第3話 拠点作り

 堅牢に見えたその牢獄の壁面を一瞬で破壊した。

 

 別に大した魔法を使ったつもりはない。

 壁を破壊したのは、複雑な術式も、名称もないただの魔力放出。


 壁に少し穴をあけて、外に出ようと持ったのだが、周囲は粉々に吹き飛んだ。


 側にいた4人は衝撃で吹き飛ばされそうになるが、なんとか耐えていた。


 周囲を見渡すとそこら中に瓦礫が散らばっている。


 辺りは山で囲われており、人の気配は無いため、何とか騒ぎにはならなさそうだ。


 散らばった瓦礫を見る限りだが、ここはどうやら城のようなの建築物と思われた。


 それをただの魔力放出だけで粉砕してしまった。


  「うーーーん、想像以上…」


 100万年間、意識の中で魔力を練り、術式を編み出し、他にもあらゆる訓練をしていたが、これ程とは。


 力の使い方には気を付けなければ、そう反省した。


 4人はと言うと、瓦礫を払いながら「さすがです」とうなずいている。


 時間は――昼。

 太陽が真上を陣取っている。


  「4人とも、日は大丈夫?」

  

 そう、吸血鬼の最たる弱点「太陽」。

 低位の吸血鬼であれば、一瞬で燃えて灰になる、吸血鬼の天敵の一つ。

 

 その問いにはエリが答えた。

 

  「うん、大丈夫です。私たちに掛けてくれたウィスト様の魔法は今でも解けていません」


  「よかった、こんな吹き飛ぶとは思ってなかったから、少し焦ったんだ」


  「これはなんて魔法だったんですか?」


  「え?」


  「なるほど、これほどの魔法、ウィスト様にとっては1文字で言い表せてしまうほど簡単なものなのですね」


  「―――そうだ…」


 つい、勢いで返事をしてしまった。


 今の「え?」を撤回しなかった自分を恨みたい。

 天然であるのエリは百歩譲っていいとしても、残りの3人も「なるほど」とうなずいている。

 できれば、指摘してあげてよ。


 この先色々と心配だ。


 だが、心配していては先に進めないため気持ちを切り替える。


 第1目標である2人の捜索には情報が必要。


 これからこの時代を把握するにあたって、拠点は必要だ、と思ったため瓦礫を粉々にして再構築。

 見事な城を作り直した。

 相変わらず、4人はうなずいている。

 驚いてくれてもいいんだよ?


 昔から色々あったとは言え、絶大な信頼は重いよと思った。

 それにしても、今の力ならおそらく何でもできてしまう、そう直感した。


  「よし、ここを拠点にして情報を集めよう」


  「情報ですか?ウィスト様なら一瞬でこの世界を手中に収めれるのでは」


 トガがとんでもない助言を出した。


 確かに、何でもできる気はするし、負ける気もしない。


 でも、その驕りや油断が、100万年前の失敗だったのかもしれない。


 あの頃とて、魔法使いの序列では1位だったのだから。


 これ以上、何かも失いたくない。


 それに、武力行使をすれば、情報が手に入るかもしれないが、それでは復讐の連鎖が続いてしまう。

 俺はひどい目にあったが、復讐の対象である彼らはもういない。


 魔法使いといえど、せいぜい長生きして100年程度。


 そもそも封印を掛けたあいつらは居ない。

 復讐の必要はないし、新たに復讐の連鎖の火ぶたを切る必要もない。

 態々、敵を作り、人を不幸にするような世界征服などする必要は無いんだ、無限の時間があるから。


 であるならば、だ。


  「それはしないかな。今、望みがあるとするなら、あの頃のように6人と一緒に過ごしたいな」


  『ウィスト様―――』


 4人は再び泣き出しそうになる。

 一人ずつ、ヨシヨシと撫でたところで


  「こんなところで話してても何だし、中で座って話そう」


 そう言って、4人と城へ入る。

 

 だが、城内は殺風景でただ広い空間が広がっている。

 うーん、これじゃあ味気ないよな。

 適当に7つの部屋とリビングからキッチンに浴槽、家具や装飾を具現化しまくった。

 昔であればできなかった芸当。

 なぜなら、この世界に質量保存の法則があるからだ。


 だが、100万年と言う月日は、世の理を壊してしまったようだ。

 まぁいいか。


 大きなリビングに小さな円形机。

 そこに5人で向かい合って座る。

 みんなの顔がよく見たいからね。

 

 さすがの4人も、唖然とし始めている。

 よしよし、これからも驚かせてその顔を見させてもらおう。


 席について一息したところでルツが話し始めた。


  「では、私たちの集めていた今の時代について、説明してもよろしいでしょうか」


  「おお、お願いするよ」


  「はい、では――」


 ルツの説明では、ざっくりとこんな感じだった。


 100万年の間に何度が文明が崩壊した。

 その大半が吸血鬼と人の戦争によるもの。


 どちらかが勝利を収めるのにも関わらず、気づけば文明が崩壊しているらしい。


 今の文明は新しく、1万年もたっていない。

 しかし、文明の崩壊と再構築を重ねるたびに、色々と進化しているらしい。


 特に変化が大きいのが、人類。

 今の文明の進化は目覚ましく、ありえない速さで進化しているとのこと。


 100万年前には、才能のある限られた者にしか使えなかった魔法を、「機械」と言う物を使うことで全ての人が使えるようになっている。


 

 とのことだった。

 

 なんということでしょう。

 

 進化していたのは、全体ということか。


 自分だけ強くなったのではと、少し思った自分が恥ずかしい。


 説明を終えたルツは


 「見に行かれますか?」

 

 と問うた。


 「もちろん、みんなで行こう」


 『はい!!』


元気な返事を聞き終えると同時に、城が見つからないために気配魔法をかける。


  気配魔法クモガクレ


周囲に霧を張り、城に不可視の魔法をかけた。


 今のところ周囲に人気は無いとしても、外出中に通りかかる人が居るかもしれない。

 通り慣れている人が居た場合、何もない山道に真新しい城が急に立っていたらおかしいだろう?


 話題になったり襲撃されても敵わないため、保険をかけておく。

 皆で集まった時に、静かに楽しく暮らすために。


 城の大きな扉を開け、4人と共に出発した。

 


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