狩猟 四

 鹿の跡を追って藪の中へと入って行った。腰まで伸びたススキが踏まれて傾き、所々に血肉で汚れた獣道を作っていた。

 これならそう遠くへは行けまい。と、俺は思った。ここまで来ると注意点は鹿ではない。足下が急に崖になっていたり、野生のイノシシに遭遇する危険性の方だ。

 数歩進んで止まる。辺りを見回す。銃身で藪を掻き分ける。雑音に耳を傾け、臭いを嗅ぐ。それからまた数歩歩く。これを何度も何度も繰り返す。焦った時こそ基本動作を愚直に遂行した。

 水が流れる音がした。藪を抜けると沢に出た。そこで鹿は倒れていた。鹿を撃ってからそこまでたどり着くのに1時間以上かかっていた。

 運が良い、と半分思う。

 運が悪い、と残りの感情が訴えた。

 沢の水に触れる。ひんやり冷たい。これなら肉は十分鮮度を保たれているだろう。

 鹿は身体の半分が水に浸かっていた。流れる沢の水に赤い線ができている。引き上げるのが手間だと思った。それ以上に、止めを刺すのが危険だと思った。

 俺は銃身を折り弾を込めた。銃身を戻し安全装置を外す。鹿の頭を狙い引き金を引いた。辺りに響いた銃声で周りの鳥や獣が逃げ出した。

 鹿の脳漿と血と骨が水に流される。俺はそれを無視して鹿の脚を握り沢から鹿を引き上げた。

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