【クトゥルフ神話TRPG】翔べない蝶の願い【現代日本】

三武武夫

翔べない蝶の願い

1. 概要


 このシナリオは“新クトゥルフ神話TRPGルールブック”に対応している。プレイ時間は3時間程度、探索者は3~5人向けにデザインされている。

 このシナリオは企業や組織間の探索に導線を置いている。最終的には強制的にイベントが進行されるので探索を行わなくとも目標の達成自体は可能だが、銀の黄昏錬金術師会を調べず、ルルイエが浮上しクトゥルフが復活してから、クトゥルフだけを倒そうとする愚かなプレイヤーの存在は想定されていない。探索において特に有用な技能は〈法律〉、〈経理〉、〈コンピューター〉、〈目星〉、〈隠密〉、そして〈近接戦闘〉だ。

 舞台は現代日本であり、季節は4~5月、探索範囲は主に東京都内となるだろう。探索者たちは中学生時代の友人である丸池まるち翔子しょうこから久々に会って話がしたいと連絡を受け、集まった先でとあるオンラインサロン主催のクラウドファンディングに出資しないかと言う話を聞かされることになる。


2. キーパー向け情報

 日本書紀にて語られる大生部多により祀られた邪教の神にして、日本最古の新興宗教の神である常世神の正体はイダ=ヤーとクトゥルフの間に産み落とされた不完全な邪神の幼体ラーヴァである。

 ラーヴァの見た目は緑色で蝶の幼虫の様な姿をしている。ラーヴァは不完全ながら人々に幻覚を見せることができ、644年の常世神による動乱はこの幻覚が原因である。ラーヴァは不完全であるが故に多くの贄を必要とし、その贄を食らうことにより蛹を経て、やがてクトゥルフの様な成体に本能的に変態を遂げようとしている。しかしながら、邪神として不完全であるのでどんなに贄を捧げようとも食料を食い散らかそうともクトゥルフどころか落とし子にすら変態することは叶わない。

 常世神信仰の開祖とされる大生部多もラーヴァにより洗脳された人間の1人である。日本書紀の中で大生部多は秦河勝に討伐されたとされているが、その生死は不明であり、彼はラーヴァによりこの現代日本までの1400年近くも生きながらえてきた。大生部多は既にラーヴァの完全なる奴隷としてその体質は人間のものから変容しており、人間としての寿命を迎える時期になると自身で蛹となり繭に数年籠もることにより、全身をゆっくり溶かし、新たな肉体へと変態をすることにより若返り、その時代により容姿や背丈、性別などを変えて生きてきた。

 大生部多はラーヴァの能力である幻覚も一部使えるようになっており、この能力を使い、それぞれの時代で富を築き上げラーヴァを変態させようと試みて来た。しかし、ラーヴァが不完全な神であるためにその試みは毎回失敗している。ラーヴァと大生部多はラーヴァ自身が不完全な神であることに気がついておらず、より多くの贄と食料が必要であると考えている。

 時は流れて現代、2020年代の日本、大生部多はネットアイドル潤(うる)水(みず) 美羽(みう)としてシンジュサンの保護を名目とした環境保全団体『グレート・キャタピラー』(偉大なる芋虫教団)の運営兼広報を勤めている。動画配信サイトなどでのフォロワーは100万人を超える人気を博しており、最近では様々な界隈から偉大なる芋虫教団の資金を募るために有名人とのコラボも増えている(勿論、洗脳をしている)。特に自身のファンイラストやクラウドファンディングなど積極的に協力を行ってくれる酉(とり)野(の) 売(うり)廣(ひろ)との関係は偉大なる芋虫教団の大きな資金源の一つになっている。


偉大なる芋虫教団

 偉大なる芋虫教団は大生部多である潤水美羽が運営および広報を務めるシンジュサンの保護を名目と 

して活動する環境保全団体『グレート・キャタピラー』のことである。

 偉大なる芋虫教団は『Miu ch. 潤水美羽』と言うチャンネルを動画配信サイトに公開しており、そのチャンネルにて広報活動や支援者やリスナーと交流をしている。勿論、彼らの投げ銭やメンバー登録費用はラーヴァの文字通り食事になっている。

 偉大なる芋虫教団の現在における目的は大量の紙幣と贄となる信者を集めることである。贄は言わずもがな信者の持つ魔力(POW)のことであるが、紙幣もラーヴァにとって重要なものとなっている。日本の紙幣である和紙の材料の中にはカミノキの別名で知られている雁皮が多分に含まれており、野生のカミノキは非常に希少となっている現代において組織的、計画的に生産されたカミノキを多分に含む紙幣はカミノキを食料とするラーヴァに取っては非常にありがたい存在なのである。

 シンジュサンの保護を名目とすることには意味があり、ラーヴァの姿がシンジュサンの幼虫の姿に似ていることもあるが何よりシンジュサンのシンジュとは神樹を古くから表していることにある。この神樹とは一般的にシンジュサンの主な食料であるニワウルシのことを指すと言われているが、実際の由来はシンジュサンがラーヴァの姿に似ていることからカミノキから産み落とされた芋虫と勘違いされ神樹産となったのである。

 偉大なる芋虫教団の拠点は新宿区内にあり、これは日本の中心であり、最も経済活動が盛んなので多くの紙幣を獲得可能であることの他に新宿と言う地名は神樹を表すことに由来するからだ。一般的に甲州街道の宿場街である内藤新宿から来ているとされているが、実際は大生部多が都から逃れ関東にやってきた際にこの地で細々とラーヴァを崇め、復活のチャンスを見計らっていた事からカミノキの地、神樹の区、新宿となったのである。

 新宿自体が神樹であるため、偉大なる芋虫教団はラーヴァが成体になるの十分な贄と食料を集めた時、繭を作り、蛹となり、この土地そのものを樹とみなし繭で包み込むと考えている。 


ラーヴァ 常世神の正体

STR1~270 CON1~225 SIZ1~340 DEX70 POW50~200 INT100

耐久力:1~56 ダメージ・ボーナス:-2~+7D6

ビルド:-2~8 移動:這う3

戦闘

近接格闘90% ダメージ DB

押しつぶし(mnvr) 90% ダメージ DB

丸のみ 60% 下記参照

1ラウンドの攻撃回数:1ラウンドあたり基本的に1体の目標に対して1回のみ攻撃可能である。攻撃の手段は噛みついたり、のしかかったりである。


押しつぶし(mnvr):〈回避〉ロールなどのロールで進路から逃れられなかった者に上記のダメージを与える。このマニューバはダメージ・ボーナスが+1D4以上の時に攻撃として使用可能である。このマニューバの直撃を受けた上で装甲などで完全にダメージを防いだ場合は、攻撃を受けた対象の場所でそのラウンドのラーヴァの進行を完全に止めたり、ずらしたりすることを意味する。


