026 複合オプションの力

「やばいじゃん複合OP!」


「強そう! 見てみたい!」


 リスナーから得た情報を説明すると、女性陣も衝撃を受けていた。


「念のために確認しておくけど、基本的には効果が合体するって認識でいいんだよな? 範囲攻撃OPと単体攻撃OPを組み合わせたら、単体攻撃OPも範囲攻撃になる感じでさ」


 魔物が攻めてこないか睨みつつルーベンスに尋ねる。


『そうだ。範囲攻撃OP同士をセットした場合は、モノによって範囲が伸びたり威力が高まったりする』


「じゃあこの難局を切り抜けるには、とびきり効果範囲の広いOPと単体にめっぽう強いOPを組み合わせるのが良さそうだな」


 ルーベンスが『だね』と同意する。


『主は理解力が高いな』

『この配信を見ている限り地球人は総じて知能が優れているね』

『単純な地頭で言えば俺たちよりも上っぽいもんな』

『地球もそうだけど、科学が発達している世界の人間は賢いわ』


 リスナーが他所の惑星と比較して地球人の賢さを褒めている。


(他の惑星について知りたいが……それは別の機会でいいか)


 俺は〈Amozon〉を操作しながら追加の質問をした。


「皆の意見を採用して2OPのFランク武器を買おうと思う。だからオススメのオプションを教えてくれないか。広範囲のザコをまとめて駆逐できるのがいい。あと、無効化されにくいのがいいな」


