狩猟 伍
沢から鹿を引き上げた。比較的平らな岩場にビニールシートをひいて鹿をそこに乗せた。
まずは鹿の首に小刀を突き立てる。血が溢れ出し腕が汚れる。血を沢で洗う。次に落ち葉を集め鹿の肛門に詰める。
胸の皮を一枚小さく切り開いた。のど元まで皮を切り、切り口周辺を数センチ剝く。肋骨が合わさる胸の中心に小刀をあてて、落ちている木の枝で小刀の背を叩いて、まず、胸を開けた。
開いた胸の奥に手を入れ、獣の体温を感じながら、気管と食道を探る。気管と食道をひとまとめにして握り、力任せに引っ張り呼吸器官を取り出した。
取り出した呼吸器に噛みついた。血で口元が汚れる。ゴム毬の様な弾力。歯噛みする。歯軋りする。内臓を無理くり胃へと納める。一口食べて満足した。続きを始める。
心肺器官と背骨を繫ぐ筋を引きちぎったら、腹を開ける。胸と同じように、皮一枚を開いて、少し剝いてから、前腹壁を小さく開く。開いた穴から指を入れて胃袋を押し込み、前腹壁と消化器官との間に空間を作る。指先だけが温かいものに触れていて、他は冷たい。胃や腸を切って消化物を出してしまわないように注意して、肛門へ向かって切り開いていく。
気管と食道が背骨から離れれば、肺と心臓が芋づる式に取れる。次に横隔膜を切るかちぎるかして、胃袋と肝臓を出す。だが胃袋は米袋のように重く、ぬるぬるしているうえに柔らかいので、引き上げることはできない。胃袋の奥に腕を回し、抱えるようにして引きずり出す。続く腸もやぶかないようにそっと出していく。
腸に入った糞を体腔内にこぼさないように直腸を切り取り、消化器官がすべて取り出した。
心臓を握る。小刀でそれを切り裂く。残っていた血が溢れて出た。6個の肉塊に心臓が変わる。それを1つ1つ口に入れて飲み込んだ。
腹が満たされる。血の匂いが鼻腔を満たす。それからしばらくの時間、俺は目の前に広がる血肉に見惚れていた。
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