丸のみ:この攻撃はSIZが100以上の時に成功する必要がある。また、技能に成功した上でSIZが150に満たない場合は対象とのSIZの対抗ロールを必要とする。丸のみが成功した場合、犠牲者は毎ラウンド窒息ダメージを受ける。脱出するにはSIZの抵抗ロールに成功するか倒した後に腹を掻っ攫う必要がある。


装甲:SIZが100以上の時、1ポイントの外皮。蛹の時は2ポイントの繭。


能力

幻覚の糸:ラーヴァの排出する糸を体内に接種するとラーヴァに幻覚を見せられ、ラーヴァを信仰するようになる可能性がある。これはごく少量の糸の切れ端でも体内に入れば可能性があり、摂取した量によりPOWでロールを行い、失敗した場合はラーヴァにより富を得られる幻覚を見せられ(例えばただのおにぎり一つが満漢全席に見えるなど)、最終的にラーヴァの従者になってしまう。

 POWのロールの難易度は摂取量により変わり、1g未満では成功すれば良く、1g以上~5gでハード、5g超え~10gでイクストリーム、10g超えはクリティカルの成功が必要になる。この幻覚により起きる正気度喪失はそれぞれの量により0/1、0/1D4、1/1D6、1D3/2D6、1D4/2D6、1D6/1D20である。

 幻覚により狂気に陥った場合はラーヴァに金品や食料を捧げる行動を見せたり、自身が繭にくるまる幻覚を視たりする。また、正気度が減っていくごとに黒目が複眼になったり、眉毛の位置から異様に長い触角が生えたりする。永久的狂気に陥った場合はラーヴァの奴隷(後述)へと変容する。


成長:ラーヴァは奴隷化した贄からPOWを大量の食料からSIZとCON、STRを得る事ができる。

 POWは奴隷化した贄のPOWを飲み込み消化することに成長させる事ができ、最大で200まで増大する。SIZ、CON、STRはSIZ100相当の食料を食すると、3つの内どれかが5増え、最大でSIZ340、CON225、STR270まで成長する。

 参考までに食料を全て1万円札で補うとすると5増大させるのに15億円かかる。


奴隷の創造:ラーヴァは上記のように幻覚の糸により犠牲者を永久的狂気に陥らせた場合、対象を奴隷にすることが出来る。奴隷のステータスは変動することはないが、思考や視野、聴覚などがラーヴァに共有されるため、INTが100未満の場合は実質的にINT100まで増大することになる。奴隷になった犠牲者は口輪筋上に絹糸腺が生成され、鼻唇溝に小さな紡糸口が形成されそこから糸を紡ぎ出すことが可能になる。

 糸はラーヴァ同様に幻覚を見せる効果を有するが、量の代わりに糸を排出する時に消費したMPにより効果が変わる。効果はラーヴァの糸にグラム数をそのままMPに置き換えたものになる。ラーヴァやその他の野蚕同様に糸を吐き出すことは出来ず、作り出した糸を手などで紡糸口から引き出すか頭を振り撒き散らす必要がある。

 奴隷は野蚕同様に排出した糸に包まる事により繭を形成し、それにより変態をすることが出来る。変態中は繭の装甲を除き無防備かつこちらからは一切手出しは出来ない非常に危険な状態ではあるが、無事変態を成し遂げた場合は人間であれば幼年期ほどまで若返ることが出来る。

 変態の仕組みは分かっていないことが多いが一般的に全身を溶かし、再形成していると言われているので記憶は引き継がれないものと考えられているが、奴隷はラーヴァと思考を共有しているために記憶を失わずに変態する事ができる。


ラーヴァ 下級のオールド・ワン

 クトゥルフとイダ=ヤーによって産み落とされた不完全な邪神である。クトゥルフとイダ=ヤーの子供と言えばクティラやゾス=オムモグ、ガタノソアなどが有名であるが、ラーヴァはどの書物でも語られることの無い不完全、不出来として一般に認知されなかった邪神である。事実、ラーヴァは他の邪神に比べ成長に手間がかかるだけでなく、魔術的な要素よりも現物の食料を必要とし、更にはそれでも成体であるクトゥルフの様な邪神には至れない、そしてそのことに気づいていないことからも明らかである。こうしたラーヴァの様な不出来な邪神は『ポナペ経典』などに記されていないだけで複数存在すると考えられる。ラーヴァはあくまでその内の一体に過ぎない。

 ラーヴァについて直接的に言及した書物は存在しないが、その存在を知る極稀なカルティストの中にはイザナギをクトゥルフ、イザナミをイダ=ヤーと考え、ヒルコやアハシマこそがラーヴァの様な不出来な子ではないかと考えているものもいる。事実、常世神に関しての記述がある『日本書紀』はラーヴァについて記された唯一の書籍である(ヒルコやアハシマがラーヴァであれば『古事記』も含まれるが、彼らが常世神であったラーヴァであるかは不明)。その他にも常世の国の植物から出てきた虫であることからラーヴァ、およびシンジュサンが常世神と呼ばれていたことから、常世の国とは海の向こうの理想郷、すなわちルルイエであることからもラーヴァがクトゥルフの子であることを示している。


正気度喪失:SIZが5以下の時は正気度を喪失しない。SIZが6~100の時は1/1D6、SIZが100を超す場合1D3/1D20の正気度を喪失する。


3. 主なNPC


潤水うるうみず美羽みう 大生部多の現在

STR50 DEX75

INT80CON75

APP90POW100

SIZ55 EDU99+

耐久力:13 ダメージ・ボーナス:0ビルド:0 移動:8

戦闘

近接戦闘(格闘) 50%(25/10)、ダメージ 1D3+DB

糸を吐き出す 80% 特殊(上記参照)

装甲:なし、ただし蛹の時は2ポイントの繭

技能:クトゥルフ神話45%、オカルト95%、魅惑99%、経理45%、言いくるめ55%、信用70%

呪文:ラーヴァとの接触、犠牲者を魅了する、支配、精神衝撃

正気度喪失:通常の姿では正気度喪失はない。複眼や触角、鼻唇溝の口に気が付いた場合は0/1D3の正気度を喪失する。蛹の姿を見た場合、0/1D4の正気度を喪失する。


 このシナリオの人間としての黒幕である。彼女の正体は大生部多である。彼は皇極天皇3年(643年)に雁皮を這っていたラーヴァに出会い、ラーヴァの糸を吸い込んでしまう。それにより彼はラーヴァの奴隷となってしまい、日本 

