ、焼かれていたのか、聞いてもいいかい?」
その問いに、黒髪の子が答える。
「今国では情報の漏洩事件が起こってて、その犯人が吸血鬼内にいるとなっている。それで、少しでも疑いのあるものは次々と処断されているの」
「なんだそれは…ひどいな」
「仕方ない、と思う。みんな焦ってるから」
「そんな…」
これが人との価値観の違いなのだろうか。
「この後、どうするんだい?僕も何の考えもなしに助けてしまってね」
「―――国には帰れない、6人で密かに生きていく」
青髪の少女はそう答える。
順番に答えるのは吸血鬼の習性なのだろうか。
研究結果で報告…いややめておこう、こんなつまらない事報告したら老害共からなんて言われるか。
それにしても、6人だけで生きていくとは。
しかも見つからずにとなると、かなり難易度が上がる。
勝手に助けておいて、その後放置するのも無責任だろう。
で、あるならば。
「よし、一緒に材料を集めにいこ」
『え?』
そうして皆で木や草、ほかにも色々と集めて、洞窟内に居住空間や家具を創造した。
6人皆唖然としている。
当然だろう。
今吸血鬼と人は、相いれないはずなんだから。
その驚く顔。いいね!
「いいの…ですか?」
「いいよいいよ、洞窟から出るときは気を付けるんだよ?入口は君たち6人以外には魔法で見えないようにしておくから」
『ありがとう…ございます』
なんてシンクロ。
良いものを見せてもらったよ。
外を見ると、日が落ち始めている。
余り遅れると、ほかの神級のやつらから怪しまれるかな。
「そろそろ帰るよ」
「行っちゃうの…ですか?」
紫髪の女の子がさみしそうな目で見つめてくる。
「はは、また来るよ」
「よかった…です」
「うん、じゃあね」
「あ…あの…名前…人は皆名前があるって聞いたことがあ…ります」
「あ、そうだね。僕は メルキオール・ウィスト だよ。みんなからはウィストって呼ばれてる」
「ウィスト…わか…りました」
「うん、そうだ。君たちの名前も聞いていいかな」
その問いに6人全員が戸惑う。
お互いに顔を見合わせた後、金髪の子が答えた。
「みんな名前はない…です」
少し悲しそうな表情。
「そうかー。なら僕が付けてあげようか?」
『え?!』
うんうん。
「ネーミングセンスがいいかはわからないけどね」
『お願いします!』
「じゃあ、右から――――」
全員に名前を付けた。
みんな小躍りをしている。
よほどうれしかったのか。
「吸血鬼は主に絶対服従…です。これから眷属としてウィスト様についていきます」
ルツと名付けた銀髪の子が真剣なまなざしでそう言う。
「ええ、そんないいよ、友達とかで。敬語もいらないし、様もいらない」
「それでは私たちが納得できないのです。敵であるはずの吸血鬼、それも6人も助けていただいた上にこんなに――」
他の5人も激しく首を縦に振って同意している。
どうやら何を言ってもダメそうだ。
吸血鬼がこれ程情に厚いのも初めて知った。
吸血鬼と触れることが禁忌とされるこの世界で、ばれたらまずいな…と思いながらかわいい彼女たちと関係を続けることとした。
こうして、本来敵同士であるはずの人と吸血鬼の歪な関係がスタートした。
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