狩猟 弐

 そっと林道に降り立った。周辺をゆっくり見渡すが、気配はない。林道は日当たりのいい部分だけ雪が解けている。ザックから水筒を取り出して口を湿らす。それから銃をとんとんと指で叩いて、薬室に弾を込めた。

 暗い針葉樹の森を真っ直ぐ進む。獣の気配はなかった。先へと進む。アテは僅かに見える獣道のみ。

 そっと斜面の下を覗き込み、カーブの先を見た。

 60メートルほど先に牡鹿がいた。

 こちらに気がついているかはわからない。この距離だと俺は上手く当てられる自信がない。

 身を屈めながら牡鹿に近づく。

 2メートルほど接近して、足下でパキッと大きな音をたてて枝が折れた。

 鹿がこちらを見て、固まった。

 俺はその場で銃口を向ける。

 安全装置は解除しない。

 スコープを覗くと潤んだ鹿の瞳と目があった。

 鹿はパッと斜面に飛んだ。

 俺は銃口を下げた。

 外すとわかって撃つのは愚かだ。そう俺は教わった。

 バサッバサッバサッと鹿は藪の中へと逃げて行く。俺は鹿の白い尻を目で追った。それが見えなくなって、漸く銃身を操作して折り薬莢から浮いた銃弾を抜く。汗ばんだ手を銃弾ごと握りしめた。

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