027 魔のダイスロール

 少し背の高いピエロみたいなモンスター。

 それがブラックドラゴンをも凌駕するSランクときた。


「逃げるぞ! 奴はSランクらしい!」


 俺は慌てて二人に言った。


「Sランク!?」


「ドラゴンより上なの!?」


 当然、杏奈と梨花も驚いた。


「リスナーが言うにはそうらしい。戦うのは危険だから逃げよう!」


「「分かった!」」


 だが、俺たちが走り出した瞬間に複数のリスナーが言った。


『逃げても意味ないよ』

『ダイスジョーカーからは逃げられないべ』

『奴の射程は無限だから狙われた時点でアウト』

『むしろ逃げないほうがチャンスある』


 俺は足に急ブレーキを掛けた。


「逃げないほうがいいだと!?」


「どういうこと?」と杏奈。


「リスナーが逃げても意味がないと言っている」


「じゃあ私ら、死ぬの確定……?」


『それは違う』


 ルーベンスが言った。

 俺は彼の発言をそのまま読み上げる。


『ダイスジョーカーは特殊なタイプなんだ』


「特殊?」


『奴の攻撃は、手に持っている二つのダイスを同時に転がし、その出目によって内容が変わる。そして、攻撃が終わったら勝手に消える』


「勝手に!? 自分じゃ倒せないの?」


『ダイスの目が決定する前に攻撃すれば倒すこともできるが、奴はAランク以下のあらゆる攻撃を無効化する。今の主たちでは絶対に倒せない』


「ダイスには面が色になっているものと数字のものがあるけど、それらはどういう風に見ればいいんだ?」


 これは俺の質問だ。


『色が攻撃の効果だ。黒だと即死攻撃。デスみたいなものだ。これは3OPのSランク防具でも防ぐことができない。もう一方の数字は、攻撃を受ける人数を表している』


「俺たちは3人だから、3以上なら全員が対象になるわけか」


『その通り。極めて倒しづらく、出目次第とはいえ抵抗不可の即死攻撃を持っている。奴がSランクなのはそういう理由だ』


「なるほど」


 要するに俺たちの命運は神頼みということだ。

 黒が出なければ死を回避することはできる。


『ピンクが出るよう祈れ!』

『ピンク来い! ピンク!』

『ピンクなら死なないどころかダメージも受けないぜ!』

『主たちも一緒に「ピンク」の合唱を!』

『ピンク! ピンク! ピンク!』


 コメント欄はピンクが出ろと盛り上がっている。


「なんかピンクが出たらいいらしい」


「いいって? 当たりなの?」


「分からないが、ダメージすら受けないと言っている」


「じゃあピンクが出るように祈らないと!」


 杏奈は両手を合わせ、天に向かって祈りを捧げる。


「通用しないのは分かっているが……」


 俺は奇跡を信じて【死の波動】をぶち込む。

 案の定、ダイスジョーカーには通用しなかった。

 デスは鎌を振り下ろさずにビビッて消えたのだ。


「私も!」


 梨花が「うりゃー!」と【火の鳥】で攻撃。

 こちらもノーダメージだった。


「ンフゥー!」


 俺たちの悪あがきを無視して、ダイスジョーカーがダイスを投げた。

 小さなダイスが地面に転がり、凄まじい速度で回転している。


「ピンク来い! ピンク!


「ピンクが出ますように!」


 俺と梨花も祈る。

 リスナーの大合唱でログが爆速で流れていく。

 そして――。


「止まったぞ!」


 ダイスが答えを出した。

 結果は。


「ピンクの2だ!」


「「やったあああああああああ!」」


 杏奈と梨花が抱き合って喜ぶ。


『ヒャッホオオオオオオオオ!』

『キタコレ! キタァアアア!』

『ピンクの時間だあああああ!』


 コメント欄もウキウキだ。


『ターゲットは杏奈ちゃんと梨花ちゃんでお願い!』

『間違っても主には攻撃するなよダイジョ!』

『空気読めよクソピエロ! 杏奈と梨花を選べよ!』


 次は攻撃を受ける二人が誰になるかで緊張が走る。

 コメントから察するにランダムで決まるようだ。


「フヒーヒッヒ!」


 ダイスジョーカーが両手を広げた。

 その瞬間、ダイスが消え、二筋のピンクの光が放たれる。

 それはこちらに迫ってきて――俺を避けて杏奈と梨花に命中した。


『しゃあああああああああ!』

『杏奈ちゃんと梨花ちゃんだあああああああ!』


 最高潮を迎えるコメント欄。


 視聴者数も凄まじい勢いで増えている。

 一瞬で1000人を超え、さらに止まることなく3000人に到達。

 配信を始めて2時間も経っていないのに過去最高記録を更新した。

 ダイスジョーカーはリスナーにとってワクワクするイベントみたいだ。


「それでピンクの効果って何なんだ?」


 見た感じ杏奈と梨花に変化はない。

 ダイスジョーカーは「ヨホホォ!」と叫びながら消えた。


『ピンクの効果は――』


 皆を代表してルーベンスが言う。


『――性欲が5000倍になる』


「へっ?」


 目をぱちくりする俺。

 一方、杏奈と梨花は――。


「涼真ぁ、戦いなんかやめてイイコトしよぉ」


「涼真君、私、もう我慢できないよぉ」


 目をハートにして抱きついてきた。

 体をくねくねと動かしながら擦りつけてくる。

 まるでストリッパーのような動きだ。


「性欲5000倍だとぉ!?」


『効果は1時間』

『主の目を通して俺たちも楽しませてもらうぜ』


 早くもスパチャが降り始めていた。


 ◇


 ダイスジョーカーが消えても出発することができなかった。

 杏奈と梨花にモールへ連れ込まれたからだ。


 夜を明かしたアウトドア販売店で相手をさせられた。

 代わる代わる、時には二人同時に、俺の体をもてあそんだ。


 最初は「やれやれ」とため息をついていた俺。

 しかし、時が過ぎるにつれ――。


「あひぃぃ! おほぉ! んひぃ!」


 我ながらキモい声を出して快楽に溺れていた。


(まさか学校で1・2位の美少女たちとこんなめくりめく体験ができるとは……)


 当然、スパチャも飛び交った。


『こんなの発情するなってほうが無理ですよ悪魔!』

『エロすぎるぜ! やっぱりピンクはたまらねぇ!』

『こっちの世界にはいない美女たちの暴走……すばらすぃ!』


 通常では見られないアレコレにリスナーは大興奮。

 俺も「アヒアヒ」「ウハウハ」と大興奮。


 ――――……。


 1時間が経ち、ダイスの効果が切れた。


「「「はぁ……はぁ……ぜぇ……ぜぇ……」」」


 俺たち3人は同じテントの中で寝そべっていた。

 全裸の仰向け状態。

 全身からはとめどなく汗が流れていた。


『最高のボーナスタイムだったぜ……』

『切り抜き保存完了……!』

『眼福、感謝!』


 リスナーも満足している。

 感謝のスパチャが10万ほど入った。

 今日の配信で得た総額が早くも20万を突破。

 所持金は40万ptを超えていた。


「なんかすごい体験だったね……」


「自分が自分じゃないみたいで興奮したぁ」


「流石はSランク、やってくれるぜ!」


 と言いつつ、俺は心の中でダイスジョーカーに感謝した。

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