12 .方々で動く


【語り部】

 病院の在り方に関して説明しておこう。

 この世界における治癒院(病院)はもともと古い呪医ウィッチ・ドクターを祖としている。

 薬草を煎じ魔法を扱い、穢れ(病)を治すのがそもそもの役割だ。

 それが発展するにつれ医学的な見地からの肉体損傷の治療も考えられ、人体を学び効率のよい修復方が編み出される。

 つまりこの世界での医者は「薬学に長け、魔法を操り、人体構造を理解することで効率よく人間を治せる者」を指す。 

 その意味で医者は、遠いどこかの世界よりも遥かに才能が重視される職業と言えるだろう。


 医師免許に似た資格も存在している。

『国家認定医師資格』と『医療行為許可資格』と言って、前者は医師であることを、後者は治癒魔法や浄化魔法の商業的利用を認めるものだ。

 この二つを取得せずに金銭目的の治療を行うことは禁止されている。

 

 ただし治療行為自体は禁止されていない。

 治癒魔法そのものを制限すると、迷宮探索者などの商売が立ち行かなくなるからだ。

 だから治癒魔法の使用に関しては、医療行為許可資格において国家が一律の診療報酬を設定している。

 同時に別の法律において「意図的に他者の営利行為を侵害すること、これを罪過とする」と規定し、治癒院より安い値段での治療行為を禁止している。

 そうしなければ「薬学に長けて人体構造を理解した魔法の使い手」が確保できなくなってくるからだ。

 もっとも、無料で治癒魔法を使い患者から「お心づけ」をいただく形で法を逃れようとするモグリは少なからずいるのだが。


 総合すると病院より安くても高くても値段をつけての治癒は違法となる。

 ただし何事にも例外はある。

『緊急医療行為』といって生命の危機に瀕している相手になら無料での治癒魔法の使用が認められるし、『危険地特例』では迷宮や戦場などの限られた場所でなら許されるとしている。

 また、医療行為許可資格は、何も医師だけに与えられるものではない。

 前述した迷宮探索者や、龍神教会の関係者でも取得ができる。特に教会に関しては『宗教特例』として治癒院より安い値段での提供も可能だ。


「つまり、仮設治療院をやりたいのなら一度に面通しする必要があるな」


 ……という内容を酒場のマスターが教えてくれた。

 オウマに“管理機構に行く前にマスターのところで治癒院の経営状況を聞いてみてはどうですか? 平均の値段がすぐに分かると思います”と指示されたナイアは、一度どらごんの巣に立ち寄った。

正直、正解だった。

 ちゃんと、


「ただこの法律群は抜け道があって、ダンジョンの入り口に設置すれば無料の仮説治療院ができてしまう。危険地特例が適応されるからね。もっともこれは裏技、周囲の心証はよくない。正攻法で行けるなら結局その方がいい」


 ナイアはこくりと頷く。

 オウマからも「教会と共同の仮設治癒院を計画するのだったら、管理機構の意見も入れたいですね」と言われている。

 まずは教会を訪ね、ちゃんと手順を踏んでそれを目指すべきだろう。


「ああ、娼婦が君の名前を知っているのはなぜか、という問いだが。そもそもミランダの店で働いている少女だから、普通に君の名前はある程度知れ渡っているよ。ただでさえ都市国家の英雄テネスの直弟子、リオールに師事しているのだから」


 最後によく分からないことも教えてもらった。




 ◆




「仮設治療院を設立したい、ですか」

「はい。ボクには、テネス様から言われた目的があります。それを果たすために、迷宮と関わりを持ち探索者や管理機構と繋がりを持ちたい、です」


 ナイアは龍神教会のパスター司祭を訪ねた。

 テネス推しの司祭に上のような説明にする辺り、微妙に強かな成長している。これはコミュニケーション技術というか、娼婦のテクニックだろうか。


「なるほど……当教会ならば、医療行為許可免状が交付されています。一時的にうちの所属ということにして、管理機構の施設、ダンジョンの入り口辺りでなら特例で許されるでしょう」

