調理

 僕が目を覚ますと、男がキッチンに向かっていた。ガールズバーのキャストが入って来た。

「あ、店長が連れ込んだ男の子が起きた」

「不穏な言い方やめろ」

「でも事実じゃん」

 と、男と女が喋っていた。

「店長が女嫌いなのは知ってたけど、男の子を連れ込むなんて職権乱用だよね」

 下卑た笑みで女は言った。

「黙れ、亜季。これだから女は嫌いなんだよ」

 と、男は言った。それから鍋で作っていた物を茶碗に入れて持って来た。

「とりあえずそれを食え」

 そう言って男は茶碗とスプーンを僕の傍らに置いた。

 お粥だった。何も具材は入っていなかった。

 僕はそれを口にした。熱かった。やけどするかと思った。

 ふーふーと冷まして口に入れた。鶏ガラと生姜の味がした。

「美味しそう。店長、わたしにも作ってよ」

「自分で作れよ」

 と、男は女に言った。

「店長、だから童貞なんだよ~」

「軽口を叩いてる暇があるならこのギムレット持ってけよ」

 男の差し出したグラスを女が持って行った。僕はそれを見送ってビニール袋の中のパンツを取り出し履いた。

「あ、店長の男の子が起きてる」

 と、別の女が入って来た。

「なんだよ」

 と、男はぶっきらぼうに言った。

「注文だよ。アクアパッツァだってさ」

「うちは洋食屋じゃねえと言っといてくれ」

 そう言いながら、男は冷蔵庫から魚の切り身と何かを取り出した。

 男はフライパンに油を垂らし魚の切り身を焼いた。そして、冷蔵庫から取り出した何かを入れた。

「ドライトマトだよ」

 と、男は言ってフライパンに酒を入れて蓋をした。

「ねぇ店長とどんな関係なの?」

 と、女は僕に聞いてきた。

「詮索すんなよ」

 と、男は言った。

「えっと、助けてもらって」

 と、僕は言った。

「それだけ?そんなわけないよね。だってさ、わたしが仕事に来た時、下が裸で寝てたんだよ。つまりそういうことよね」

「どういう事だよ。これだから女は嫌いなんだ」

 男が女に言い返す。それからしばらくして、フライパンから魚を取り出して皿に盛った。

「ほら出来たぞ。さっさと持ってけ」

 と、男は言って皿を女に差し出した。

 それから同じ様なやり取りを繰り返している内に日付が変わった。

「これで最後」

 と、男はグラスを女に持たせる。そして、男は振り返って僕を見た。相変わらず、嫌な目をしていると思った。

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