第9話 自分を調べる

「え?」


「別に、何とも思わないよな。」


「うん。」


 昨日の帰りに風吏くんに話した通り私はLGBTQ、所謂セクシャルマイノリティの印象を聞いてみたら、いつもと同じ様子で答えた。ほんとに、数学の問題分かるわけないじゃんと同じトーン。


「むしろ、あーだこーだ言ってる大人にうんざりなんだよな。当事者の話も聞かないで勝手にこうだって決めつけやがって。」


「ほんとそれな。」


 てか想像以上に肯定派でびっくりしてる。


「お!風吏!」


「なに?」


「次の調べものさ、セクシャルマイノリティにしようぜ!」


「え?」


「ダメ?」


「いい、けど。」


 上手くいったんだな、って安心する風吏くんの表情を見て私まで安心した。もし拒絶でもされたら今までの事も全て無かったことになりそうで。それは私もそうだけど、ただ居るだけなのに否定される風吏くんが一番辛いんじゃないかな。


「ありがとうね。」


 本当に小さな声だったから、きっと2人には聞こえていないんだろうけど。


「マジで数学分かんないんだけど!」


 放課後、今日の数学が分からな過ぎてほぼ溶けてる小野くんを見つめる。礼華はミーティングしたら来るって言ってた。それまでは私と小野くんと風吏くんの3人でやり過ごさなきゃなんだけど。私は男の子に慣れてないから、ちょっと困ってる。


「お前さ、男慣れしてないっしょ?」


「え?あ、うん。」


「だろうな。別に俺ら何かするわけでもねーから。安心しろ。」


「うん。」


 男の子って、どこか違う生き物みたいな感覚がある。私と違う部分がどうしても多いわけでどうしてもどう思っちゃう。


「お待たせ―!」


 いつもはめちゃくちゃマイペースな礼華が、今の私には救世主にしか見えない。


「何この雰囲気。告白寸前みたいな。」


「え、俺らに告白しようとしてたわけ?」


「全然!」


「それもそれで若干傷つくけど。」


 ごもっともな事を言われたところでこの話はおしまい。


「で、何で急にセクシャルマイノリティの話出したの?」


「自分なんだ。」


 私がどう言おうと思っていたら、風吏くんが横からそう言った。


「何で?」


「自分、当事者なんだよね。」


 確認するって言った時とは違った苦しそうな表情で、私たちにカミングアウトする。正確には、礼華と小野くんにだけど。


「自分は、パンセクシャルっていうやつとXジェンダーっていうやつの両方。どんな性別でも恋愛対象に入るっていうか、タイプの中に性別が無いっていうか。あと、自分自身の性別が、真ん中からほぼ男っていうのを繰り返してる。分かりにくいかもだけど。」


 私はずっと女だって思って生きてきたから、正直風吏くんの感覚を全ては分からない。けどこうやって自分はどんな人間なのかっていうのを解ろうとしたのは純粋にすごいと思う。


「俺らもよく分かんねぇけど、それって死ぬ?」


「いや、死ぬとかは無いけど。」


「じゃあ、すげぇ気にしなくてもいいじゃん。」


 全くの当事者じゃないから言えること。それが全て悪いわけじゃないのは、目の前にある風吏くんの表情で分かるかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

景色 おずんぼ @Ozunbo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