書紀に記されているように浄財教を起こし富を独占し、その富により多くの食料をかき集めた。この一連の日本最古の新興宗教による行動は秦河勝により鎮圧されたが、秦河勝が大生部多を仕留めようとした段階で既にラーヴァは既にSIZが100を超えており、その強大さにより秦河勝は大生部多とラーヴァを取り逃してしまう。以降、大生部多とラーヴァは身を潜めながら度々歴史にその名や姿を変えて現れ、富を集めては撤退を繰り返している。「彼の法」の集団の名もなきシャーマン、一向一揆の本願寺蓮如などは大生部多がその姿を変えて現れたものである。

 現在では潤水美羽として、現実世界でもネット世界でも人気なアイドル兼環境保護家として活動している。ネット上ではシンジュサンの幼虫と蝶を模した緑と黄色を貴重としたデザインのキャラとして活動をしており、酉野だけでなく様々なイラストレーターが彼女の支援絵を描いている。現実でも度々、この姿のコスプレをしながら(理想の姿に変態出来るので非常にイラストに似ている)登場することも多い。

彼女の周りには複数のパトロンがおり、ラーヴァや大生部多が直接奴隷化した者(酉野売廣など)も居れば日頃から多くの投げ銭をして自ら奴隷になりに来たファンなどがその大部分を締めている。都庁の中にも彼女の奴隷はおり、予算の申請などは融通してもらっている。

 彼女の目的はラーヴァの完全体への変態であり、そのために多くの万札を回収しようとしており、ラーヴァが十分に成長した暁には最後の追い込みに新宿都庁でのラーヴァの蛹形成ライブを行い、都民をラーヴァの糸で一斉に洗脳しようと画策している。


「すいません、私幼虫なんですけど大丈夫でしょうか!?」


酉野とりの売廣うりひろ 億稼ぐクリエイター

STR50 DEX55 INT80 CON55

APP75POW65SIZ60 EDU75

耐久力:11 ダメージ・ボーナス:0

ビルド:0 移動:8

戦闘

近接戦闘(格闘) 20%(10/4)、ダメージ 1D3+DB

糸を吐き出す 20% 特殊(上記参照)

装甲:なし、ただし蛹の時は2ポイントの繭

技能:クトゥルフ神話5%、芸術/製作(イラスト)65%、芸術/製作(脚本)65%、威圧75%、経理45%、言いくるめ95%、法律30%、信用70%

正気度喪失:通常の姿では正気度喪失はない。複眼や触角、鼻唇溝の口に気が付いた場合は0/1D3の正気度を喪失する。蛹の姿を見た場合、0/1D4の正気度を喪失する。


 最近ネットで話題のオンラインサロンを開設したクリエイターである。

 元々はテレビ出演をしていたタレントであるが、事務所との契約が切れるタイミングで独立、クリエイターとして生き始めた。有名人であったためにファンは多く、開設したオンラインサロンも彼のファンたちにより経営が成り立っている。

 クリエイターとしての実力はそこそこであるもののタレント時代に築き上げた人脈により、もっぱらその才能は金を稼ぐと言った方向に発揮されている。そうした金儲けの才能が取り沙汰され、彼のオンラインサロンがネズミ溝の構造に似ていることから、ネット掲示板などでは捕まっていないだけの詐欺師など叩かれている。

 クリエイターであり、有名人であることから様々な人物と交流があり、金儲けの才能があることから大生部多に接近され、今では奴隷の一人になっている。奴隷になってからは環境保護を目的とした『グレート・キャタピラー』の広報の一人となっており、積極的に潤水美羽のファンアートや支援イラストを 

描いている。

 最近ではグレート・キャタピラーのシンジュサン保護活動のクラウドファンディングの支援をしており、彼の才能もあってか多額の支援金が集まっている。


「支援してもらうには、“出来ること”と“やらないこと”を明確にして、理論やキャラクターに統一性を持たせることが大事です」


井武いだけ保晃やすあき 悪徳金融の王

STR20DEX30

NT80 CON60

APP65 POW70

SIZ50 EDU99+

耐久力:11 ダメージ・ボーナス:-1

ビルド:-1 移動:2

戦闘

近接戦闘(杖) 80%(40/16)、ダメージ1D8+DB

糸を吐き出す 15% 特殊(上記参照)

装甲:なし、ただし蛹の時は2ポイントの繭

技能:クトゥルフ神話7%、威圧90%、説得85%、経理90%、法律50%、芸術/製作(CM)80%、信用99%

正気度喪失:通常の姿では正気度喪失はない。複眼や触角、鼻唇溝の口に気が付いた場合は0/1D3の正気度を喪失する。蛹の姿を見た場合、0/1D4の正気度を喪失する。


 ノンバンク系消費者金融会社「白根商事」の会長。1930年生まれで、高等学校卒業後間もなく大東亜戦争が終戦したため戦地には行ってはいない。

 幼い頃から近所では有名なガキ大将であり、それは大人になっても変わることはなく、基本的に傲慢で高圧的な人物である。

 大東亜戦争、冷戦の経験から強力な私兵を所持する必要があると言う思想を持っており、そのために金集めに躍起になっている。元々の性格とそのバイタッティから金貸しとしての才能があり、高度経済成長期に於いて団地やニュータウンブームに乗っかり、団地住まいや借家住まいの人々にグレーゾーンで金を貸していた。その狙いはドンピシャであり、莫大な財産を築くことになった。バブル崩壊からの消費者金融の需要増加に対してもセンセーショナルなテレビCMを打ち、常にノンバンク系の金融業界のトップを走り続けていた。

 00年代に入ると悪質な取り立てに対しての訴訟が増え、2010年にグレーゾーン金利が撤廃されると事業悪化を余儀なくされたが、ハイリスクではあるがファクタリング業務を行うことにより、業績を回復させた。

 近年ではベンチャー企業とは名ばかりの情報商材にも融資を行っており、親ネズミと手を組み、資金難に陥った子ネズミに特別貸付を行い、財産を差し押さえ、親ネズミへの融資以上の利益を上げるといった事をしている。グレート・キャタピラーや酉野との関わりも最初はこの様な事業の一環であったが、現在は奴隷化されている。


