004 オプションスフィア
『HEY!
それがチャットの第一声だった。
涼真は俺の名前だ。
本名であり、アプリの登録名でもある。
『えっと、君は誰?』
相手の名前はan-na。
全くもって知らない名前だった。
プロフィール写真には後ろ姿を登録している。
制服はウチの学校のものだ。
おそらく同じクラスの誰かだろう。
クラス用のグループチャット経由で俺を登録したわけだ。
そうでなければ、未登録の人間を特定して話すことはできない。
『杏奈だよー、枢木杏奈』
相手は杏奈だった。
案の定、同じクラスの女子だ。
『あの可愛い枢木杏奈が俺に!?』
『ちょw なんかキャラ違うくない?w むしろ本当に城ヶ崎?w』
『学校で二番目の美少女と話せて興奮しているんだ、許してくれ』
『いやマジで学校のクールキャラと別人じゃんw』
杏奈は何が面白いのかスタンプを連発している。
これでは話が進まないので、俺は彼女のイメージするキャラを演じた。
『で、どうしたの?』
『あーそうだった! あのね、城ヶ崎涼真』
ようやく本題に入った。
何故かフルネームで呼ばれたことは無視しよう。
『ウチの家族は車で名古屋に避難するんだけど一緒に来る? 親御さんが文化祭に不参加っぽいから今一人でいるんじゃないかと思ってさ』
俺の境遇を
きっと両親が仕事の都合で不参加だったと思っているのだろう。
他所の家庭ならそれが普通だから。
『たしかに一人だけど親とは連絡がついているよ』
『そっか! じゃあ問題なさそう?』
俺は『おう、気遣ってくれてありがとう』と入力する。
――が、送信する直前に考えを変えた。
『いや、よければ俺も一緒に連れていってほしい』
このままここに居ても退屈なだけだ。
その上、この辺で戦うと我が家やご近所さんに被害が及びかねない。
暴れるにしたって場所を移すのがベストだった。
知らない奴の家ならいくら損壊しようが気にならない。
『OK! じゃあ学校の近くにあるバス停まで来てくれる? 30分後に』
俺は了解のスタンプを送信。
これでやり取りが終了する。
――と思いきや。
『友達になったから今後は涼真って呼ぶよ! よろしく!』
杏奈が何やら言い出した。
俺はもう一度、了解のスタンプを送信する。
人生で一番目の友達は、学校で二番目の美少女だった。
◇
杏奈ファミリーのお世話になることが決まった。
家を出る前に武器を購入しておこう。
まずは異世界人に相談だ。
俺は〈Yotube〉を開いて配信を開始した。
『地球とウチでは時間の感覚が違うようだな』
初っ端にコメントをしてきたのはルーベンスだ。
その後も続々と視聴者数が増え、コメントが順調に届く。
「いや、まだ翌日にはなっていないよ。今日が終わるまであと10時間以上ある。そんなことよりリスナー諸君に相談があって配信したんだ」
『どうした?』
「俺の手持ちポイントは15万ちょっと。これで武器を新調しようと思うので助言をくれ。Dランクの武器を10万で買おうと思うのだが、何の武器……」
『それはやめたほうがいい』
『買うなら枠ありのEランクにしろって』
『枠1のEがいいよ』
『枠1Eにしたほうがいい。枠0Dより使える』
『枠ありE』
話している最中に大量の発言が飛び交った。
満場一致でOP枠のついたEランク武器にしろと言っている。
「そんなに枠ありのほうがいいのか。そもそもOPって何なんだ?」
今度は一斉に『オプション』と返ってくる。
その後はルーベンスが詳しく教えてくれた。
効果は色々あって、武器の場合は攻撃をアシストするものだという。
リスナーによると、装備はOPが物を言うそうだ。
『枠にセットできるオプションスフィアも〈Amozon〉にあるよ』
ということなので、さっそく調べてみた。
========================
【名 前】フレイムスフィア
【ランク】E
【対 象】武器
【効 果】攻撃した魔物に対して炎ダメージを追加する
========================
たしかにあった。
スフィアのランクは装備可能な武具のランクを示している。
例えばEランクスフィアの場合、装備可能な武具はEランク以下だ。
効果自体はランクによって変動しないという。
つまり同じ名前のスフィアならどのランクでも効果は同じだ。
ただ、この「効果は同じ」がどこまで同じかは不明だった。
仮に威力も同じなら、Fランクの武器で高ランクの敵を倒すことも可能だ。
