010 ミノタウロスキング

『うおー! ミノタウロスキングじゃん!』

『暴君キター!!!!!!』

『面 白 く な っ て ま い り ま し た !』


 突如として現れたボスにコメント欄は大興奮。

 ただ、ブラックドラゴンほどの強敵ではないのだろう。

 スパチャがお気持ち程度しか降ってこなかった。


「なんつーデカさだ」


 高さだけならブラックドラゴンを超えている。

 腰蓑で股間を隠し、右手にはギネスを余裕で更新できるサイズの斧。

 何から何までビッグサイズだ。


「私たちには気づいていないみたい?」


「そのようだ」


 敵は明らかに俺たちを捜している。

 キョロキョロ、キョロキョロと辺りを見渡して。

 しかし、場所の特定はできていなかった。


「戦う前に防具を買ってみよう」


 俺たちは再びコンビニの中に逃げ込んだ。

 それはそれで不安だが、外で作業をするわけにもいかない。

 魔物がそこら中にいるから。


「一応、自衛隊に救助要請を出しとく?」


 と、スマホをポチポチする梨花。

 インフラが生きているため、付近の自衛隊と連絡が取れるのだ。


「やめておこう。できる限り自分のケツは自分で拭きたい」


 梨花は「おー」と何故か感心し、小さく拍手した。


「そんなわけで防具だが……とりあえず靴にしとくか」


 俺たちの靴はどちらも使い古したスニーカーだ。

 履き心地は悪くないが、靴底がすり減ってボロボロである。


「サイズが不安だね」


「たぶん大丈夫だと思うぜ。サイズの項目がないから」


 異世界アプリなら自動でサイズ調整をしてくれるだろう。

 そう信じて、俺たちはFランクのOP枠がある靴を購入した。


========================

【名 前】ノーマルスニーカー

【ランク】F

【OP枠】1

========================


 靴の価格は武器と同じだ。

 Fランクなら枠なしは1000pt、1枠の物は1万ptである。

 俺たちの所持ポイントは8万なので問題ない。


「涼真君の読み的中! サイズぴったり! 履き心地もいいよ!」


 梨花は新しい靴にご満悦の様子。

 その場でリズミカルに飛び跳ねていた。


『おっぱい揺れまくりボンバー!』

『可愛すぎるw』


 梨花が動いただけで5000ptのスパチャが降ってきた。

 可愛いは正義だと改めて思う。


「オプションはこれがいいと思うんだけどどうだろう?」


 俺はスマホを梨花に見せた。


========================

【名 前】走力強化スフィア

【ランク】F

【対 象】防具

【効 果】足が速くなる

========================


「賛成! 素早く動けたら安全度が増すと思う!」


「じゃあ【走力強化】で決定だな」


 それぞれ1万ptを支払ってオプションスフィアを購入。

 靴にセットした。


「武器と違って見た目は変化ないな」


「でも足が軽くなったよ!」


「想像以上の効果だ」


 俺も新しい靴に履き替えたが、たしかに足が軽い。

 まるで靴に羽が生えたかのようだ。


「これなら勝てるよ! 涼真君!」


「勝てなさそうなら逃げればいいしな!」


「だね!」


 いざ出陣の時。

 俺たちはコンビニを飛び出した。


「私が引き付けるから、涼真君は敵の懐に潜り込んで!」


 珍しく梨花が指示してきた。


「オーケー、頼むぜ」


「頑張る!」


 ということで、まずは梨花が仕掛ける。

 陸上部のようなスピードで距離を詰め、敵の脛に銃撃。


「グォ?」


 ミノタウロスが梨花に気づいた。

 俺は建物の陰に隠れてバレないようにする。


『天使ちゃんを死なせたら許さねぇからな!』

『相手はDランクだから気をつけろよ!』


 コメントの流れが遅い。

 固唾を飲んで見守っているのだろう。


「グォオオオオオオオ!」


「おいでおいで! 鬼さんこちらー!」


 梨花が逃げながら撃つ。

 ミノタウロスは顔を真っ赤にして追いかけていく。

 一歩進むごとに地響きがして地面が揺れた。

 厄介だが、動き自体は鈍重なので余裕だ。


「今だ!」


 俺は物陰から飛び出した。

 敵の死角――側面から懐に潜り込む。


「いっけぇ! 火の鳥!」


 大鎌を振るって火の鳥を放つ。

 鳥はミノタウロスの右脚をグルグルと回った。


「グォオオオオオオオオオオ!?」


 脚を燃やされて怒るミノタウロス。

 ただし、ダメージはそれほど入っていない。

 ランク差によるものか、それとも敵がボスだからなのか。


