出会い
狐の嫁入りと言うには余りにも五月蝿い通り雨が降った。昼過ぎの繁華街を洗い流す。雨が上がった後の独特な静寂が街を包んだ。
俺はひさしの下から出て服を触る。ジメッと濡れている感触が掌に伝わった。
あ〜どうするかな。と、俺は頭を捻る。店を開くまでは時間がある。どこかの喫茶店でコーヒーとタバコを吸って店に向かうのが何時ものルーティンだ。それをしなければ、着替えるぐらいの時間はあった。
適当にコンビニを探して辺りを見回すと、ずぶ濡れになってうずくまっていた1人の若い人がいた。そいつはランチタイムが終わって閉まった店先に背中を預けて項垂れていた。肩までかかった長い黒髪が濡れていて、それが燦々と輝く陽射しを反射していた。
「おい、大丈夫か?」
と、俺はそいつの肩を揺らして問いかけた。
「大丈夫です」
と、か細い声がする。この世の全てに絶望したような、しかし本当に辛いことなど一切知らないような幼さを残した男の声であった。
「大丈夫には見えねえよ」
と、俺は言った。夏の蒸し暑さの中にあって、その男は震えていたからだ。
「優しいんですね。でもほっといて下さい。おっさんに同情されても惨めなだけです」
「優しくなければ生きていく資格はない。そういうことだよ、少年。お前に優しくするのは俺のためだ」
そう言いながら、と腕時計で時間を確認した。
「それで帰るところはあるのか、少年」
「今夜はない。金も……」
と、少年は言った。
「帰る場所がなければ、とりあえず付いてくるか?これから行く先でとって喰われるかもしれねえがな」
「行く……」
と、少年は答えた。
方針は決まった。俺はコンビニで2人分の着替えとタオルを買って、少年を引き連れ店に向かう。開店は6時のガールズバーの入ったビルへと。
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