008 アサルトライフル

「わわっ!」


 突如として現れた武器を見て驚く梨花。


「銃が出た!」


 俺が購入したのはアサルトライフルだった。

 原則として一律価格の武器群において、唯一の例外たるカテゴリ。

 それが銃火器だ。


「普通のFランク武器は枠なしだと1000ptだが、銃火器は1万ptする。つまりOP枠が1つの物と同価格ということだ」


「よく分からないけど割高ってことだよね?」


 俺は「そうだ」と頷いた。


「しかも銃火器だけOP枠が0の物しかない」


「それは……どういうこと?」


 梨花はOPについて詳しく知らない。

 【雷霆】の説明を受けて何となく分かっている状態だ。


「普通の武器はOPを駆使するのがメインなのに、銃火器だけは武器そのもののスペックがメインということさ」


 コメント欄に『その通り』や『大正解』といった言葉が並ぶ。


「OPはトンファーの雷攻撃みたいなものだよね?」


「いかにも。それは【雷霆】というOPだ」


「つまり涼真君は雷攻撃より銃で撃ったほうが強いと判断したの?」


 俺は「まさか」と首を振った。


「使い勝手は絶対に【雷霆】トンファーのほうが上だ。しかし、俺の所持ポイントだとFランクの武器にすら【雷霆】を付けることができなかった。それに、銃火器がどんなものか使ってみたかったんだ」


