032 謎の集団
南濃町松山にある自衛隊の駐屯地を発った俺たちは、地図アプリを頼りに西へ向かった。
アプリの推奨するルートではなく、俺の考えた山間部主体のザコが少なそうな道を選好する。
これが思いのほか効果的だった。
まず、当初の狙い通り魔物が非常に少なく、たまに現れても数体とか。
その上、都市部を通るよりも最終目的地である大阪までの距離が近い。
これだけでもありがたいが、なんと道が綺麗で走りやすかった。
ストリートビューでは酷い状態だったので、魔物の出現以降に整備されたのだろう。
「それにしてもDランクの武器はすごいな。ザコ相手でも違いが一目瞭然だ」
「ねー!」
Dランクの【雷霆】は、ザコを粉々に消し去る。
Fランクでも一撃だったが、ザコの死に様が違っていた。
明らかに火力が上がっていると分かる。
「ミノタウロスキングでもいりゃよかったが――」
俺たちは自転車を止めた。
前方に立派な旅館が建っている。
「――また次回だな。今日のゴールに到着だ」
念のために地図アプリを確認。
琵琶湖のすぐ傍にいるので間違っていない。
「この辺は土地が余っているんだねー」
梨花が周囲に目を向ける。
日本とは思えないほどの距離を開けて建物が点在していた。
近くにスーパーやコンビニがないため、ちょっとした買い出しですら自転車だと往復で1時間近くかかりそうだ。
車がなければ不便な場所である。
「なんだかすごいよなー、こんなへんぴな場所にある旅館ですら管理されているなんて」
この旅館は、有志が隔週で掃除している。
利用条件は特になくて、「綺麗に使えばそれでいい」とのこと。
「早く中で休もー! もうお尻が痛いし、汗で体がベトベトだよー!」
梨花が先頭を歩いて旅館の中へ。
俺も「そうだな」と後ろに続く。
「何時間も配信しておきながらまるで盛り上がらなくて恐縮だけど、こういう日もあるってことでまた明日」
出発と同時に始めていた配信を終わろうとする。
『待て』
『ここからが本番だろ』
『梨花ちゃんとの混浴! 梨花ちゃんとの混浴!』
『梨花の裸を見せろ! 拝ませろ!』
『スパチャが稼ぎたいならどうするか……分かっているな?』
リスナーの圧が凄い。
変態どもは梨花の裸が見たくてたまらないようだ。
たしかに俺たちはこれから風呂を楽しむ。
別々ではなく混浴。同じ湯船に仲良く裸で浸かる。
その際には多少のイチャイチャもあるだろう。
それを配信すれば、きっと大量のスパチャが稼げるだろう。
しかし、倫理的に一線を越えている気がするのでやめておいた。
(わるいが梨花の裸は俺が一人で堪能させてもらうぜ)
何も言わずに配信を終了する。
「配信は終わった?」
旅館に入ると梨花が振り返った。
「ああ、終わったよ」
俺は梨花の隣に行き、彼女の腰に手を回した。
◇
翌日。
朝食後、旅館の規約に則って部屋と大浴場を掃除した。
それが済んだら服を着替え、忘れる前に配信を始めてから出発する。
『昨夜は梨花たんとさぞお楽しみだったんだろうなぁ』
『クソ配信者』
『男の敵』
『俺の内なる嫉妬の炎がお前を燃やすぞ城ヶ崎涼真!』
早くもファンからの温かい挨拶。
俺は静かに口角を上げたあと、自分に向かってVサイン。
視聴している異世界人どもはますます燃え上がった。
今日も楽しくなりそうだ。
「ねぇ涼真君、今日はどこまで向かう予定なの?」
「とりあえず京都市近辺だな」
「近辺?」
「正直まだ決めかねているんだ。京都市の手前……滋賀の大津市で止まるか、逆に京都市を突っ切るくらいまで進むか」
「京都市ってかなり大きいよね? 手前で止まったら大阪まで行くのに苦労しない?」
「それはそうなんだけど、京都市は京都の中でも魔物が多いと言われている。清水寺とか訪日観光客の代わりに魔物で埋め尽くされているって話だぜ」
梨花は「うわぁ」と眉間に皺を寄せた。
「お寺って神聖なイメージあるし、できたら戦いたくないよねー」
「たしかに。ま、今は何も考えずに進んで、日暮れが近づいてきた時にまた考えよう」
「はーい!」
どこを目指すにしても途中までのルートは変わらない。
まずは長距離移動の頼れる道標こと線路を目指す。
そこから線路沿いに目的の方角――今回なら南に進めばいい。
と、思っていた。
「ん?」
いよいよ線路や駅が見えた時だ。
量産型の何ら特徴のない駅のホームに人がいた。
それも一人や二人ではなく数十人規模。
「すごい数の人」と梨花。
「こんな時間に何しているんだ?」
現在10時過ぎ。
既にゲートから魔物が現れている頃だ。
先ほど話題に上がった京都市などは魔物が蠢いているはず。
いつもなら、この時間帯にあれほどの数の人を見ることはまずない。
「自衛隊かな?」
「私服だから違うはず」
ホームにいるのは10代後半~20代の若者ばかり。
男女比は8:2といったところで、少しだが女の姿もある。
連中は金属バットやゴルフクラブなど、もれなく武器を携帯していた。
「どうする? 涼真君」
梨花は不安そうに俺を見た。
「できれば避けたほうがいいのかもしれんが……話を聞いてみるとしよう」
好奇心には勝てなかった。
彼らが何者か、そして何故ホームで待っているのかも気になる。
もしかしてこの時間帯に電車が走っているのだろうか。
リスクは高いけれど、話しかければ何かしらの答えが見つかるはずだ。
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