014 志下のローニン
二刀流でいくなら武器は片手で持てる物に限られる。
オプション任せの戦闘になるため、武器自体の性能は何でもいい。
「大事なのはいかに速く振り回せるかだから……」
〈Amozon〉に売られている大量の武器を物色。
検討に検討を重ねること数十秒、条件に合致しそうな物を見つけた。
それは――。
「「扇子!?」」
「鉄で作られているので〈
計4万PTを支払い、【雷霆】鉄扇と【天剣】鉄扇を購入した。
「同じ武器だから分かりづらいかもと思ったが、武器エフェクトが全然違うから問題なさそうだな」
【雷霆】はトンファーの時と同様ビリビリしている。
一方、【天剣】は白く光っていた。
「今後は鉄扇の二刀流で戦うの?」
杏奈が小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。
あまりにも似合っていないのだろう。俺と鉄扇の組み合わせは。
「戦うんじゃなくて舞うんだよ」
俺は「こんな感じだ」とその場で華麗な舞を披露した。
すると、二人は腹を抱えて笑い出した。
「なにそのヘンテコな舞は!」
「涼真君ダサーい!」
「うるせー! 大事なのはダサいかどうかより強いかどうかだ!」
そんなこんなで武器が決まった。
「さて、この町が魔物で溢れかえる前に出発するか」
今この時もゲートから魔物が出てきているだろう。
さっさと移動しなければ面倒になる。
「そういや目的地ってどこなの? 松崎町には戻らないんだよね?」
杏奈が尋ねると、梨花が「大阪だってー」と答えた。
「うっは! 遠いなぁ!」
「徐々に向かえばいいさ。だが、その前に山梨へ寄って行こう」
「「山梨?」」
「今は山梨の甲府が実質的な首都なんだろ? だから見ておきたいと思ってな」
山梨や長野は、魔物が出現する前より栄えているという。
どちらも市街地にゲートがない上に、東京までそう遠くないからだ。
日中はそうした場所で過ごし、夜になると都会へ行くのが現代人である。
「ここから甲府ってどのくらい?」
杏奈の問いに答えるべく、俺は地図アプリで調べてみた。
「自転車だと半日はかかるな」
「ええええ! 12時間も自転車を漕がないとダメなの!?」
「さすがにそれはきついよ涼真君!」
「だから今日は中間地点にある
「それでも6時間のチャリ旅かぁ」
杏奈は肩を落とした。
「でも私は楽しみ! 魔物が出てからは甲府に行っていないし! 涼真君や杏奈と一緒なら魔物が出てもへっちゃらだし!」
「梨花は元気だなー! あたしゃもう歳だわぁ!」
「まだ20にもなっていないのに軟弱な女だ」
「あー、車が恋しい! 誰かー! ガソリン持ってきてくれー!」
杏奈はバタンッと布団に倒れ込むのだった。
◇
服を着替え、冷水器の水をボトルに詰めた。
全ての準備を済ませたら、いよいよ八木沢を発つ。
――はずだったのだが。
「どうしよ……自転車に乗れないよぉ」
梨花が出発できないでいた。
大鎌を装備した状態では自転車を漕げないのだ。
彼女の背丈に対して鎌が大きすぎた。
「道中は俺が持とうか?」
「でもそれだと敵が出てきた時に……」
「たしかに」
頭を抱える俺と梨花。
「消したらいいじゃん」
杏奈がすまし顔で言ってのけた。
「消すってなんだ?」
「なんだも何も消せるでしょ? 武器」
杏奈は「ほら」と、アサルトライフルを消した。
かと思いきや、今度は何もない空間から出てきた。
「どうなってんだ!?」
「すごっ! 杏奈すご!」
目をギョッとさせる俺たち。
「普通に念じるだけだよ」
「念じるだと?」
俺は鉄扇に「消えろ」と念じてみる。
すると本当に消えた。
今度は「出ろ」と念じる。
驚くことに出てきた。
「すげぇ! マジだ!」
「わ! ほんとだー!」
「え、二人とも知らなかったの?」
「むしろ何で知っているんだ!?」
「何でって、〈Amozon〉の説明に書いているじゃん」
「マジ?」
杏奈は「ほら」と該当のページを見せてくれた。
たしかに、武器は念じることで出したり消したりできると書いている。
「こんなページがあったとは……。じゃあ亡き俺のトンファーも!」
アレはEランクの武器だ。
今の俺たちには買えない高級品である。