「では」

「ただ、そのためにはいくつかの問題が。ナイアさんが見習い修道女という扱いになるので、修道服を着る必要があります。また、うちから出すべきはやはり聖女ユノでしょう。彼女の指揮下で動く形にするため、何か事を為した際評価がユノに行く可能性も考慮せねばなりません」


 そこは、仕方ないとするべきだろう。

 ただユノ自身が悪人ではないため、手柄の横取りということは起こらない。あくまでも民衆からすると「大人の聖女がよくやった、あの子供も頑張った」と判断するかもしれない、という話だ。

 あと、ついでにオウマは「“とりあえず、リオールに碑文をみてもらいたいですね。リオールが碑文などを見せてほしがっているとバスター司祭に紹介しましょう”」と囁いておいた。

 

「なるほど、分かりました。手はずを整えておきます」


 容易く了承が得られてしまった。

 さすがにトントン拍子に行きすぎだといぶかしんだナイアは、一応再度確認しておく。


「あの……パスター司祭。頼んだのはボクですが、いいのですか?」

「ええ、もちろん。分かっています、分かっていますとも。英雄テネスが迷宮都市を呪いから解き放った二十年後、その直弟子リオールが迷宮の研究を始めた。そして孫弟子に当たるナイア、貴女が仮設治療院を設置して迷宮と係わりを持とうとしている。つまりはなにか、大いなる災いがそこに迫っている……そうですね?」


 肯定も否定もできない微妙なところだった。

 なにせたぶん災厄って失敗ルートのナイア自身だから。


「ふふ、どうやらこの身は、かつてと同じく英雄の旅立ちに居合わせることになりそうだ。碑文の謎を解く、大いに結構。君達が師の偉業に近付けることを心から祈っています」


 パスター司祭は「英雄に助力した理解ある大人」ポジに対して魅力を見出しているようだ。

 テネスの名前を出して協力ありがとう、あなたのおかげでなんちゃらと言えば、わりと簡単に動いてくれそうである。

 テネス推しってよく分からない、とオウマはにゃふりと溜息を吐いた。普通に人でなしだからな、テネス。


「……ありがとう、ございます。実は、ボクはテネス様の予言した大いなる災厄を退けるために動いています。今はまだしっぽもつかめていませんが。どうか、パスター司祭のご助力を。かつてテネス様を支えたその見識を、何も知らないボクにお与えください」


 ナイアが司祭の前で跪き、祈るようなポーズをとる。

 繰り返すが災厄は彼女自身だ。

オウマはぶっちゃけ「男が気持ちよく調子に乗れる方向に持っていくために“へりくだって見せる”とか、この子ダメな方向に成長してない?」とか思った。

 

「おお、やはりそういうことでしたか。もちろんです。ただ、与えるというのは間違っている。私はテネスさんも、貴女のことも。同志だと思っていますよ」

「では、同志パスター。……私と共に、この事態に立ち向かってください」

「始祖龍の御心のままに」


 うまい具合におじさんは乗せられていた。


《追加情報》

 ナイアはパスター司祭のあしらい方を覚えた。

 今後迷宮関連の情報開示は話だけで進められます。







「では、ナイアさん。いきましょうか」

「はい、ユノさん。よろしくお願いします」


 仮設治療院計画は順調に進んだ。

 といっても教会から管理機構に「ダンジョンの入り口で低価格の簡易治療所を設ける。ただこれは、新人の修道女の修行の一環のため期間限定であり、治癒院や管理機構の権利を侵害するものではない。価格は安く設定するが得られた収入の六割は管理機構に収める」と言う形で依頼した。


