第4話入寮(林鈴香)

私の名前は林鈴香。今日から福原高等学校の陸上競技部の寮に入寮することになった。

朝から父親の運転する車で約4時間かけて寮に到着した。

寮の前にはとても大きな男の人が立っていた。

母は車を降りて


「あの、福原高等学校の寮に今日から娘が入寮するのですが、車はどこに停めたらいいですか?」


を聞いたが帰ってきた言葉はなく、すぐ横の空き地を指差した。母は少し困った顔で


「そこに停めたらいいのね?」


と聞いた。


「ん。」


男の人は頷いた。


「あ、壮真!また新入生を困らせて!ダメでしょうが!」

「大丈夫!」

「どこがよ!固まっているでしょうが!」

「ん。困った。」

「違うよ!」

「固まった。」

「壮真、その主語は壮真だよね。」

「ん。」

「はぁ~」


寮から出てきた女の人はどこか諦めたような顔をしながら、ポコポコと男の人をグ-で叩き始めた。私はどうしたらいいのかを分からなくなり、横に立っていた母の顔を見てみると母も困った顔をしていた。仕方がないので視線を叩かれている男の人と叩いている女の人の方に戻そうとすると、途中でこちらを見て固まっている男の人が居た。なんとなく、会釈をしてみると


「こんにちは、僕は佐野勇太です。今日から福原高等学校の陸上競技部の寮に入寮します。よろしくお願いします。」


と挨拶された。


「あ、こんにちは。私は林鈴香です。私も今日から入寮します。よろしくお願いします。」

「自己紹介はその辺にしておいてとりあえず荷物を運び込んだ方がいいよ。聞いていると思うけど今日16時から部活があるから、ここを15時30分過ぎに出るよ。ちゃんと競技場まで案内するから安心してね。」


さっきまで男の人を叩かれていた女の人が私たちが話し終わったタイミングで話しかけてきた。良かった。もしもあのまま寮の前で2人が争っていたらどうしたらいいのか佐野君に聞くところだった。


「「はい!」」


私と佐野くんが2人揃って返事をして動こうとすると、男の人が女の人の肩をとんとんとしながら


「それ、僕の仕事」


と言った。


「うん、知ってるよ。でも監督に補助するようにと言われてるの。だから一緒に行くよ。だいたい、壮真は移動中に会話できないでしょうが!新入生を迎える役をすると行って機嫌よく出ていったはいいけどどうしていいのかわからずに固まるから来た新入生が2人揃って怯えちゃったじゃない!」

「大丈夫。次がある。」

「次はないから。まだ女子が3人、男子が2人来るけどそれは私が出迎えるから壮真は寮母さんに「もう来てます。」と連絡をしたら部屋に引っ込んでおいて。あんたが必要になったら呼び出すから!」

「いや!待つ。」

「もう!絶対来る新入生を怖がらせるだけだから辞めなさい!」

「そんなことない!」


女の人は両手を腰に当てていかにも怒っていますよアピールをしながら男の人に文句を言い始めた。さっきから思ってたのだけど、どこかこの男の人ずれている気がする。

どうしたらいいのだろうかと思っていると寮から女の人が出てきた。


「いつき、壮真に文句言っても無駄だよ。だからそんなとこで言わないの。新入生が困っているでしょうが」

「だって…」

「だってじゃありません!まったくもう!とりあえず、そこの新入生2人入っておいで!男子は入ったら階段を上ったところに男子が居るからそれにしたがって。女子の方はついておいで。部屋まで案内するね。」

「はい!」

「分かりました。」


私と佐野くんは返事をして寮に入っていった。

寮に入ってすぐにある階段を上っていくと2階に男の人が2人いた。そこで佐野くんと別れ私は女の人のについてさらに階段を上がっていった。4階に着くと女の人が


「さてと、私は森奏音。ちなみにさっき寮の扉の前にいた男子が沢井壮真で、女子が岩谷いつき。この寮には3年生は居なくて、私たち2年生が男子3人、女子4人の合計7人住んでいるよ。あとは寮母さんと寮母さんの父親。みんなには寮長さんって呼ばれている人が寮によくいる人たちかな。たまに寮母さんの娘さんが来てるね。寮母さん以外の人は寮のすぐ横にある建物に住んでいるから基本的に会うことはないけどね。あとは毎日のように19時~20時の間で萩野先生が来てリビングに座っているよ。帰るのは早いときもあれば日が変わるまで居るときもあるらしいけど気にしないで寝てらいいからね。とりあえず、話しておくべきことはこんなものかな?あとは何かあればその都度聞いてね。私の部屋はここだから。いつでも訪ねてきてくれていいよ。」


と一方的にしゃべってくれた。


「分かりました。ところで後の女の先輩2人はどちらに居るのでしょうか?」

「さぁ~。あの2人は寮母さんに何か頼まれてどこかへ出掛けて行ったよ。そのうち帰ってくるでしょう。それよりも荷物を運び込もうか。」

「はい!」


私は森先輩について階段を下りて行った。途中で男の先輩に


「大丈夫?力が必要なら声かけてね。」


と言われたが、森先輩が


「力は今のところいらないから、壮真を部屋に連れ戻しておいて!そうしないと新入生が怖がる!」


と言い返した。その返事が


「無理!あいつはああなったらどうしようと動かない。あいつを動かすなら、あいつに寮の新入生のお世話係と寮の生徒代表として寮母さんとの連絡係兼何かあった際の先生への連絡係を任せた監督にあれが寮の前で新入生を怖がらせるから部屋に戻るように言ってもらえるように連絡してくれ!」


と言い返された時は森先輩が固まった。


「それは無理だね。」

「だろう。分かったら諦めてくれ!それにあれは最初は会う人の大半に怖がられるけど最終的に可愛がられているじゃん。だからきっと時間が解決してくれるはず…はずだよな?」

「知らないわよ。私があれを怖がらなくなった理由は、あれがあれだからよ。」

「いや、何ですべて指事語なんだよ!まったく何かわからん。」

「仕方ないでしょう!鈴香ちゃん、行こうか。」

「え、あ、はい。」


突然名前を呼ばれて驚いた。まだ自己紹介をしていなかったのに何で知ってたんだろうか?とりあえず、すたすたと降りていく森先輩を追いかけることにした。

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