「無理だと思うよ。自分で消した物しか出せないし、消せるのは手に持っている物に限られるから」
説明文をスクロールすると本当にそう書いていた。
試しに念じたところ、案の定、トンファーは現れなかった。
「あのトンファーは諦めるしかないか、残念」
なんにせよ、これで快適なチャリ旅が可能になった。
「では改めて、御殿場を目指して出発だ!」
「「おー!」」
◇
朝早くに発ったからか、魔物の姿は全く見なかった。
雑談を楽しみつつ、標識を頼りに車道をグングン進んでいく。
鉄扇の出番がないのは寂しいが、平和なのはいいことだから気にしない。
八木沢を発ってから約3時間――。
伊豆半島を出て、静岡は沼津市の
都会寄りの田舎といった印象を受ける町だ。
自然豊かな我が故郷・松崎町より発展している。
「そろそろ昼になるし、少し休憩していこう」
「「了解!」」
メシ休憩のできそうな場所を探して町を徘徊する。
八木沢と違い、志下の地理は誰も分からなかった。
「お? あそこに人がいるぞ」
スーパーから深編み笠を被った
と思ったが、違っていた。
「アレ魔物じゃない?」
梨花が言う。
その頃には俺も認識を改めていた。
他にもぞろぞろと同じ格好の者が出てきたからだ。
その数30体。
全員が同じ格好をしており、腰に刀を差している。
人間の可能性は限りなく低かった。
「よーし、狩りの時間だー!」
杏奈がライフルを召喚する。
「まぁ待て」
俺はスマホを取りだした。
「ただ働きはゴメンだぜ。まずは配信だ」
戦う前に〈Yotube〉を起動。
配信を開始した。
『うぃーす!』
『待っていたぜ、お前の配信をよぉ!』
『可愛い梨花ちゃんはどこだYO!』
すぐにリスナーがやってきた。
しかも30人ほど。
その大半が梨花を目当てにしていた。
「梨花ならここにいるぜ」
俺は梨花の顔を見た。
視界の隅に大きな胸も捉えておく。
「やっほー!」
梨花が俺に向かって両手を振る。
『うほぉ! 梨花たーん!』
『天使ちゃんキタァ!』
『おっぱいでけェ!』
盛り上がる異世界リスナー。
「梨花って異世界人からも人気なんだ!?」
その声に反応して、俺は杏奈に目を向けた。
『うはwwww こっちにも美女が!』
『この子のほうが俺タイプかも! 名前は! 名前!』
『可愛すぎだろ! 主って地球じゃモテるタイプなの?』
『両手に花じゃねぇか! 羨ましすぎるぜ地球人!』
新たな美少女の登場に熱狂が止まらない。
まだ何も始まっていないのに3万ポイントのスパチャが降ってきた。
「梨花だけじゃなくて杏奈も大人気だぞ」
「え、マジ!?」
「中には杏奈のほうがタイプと言っている奴もいるくらいだ」
「おお! 見る目あるね異世界人! 私は枢木杏奈、よろしくぅ!」
『よろしく杏奈たぁん!』
『杏奈……お前は俺の嫁だ』
『結婚しよう、杏奈』
サービスはこのくらいでいいだろう。
俺は咳払いをして数十メートル先にいる笠剣士の集団を見た。
「質問なんだが、あいつらって魔物か?」
『ああ、魔物だよ』
『アレはローニンだな。Eランクだ』
『数は少ないけど単体スペックは高いぜ』
『だからって油断しないほうがいい』
数より質タイプのザコみたいだ。
そのわりに30体もいるから数も相当だと思うが。
「魔物ってことだけ分かれば十分だ。倒そう!」
俺たちはチャリを止めた。
武器を召喚し、ローニンの群れに突っ込む。
「「ヌ?」」
こちらの足音に気づいたローニンが顔を向ける。
「二人とも、今回は俺に任せろ!」
「えー! ライフルをぶっ放したいんだけど!」
「今回は俺の舞でサクッと終わらせてやるぜ!」
左に【天剣】、右に【雷霆】の鉄扇を持つ。
「「ナニヤツ!」」
ローニンどもが刀を抜いた。
その瞬間、俺は鉄扇の二刀流で死の舞を披露。
ゴゴゴォ!
まずは【雷霆】が発動し、全てのローニンに雷が降り注ぐ。
さらに狙った1体には巨大な剣のオマケ付きだ。
「これでいっちょあがり!」
鉄扇をパッと開いてドヤ顔を決める。
しかし――。
「「キカヌゥ!」」
ローニンはピンピンした状態で突っ込んできた。
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