035 大袈裟な反応
電車はノンストップで新大阪駅を通過した。
「新大阪駅と大阪駅って違うのか?」
大阪に疎い俺が尋ねると、秋穂が答えてくれた。
「全然違うよ、新大阪と梅田だと」
「梅田?」
「大阪駅には複数の路線があって、その中に梅田駅って名称があるの。関西人からすると大阪駅って言うより梅田駅のほうが一般的だよ」
「へぇ」
話していると噂の梅田に到着した。
「長かったなぁ梅田まで」
「せやなぁ」
「ほな暴れたろか」
電車が止まり、モブたちが意気揚々と降りていく。
たしかに彼らは「梅田」と呼んでいた。
「よし梨花、俺たちも“梅田”で暴れよう」
「うん!」
「たいそうな自信だけど武器は?」
電車を降りたところで玲二が尋ねてきた。
「武器ならあるぜ」
俺は刀を召喚した。
「うお!? どこから!?」
「え、なにいまの!?」
玲二と秋穂が目をギョッとさせている。
「私だって!」
と、梨花が大鎌を召喚。
「こっちも!?」と秋穂。
「ええぇぇぇ!?」
顎が外れそうなくらいに驚く二人。
『これこれ! このリアクション!』
『こういうのが見たかったんだよなぁ!』
『大阪人おもしれー!』
リスナーは玲二と秋穂の反応にご満悦の様子。
いいぞもっとやれ、というセリフとともに小銭のスパチャも。
「二人こそどうなんだ? そんなオモチャで戦えるのか?」
玲二と秋穂の武器はどちらもバールだ。
硬さは申し分なさそうだが、いかんせんリーチが物足りない。
「大丈夫、ザコなんてバールで十分だ」
「それは頼もしい」
俺と梨花は、玲二たちと共闘することにした。
◇
改札の外では、既に戦闘が繰り広げられていた。
構内にうごめく魔物を相手に、モブたちが善戦している。
金属バットやゴルフクラブを振り回して楽しそうだ。
「それにしてもすごい数だな」
何年か前に京都へ行った時を思い出す。
通りは観光客で埋め尽くされており、歩くのに苦労したものだ。
あの時と同じような密度で魔物がうじゃうじゃしていた。
「怖じ気づいたか?」
ニヤニヤする玲二。
「まさか」と俺も笑い返した。
「それはよかった――いくぜ!」
玲二と秋穂が突っ込んでいく。
「うおおおおおお!」
「やああああああ!」
二人は阿吽の呼吸で連携して戦っている。
基本は玲二が暴れ、秋穂がそれをアシストする形。
たしかにバールでも戦いになっていた。
「やるなぁ、ハンターという職が成り立っているだけのことはある」
一般人の戦闘力に関しては、明らかに関東よりも関西のほうが高い。
関東方面では自衛隊以外まともに戦っていないから。
(一般人でもある程度戦えると何かあった時に役立ちそうだな)
もしかしたら古川市長にもそういった狙いがあるのかもしれない。
「涼真君、私たちも戦おうよ!」
梨花は大鎌を振るいたくてうずうずしている。
「いや、俺たちはまだ様子見だ」
「なんで!?」
「ここで暴れてドラゴンを呼び寄せたら困るからな」
「あ……!」
駅構内からでは、どこにドラゴンがいるのか分からない。
もしも近くにドラゴンがいた場合、派手に暴れると引き付けてしまう。
「それなら大丈夫だよー。この時間帯は四国か九州に行っているから」
秋穂が答える。
「そうなのか。ずっとこの辺にいるのかと思った」
「ちょっと前まではそうだったけど、最近は出張が基本だね」
「出張って」と苦笑い。
「なら遠慮なく暴れられるね! 涼真君!」
「そうだな! やってやれ、梨花!」
「うん!」
梨花が体を捻って大鎌を振る態勢に入る。
「楽しみだねぇ! その武器が見かけ倒しじゃないといいけど!」
秋穂が余裕ぶっている。
「えいやーっ!」
そんな中、梨花が鎌を振るった。
「キュィイイイイイイイイイイイイ!」
火の鳥が現れ、数秒で数百体の魔物を燃やし尽くす。
「「えっ」」
固まる玲二と秋穂。
「なんだありゃ!?」
「魔物が一気に燃えたぞ!?」
周囲で戦っているモブたちも驚く。
「なら次は俺だな」
俺は適当な敵を脇差で攻撃。
Dランクなだけあって、ザコが豆腐のようにスパッと斬れる。
それと同時に周囲5メートルの敵に雷が落ちた。
屋内でも【雷霆】が使えることは事前に把握していたので驚かない。
「今度は雷だとォ!?」
「あいつらどうなってんだ!?」
「やべぇだろ! マジで人間か!?」
モブたちが騒然としている。
「なんなんだお前ら……」
「本当に人間……!?」
玲二と秋穂は口をあんぐりしていた。
『驚きまくってて草ァ!』
『我が星は魔物を殺すことに関しては天下一なのだ!』
『雷霆でこれだと死の波動を見たらショック死しそうw』
『もっと驚かせてやれー!』
関西勢が驚けば驚くほどリスナーは歓喜。
応援の意を込めたスパチャが止めどなく降り注いだ。
視聴者数も5000人を超えて絶好調である。
◇
その後も敵を皆殺しにしながら駅を出る。
自転車は玲二と秋穂が押してくれた。
いつの間にか隊列が変わっていた。
俺が先頭で、玲二と秋穂が中団、梨花が最後尾。
「こっちでいいのか?」と振り返る。
「あ、ああ、そのまま真っ直ぐだ」
「はいよ」
洒落た百貨店の前にある大きな道路を歩く。
周囲は背の高い建物ばかりで、まごうことなき都会だ。
さすがは東京に次ぐ大都市である。
「ボスが出てきたぞー!」
「逃げろー!」
どこからか声が聞こえてくる。
しかし、建物群が邪魔でどこか分からない。
「ボスはどこだ?」
「たぶんあっちだと思う。ゲートがあるから!」
秋穂が教えてくれた。
その方向に向かおうとすると。
「お、おい、もしかしてボスのところに行くのか?」
玲二が驚いた様子で尋ねてきた。
「そうだが?」
「やめとけって。ボスはヤベーよ。自衛隊ですら手こずる相手なんだ」
「火力は自衛隊より俺たちのほうが上さ」
「涼真君の武器はDランクだもんね!」
「「Dランク……?」」
玲二と秋穂が首を傾げる。
「とにかく俺たちはボスを狩りに行く。怖いなら来なくて平気だぜ」
「ど、どうするの? 玲二」
秋穂は玲二に判断を委ねた。
「……ついていこう。二人と一緒にいるほうが安全そうだし、それに本当にボスを倒せるのか見てみたい」
「決まりだ――行こう、梨花!」
「了解!」
俺と梨花は駆け出した。
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