「金融とは良心を売って儲ける職業なのだ!それを忘れたらいかん!」


丸池翔子 突然連絡をした友人

STR50 DEX55 INT60

CON50 APP45 POW40

SIZ65 EDU45

耐久力:11 ダメージ・ボーナス:0

ビルド:0 移動:8

戦闘

近接戦闘(格闘) 20%(10/4)、ダメージ 1D3+DB

技能:言いくるめ25%、信用30%、魅惑35%


 探索者達の中学生の頃の同級生である。中学生の頃も言われればクラスにいたかというレベルであり、探索者達との関わりは薄く卒業名簿を見て思い出す 

ほどだ。

 高校卒業後は短大に通い、特に就職することなく家事手伝いを経て、大学時代の彼氏と結婚をし、現在は3歳になる子供を育てている。夫は役所の職員である。

 酉野のタレント時代からのファンであり、彼のオンラインサロンに入会している。彼女は彼の販売する絵本や映画のチケットの代理店を営んでいる。しかし、その内情は芳しく無く、収益は常に赤字で、夫には内緒に消費者金融に200万ほど借りている。それでも彼女は尊敬する酉野のためにオンラインサロンを脱退する気は無く、代理店の権利だけでなく、彼に認識される権利や彼と飲み会に参加する権利などを積極的に購入しているため、借金は膨れ上がり、いつか家庭が崩壊することが目に見えている。

 そういった不安を酉野の作品に感動を受けることで誤魔化していたが、常に頭の片隅ではそのことを考えていた。そんな中、酉野が新規の仕事としてシンジュサンの保護活動支援を掲げた。彼女はそのことを受け、ここで名を上げれば社会的な大義もある活動なので今以上に彼に認められると考え、片っ端から知り合いに連絡を取ったり、自作チラシのポスティングをするようになっているのである。


「片っ端から、小売店に勧誘すれば、これで私も月収100万!」


一般的な酉野の会員

STR50 DEX55 INT60

CON50 APP45 POW40

SIZ65 EDU45

耐久力:11 ダメージ・ボーナス:0

ビルド:0 移動:8

戦闘

近接戦闘(格闘) 20%(10/4)、ダメージ 1D3+DB

技能:言いくるめ25%、信用30%

正気度喪失:通常の姿では正気度喪失はない。複眼や触角に気が付いた場合は0/1D3の正気度を喪失する。


酉野のオンラインサロンに入会し、問屋や小売店契約を結んでいる人々。30%の確率で奴隷化が進んでいる。


「酉野、酉野、酉野、売るぞ、売るぞ、売るぞ」


一般的な潤水美羽のファン

STR35 DEX35 INT70

CON30 APP25 POW35

SIZ60 EDU70

耐久力:9 ダメージ・ボーナス:0

ビルド:0 移動:8

戦闘

近接戦闘(格闘) 20%(10/4)、ダメージ 1D3+DB

技能:信用50%、芸術/製作(イラスト)85%、コンピュータ55%%

正気度喪失:通常の姿では正気度喪失はない。複眼や触角に気が付いた場合は0/1D3の正気度を喪失する。


潤水美羽のチャンネルに登録し、メンバー登録、中にはスッタフとしてグレート・キャタピラーに勤務している人々。10%の確率で奴隷化が進んでおり、スタッフは50%の確率で進行している。


「泣いてるみうちゃんを見て、実はちょっと安心したんだ。みうちゃんは皆に優しくて、あんまりそういうのを出さないからさ。僕らは何があっても大丈夫だからね…?ちょうちょ不安定でも愛してんぞ、みう。」


一般的な井武の私兵

STR80 DEX75 INT60

CON70 APP50 POW50

SIZ85 EDU50

耐久力:15 ダメージ・ボーナス:+1D6

ビルド:2 移動:8

装甲:6ポイントの軽防弾ベスト

戦闘 

近接戦闘(格闘)80%(40/8) ダメージ1D3+2+DB or 1D6+DB

メリケンサックと警棒を持ち歩いている。基本的には警棒を使う。

技能:威圧70%、聞き耳65%、信用50%

正気度喪失:通常の姿では正気度喪失はない。複眼や触角に気が付いた場合は0/1D3の正気度を喪失する。


白根商事に勤めている人々。30%の確率で奴隷化が進んでいる。


「クズどもがッ……」


4. 導入

 探索者たちの元にある日突然、中学生時代の(もしくはほとんど接点が無いが同じ組織にいた)知人である丸池翔子から久々に会ってお茶でもしないかと言う連絡が届く。

 探索者たちが丸池からの誘いに応じて、喫茶店やファミレスなど彼女と約束をした場所へ行くと探索者たちの見覚えのない人物2人ほど(一般的な酉野の会員)が相席しているのにすぐに気がつく。丸池は探索者たちに向かい軽い挨拶と同席している2人の簡単な自己紹介をするとすぐにある資料を探索者たちに見せてくる。

 その資料は最近、テレビやネットで話題の酉野売廣と言う人物によるシンジュサンの保護活動のクラウドファンディングおよびサブスクリプションの案内である。

 クラウドファンディングの方は一口500円からの出資であり、シンジュサンの保護を目的とした食料となる植樹およびシンジュサンの育成の資金を募っている。方式は寄付/購入型であり、出資金額に応じて様々な特典が購入可能となっている。特典の内容はシンジュサンの糸入りの葛湯やシンジュサンを模った和菓子、高額になると酉野複製直筆のシンジュサンの絵となっている。

 サブスクリプションの方は最低毎月1200円を支払うことにより、酉野の販売しているシンジュサングッズを小売店から購入できる権利を得られるといったものだ。小売店で買えるグッズの中にはクラウドファンディングでの絵を除く返礼品の他に酉野がデザインしたシンジュサンハンカチや服といったファッションアイテムやお玉やフライ返しと言ったキッチン用品の様な日用品からシンジュサンが登場すると酉野作の絵本などが取り扱われている。また、上位のサブスクリプションの購入には月5万円を支払う必要があり、これはシンジュサンの保護活動だけではなく、日頃に酉野のクリエイター活動全般の支援を目的としている。上位のサブスクリプションは酉野の扱いグッズの小売店の権利を得られ、酉野からグッズを購入することにより自身がその一部をバックマージンとして受け取ることが出来る。このサブスクリプションに登録していると酉野のサブスクリプションよりは割高であるが、酉野のグッズを登録者のサイトから購入できるのだ。また、小売店の権利の他には酉野と一緒に企画に参加する権利やオンライン飲み会に参加する権利、存在を覚えて貰う権利なども販売されている。