 ローニン以外にも攻撃を無効化するザコはいるそうだ。

 なので、その点も意識したオプションにしたい。


『それなら【死の波動】だな』

『まぁ【死の波動】しかないよな』

『定番だわな』


 リスナーが【死の波動】をプッシュしてくる。

 しかし、〈Amozon〉にそのようなオプションスフィアは売っていない。

 頭を抱えていると、困った時のルーベンスが教えてくれた。


『【死の波動】というのは、【聖なる波動】と【デス】の組み合わせだよ』


「ならその二つを買えばいいわけだな」


『あとスフィアをセットするための武器もね』


「すっかり忘れていたぜ」


 ということで、短剣ダガーを購入する。

 鉄扇より少し重いが、似た感覚で振り回せるだろう。


『鉄扇にしなかったのはどうしてだ?』とルーベンス。


「俺の舞が不評でさぁ。コメントでは『画面が揺れる』と言われ、女性陣からもヘンテコやらダサいやら言われたんだ」


 要するにリスナーや女性陣のウケを考えてのことだ。

 俺自身は鉄扇が一番向いていると思った。

 舞だって皆が言うほどダサくないはずだ。


「ねぇ杏奈」


「ん?」


「リスナーと話している時の涼真君ってさ、不気味じゃない?」


「あー分かる! ウチらからしたら独り言にしか見えないもんね」


「危ない人っぽいよねー」


 キャハハと笑う二人。

 反論できない俺は、苦笑いを浮かべながらスフィアを購入した。


========================

【名 前】聖なる波動スフィア

【ランク】F

【対 象】武器

【効 果】付近の魔物の動きを鈍らせる

========================


========================

【名 前】デススフィア

【ランク】F

【対 象】武器

【効 果】対象を即死させる

========================


 2枠の武器が10万で、スフィアが各1万。

 計12万ポイントのお買い物だ。


「よし、セットしたぞ」


 さっそくダガーにスフィアをセット。

 刀身が黒と白のグラデーションカラーで光っている。


「よし、行くか!」


 いざ戦闘の時。

 ――と、思いきや。


『使わない武器は売ったらどうだ?』

『【雷霆】と【天剣】の武器は売っていいんじゃね? どちらもFランクだろ?』

『それか杏奈ちゃんか梨花ちゃんにあげて舞ってもらおうよ!』

『僕は梨花ちゃんがいい! おっぱいめっちゃ揺れそう!』


 変態コメントは無視するとして、目を引くコメントがあった。


「売ることができるのか? いらなくなった武器を」


「できるよー。消している状態で〈Amozon〉を開けばいいんでしょ?」


 答えたのは杏奈だ。

 リスナーたちが『その通り』と言っている。


「なんで知っているんだ!?」


「ていうかなんで知らなかったの!?」


 逆に驚かれる。

 梨花は「私も知らなかった……」とこちら側。


「二人ともちゃんと説明文を読もうよ! 装備の出し入れも知らなかったし、そういうのよくないよー。ゲームじゃないんだからさぁ」


 仰る通りである。

 俺と梨花はペコリと頭を下げた。


「そんなわけで鉄扇を二つとも売ろうと思うんだけど、使いたい人いる?」


「私はいいかなー。派手なOPも魅力に感じるけど、銃がすごく楽しくてさー。なんかシューティングゲームをしているみたいなんだもん!」


「つい今しがた『ゲームじゃないんだから』と言っていた人間のセリフとは思えないな……」


「私もパスで! 涼真君みたいにガンガン突撃できないし!」


「梨花はドジなところがあるからなー!」


 杏奈が言うと、梨花は「そうなの」と笑った。

 その何気ないやり取りが一部のリスナーにウケた。


『梨花ちゃん可愛すぎるw』

『守ってあげたい!』

『梨花、俺の嫁になってくれ!』


 ついでにスパチャもいくらか降ってきた。


「二人ともいらないってことだし売るぜ」


 俺は鉄扇二つを売却。

 買値の半額で売れるみたいで、売却価格の合計は2万ptになった。


「よし! 今度こそ行くか!」


「「おー!」」


 俺はダガーを片手にモールから飛び出した。

 その後ろに杏奈と梨花が続く。


「「「グォオオオオオオオオオオオオオオ!」」」


 外を埋め尽くすほどの魔物がこちらに向く。


「食らえ! 複合OP! 死の波動!」


 目と鼻の先にいたゴブリンに斬りかかる。

 その瞬間、周囲に禍々しい漆黒の波動が広がった。


「「「ケケケケケ……!」」」


 波動に触れた敵の背後に、上半身だけの死神が現れた。

 不気味なローブに身を包む骸骨人間で、巨大な鎌を持っている。


「「「ケケケー!」」」


 現れた大量の死神は、即座に鎌を振り下ろした。

 ザコの胴体が真っ二つになり、煙となってこの世から消える。

 一瞬にして周囲の魔物が消えた。


「すごっ!」


「魔物が消えちゃった!?」


「おいおい、なんつー範囲だよ!」


 自分を中心として周囲に効果を及ぼす点は【雷霆】と変わらない。

 ただし、効果範囲は半径50メートル程――【雷霆】の10倍だ。


『クソOPとクソOPを足すと神OPになる……これがその例さ』


 ルーベンスが語っている。

 どうやら【聖なる波動】と【デス】はどちらもクソ扱いらしい。

 そして、それらを組み合わせた【死の波動】は神である。


「複合OPになることで覚醒するOPもあるわけか。おもしれーな!」


『いうて2OPまでは遊びみたいなものだぞ』

『3OPになると効果の予測が難しくなるんだよな』

『3OPも使いこなせる奴が真の強者だぜ』


 コメントを読んでいると早くも3OPに手を出したくなってきた。

 しかし、今は資金不足で手が出せない。


「あ! 魔物がやってくるよ!」


 梨花が通りの向こうを指す。

 名古屋市方面から数千の魔物が突っ込んできていた。


「何体来ようが関係ねぇ!」


 俺は【死の波動】を発動して敵を皆殺しにしていく。


 だが、飛行タイプの敵は死ななかった。

 魔物が出現した日に戦ったハーピー軍団がピンピンしている。


「波動が当たらないせいで【デス】が発動しないのか」


『その通り』とルーベンス。


「なら【雷霆】も必要になるじゃねぇか! 売っちまったぞおい!」


 とんでもない落とし穴があった。


「大丈夫! 私と杏奈がいるよ!」


「ようやくウチらの出番だ!」


 梨花が【火の鳥】を出し、杏奈がライフルで銃撃する。


「「「キェェェェ……!」」」


 空を飛ぶ鳥女は、黒焦げもしくは蜂の巣にされた。


「涼真、【雷霆】武器は買い戻さなくていいよ!」


「私たちだって戦いたいんだから!」


 俺は「ふっ」と笑った。


「頼もしいことを言ってくれるぜ」


 さて、ザコとの戦闘が落ち着いた。

 今ごろ名古屋市のゲートからボスが出撃しているだろう。


「今の内に移動しよう。わざわざボスの到着を待ってやる必要はない」


「「了解!」」


 俺たちは駐輪場に向かおうとする。

 その時、突如として目の前に新手が現れた。


「フフフフ……!」


 俺たちの数メートル先で不気味な笑みを浮かべている。


「あれって……魔物なの?」


 首を傾げる杏奈。

 俺と梨花も同様の気持ちを抱いていた。


「いきなり現れたしそうなんじゃないか?」


 その魔物は、見た目は完全に人間だ。

 サーカスのピエロにしか見えない姿をしている。

 身長は180cmかそこらで、武器らしい物は見当たらない。

 その代わり、右手に二つのダイスを持っていた。

 片方は各面に色がついており、もう片方には数字が書いている。


『やばい』

『ダイスジョーカーだ』

『派手に戦いすぎたな』

『まずいぞ』


 コメント欄がざわついている。

 その反応から察するにボスみたいだ。


「なぁ、あの敵って強いのか?」


 この問いにはルーベンスが答えた。


『主が倒したがっているブラックドラゴンのランクは覚えているか?』


「ああ、Aランクだろ?」


『その通り。で、ダイスジョーカーのランクはSだ』


「えっ」


『奴はブラックドラゴンよりもさらに上――最上位ランクのボスだよ』


 頭が真っ白になった。

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