第8話 それじゃあ行こうか
翌朝、教室に入るといつも通りの3人がやって来て、いつもみたいによくわかんない中身のない話をして。
「今日の放課後、残れる?」
「おう。じゃあやるか。」
小野くんはほとんど部活があるはずなんだけど、今は場所が限られちゃってレギュラーメンバーしか出来ないんだって。お陰で放課後が暇だよって言ってた。
「礼華は?」
「あたしも、行こうかな。」
「え、お前部活あるんだろ?」
「サボるって。」
休むって言わないところから本当に連絡しないでおこうって思ってるのかな。気持ちは分かるけどさ。まぁここは私が口を出す場じゃないからいいや。
「今日は何しようか。」
「んー。」
「もう今日は前回までのまとめしようぜ。」
「おっけー。」
隣の席の子に消しゴム貸してあげたり、体育で盛大にコケたり、国語の授業で一行間違えて文章読んだり。散々な一日だった。何でだろう。やっぱりまだ吹っ切れてないのかな。
「今日の海、黒歴史製造機じゃん。」
「そんなこと言わないで…。」
礼華に今日を突っ込まれて、机と友達になる。私だって何でこんなに散々なのか知りたいよ。
「そんな日もあるだろ。」
「うんうん。」
「じゃあ、今日までの事まとめよう。」
教科のこと、放課後のこと、その他学校のこととかをそれぞれ好きに言いながらルーズリーフに風吏くんが書きなぐる。
「お前めっちゃ文字可愛くね?」
「え、あ、そうかな?」
ん?もしかして風吏くんが体は女の子だっていうことを知らないのかな?まぁ分かるきっかけって声とか立ち姿とかっていうのでしか無いよね。この学校は制服がフリーだからそれすら分かんないもんなんだなぁ。
「てかそうじゃなくて。」
またわちゃわちゃ話してたら最終下校のチャイムが鳴った。
「え?もうこんな時間?」
ちゃんと時計の針は7時30分を指していて、いつの間にこんなに時間が経ってたんだってもはや感心した。
「あのさ、もう結構まとめられたからさ、今度は自分たちが興味あること調べてみない?」
「え?」
「現代社会を調べるのなら、学校や私生活のこと以外でも調べてみるのも良いのかもしれないよね。」
「確かに。めっちゃ頭いいじゃん。」
「じゃあ明日からそれ考えようぜ!」
まだ二学期が始まってすぐなのに、もうこの時間までになると真っ暗。スマホのライトで廊下を照らしながら歩くんだけど、めちゃめちゃ怖い。
「ねぇ今の声誰?」
「はぁ?声してねーだろ!」
「うるさいって!」
こんな時間に生徒なんてほとんどいないけど、やっぱり騒がしくする時間でも無いし。
「マジでこの声誰だって!」
「声してねーっつーの!」
「2人共うるさいって!」
声がすると言う礼華、声なんか聞こえないという小野くん、うるさい2人に突っ込む私、我関せずと沈黙を貫く風吏くんっていうカオスな構図が出来上がった。
「お前らうるさいなぁ。」
「ぎゃーーーーー!」
背後から声がしっかり聞こえて礼華の悲鳴が一瞬遅れて聞こえてこっちがそれでびっくりする。正体は担任の山口先生。若い男の人で、スペックも悪くないから結構好かれてるんだよね。年齢が離れてるわけでもないしフレンドリーだから生徒からタメ口で話されることもしばしば。
「こんな時間まで何してたんだ。」
「えっとですね。」
経緯を説明すると、ちょっと呆れたように笑って。
「頭良いんだか悪いんだかわかんないわ。」
「え、それって誉め言葉?」
「とにかく、気を付けて帰れよ。もう暗いんだから。」
「「「「はーい!」」」」
先生と別れて昇降口を出る。駐輪場に繋がる道で小野くんとは別れ、バス停への道で礼華と別れた。
「海さんは、どっち方面なの?」
「上り方面ぢょ。風吏くんは?」
「自分も。どこで乗り換え?」
うちの学校に電車で来てる人は結構居る。下り方面から来た人たちは山の方からって言う人も多くて。上り方面は比較的住宅街が多め。あと乗り換えの駅が2個あるんだよね。
「私、急行止まる駅。」
「自分もだ。じゃあほとんど一緒だね。」
急行止まる駅はかなり大きくて、駅ビル目的で降りる高校生とかめっちゃ見かける。急行が止まらない駅は少し歩かないといけないのがちょっと面倒くさいんだよね。
「次の電車3分後だって。」
「あ、すぐじゃん。」
学生よりも圧倒的に多いサラリーマンに押されつつ電車に乗って揺られる。
「あのさ、次の話題さ、風吏くんじゃダメかな?」
「自分?」
「親世代にはほとんど理解無かったことじゃん?」
「そうだね。」
寂し気に視線を下に向ける風吏くんに少し疑問を抱きながら、次の話題を考える。
「自分は、その話題で構わないけど、あの2人がどう思ってるのかが重要だよ。それでしんどい思いをするのは自分だから。」
話題に出すなんて、私自身はすごく簡単な話。けど、礼華か小野くんのどちらか、もしくはその両方が気持ち悪いだなんて言い出したら。私はそんな考えもあるもんだ、としか思わないかもしれない。風吏くんは、風吏くん自身を否定されることになる。
「まずは、確認してみようよ。私が勝手に風吏くんが居ない時に聞いてみる。その後に言い出さなかったら別の話題をやろう。」
「分かった。」
滅多に見ない風吏くんの不安そうな顔に、申し訳なさを感じつつも、今ならではのことを考える。
「絶対風吏くんにマイナスに感じることはしない。風吏くんだけじゃない、他の人にも。」
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