 丸池とその取り巻きは探索者たちにこれらの購入や加入の検討を促してくる。特に彼女たちはサブスクリプションサービスや自身が酉野から任されている小売店サイトでのグッズ購入を推してくる。

 よほど愚かな探索者で無い限りはこの連鎖販売取引の枠組みに加わろうとはしないだろうが、興味を持つには違いないだろう。

 探索者たちが愚かであった場合は、クラウドファンディングの場合は商品の発送は企画の終了時に行われるので直ちに何かがあるわけではないが、サブスクリプションに加入した場合は酉野の扱う各商品を購入する事ができる。

 酉野の扱う各商品は彼の作品に関しては、特にこれと言って商売方法以外で怪しい点は無いが、シンジュサンの保護活動支援を謳っているグッズには、ごく少量(1g未満)のラーヴァの糸が混ぜ込まれており、商品を購入し、受け取るたびに幻覚の糸の判定を行う必要がある。邪悪なキーパーであればハンカチや葛湯などの含有量を盛っても違和感のない商品には適当量の糸を盛って、ダイスの結果をプレイヤーから隠すかもしれない。

 賢明な探索者たちであれば、興味は持つもののこれ以上、この怪しい商売に首を突っ込むことはないだろうが、後述の様にシンジュサンの保護活動に関してはメディア露出が増えていっており、嫌でもネットやテレビなどでそのことを目にする機会は増える。その様になったら、キーパーは探索者の親しい人物をネットワークビジネスに沈めて探索者たちに救いを求めるようにしても良いだろう。


友人をマルチに嵌める

 現在ではネットワークビジネスと呼ばれている所謂マルチ商法は名前を変えて度々世間を騒がせている。元々はネズミ講と言う名前で現れ、マルチ商法も名前を変えたものである。 マルチ商法とは俗称であり、法律上は連鎖販売取引と名付けられている。

 連鎖販売取引とは「個人を販売員として勧誘し、更にその個人に次の販売員の勧誘をさせるという形で、販売組織を連鎖的に拡大して行う商品(権利)・役務の取引のこと」と定義されている。法律上、連鎖販売取引は即座に違法とされる訳では無いが、適法である条件として「末端が破綻しない」必要がある。何を持って末端の破綻とするかは曖昧であり、裁判の場になって裁判官の判断を仰ぐしか無い。ただし、裁判になるまでに至っている時点で破綻していることは明らかであり、判例でもほぼ全てのケースで違法性が認められている。そもそも、連鎖販売取引はその性質上、利益を得られるのは一部の例外を除き胴元とそれに近い人物だけであるので、末端が破綻しない連鎖販売取引とは非常に小さなクローズドな商圏に限られ、ネットなどで大々的に参加者を募っている時点で疑ってかかるべきである。

 マルチ商法は人間関係を現金化するビジネスと言われているように、子ねずみとなる人物がどれほど多くの知人を作り、声を掛けられるかにかかっている。性質上、ねずみ算式で知人は増えるのだから胴元に近いほうが利益は大きくなる。人間関係の現金化の都合でコネクションのない層は金を失う一方で訪問販売や自主的に広告を作成しDMにより数撃ちゃ当たる戦法を取るなどで積極的に顧客を狙わなければ成功はない。

 もし、他人をマルチ商法へと陥れたい場合、自身の〈信用〉と対象のINTで抵抗ロールを行い成功した場合は商品を売りつける事ができる。もし、自身がイクストリーム成功で抵抗ロールに勝利したり、対象がファンブルによって敗北したりした場合は問屋、小売店契約を結ばせる事ができる。


5. シンジュサンの保護活動

 シンジュサンの保護活動について調べると酉野のオンラインサロンの他に潤水美羽と言うネットアイドルがシンジュサンの保護活動をしていることが分かる。〈図書館〉に成功することにより、酉野がシンジュサンの保護活動を行う前から潤水は保護活動を行っており、酉野が保護活動を行うようになった理由は彼女がネットの動画内でコラボ企画として保護活動への支援を求めたからだと言うことが分かる。酉野の方も社会的意義があることからこの活動には乗り気であり、そのためか彼女のネット活動に使うイラストの提供や多くのファンアートを外部向けのSNSに投稿していることもわかる。

 〈図書館〉にイクストリーム成功をしていた場合、酉野と潤水が付き合っているとの噂話を見つけられる。この噂話は決定的な証拠こそはないものの余りに酉野が熱心に潤水の活動を推していることや酉野のネットでの評判が悪いこと、そして金持ちであること、潤水のファン層の殆どが男性であることなどの要素が拍車をかけている。また、コラボ動画だけでなくプライベートでも二人とみられる人物が会っている写真なども画質は悪いが貼られている。


シンジュサン

 シンジュサン(樗蚕、神樹蚕)はチョウ目・ヤママユガ科の一種である。中国、朝鮮、日本に広く分布する。

 日本では昔から「ミツキムシ」として知られてお 

り、その存在は『古事記』や『日本書紀』にも記されている。

 神樹とは一般的にニワウルシのことを指し、ニワウルシは明治以降に日本に植樹されたことからシンジュサンの名称は比較的新しい名称と言われている。

 幼虫は毛状突起を持つ淡黄色から淡青緑色の大型のイモムシであり、成虫は開張すると140-160mmほどの大きなガで、褐色の翅を持ち、全ての翅に一つづつ三日月の紋様がある。

 〈知識〉に成功するとシンジュサンの食す葉っぱの中に古来より日本にあり、貨幣の材料にも使われている雁皮の別名がカミノキであり、神樹とは雁皮を指す可能性もあることが分かる。


酉野のオンラインサロン

 探索者たちが酉野のオンラインサロンについて調べる場合、〈図書館〉に成功すると加入したことを後悔する元会員の記事を発見することが出来る。

 この記事によると酉野の行っていることは所謂マルチ商法であるにも関わらず、販売商品が一緒に働く権利や意識される権利など現物以外の商品が殆どで、最近ではシンジュサンのグッズにより多少は売れる現物が出来たものの他のマルチ商法に比べても利益が胴元を除き非常に出にくい構造になっており、この記事の作成者も会員を抜けるまでに多額の借金をしたと書いている。INTロールに成功すると探索者達を誘った丸池も借金があるのではないかということが推察できる。

 また、探索者達が会員に登録し、契約をするか〈コンピューター〉に成功し彼のオンラインサロンに不正アクセスをした場合、オンラインサロンの内容を直に見ることが出来る。会員の成果報告を見る限り、酉野以外の利益はほとんどないことが分かる。不正アクセスをした状態で〈経理〉に成功した場合、酉野への出資している企業や銀行に混じり「白根商事」と言う街金業者から多額の出資を受けていることが分かる。