「ついでですし、浄化魔法も実地で訓練していきましょうか?」

「はい、先生。そうしていただけると嬉しいです」


 浄化魔法は、正式には浄化浄霊魔法という。

 いわゆる状態異常回復・ターンアンデット系・汚れた体を奇麗にするクリーンアップ系をひとまとめにしたものだ。

 意外と応用が利くので重宝される魔法で、実は娼婦のルメニラも使えたりする。

 湯あみせずにカラダを奇麗に出来るからだ。


「ナイアちゃんの修道服姿、似合いますね。いっそそのまま当教会に所属しませんか?」

「それはちょっと……」

「あら、残念です。いいと思うのですが、幼聖女ナイア……私と二枚看板で人気のお店になると思います」


 心底残念そうな聖女ユノ。断っておくが教会はお店ではない。

 ともかく、修道女ナイアが治癒魔法の練習をするための場として、ダンジョンの入り口付近に仮設治療院を開きたいという形で運営機構にも認められた。

 これなら聖女がいるのにナイアが表に立つ理由付けができるし、あくまで期間限定であり、他の治療者と軋轢をつくるつもりもないと示せる。

 ちなみに管理機構の施設とダンジョンの入り口はそれほど離れていない。

 というか、もともと迷宮の上にこの都市が建設されたという経緯から、ダンジョンの入り口は普通に町中にある。

 そしてその入り口を覆う形で、簡素な岩づくりの建築、通称『迷宮商店館』がある。

 ここには飲食関連の出店やアイテム屋、装備品売りなども集まっている。

 が、当初の目的としては、いざという時に閉鎖できるように。そのため建物には魔法による結界術式が施され、国の派遣する騎士が常駐している。

 それをさらに監視できるようすぐ近くに管理機構の建物がある。

 なので活躍すれば職員たちの気も惹けるだろう。


 ナイアを見て次代の聖女と勘違いしたのか、割合簡単に許可は得られた。

 こうして「龍神教会仮設治療所」が開始された……。







【名もなき迷宮探索者】



 俺は迷宮都市トランジリオドで活動する探索者だ。

 といっても、浅層で素材を集め魔物を狩る程度のしがない、が頭につく。

 かつては英雄的な活躍に憧れた少年だったが、今では立派な三十前半のおっさん。

 俺と同じような年代の奴らとチームを組み、実入りはそこそこだが特に刺激のない毎日を過ごしていた。


 なにせ、この都市のダンジョンにおけるボスである最奥の悪魔<滅びを告げるモノ>は滅亡の識聖テネスによりとっくに倒されている。

 もはやこのダンジョンは、深層にいかない限りほとんど危険のない資源採掘場に過ぎない。

 つまり俺はキノコ狩りをする山師とあまり変わらないのだ。


 ……なんて油断していたからか。

 今日もダンジョンに稼ぎに来ていた俺は、魔物との戦いで怪我を負ってしまった。

 右腕を噛まれた。かなり深く、痛みと出血がひどい。

 魚型の魔物で、肉が美味くて高く売れるからと欲を出し過ぎた。結果囲まれて怪我をするんだから間抜けにもほどがある。


「大丈夫かっ⁉ ったくよぉ、油断しやがって。なまってんじゃねえのか?」

「……うっせーな」


 チームの奴に肩を借りてなんとかつダンジョンを出る。

 ダンジョンの入り口は『迷宮商店館』と呼ばれる建物の地下にある。同階に管理機構の設置した受付もあるのが絶妙に冒険心を削いでくれる。

 しかし今回は受付が「色々な店が建ち並んでいる一画に、龍神教会の仮説治療所がある」と教えてくれた。


 この都市にも治療院はあるが、中級以上の治癒魔法は現状教会が独占している。

 というより中級治癒魔法以上は使い手が限られており、単純にこの都市の医師はそれを使えないというだけだが。

 ともかく幸いだ。一階に上がると、俺達は一直線にその治療所を目指した。


「いらっしゃいませ。わ、ひどい怪我です。すみません、そちらの寝台に寝て頂けますか?」


 そこで迎えてくれたのは、マニッシュショートボブの少女だった。