『やっぱりランクが2つも離れているときついな』

『ただでさえボスは耐久度が高いからなー』


 どうやら両方らしい。

 今にして思えば、よくブラックドラゴンに挑んだものだ。

 あのドラゴンはAランク――ミノタウロスより遥か格上である。


「持久戦になりそうだが倒せないほどじゃねぇ!」


 ブラックドラゴンと違って明確にダメージを受けている。

 攻め続けたら勝てる。

 そのビジョンがはっきり見えた。


「おらぁ!」


 さらに近づき、大鎌の刃で足を切りつける。


「グォオオオオオオオ!」


 ミノタウロスは痛がり、悲鳴を上げ、斧を振るう。


「そんな遅い攻撃に当たるかよ――うおっ!」


 攻撃を避けたにもかかわらず俺は吹き飛ばされた。

 クソデカいの斧は風圧も規格外だ。


「涼真君!?」


「大丈夫だ! 撃ち続けろ!」


 幸いにもかすり傷で済んだ。

 戦闘を継続するのに何の支障も無い。


「えいやー!」


 梨花が敵の足や胴体を撃ちまくる。


『おい! 足じゃなくて顔面を狙え!』

『人間と同じで魔物も顔への攻撃に弱いぞ!』


 これは俺に対するコメントだ。


「顔を狙って簡単に言うけどよぉ」


 相手は30メートル級の巨人だ。

「ほな狙います」と顔面に攻撃できるわけではない。


(ま、試しに狙ってみるか)


 俺は敵の足下に行き、真上に向かって大鎌を振った。

 これなら【火の鳥】が届くかもしれない。


「キュイイイイイイイイイイイイイイン!」


 火の鳥が現れ、真っ直ぐ敵に突っ込んでいく。

 しかし、完全な真上ではなかった。

 角度で言うなら80度といったところか。

 敵の背中を登っていくはずが逸れてしまう。

 その結果――。


「グォオオオオオオオオオオオオオ!」


 火の鳥は敵の股間にぶっ刺さった。

 巨大な腰蓑が盛大に燃える。


「わー! すごい涼真君!」


「いや、思ったのと違う展開なんだが……」


 いよいよ腰蓑が全焼。

 ミノタウロスは腰から黒煙を上げて怯んだ。

 そして――。


「腰蓑が燃えたことでブツが露わになったぞ!」


「変態ーッ!」


 梨花が顔を赤くして恥ずかしそうに銃撃。

 その弾丸は漏らすことなく敵のブツに叩き込まれた。


「グォオオオオオオオオオオ……」


 悲鳴を上げて苦しむミノタウロス。


「おい! べらぼうに効いているじゃねぇか!」


 明らかに弱点だ。

 足や胴体をペチペチしていた時とは反応が違う。


『あんなところに弱点があったとは!』

『暴君が為す術なくもがいているぞ!』

『もがくどころか泣いているじゃねーか!』


 コメント欄は今日一番の盛り上がりを見せた。

 魔物に詳しい異世界人ですら知らなかったようだ。

 ミノタウロスキングの弱点を。


「梨花だけにいい格好をさせてられねぇ!」


 俺も加勢した。

 敵のブツに火の鳥を特攻させまくる。

 1匹、2匹、3匹……その時が来るまで攻撃を続けた。


「グォ、グォ、グォオオオオオオオオオオ」


 ミノタウロスは斧を捨てて泣いていた。

 勘弁してくれとでも言いたげに喚いている。

 それでも俺たちは攻撃をやめない。


 ほどなくして、その時はやってきた。


「グォオオ……」


 ミノタウロスが崩落したのだ。

 膝から倒れた。

 体をピクピクと痙攣させている。


「チャンス到来!」


 俺は迷わずに駆け出した。

 自分でも驚くほどのスピードで敵の顔へ回り込む。

 そして――。


「死ねぇぇぇぇぇええええ!」


 敵の眉間に大鎌を突き刺した。


「グォオオオオオオオオ!」


 ミノタウロスは断末魔の叫びを繰り出し、そのまま絶命した。


「しゃあ!」


 握り拳を作る。


『ブラボオオオオオオオ!』

『いい戦いっぷり!』

『やっぱりこの配信者つえーわ!』

『有象無象のザコ配信者とは肝っ玉がちげぇ!』

『ガンガン突っ込むから観ていておもしれー!』


 俺の戦闘は視聴者に好評だった。

 戦闘の勝利を祝うご祝儀スパチャもたくさん降り注ぐ。

 所持ポイントが10万を突破した。


「お疲れ様、涼真君! すごかったよー!」


 梨花が近づいてくる。


「梨花もよくがんば……え?」


 振り返った俺は唖然とした。

 梨花が俺に向かってアサルトライフルを構えていたのだ。

 リスナーも『え?』や『ん?』と驚いている。


 そんな中、梨花はトリガーを引いた。

 銃口が火を噴き、無数の銃弾が俺を襲った。

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