白根商事

 探索者達がオンラインサロンへ不正アクセスせずに丸池に借金があると推察した場合、収集所などで丸池の家のゴミ袋に対し〈目星〉に成功することによって銀行の取引記録に混ざって白根商事との取引明細が捨てられていることに気がつく。

 白根商事は日本橋に本社を置くノンバンク系の消費者金融である。無人ATMは日本全国に設置されており、支店も雑居ビルの一角によく見かけるほどだ。探索者たちがこの消費者金融の利用者を観察する場合、オンラインサロンにて会員の顔を見てるとINTロールに成功することによって、酉野のオンラインサロンの会員の多くが利用していることに気がつく。

 夜間などに〈隠密〉や〈鍵開け〉を使って忍び込むか、〈変装〉のハード成功により従業員になりすまし、本社へと侵入して〈経理〉に成功した場合、オンラインサロンの会員が借金をする場合は酉野によりこの金融機関が斡旋され、得た利益の一部を酉野に紹介料として渡していることが分かる。

また、法務局などで法人登記を確認し〈法律〉に成功すると会社の代表取締役の名前は井武保晃と言う人物になっているが、筆頭株主が酉野のオンラインサロンの法人名である「酉野クリエイティブ研究所」になっており、持ち株率が36%であることが分かる。ハード以上の成功をした場合、『グレート・キャタピラー』と言う団体がここ最近株を買っており、30%に迫る勢いで持ち株率を増やしていることもわかる。


潤水美羽

 シンジュサンの保護活動を行っている人物である。彼女については酉野のシンジュサン保護活動について調べると上述の様にすぐにたどり着ける。

 シンジュサンの保護活動を行っている環境保全団体である『グレート・キャタピラー』の代表兼広報であり、動画配信サイトにて『Miu ch. 潤水美羽』と言うチャンネルを開設している。

 彼女から受ける印象は、酉野のオンラインサロンの様な意識の高い紹介とは打って変わって、とても 

親しみやすく、環境保全団体の代表というよりはアイドルといった印象を受ける。

 事実、彼女の公開されている年齢は20代後半であり若々しい他に『グレート・キャタピラー』の資金を集めるために動画配信サイトにて2Dイラスト(酉野が作成した)にて雑談やゲーム配信を行ったり、3Dモデル(酉野が作成した)にてライブを行ったりなどシンジュサンの保護活動とは関係の無い配信も多数行っており、これにより彼女自身のファンを増やし、彼らから投げ銭や広告収入、チケット代を資金として回収している。

 ネット配信にて用いられるイラストやモデルはシンジュサンの幼虫をイメージした緑色を基調とした小さく可愛らしい女性の姿をしており、服装の所々にシンジュサンの翅を模した模様が刺繍されている。

時折、投稿される真面目な環境保全の動画やテレビ出演などは実写の姿で行っている。

実際の容姿は色調や顔のパーツこそイラストと実写では当然一致することはないが、黒髪であることを除けば、多少の薄化粧はしているもののイラストに近い顔立ちや体格をしている。〈目星〉に成功すると全体的に薄化粧でありながら、鼻唇溝や眉毛のあたりだけファンデーションが濃くなっている事がわかる。ハード成功で黒目が複眼のように複数になっているように見える。イクストリーム成功をした場合、よく見ると鼻唇溝がそこにも口があるかの様に化粧で隠れているがパックリと割れていることに気がつく。このロールは最近の酉野の姿を見た場合にも発生する。


日本書紀におけるシンジュサン

 シンジュサンについて調べる場合、上記のコラムの他に〈歴史〉に成功するか、時間をかけて〈図書館〉に成功することにより、日本書紀において皇極天皇3年(644年)に発生し、秦河勝により鎮圧された浄財教の神として崇められていた蝶の幼虫がシンジュサンであったとする説があることが分かる。また、〈歴史〉で成功しているか追加で〈オカルト〉に成功した場合、秦河勝により討伐されたとされる大生部多は生死が不明であることも分かる。


6.グレート・キャタピラー

 『グレート・キャタピラー』は新宿に本拠地を置く環境保全団体である。法務局やネットにて『グレート・キャタピラー』の登記(ハンドアウト1)を確認できる。


Miu ch. 潤水美羽

 潤水美羽が運営する『グレート・キャタピラー』の2020年の9月に開設した動画配信サイトのチャンネルである。

 登録者は探索者たちが調べた時点で100万人を超えており、総再生数は1億再生を突破している。どの様な配信や動画も平均して10万再生は超えており、その多くの動画はシンジュサンの保護活動とは関係のない他愛のないものである。しかし、時折シンジュサン保護活動の宣伝動画も投稿、配信されており、それらは再生リストにまとめられるだけでなく英語、中国語(北京語、上海語、台湾語)、韓国語など複数カ国言語で翻訳字幕がついており、これはその他のゲームや雑談、ライブ配信にはされておらず力の入れ具合が違うことが伺える。

 〈図書館〉に成功するとこのチャンネルだけで年間で1億円以上の投げ銭を受け取っており、広告収入やライブチケットなど合わせると3億以上も年間で収益を上げていることが分かる。

 また、このチャンネルのオススメ動画には、シンジュサンが翔び始める5月のみどりの日に東京都庁第一本庁45階北側展望デッキを貸し切り、無観客ライブを行う宣伝がされている。


グレート・キャタピラー

 『グレート・キャタピラー』の活動拠点であり、新宿区内にある。3階建てと小さいながらも自前のビルである。登記簿を調べると所有者は潤水美羽の運営する『グレート・キャタピラー』であり、抵当者 

は白根商事、共同担保目録にビルとその土地が設定されている。〈経理〉または〈法律〉に成功すると抵当権設定の利息が年1.00%となっており、ノンバンク系の街金が行う商工ローンの相場である年20%以上の金利だけでなく、銀行が行う不動産投資ローンでも1.50~3.00%の金利と比べても長年の実績がある企業でもないのにこの金利は破格だと分かる。

一階は受付、応接間、備品置き場、給湯室からなっている。二階は一般事務、経理部となっており、三階は動画撮影スタジオと簡易宿泊施設、屋上には雁皮を少量栽培している。


一階:応接間はマホガニー製の机とペレ・フラウ製のソファーからなっており、腰壁で仕切られ二間存在する。給湯室は下がり壁で区切られており、設備については玄関からはどの角度からも中の設備見えないようになっている。

