015 海の家

「は!? なんでビクともしないんだ!?」


「驚いている場合じゃないよ涼真! 敵が来る!」


「フンヌ!」


 先頭のローニンが斬りかかってきた。


「ぐぐぐ……!」


 俺は鉄扇を交差させて刃を防いだ。

 まさかこんな形で武器を使うことになるとは……。


「涼真君、今助けるからね!」


 梨花が大鎌を振り、火の鳥を召喚した。


「キュィイイイイイイイイイイイイイ!」


 火の鳥がローニンの脇をすり抜けていく。


「ヌオオオオ……」


 ローニンはあっさり大炎上。

 数秒後にはほぼ全員が死んでいた。


「なに!? 【火の鳥】は効くだと!?」


「やるじゃん梨花! 私だって負けていないよ!」


 杏奈がアサルトライフルで銃撃を開始。

 これも普通に通用して、残存するローニンを駆逐した。


「ナイス杏奈!」


「いえーい!」


 二人がハイタッチして笑みを浮かべる。


「どうして俺の攻撃だけが通用しなかったんだ……?」


 考えられる可能性は二つ。

 一つ、性別が男だから。

 一つ、鉄扇に何か問題があるから。


 この疑問に対する答えはリスナーが知っていた。


『ローニンは頭部への攻撃を無効化するぞ』

『【雷霆】と【天剣】はどちらも頭部攻撃だからな』


 俺の想定する可能性は二つとも外れていた。

 敵の被っていた深編み笠が原因だったのだ。


「なんだそりゃ!」


「どしたのー?」


 杏奈が駆け寄ってくる。

 遅れて梨花もやってきた。


「俺の攻撃が通用しなかった理由をリスナーに教えてもらったんだ」


 深編み笠が原因だったことを話す。


「なるほどねぇ」


「そういうこともあるんだー!」


 納得する二人。

 それから杏奈がニヤニヤと笑った。


「それにしてもさっきの涼真は酷かったなぁ! 情けない踊りを披露するだけでさー!」


「いつも強くてカッコイイ涼真君だけど、今回のはダサかったなぁ……」


 梨花も笑いながら続く。


「ぐっ……、そういうこともある!」


 俺は武器を消し、「移動再開だ!」と自転車に乗った。


 ◇


 魔物の数は思ったより多くない。

 しかしながら、あちらこちらに潜伏している。

 そのせいで最適な休憩場所を見つけるのに苦労した。


 最終的に、俺たちは海水浴場にやってきた。

 ここなら見渡しがよくて敵の奇襲を受ける可能性もない。

 砂の中に魔物が潜んでいれば別だが。


「お? 建物があるぞ」


 自転車用のスロープで砂浜に下りたところで気づく。


「海の家だねー」と杏奈。


「バイクが停まっているよー!」


 梨花が店の側面にある電動スクーターを指した。

 リヤカーが付いている。

 かつてここの店主が使っていたのだろうか。


「ちょうどいいし、あの中でメシにしよう」


 俺たちはバイクの近くにチャリを止め、海の家に入った。

 すると――。


「ほれほれ理子りこ君、もっと食べるがいい! 麺はまだまだあるのだぞ!」


「もうお腹いっぱいですってばー! ぐるじぃよぉ」


 中に二人の女がいた。

 どちらも俺たちと同い年――いや、少し年上ぽい。


「お! らっしゃい! 三人かい?」


 話しかけてきたのは、厨房にいる青いセミロングの美人。

 身長が俺と同じ――172cm――くらいで、凜々しい目をしている。

 半袖の白シャツを着ており、開いた胸元から豊満な谷間が窺えた。

 梨花には及ばないまでも結構な大きさだ。

 下は深紅のショートパンツに黒の太ももストッキング。

 ストッキングの境目に太ももの肉が少し乗っていていい感じだ。


「ちょっと朱里あかり先輩、なに勝手に接客しているんですか! ここ私たちの店じゃないですよ!」


 カウンター席に座る女が言った。

 先ほど「理子君」と呼ばれていた人で、梨花と同じくらい背が低い。

 胸は少し大きい程度で、可愛らしい童顔である。

 フリルブラウスにミディアム丈のスカートという清楚系の格好だ。

 髪もライトグリーンのミディアムだし、そのサイズ感が好きなのだろうか。


「いいではないか理子君! それでお客さん、座らないのかい?」


 朱里と呼ばれた女が、理子の隣の席に水の入ったコップを並べた。

 俺たちの分らしい。


「じゃあ、お言葉に甘えて……」


 よく分からない中、俺たちはカウンター席に座った。

 左から順に梨花、杏奈、俺、理子という並びになる。


「ご注文は味噌ラーメンでいいかい?」


 朱里は俺たちの返答を待つことなく麺を茹で始めた。

 ビニール袋に入った生麺をガンガン開けていく。


「食べられるなら何でも……!」


 杏奈と梨花が頷く。


「へい! 醤油ラーメン三丁はいりまーす!」


「味噌ラーメンじゃなかったの!?」


「提供するのは味噌だけど、コールするのは醤油のほうがいいじゃん? 語感がさ」


「は、はぁ……?」


 この少ないやり取りで分かる。

 朱里は変人だ。

 それも相当おかしな性格をしている。


「気にしないでください。朱里先輩って、ちょっとおかしいんです」


 理子が耳打ちしてくる。


「ちょっと……?」


 俺は耳を疑った。

 その頃、垂れ流し配信のコメント欄は――。


『また可愛い子が増えたぞ!』

『朱里しゃんたまんねー! 罵倒されながら顔面を踏まれたい!』

『あの太ももで顔面を挟んで千切れる寸前まで捻ってもらいたい!』

『ぼくは理子たんがいい!』

『天使ちゃん! 杏奈ちゃん! 理子ちゃん! 朱里ちゃん!』

『おいおい地球には美女しかいねぇのかよぉ!』

『地球人羨ましすぎィイイイイイイイイイイイ!』


 ――朱里と理子の容姿がいいことで盛り上がりまくっていた。

 その影響なのか、視聴者数が100人を超えて200人に到達している。

 人が増えたことでスパチャの勢いも増していく。


 いつの間にか、俺の所持金は12万ptを超えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る