「なるほど! 好奇心は大事だよね!」


「おう」


 これで準備は整った。

 俺たちはザコの溜まり場・八木沢を目指して動き出した。


 ◇


「今さらだけど梨花の食糧を忘れていたな」


「あ、たしかに! でも取りに戻るのは面倒だよね」


「適当に現地調達しよう」


「もしくは涼真君のを少し分けてね」


「オーケー」


 静かで綺麗な車道を自転車で進む。

 左手には、ガードレール越しに木々の頭や海が広がっている。

 一方、右手には擁壁が反り立っていて圧迫感がすごかった。

 魔物の出現で伐採が進んだと言ってもこの辺は手つかずだ。

 昔と何ら変わりない。


 この道をひたすら進めば八木沢に到着する。

 大した距離ではないから、話しながらだとすぐだろう。


「むむ」


「どうしたの? 涼真君」


「リスナーが徐々に増え始めたんだ」


「おー!」


 現在の視聴者数は18人。

 コメント欄ではリスナー同士が会話していた。


『この配信者、久しぶりみたいだけど前はどんな内容だっけ』

『アレだよ、学校でブラドラに追われていた奴』

『あー、アイツかー! てっきり死んだのかと思っていたわw』

『生きてて草』

『今まで何していたんだお前ーッ!w』


 呑気な連中である。

 リスナーからすると別世界の出来事なので仕方ないか。


「「おっ」」


『『おっ』』


 俺たちとリスナーのコメントが被る。

 前方に敵が見えたからだ。


 ゴブリンの群れである。

 ただし、過去に戦った敵とは色が違う。

 今回のは全身が青色で剣と盾を持っていた。


「青いゴブリンだ!」


「梨花、知っているのか?」


「うん! 緑のより手強いよ!」


 俺たちは敵を倒すべく自転車から降りた。


『ブルーゴブリンはEランクだから油断するなよー』

『その銃じゃちょっと硬いかもな』


 ダメージは武器と敵のランク差で決まる。

 武器がFで敵がEの今回は苦戦を強いられるかも、ということ。


「なるようになるだろう。まずは俺が仕掛ける」


「了解! 近づいてきたら私が倒すね!」


「OK」


 戦闘開始だ。

 俺は前に出て銃を構えた。


「「「ゴブォオオオオオ!」」」


 ゴブリンが盾を構えながら突っ込んでくる。


「敵の数は18体――初戦の相手に相応しいな!」


 トリガーを引いて銃撃開始。

 ズドドドドド、と凄まじい速度で弾丸が放たれる。

 本物の銃と違って反動が殆どなかった。


「ゴヴォ!」


 命中したゴブリンが負傷する。

 一発では殺しきれなかった。


「これがランク差のハンデか」


 4~5発撃ち込むことでようやく死亡。


「1体を倒すのに平均7~8発は必要だな……」


 盾が厄介だ。

 体の大半を守っている。

 防がれたら1発無駄になってしまう。


「詰めてくるよ、涼真君!」


「引きながら戦おう。可能な限り安全圏から数を減らしたい」


「了解!」


 殲滅効率が悪くて、棒立ちでの射撃では間に合わない。


「うお!? 弾切れだ!」


 アサルトライフルの装弾数は30発。

 数体ほど倒しただけで弾切れになった。


「おい、どうすりゃリロードされるんだ!?」


 予備弾倉など持っていない。

 というかそんな商品は存在していなかった。


『リロードタイムが過ぎたら自動でリロードされるよ』

『リロードタイムは銃の種類によって異なるぞ』

『アサルトライフルはたぶん2秒だったかな』


 コメント欄でルーベンスたちが答えてくれる。

 その頃にはリロードが済んでおり、銃撃を再開していた。


「自動リロードなのはありがたい」


「すごい! 便利そう!」


「使い勝手はかなりいい感じだよ。威力が物足りないけどね」


 下がりながらの攻撃によって敵の数を2体まで減らした。


「ゴブリンは足が遅いから残りもこの調子で――」


「ダメ! 残りは私が倒す!」


 梨花はゴルフクラブを持って「だーっ!」と突っ込んだ。


「おいおい、相手は2体だぞ」


「平気!」


 その言葉に偽りはなかった。


「やーっ!」


 3番アイアンがゴブリンの脳天に叩きつけられる。

 驚異の一撃によって1体目が死亡。


「ゴブゥ!」


 2体目のゴブリンが隙を突くも――。


「えい!」


 振り向きざまの横スイングで問題なく対処。

 こちらも即死だった。


「どう? 私だって戦えるんだから!」


「やるなぁ」


「でしょー! えっへん!」


 梨花が満面の笑みで声を弾ませる。

 胸を張って誇らしげだ。


『カワェェェェ!』

『可愛すぎだろ草ァ!』

『天使! 天使!』

『胸デケェ! たまんねェ!』


 数千ポイントのスパチャがいくつか降ってきた。

 武器の購入で減った所持金がモリモリ回復していく。

 あっさり3万ptに到達した。


「それにしても涼真君の銃いいねー! 私も使ってみたい!」


「ならあげるよ」


「え?」


「スパチャが入ったから、俺はそれで新しい武器を買う」


「わーい! やったー! ありがとー!」


 飛び跳ねる梨花。

 大きな胸が派手に揺れてブレザーのボタンが外れた。


『うひょー!』

『やばすぎンゴ!』

『サービス全開! ボインちゃん!』


 またしてもスパチャが入ってくる。

 魔物を倒すより梨花を見ていたほうが儲かりそうだ。

 そんな中、ルーベンスが真面目なコメントをした。


『その銃をあげても彼女には使えないと思うよ』


 気になるので試してみよう。


「梨花、試しにどこか撃ってみてくれ」


 アサルトライフルを渡す。


「ん? 分かった!」


 梨花は銃を両手で持ち、前方に向かってトリガーを引く。

 しかし――。


「あれ? 弾が出ないんだけど?」


 どれだけトリガーをカチカチしても弾丸が出ない。


『やっぱり』


「なんだ? 〈Amozon〉で買った武器は俺にしか使えないのか?」


 コメント欄で『いや』『違う』とのセリフが流れる。


『その通りだ』


 ルーベンスだけは皆と違う反応を示した。


「え、なに? どゆこと? 何がどうなっているの?」


 コメントが見えない梨花は頭上に疑問符を並べている。

 俺は「ちょっと待って」とだけ言った。


「で、どっちなんだ? 梨花は銃を使えるのか? 使えないのか?」


『今は使えないけど、使えるようにする方法があるよ』


 ルーベンスが答える。


『天使ちゃんのスマホにもアプリをインストールしたら使えるよ』


 他のリスナーがその方法を教えてくれた。


「梨花のスマホにアプリをインストールできるのか」


『〈Yotube〉は無理だけど〈Amozon〉はいける』

『ポイントが共有されるから相手は慎重に選んだほうがいいよ』

『梨花ちゃんめっちゃ可愛いから慎重になる必要ないっしょ!』

『それもそうだな、可愛い子なら間違いない』


 事情を把握した。

 アプリのインストール方法にも察しが付く。


「梨花、スマホを貸してくれ」


「はーい」


 梨花からスマホを受け取る。

 それをリュックに入れていたモバイルバッテリーと重ねた。

 すると――。


「わっ! 眩しっ! と思ったら眩しくなくなった!」


 俺の時と同じように彼女のスマホが光った。


「これで梨花のスマホに〈Amozon〉が入ったはずだ。銃も使えるようになったんじゃないかな」


 俺は「試してみな」と銃を指す。


「うん!」


 改めて前方に向かってトリガーを引く梨花。

 今度はズドドドド……と弾丸が発射された。


「撃てたー! 弾が出たよ涼真君!」


「見た見た。いい感じだったな」


「今度からこの銃で戦う!」


「するとゴルフクラブは邪魔になるし捨てていくか」


「そーだね!」


 梨花はゴルフクラブを路肩に寝かせた。

 俺なら迷わず投げ捨てるところだ。


「では改めて……」


 俺はOP枠1つのFランク大鎌を1万で購入。

 さらにFランクのオプションスフィアも1万で買った。

 何を買ったかは後のお楽しみだ。


 さっそく武器にオプションをセットする。

 大鎌の禍々しい刃が紅蓮の炎に覆われた。


「準備完了。八木沢に行こう」


「了解!」


 俺たちは自転車に乗り、移動を再開するのだった。

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