そんな都合のいい話はないと思うが。
割と大事なことだが、聞きそびれたので別の機会に尋ねよう。
今は時間が惜しい。
「スフィアがメインというだけあって高いな」
Eランクのスフィアは1つ10万ptもした。
OP枠1のEランク武器は5万だ。
枠なしが3万なのに、枠が1つ付くだけで+2万である。
しかし、これはマシなほうだ。
2枠は20万、3枠は50万と、枠の増加で急激に高くなる。
「で、どのスフィアを買うのがいいんだ?」
スフィアには色々な種類がある。
価格は一律10万ptだから頭を抱えてしまう。
『とりあえずフレイムはクソ』
『アイスもやめたほうがいい』
あれはクソ、これはクソ。
そんなことはない、あれはイイ。
いや、それならあれのほうがイイ。
それこそクソだろ、だったら……。
皆の意見は実にバラバラだった。
ここまでの統一感が嘘のようだ。
「仕方ない、直感で決めるか」
効果説明を読んで自分で考えることにした。
1分ほど悩んだ末に答えを出す。
========================
【名 前】
【ランク】E
【対 象】武器
【効 果】付近の魔物に雷を落とす
========================
説明文を読む限り複数の敵と戦うのに向いていそうだ。
雷なら避けるのは難しいだろうし、威力も申し分ないはず。
『雷霆か、いいんじゃないか』
『イイチョイスしてんじゃん』
『アリ寄りのアリだな』
コメント欄の感触もいい。
俺は「よし」と頷いて雷霆スフィアを購入した。
目の前の机に野球ボール大の球体が召喚される。
「あとは武器か」
元々は迷わずにソードを買う予定だった。
しかし、OPの重要性を知って考えが変わった。
オプションを最大限に活かせる物が望ましい。
「武器は武器で数が多いな……」
色々と売られている。
銃火器まである始末だ。
「うーん……」
可能な限り軽そうな物を探す。
重量が書いていないので勘に頼るしかない。
「決めた!」
========================
【名 前】ストライクトンファー
【ランク】E
【OP枠】1
========================
俺が選んだのはトンファーだ。
間違いなく手数を重視した作りになっている。
攻撃の度に発動するOPとの相性はいいはずだ。
「スフィアはどうやってセットするんだ?」
トンファーとスフィアを並べた状態で尋ねる。
『押し込むんだよ』
『押し込め』
『押し込むとセットされる。取り外しは不可だよ』
リスナーが口を揃えて言う。
「押し込むって何だよ」
と言いつつ、試してみた。
左手にスフィア、右手にトンファーを持ち、両者をくっつける。
すると、スフィアがぐにょりとトンファーの中に入っていった。
「マジで押し込んだらセットされやがった」
トンファーがビリビリと雷を纏っている。
何故かスフィアの入っていないほうまでビリビリしていた。
「いやぁ助かったよ。しばらく移動になるから配信を切っておくぜ」
時間が押しているのでサッと家を出た。
閑散としている砂利道をチャリで駆け抜けていく。
「この調子だと5分前には到着しそうだな」
片側一車線の車道に出る。
いよいよ目標の地点まで1kmを切った。
「「「モー!」」」
「「「ゴブゥ!」」」
そんな時、魔物が現れた。
レッドモーに乗ったゴブリンの集団だ。
その数は30体。
よりにもよって前方を塞いでいる。
「面倒だがちょうどいい。【雷霆】を試していくか」
俺はチャリから下りた。
籠に入っていたトンファーを左右の手で持つ。
ファイティングポーズをとりながらすり足で距離を詰めていく。
「いつでもかかってこいよ」
シュッ。
何もない空間にジャブを放つ。
エアボクシングでやる気を高めるつもりだった。
ゴゴゴォ!
俺が拳を振ると空が唸った。
そして次の瞬間、全ての敵に雷が降り注いだ。
「え……!」
目の前の30体と30頭が一瞬で消し炭と化した。
俺はただ空気を殴っただけなのに。
「これが……! 【雷霆】の効果……!」
オプションスフィアは想像以上の強さだった。
リスナーが枠のない武器をゴミ扱いするわけだ。
「もはや触れることなく敵を駆逐できるぞ……!」
この武器があれば、何にだって勝てる気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。