給湯室の中は簡易的なキッチン設備になっており、不便ではあるがスタッフだけでなく居住スペースに住む潤水美羽の食料もここに保管されている。不便ではあるが指示があった場合、スタッフが三階の居住スペースへ料理を作り運ぶこともある。

 収納スペースには清掃道具や撮影に使う小道具、工具などが保管されている。


二階:長机には数台のパソコンが置かれここで経理や一般事務が行われている。〈コンピューター〉に成功することでパソコンのロックを解除し、中身を見ることができる。経理関係を除くファイルには動画で使われている立ち絵や企画書、各環境保護を謳っているNPOとの打ち合わせ記録など様々なデータが保管されている。立ち絵やファンイラストのファイルは酉野が作成しいたものが非常に多い。デスク周りの書類やパソコン内部の経理データに対して〈経理〉に成功することにより白根商事からグレート・キャタピラーのビル設立に際して多額の融資を破格で受けていただけでなく、現在ではグレート・キャタピラーは白根商事の金主の一つでもあり、白根商事から受けた融資額よりもグレート・キャタピラーが白根商事へした融資額の方が上回っている。そのため、多額の利子を白根商事から受け取っていることがわかる。また、酉野クリエイティブ研究所からもグッズのマージンを受け取っていることがわかる。

〈目星〉に成功するとミーティングルームのディスプレイの裏に隠し金庫(装甲5、耐久20、STR200)があるのがわかる。金庫はダイアル式で番号は「643」である。金庫の中には領収書が複数枚入っており、東京都庁第一本庁舎への数十億に渡る多額の寄付とピーエス四菱と言う建設会社(グレート・キャタピラーのビルを建設したのもこの会社)のもとで秘密裏に地下四階への拡張工事が行われていたことがわかる。


三階:撮影スタジオは編集の都合上、青色の幕が常にステージに張られている。大型のカメラから小型のカメラがステージを囲むように設置されており、スタジオの隅には簡易的な編集スペースもある。

 居住スペースは潤水美羽の住処となっておりここで生活をし、毎日配信や編集をしている。基本的には潤水美羽は外やスタジオで収録をしている場合を除きこの場所にいる。夜間は交代制でスタッフを最低でもニ人ほど部屋の外のスペースに常駐させている。〈コンピューター〉に成功することにより、潤水美羽のパソコンの中身を見ることができ、都庁への送金記録のところに「ラーヴァ、東京都庁第一庁舎地下4階、現在90億/375億」とメモ書きがされていることがわかる。

キーパーメモ:このメモが書かれた時点でSIZ260である。

また、〈オカルト〉のハードもしくは〈クトゥルフ神話〉に成功すると『電子決済の魔術的転用』と言うファイルに気がつく。このファイルの中身はラーヴァへ与える贄として貨幣、もしくは雁皮が必用とされているが貨幣であれば電子決済プログラムに魔術を組み合わせることにより、電子決済された貨幣を現金を介さず、データを直接魔力に変換できるためにより効率的に1円単位でラーヴァの成長に寄与できることが記されている。このファイルを読んだ探索者たちは0/1D3の正気度を喪失する。

本棚には常世神やいくつかの仏教の解説本が数冊並んでいる。INTロールに成功するとどのどの書籍 

も日本で興った新興宗教について取り上げたものだとわかる。内容は常世神信仰、真言宗立川流(「彼の法」の集団)初代~3代目、一向宗などについて。

屋上:屋上へは三階の梯子を登る事ができる。屋上では雁皮が栽培されており、春先であればシンジュサンの幼虫や蛹を見かけることができる。


7.  東京都庁第一庁舎

 1990年12月に完成した現在の東京都の中心となる行政庁が置かれている建物である。

 団体客で訪れる以外には予約は不要であり、一部区画が観光客のために見学自由となっている。見学スペースの目玉は地上45階のある展望スペースである。

 展望スペースにはフリーピアノと売店が設置された南展望室と展望スペースのみの北展望室がある。

 東京都町第一庁舎は地上48階、地下3階であるが、グレート・キャタピラーが本庁の奴隷となった職員と共謀し、秘密裏に地下4階への拡張工事を行ってた。この拡張工事は登記簿にも記載が無い完全に秘密裏に行われた。〈図書館〉に成功すると過去にピーエス四菱における地下のメンテナンス工事が行われる旨のお知らせがあったことが庁内の案内掲示板などからわかる。また、この工事は職員が共謀している他に地下駐車場では一般車駐車スペースが産業廃棄物保管所に指定されていることもあり、誰も違和感は覚えていない。


地下4階

地下通路が地下1階、地下駐車場が地下1~2階にあり、3階は関係者以外立ち入り禁止となっている。地下1階までは駐車場がある関係上、簡単に専用のエレベーターや徒歩で移動できるが地下2階は関係者用の駐車場になっており、更に3階はそこから関係者用の扉に入るので行くことは困難である。探索者たちが〈変装〉に成功して職員になりすませば地下3階まで行くことも可能である。

 地下4階へは地下3階にて〈目星〉に成功することにより、工場用フェンスの裏に隠された通路を見つける事ができ、そこから降りていく必要がある。ただし、地下3階は通常の職員、警備員の他に奴隷化した警備員(一般的な井武の私兵を参照)が見回りをしている。

 地下4階は大きな空洞になっており、そこにラーヴァが飼われてる。復活してからある程度の大きさになったラーヴァは身を隠すために地下に閉じこもる必要があるのだ。部屋の中にはラーヴァの他に大量の札束が置いてあり、それを餌として常にラーヴァは食している。この部屋の中で静かにしているのならば小さくムシャムシャと言った音がラーヴァからしてくるだろう。

 また、この部屋はラーヴァを育成するためだけでなく、この場所を嗅ぎつけた人物やグレート・キャタピラーの協力者を奴隷化するための儀式の場所としても使われる。複数人で押さえつけ、犠牲者の口内に直接ラーヴァが糸を注入するのである。

 探索者たちの企みが潤水美羽にバレたり、地下に忍び込むことが公になった場合、探索者たちもそのような運命を辿るだろう。

 探索者たちがこの部屋を見た場合はラーヴァの正気度喪失に加え1/1D6+1の正気度を喪失する。


8. 都庁ライブ

 5月4日のみどりの日に東京都町第一庁舎の地上45階北展望室で潤水美羽によるライブが行われる。

 ライブの前日の午後には機材準備のために関係者以外の立ち入りが禁止される。〈隠密〉と〈変装〉を組み合わせるなどして侵入する場合、準備中の様子を視ることが出来る。

 機材はパッと見、一般的なライブで使われる機材の他に3Dモーションによる撮影もあるのか青色の垂れ幕にモーションキャプチャーなども準備されている。〈コンピューター〉に成功すると管理用のPCに撮影機材と関係なく、一般使いもしない用途不明の自作ガジェットがあることがわかる。〈クトゥルフ神話〉に成功するとこのガジェットはインターネットを通じて特定のデータを魔力に変換するものだとわ 

