第5話 次の工程は
「お〜すごいじゃん!」
のんちゃんと会った週末を乗り越えた月曜の朝。風吏くんとまとめたものを礼華と小野くんに報告。
「お前、めっちゃやるじゃんか。」
「そうかな。」
カフェで聞いた声のトーンより幾分低い風吏くんと目が合う。
「とりあえず学校のことはこんな感じかな。」
「あとは、私生活の方もやらないとよね。」
「でもそれって人それぞれじゃない?」
「俺は部活…あ!部活とかの特別活動やろうぜ。」
そっか、学校は勉強だけじゃないもんね。
「あたしも今日オフ。」
「俺もオフ。」
常にオフの私と風吏くんも頷いて、今日の放課後この教室でやることが決定した。
キーンコーンカーンコーン
慌てて自分の席に戻り、ドアを開けて入ってきた担任から今日の時程を聞いて。もう私の頭の中には放課後のために何をしているのかを考えていた。
「「さよーなら!」」
部活に行く人、これから遊びに行く人、友達を待つ人、ただ喋ってる人、委員会とかの集まりを確認してる人の中に、私たち親に抗うことを目的とした4人が固まる。
「じゃあ、部活の時間どれくらい?」
「俺は、平日は大体7時までやってる。週4くらい。土日は必ず半日はあるな。」
「あたしは平日は1時間くらい。けど週2。土曜日の午前中に部活ある。」
小野くんはサッカー部で礼華は剣道部。とっちも運動部だからしっかり時間はあるし、うちの学校はナイター設備があるから暗くなっても活動できる。
「月曜日と金曜日は基本7時間授業、他が6時間授業で固定すると、平均2.5時間くらいになるかな。」
「意外と、たっぷりでは無い?」
「時間だけでいうならそれは昔の方がキツかったかもね。」
「え?」
「今はかなり部活に関して厳しくなってるところがあるから良いけど。」
それじゃあ、お母さんたちの世代の方が大変ってことだよね…。
「けど、暑い。」
「そうだね。暑い。」
「暑い?」
「親世代の時は、30度いったらニュースになってたんだぞ。今じゃ30度なんて普通だろ。」
「むしろ涼しいね。」
「そうなんだぁ〜。」
「暑さが厳しくなりすぎたのも、部活時間の削減に繋がっているのかもしれない。」
「調べてみろよ。」
「ネットでなんか色んな情報が来るけど、自分たちで考えなきゃこれ意味無くない?」
確かに。これはあくまで私がお母さんを言い負かすための企画(?)であって、確実な根拠を提示しろなんて言われてない。
「つまり、どこと何が繋がってるのかを考えればある程度はいけるんじゃない?」
「じゃあ今日は部活を考えよう!」
「道具の進化でかなり技術は上がっているはず。」
「昔なら大人が達成するはずの、ってことか。」
「授業数が増えた、部活時間は暑さで減った。つまり、暑くなかったら授業は増えても部活はそのままだった可能性がある。」
「あ〜。」
「つまり、自分たちの現状を大人が知ろうとしてないのが問題じゃない?」
「「「え?」」」
風吏くんはよく難しい言葉を使う。
「大人たちはずっと自分たちと同じ状況だと思っている。だからちょっとやそっと増やしたって大丈夫だって思うわけだし、学校以外での事が学生間でも進歩していることを知らない。じゃないとこんなこと出来ない。」
「つまり、大人に現状を話すってこと?」
「手っ取り早いのは見てもらう、やってもらう、なんだけど。」
そう言ってスマホの画面を私たちに見せた。そこには小説投稿サイトがあった。しかもかなり有名なもの。
「こういうのを活用してみるのはどうかな?親に向けて、だと私情や自分たちだけかもしれないことだってあるはず。色んな機能があるからそれらを使ってみようよ。」
私の携帯でもそれを調べてみると、オリジナルの小説も二次創作も、ホームページ風なものも投票とか本当に色々あった。
「これ、すごいね。」
「機能を上手く使えれば、自分たちが考えてることを、たくさんの人に見てもらえると思うんだ。」
「すげぇ。」
「でも、そうしたらアンチとか出てくるんじゃないの?」
「意見によっては使えると思う。」
まだそれについてよくわかんないけど、とりあえずやってみようってことになった。
「これ、誰のアドレスにする?」
「題名はこうだろ!」
「その色じゃないでしょ!」
放課後の教室、廊下が少しだけ暗くなった頃に登録が終わった。
「じゃあ、ここから先は明日以降にやろうか。」
「うん。」
それぞれの帰り道に進むと、奥に影が見えた。
「?」
街灯の下に到達すると、顔が見えた。
「のんちゃん?」
「うーちゃん。」
この前会ったばかりののんちゃんの姿は何となく、街灯の下なはずなのに暗かった。
「のんちゃん?」
「ごめんね。」
それだけ、それしか聞こえなかった。
『続いてのニュースです。』
朝になっても、あれしか言わずに居なくなっていったのんちゃんのことが頭から離れるわけがなくて、ずっと考えていた。だからか、ニュースの声なんて一切聞こえなかった。
「ねぇ、この子。」
力なくテレビに向くと、そこには卒アルの写真があった。私も持ってる。二年前に担任の先生から手渡された、その写真。私のクラスには無くて、隣のクラスの所にあった。
「のんちゃん?」
「野村、馨ちゃんって、海が3年生の時に隣のクラスだった子よね?頭が良くて、運動も出来て、そして性格も良いって、海言ってたわよね。」
「うん。」
昨日、あの時に何か言えていたら。結果は変わらなかったのかもしれない。そう思うと、私って無力なんだなって思えた。私は、1人の命すら守れないんだ。
「食べれないわよね。」
朝ご飯のほとんどを残してしまった私に心配そうな眼差しで見つめるお母さんに申し訳なく思いながら、学校に行く準備をする。
何でそうしたかったのは分からないけど、パソコンを起動させた。そこから、昨日開けなかったSNSアプリを開くと、メッセージが入ってた。
”昨日は驚かせちゃってごめんね。私、お母さんに相談しようとしたけど、やっぱりダメだった。このまま私が居なくなればきっと他の子が同じ目に遭うんじゃないかって思ったら、あの人たちにいじめがどれほど重い罪なのかがわかるんじゃないかなって思った。だから私は、このままもういなくなる。あの日にうーちゃんに会えたのは本当に嬉しかったし、心が軽くなったのも嘘じゃないの。けど、私はもう無理なの。ごめんね。うーちゃんが何か気背負うことなんてない。お母さんには、私のお葬式にうーちゃんを呼ぶように伝えてあるから。来てくれると嬉しいな。ごめんね。そしてありがとう。”
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