 まだ子供と言える年齢だが十分に見目麗しく、立ち振る舞いも落ち着いている。

 よくよく考えればここは教会の関連者が運営している。なら治癒師は当然修道女か聖女だ。

 女性が出てきても何の不思議もない。……それでも、ここまでキレイで幼いというのは想定していなかったが。 

 俺に肩を貸してくれたチームメイトもかなり驚いているようだった。


「あ、あんたが、治癒師か?」

「はい。ボクは、ナイアと言います。すぐに治療しますね」


 そう言った彼女……ナイアは、患部ではなく俺の手をぎゅっと握った。

 なにを、と問おうとしたが理由をすぐに理解する。

 彼女が発した魔力は強大だった。中級以上の治癒魔法。若くしてナイアは、既に聖女の領域に足を踏み入れているのだ。

 掌から伝わる熱。みるみるうちに傷が治っていく。

 彼女は真剣に、祈るような真摯さで俺に向き合っている。まつ毛長いな、とか。手、ちっさいのに柔らかいな、とか。不埒なことを考えてしまった自分が情けなくなるくらいに。

 そうしてほどなくして、俺の傷は完治した。


「おぉ、すげぇ……」

「ふう、これで大丈夫だと思います。心配なようでしたら、治癒院で改めて診療とお薬をお願いします」

「ああ、助かったよ。ナイアちゃん、だっけ」


 頷く彼女はにっこりと優しい笑顔を見せてくれた。

 なんだか妙に恥ずかしくなり、俺は頬をポリポリと掻く。


「あまり無茶はしないでくださいね」

「いやいや、こいつ無茶なんてしてねーよ、浅層で油断して怪我をしただけだから」


 馬鹿笑いするチームメイト。

 余計なことを言うな。浅層で怪我するような弱いヤツに思われるじゃねーか。

 けれどナイアは変わらず穏やかな様子なのだ。


「どれだけ強くても、どの階層であっても危険なのは変わりませんから。ボクは、治療はできますが蘇生はできません。なにはなくとも命を持って帰ってこられるのが一番です」

「そりゃごもっとも」


 まだ若いのによくできた娘さんだ。

 ここまでの魔力の持ち主、そしてこの性格。おそらく次代の聖女なのだろう。今はその修行の一環というところか。


「なんにせよ助かった。ありがとよ、ナイアちゃん」

「こちらこそ。またお越しください……は、変ですね。来ないに越したことはないですから」


 どういう挨拶で送り出せばいいのか分からずナイアは小首を傾げている。

 その様子がおかしくて、つい俺は笑ってしまった。




※ ※ ※




 治療所は開いてまだ数日だが、探索者の間で結構な話題になっているようだ。

 曰く「美少女が運営する格安の治療所」。

 ナイアに会うために軽い怪我でも通う者もいる。そんな客に対しても笑顔で接する少女には早くもファンが付いているとか。

 また治療所には龍神教会の聖女ユノも出入りしており、大きい方の美人と小さい方の美少女なんて話も聞いた。大きさがどこを指しているかは明言しないが。


 女性探索者もそれなりに利用しているとのこと。

 なんでもナイアは趣味が料理らしく、女性探索者には特別に果実水や焼き菓子を振る舞ってもらった者もいるらしい。

 男が「俺も俺も」と詰め寄っても、「これは女の子だけの特別です」と言ってにべもなく断られている。

 

「悪いな、ナイアちゃん」

「いえいえ。小さな傷でも治しておいた方がいいですから」


 かくいう俺も、既に数回治療所に通っている。

 最近は頑張っているせいで怪我が増えたのだ。他意はない。

 今日も治療所は盛況のようだ。忙しそうだがナイアは誰に対しても笑顔で接する。

 ああ、いや。態度の悪い探索者や絡んでくる輩に対してはきっちり諫めるので、誰にも彼にも優しいわけではない。

 なお、何故かこの都市国家でも有名な“雷光のリオール”と呼ばれる魔法使いもよく治療所に顔を出す。ナイアをナンパしようとする男に対しても眼光だけで殺せそうな勢いの視線を送っていた。あいつヤバイ。