かる。

 もし、探索者たちがライブ前にラーヴァの儀式を阻止しに乗り込んだ場合、ライブを妨害するのにあたる世間的に正当な理由が存在しない場合、行動に付随する様々な罪に問われることになるだろう。その場合、〈法律〉の成否やその出目により、キーパーはその後を描写するように。


ライブ当日

 5月4日に都庁が開くと内部には警備員の数が増え始め、エレベーターの使用も制限される。

 ライブは10時に主役である潤水美羽、デザイン協力の酉野、出資者の井武とその他スタッフを除き無観客で地上45階北展望室で開始される。『Miu ch. 潤水美羽』にてライブの様子が生配信で確認できる。

 ライブの内容はイラストと3D、実写をそれぞれ組み居合わせたモノになっており、大きな盛り上がりを見せている。画面には大量の投げ銭が表示されている。午前中だけでその投げ銭の総額は億に迫る勢いで投げられており、それが更に射幸心を煽り、さらなる投げ銭を生んでいる。

 ライブが開始され2時間半ほど経過した辺りで、小休憩タイムが設けられるが、その休憩中に画面が、都庁が大きく揺れ始める。休憩時間の間に都庁の地下からSIZ270ほどある巨大な芋虫ラーヴァが這い出て来て都庁に登り始め、都内中に糸を撒き散らしながら繭を形成し始める。この時、新宿区内にいる人物は防塵マスクなどを付けていない場合、幻覚の糸の判定を行う。糸の量は1~10gである。防塵マスクでなくとも何らかのモノで口を覆っていればこの判定は1g未満に軽減される。この判定は屋外にいる限り毎分発生する。

 ライブ風景は一時騒然とするが既に視聴者の多くが幻覚を見させられており、演出の一部だと思い込み、通常通りライブを盛り上げている。その盛り上がりようは午前中の比ではなく、正気である人物のコメントはかき消されるほどだ。

 屋外では皆、巨大な芋虫の出現により混乱しているが、糸が降り注ぐに従い、少なくとも新宿区内にいる人間は幻覚に襲われ、混乱から徐々にラーヴァへの熱狂に変わっていく。この光景を見たものはラーヴァの目撃とは別に1/1D10の正気度を喪失する。

 探索者たちがライブ会場へ向かい場合、ラーヴァ 

の重みにより、非常装置が作動しているためエレベーターは使えず階段によって45階まで駆け上がる必要がある。

 都庁の内部には奴隷化した職員たち(一般的な潤水美羽のファン参照)や警備員たち(一般的な井武の私兵を参照)がおり、探索者たちの試みに気がつくと共に妨害を仕掛けてくる。キーパーはここで任意の人数の職員や警備員たちとの戦闘を挟むか階段を駆け上がる際にチェイスを行っても良い。また、45階に辿り付くまでにプレイヤーから何らかの提案により職員や警備員たちを妨害出来るのであればそれに応じ、DEX対抗や〈グループ幸運〉などキーパーが適切だと思ったロールを挟むことで乗り切ったことにしても良い。


地上45階 北展望室

 階段はマップのトイレの位置にあり、探索者たちが階段を使いここまでやってきた場合、探索者たちから向かって左、マップの西側にステージが用意されている。

 展望室の窓の外にはまさにラーヴァが繭を形成しており、ラーヴァが這った重さで窓は割れている。そのためか会場の中はラーヴァの糸で充満しており、ライブはそんなラーヴァを背後に配信されている。会場のモニターにはリアルタイムで流れてきたコメントや投げ銭の総額が確認できるようになっており、モニターの他にも様々な配信機器が取り付けられている。注目すべきは一部の機器がラーヴァの糸の塊、繭の一部に接続されており、常にその機器がラーヴァと通信を行っていることだ。

 探索者たちはこの場所にいて、ラーヴァが健在である限り毎戦闘ラウンドごとに幻覚の糸の判定を行う必要があり、これは口を何らかのモノで覆っていたとしても1~10gの量で判定を行う。

 酉野、井武、潤水は探索者たちが侵入してきたことに気がつくと探索者たちを排除しようとしてくる。潤水美羽はライブであるので演出として呪文も使ってくる。

 ラーヴァの耐久力が0になるとラーヴァは繭から崩れ落ち地上にどんどん小さくなりながら落下していく。この時点で大生部多が生きていた場合、彼は潤水美羽に擬態するのを止め、糸を吐き出しながら外へと飛び降り、ラーヴァを回収し行方を暗まそうとする。酉野と井武は生きていた場合、ラーヴァが落ちる共に一時的に動けなくなるが、落ち着きを取り戻すと大生部多を追い退散しそのまま行方を暗ませる。

 探索者たちが3人共倒した場合、潤水美羽は死亡と同時に擬態が解け、大生部多の姿になり、ラーヴァはSIZ1の状態で地面に落下するが、探索者たちが地上に戻った頃にはその姿は確認できず、どこかへと隠れてしまっている。


9. その後

 ラーヴァの姿が消えると自然と奴隷化した人々を除き幻覚の影響は解除される。ラーヴァを目撃し、幻覚も見ていない人々は巨大な芋虫の存在を語り継ぐが、多くの人々は幻覚を見ていた時間の記憶が曖昧で、巨大な芋虫の真偽を確かめるすべもなく、やがて東京都町第一庁舎の展望室のガラスが割れたこと、突然失踪したライブスタッフなどの問題を抱えつつ、ラーヴァの存在は都市伝説や陰謀論にのまれどこか記憶の片隅に追いやられることになる。

 ライブ配信も潤水美羽の失踪と共にライブ機材の放置や警備体制などで炎上し、削除され、グレート・キャタピラーも責任者不在により解散することになる。これは酉野のオンラインサロンや白根商事も同様である。


10. 報酬

 ラーヴァを倒した場合、1D20の正気度を得る。大生部多、酉野、井武を倒した場合、1人につき1D6の正気度を得る。

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【クトゥルフ神話TRPG】翔べない蝶の願い【現代日本】 三武武夫 @mitaketakeo

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