 閑話休題。


 ともかく、ナイアは一生懸命に頑張っている。

 それが微笑ましくあり、うだつの上がらない探索者としては眩しくもある。

 ある時俺は治療中にポロリとこぼしてしまった。


「ナイアちゃんは、すごいな」

「え?」


 彼女は意味が分からない、と言った顔をしていた。

 でも俺は、疲れていたんだろう。愚痴を止められなかった。


「いや、そんな若いのに治癒師として一人前で。何もできずにおっさんになっちまった俺とは、違うよなぁって」

「でも、ボクはお肉を食べますよ。お菓子作りもします。果実水だって」


 いきなり関係ないと思える話をし出すナイアはちょっと嬉しそうだ。


「魔物の肉は普通にお店に並んでいて。ボクが作る果実水も、ダンジョン由来の果物です。みんな探索者の皆さんが頑張っているからできることです」

「そりゃ、そうかもしれないけどよ」

「きっとボクは他にも知らないところでたくさん支えられていて、だから今その恩返しに自分にできることをしているんだと思います」


 そう言った彼女は、小さく柔らかい両の手で俺の掌を優しく握った。


「きっと、ボクは貴方にも支えられています。あまり卑下しないでください(話に説得力がなくても男性相手ならボディタッチでゴリ押しできる場合がある、ですね。娼館のルメニラ先生)」

「あ、ああ……」

「大丈夫。あなたは、あなたが思うより素敵な人ですよ。いい子いい子(頭を撫でるのも相手を見て選ぶ……)」


 そう言って頭を撫でてくれる。

 年下にそう言うことをされても、馬鹿にされているような気にはならない。

 掌から伝わる温かさに、俺は頬が熱くなるのを自覚した。

 途中で「そうだ」とナイアは診療所の奥に引っ込んだ。離れた手を少し寂しく感じてしまう。


「どうぞ、これ。疲れた時は甘いものがいいです」


 そう言って出されたのは焼き菓子と果実水だった。

 噂に聞く、女性探索者のみが食べられるというやつだ。


「あ、他の人には内緒ですよ」


 しーっ、と人差し指を立てるナイア。

 どうやら俺だけの特別扱いのようだ。

 怪我をしたい訳じゃないけどまた来よう、なんて俺は考えていた。





【語り部】

 キャバじゃね?

 これ治療所の名を借りたキャバクラじゃね?

 男の手を簡単に握り過ぎじゃね?

 と思わなくもないオウマを余所に、治療所の運営は上手くいっている。

 昼間はこちらに時間をとられるため、学問所のリッカに頼まれたモデルの仕事は夜に行く場合が多い。必然的にお泊りの回数も増えた。 


「リッカちゃん、これプレゼント。お守りです」

「わっ、いいの? ありがとう、ナイアちゃんっ!」


 リッカには魔導工房ゾネ・モーントで購入した「二つ一組の、片方が壊れるともう一方がそれを知れるアイテム」を渡している。

 デザインは微妙な形状のネコだが、彼女は喜んでくれたようだ。

 リッカの私室では仮縫いと修正を繰り返す。地味に立ち仕事なのでモデルも意外と身体的に疲れる。しかし衣装の制作は順調である。

 そしてもう一つ。

 予言に関しても、ナイアは精力的に動いていた。


「シトーさん。こんばんは」

「あ、ああ。ナイア、ちゃん」


 リッカに頼まれたから、という名目で工房に出入りした彼女は既にシトーとコンタクトをとっていた。

 けれど予言に関して切り出したりはしない。

 あくまでも知人として接して、雑談を交わしている程度に留めている。


「聞いてください、シトーさん。ボク、この前野菜スープを作ったんです。そこそこ美味しかったんですけど、ミランダさんみたいに上手くは作れなくて」

「はは、何年も料理をやっている主婦さんには、それは敵わないと思うよ」

「やっぱり、そうなんでしょうか……」


 話す内容はその日によって変わるが他愛のないものだ。

 ちなみに工房の他の職人ともちゃんと挨拶はしている。その中でも、とりわけシトーとはよく会話する。

 印象としては「誰とでも分け隔てなく接するが、妙にシトーには懐いている」と言った感じか。

 ……それを意識してできる立ち回りは非常に危険というか。

 オウマからすると、予言の災厄とは別の問題が発生したような気がしないでもない。


 ともかく、彼女は着実にシトーからの信頼度を稼いでいた。



《追加情報》

・浄化浄霊魔法を習得しました。

・シトーと交流を得ました。

・想定外の方向に話が進み、スキル「無自覚悪女Lv.1」を習得しました。

・魅力がレベル4に上がりました。6がマックスです。








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